2023年12月28日木曜日

「第九」2023-❿ 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団「第九」特別演奏会2023

2023-12-28 @東京文化会館



高関健:指揮
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
東京シティ・フィル・コーア

ソプラノ:中江早希
メゾ・ソプラノ:相田麻純
テノール:宮里直樹
バリトン:池内響

ベートーベン:交響曲第9番ニ短調「合唱付き」作品125


高関氏は、指揮台に乗ってからオケと合唱団に客席へのあいさつの為に立つように促した。オケは立ったが、合唱団が立たない。振り向いて大きなジェスチャーで立ってくださいよ!と何度か促したが合唱は立つそぶりがない。そりゃそうだ。初めから立っているのだもの。舞台後方の雛壇が低いので立っているふうには見えなかったのだ。ようやく気がついてニヤリ頭を掻いて客席に向き直った。このコントで客席と舞台の笑いをとってから「第九」が厳かに始まった(このコントは終演後のCCでも再演された!)。

この「第九」が僕にとって、今年、10回目の「第九」であり、今年の鑑賞生活の掉尾を飾る演奏会だった。

昨年も「第九」はプロオケで10回聴いて、シティ・フィルは読響と並んでベストの出来だった。それだけに期待をしていた高関「第九」。
しかし、昨年の飯守泰次郎御大の人生最後の「第九」には何かが乗り移っていたのだろうか。あの見事さに比べるとやや力が出きっていない印象を受けた。スコア研究に余念のない先生、ギリギリまで迷っていたやに聞くが迷いは吹っ切れたのだろうか。

2楽章までは聴き慣れた音楽だったが、3楽章にかつて聴いたことのない表現があり、4楽章のレシタも爆速で、ここいらが新研究の成果なのか。変わってはいたけど、これはこれで良かった。とにかく、あまり重苦しいのは好きじゃない。

全体にビブラートを抑え、音をあまり伸ばさない奏法で、ホールのせいもあるが、響きは硬めだった。武満MEMで聴くのとはだいぶ異なる。しかし、これもまた一つの味わいで、シャキシャキとしたまとまりの良さを感じさせた。

独唱陣は、やはり、少し遠かった。昨年は舞台前で歌ったが、今年は、他のオケでも(5月のインキネン以外)舞台前で歌う「第九」は一つもなかった。
独唱は、前に出てきて歌うべきだよ。
「第九」の独唱は合唱の一部だ、という説もあるようだが、どうであれ、独唱が合唱やオケに埋もれたんでは話にならない。

♪2022-228/♪東京文化会館-14

2023年12月26日火曜日

都響スペシャル「第九」❾

2023-12-26 @サントリーホール



アラン・ギルバート:指揮
東京都交響楽団
新国立劇場合唱団

ソプラノ:クリスティーナ・ニルソン
メゾソプラノ:リナート・シャハム
テノール:ミカエル・ヴェイニウス
バス:モリス・ロビンソン

ベートーベン:交響曲第9番ニ短調「合唱付き」作品125




「運命」でも弦16型でやる都響のことだから今日こそ16型だろうと思ったが、14型だった(昨年インバルは16型、一昨年大野和士は14型)。
Vn1とVn2の対抗配置も都響としては珍しい。それが功を奏したかどうかは分からないが、とてもスッキリした「第九」で、好感を持った。

終楽章で低弦が歓喜の歌を演奏する時、やたら弱音なので驚いた。悪くはないけど目立った。それをやるなら他にも抑えるべきところはあったのではないかと思ったよ。

一昨日の東フィルは席が前過ぎて弱ったが、今日は程良い距離で管弦の賑わいを楽しんだ。もちろん、サントリーなので、響に潤いは期待できないし、高域弦のも決して美しいとは言えない。
そこを織り込んだ上でも良かった。
決め手はテンポ感か、そこからくる全曲の構成感の良さだったかな。

不満は、全員海外勢の独唱陣だ。
P席最前列に座ったが、Sp以外の3人はデカいお尻が椅子に嵌り込まないのか、実に姿勢が悪く動いてばかり。特にBsの態度悪い。Tnと喋ったり、合唱部分も歌っていた。
そのBs以外の3人は楽譜を手にしていた。フツー「第九」の独唱で楽譜を持つなんてほぼ記憶がない。
ところが、今年聴いた9回の「第九」中、この行儀の悪い3人組+1人の四重唱が一番バランス良くきれいだったな。マチの姿勢は音楽に関係ないか!

♪2023-227/♪サントリーホール-29

2023年12月23日土曜日

東京フィルハーモニー交響楽団 ベートーベン「第九」特別演奏会❽

2023-12-23 @サントリーホール



出口大地:指揮
東京フィルハーモニー交響楽団
新国立劇場合唱団

ソプラノ:光岡暁恵
アルト:中島郁子
テノール:清水徹太郎
バリトン:上江隼人

ベートーベン:「献堂式」序曲 作品124
ベートーベン:交響曲第9番ニ短調「合唱付き」作品125



この日は、望む席が取れず、やむを得ず左右中央だが一桁列の後方で聴いたが、やはり前過ぎた。
普段聴き慣れない音の景色で、原始状態の音を聴いたような気がした。同じツボを外れるなら、やはり後ろの方がいい。

音はともかく、出口「第九」は、不思議なくらい正統的で、特異なものは全く感じなかった。喉越しの良い音楽だ。

さはさりながら席があまりに前だったので、オケ・声楽とも強力過ぎた。
その分、ガサつきも聴こえてきて音楽に集中するのが難しい。
この日のサントリーホールは、珍しく不満のない響だったので、もう少し後ろで聴けたらもっと楽しめたかも知れない。

Apple Watchのおかげで、袖口に指を入れてタッチするだけで、全曲とLapタイムが測定できるので、「第九」に限っては毎年記録しているが、出口「第九」は終わってみると演奏時間は各楽章・全曲とも今年の8回の平均とほぼ同じなのでびっくりした。こんなことってあるのか…。まあ、それほどに時間配分もフツーだった。

ともかく。
やはり、席は選ばなくてはいかん。

♪2023-226/♪サントリーホール-28

神奈川フィルハーモニー管弦楽団 For Future 巡回公演シリーズ 横浜公演 「第九」演奏会 ❼

2023-12-23 @みなとみらいホール


園田隆一郎:指揮
神奈川フィルハーモニー管弦楽団
合唱:神奈川ハーモニック・クワイア

ソプラノ:迫田美帆
メゾ・ソプラノ:福原寿美枝
テノール:澤崎一了
バリトン:青山貴

ウェーバー:歌劇「オベロン」から序曲
ベートーベン:交響曲第9番ニ短調「合唱付き」作品125



「ドイツレクイエム」を唯一の例外として、ほぼイタリアオペラしか聴いたことがない園田ちゃんがベートーベンを、それも「第九」をやるということ自体がビックリで興味深かったが、蓋を開けたら、しっかりベートーベンだ。それも実に小気味の良い「第九」に仕上がっていた。

一つは弦12型ということもあるが、コンパクトでまとまりが良い。特に終楽章の音楽作りには刮目すべきものがあった。昨日の下野節とは全然異なるアプローチで、処々、タメを利かす場面はあったが、全体としてはほぼイン・テンポで駆け抜けた。

全曲の演奏時間は今年の「第九」7回目にして最短。楽章間休止も入れて64分。因みに最長はコバケン日フィルの72分。

低弦のレシタもオペラぽく歌わせるのかと思ったら、いかにもドイツ風で、引っ張り回すことなく軽やかだった。

終楽章は、本来、歌の意味からしても重苦しくなく、あまり荘厳にもならず、明るく突き抜けてほしいと思っていたが、今日の園田節は正に軽快に歌い抜けた。

コンマスはこの頃珍しい組長が就いた。
その弦も組長好みの繊細で美しい響だった。

管打も全く不満なし。
特にHrは4人がそれぞれに良い仕事をした。特に首席の坂東ちゃんの見事なこと!
読響より、N響より冴え渡っていたよ。

合唱団の規模があまりに小さかった(20+20)ので、怖いような音圧の壁は感じられなかったが、さりとて不足とも思わなかった。軽快な終楽章の為にはこの編成には意味があったのだろう。

今日の独唱陣はP席最前列だが客席との間に遮るものもなく、実に明瞭。これでなくちゃ。
やはりNHKホールのように奥行きが深い(その上背後に百人の合唱団)場合は舞台最前列に出るべきだよ。

これで「第九」7回目。
総合点としてN響をあっさり超えて読響と同点1位かな。

ほんに爽快な「第九」を聴いた。

♪2023-225/♪みなとみらいホール-50

2023年12月22日金曜日

NHK交響楽団ベートーベン「第九」演奏会❻

2023-12-22 @NHKホール



下野竜也:指揮
NHK交響楽団
新国立劇場合唱団

ソプラノ : 中村恵理
メゾ・ソプラノ : 脇園彩
テノール : 村上公太
バス : 河野鉄平

バーバー:弦楽のためのアダージョ(管弦楽版)
ベートーべン:交響曲第9番ニ短調「合唱付き」作品125






今年から方針を変えてN響「第九」をサントリーホールからNHKホールに変更した。NHKホールで聴くのは7年ぶり。
その7年前はブロム翁の指揮で、まさに「神は細部に宿る」を実感した。

下野ちゃんのN響正指揮者就任後初の共演が「第九」とは結構プレッシャーだったようだが、これは誠に見事なスタートを切ったのではないか。

N響という名人を揃えた職人集団ならではの安定して風格のある「第九」だった。

1-3楽章までは、聴き慣れた音楽で、特段、下野色は感じなかったが、終楽章は相当手を入れたのではないか。テンポの変化はかなり大胆だった。それで違和感があったという訳ではなく、ひょっとしたら、これまで他の指揮者の演奏では聴き逃してきた変化なのかもしれない。年内に残る4回の「第九」でよく聴き耳を立ててみよう。

残念なのは、あまり響かなかったことだ。
もとより良く鳴る箱とは言えないが、そのデッドな響もまた良しと思っている。
しかし、過去5回がミューザ1回、みなとみらいH4回と響の良いホールで聴いてきたので、その比較において物足りない。

せめて独唱陣を舞台最前列に置けば印象が変わったと思うが。

♪2023-224/♪NHKホール-10

2023年12月21日木曜日

日本フィルハーモニー交響楽団「第九」特別演奏会2023 ❺

2023-12-21 @みなとみらいホール



小林研一郎:指揮
日本フィルハーモニー交響楽団
合唱:東京音楽大学

オルガン:石丸由佳*

ソプラノ:小川栞奈
アルト:山下牧子
テノール:錦織健
バリトン:大沼徹

J.S.バッハ:高き天よりわれは来たれり BWV738*
J.S.バッハ:主よ、人の望みの喜びよ*
J.S.バッハ:トッカータとフーガ ニ短調 BWV565*

ベートーべン:交響曲第9番ニ短調「合唱付き」作品125




コバケンの「第九」は17年以来6年ぶり。
僕のコバケンへの思いはこの間に変化して、ケレン味の多いちょっと軽い感じの指揮者から、真摯な音楽家へ。それで敬愛の情を抱くに至っている。

しかし、センセイは変わらない。
6年前とまるで同じだった。

今年今日までに5回聴いた中で第2楽章は最速だったが、それ以外の楽章と全曲の演奏時間はいずれも最長だった。
これだけでも、独特の構成感だということが分かるが、処々利かすタメが大袈裟(効果的とも言える)だったり、管楽器のメリハリも強く、Hr四重奏部分は何度もベルアップで強奏した。
弦も強弱の差が大きく、終楽章の低弦のレシタでは全体の流れを掴み損なうほどに鷹揚な節回しだった。

クセの強い「第九」だが、日フィルの16型大編成の弦は、(慣れているのだろうが)コバケンの指揮によく応えて、実にスペクタクルな演奏をした。センターラインの席で聴いているので、広い舞台の両翼に伸びたプルトが発する響はホンにステレオ効果で包み込まれるような広がりを持った。
読響の12型とは全く異質な響だが、鋭く明瞭で、かつ、大所帯にしてはきれいにまとまっているのに感心。

こういう経験は、音楽を<聴く>というより<体験する>という方がピッタリだ。

♪2023-223/♪みなとみらいホール-49

2023年12月19日火曜日

東京都交響楽団 第984回 定期演奏会Bシリーズ

2023-12-19 @サントリーホール



アントニ・ヴィト:指揮
東京都交響楽団
反田恭平:ピアノ*

キラール:前奏曲とクリスマス・キャロル(1972)
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ハ短調 op.18*
ペンデレツキ:交響曲第2番《クリスマス・シンフォニー》
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シューマン(リスト編):献呈*




時季に合わせてクリスマスものが2曲と生誕150年を締めくくるラフマPf協2番(因みにラフマのPf協は記念年の今年7回聴いたが、内訳は1番から順に1-3-2-1回で、やはり2番が多い。)の3本立て。

初聴きのキラール「前奏曲とクリスマス〜」は訳が分からん。音は出ていたが、音楽ではなかった。弦5部の編成やOb4本の配置のこだわりなど、それが真価を発揮するリスニングポイントは限られていて、まるで指揮者の為の作品のようだ。「芸術は自我の普遍化である」と習ったぞ。こういう作品は「自我」のみ。自己満足に過ぎない。

後半、お客が減ったというツィートをいくつも目にしたが、僕の席の周りでは欠ける人はなく気が付かなかったが、上から俯瞰しておれば良く分かったのだろう。
その後半のペンデレツキの作「クリスマス〜」は、怪獣映画か戦争映画のバックにもってこいの、刺激的で分かりやすい音楽だった。でも、何度も聴きたいとは思わないけど。

前半のみで帰ったというお客は反田恭平が目当てだったんだろうな。
彼は7月に読響と共演した時に演奏の前後でCMに一瞥もくれないという失礼な態度を見ているので、今回はどうかと思ってみていたら一度握手はしていたから、少し大人になったようだ。演奏の方は良し悪しは分からないが、最初は、オケと噛み合っていなかった。このまま進んで大丈夫か、という不安も感じたが、そこは、指揮者がコントロールしたのか、終盤になるにつれピタッと合うようになった。力演だった。気合が入っていた。

Encは、もう何度も聴いている「献呈」だった。よほど好きと見える。僕も大好きなのだけど、あのPfの音じゃ献呈してもらっても嬉しくない。

この日、マチネで素晴らしいPfの響を耳にしたばかりで、その後、サントリーでPfを聴くのはかなりつらいことではあるが、今日の響は、以前より少しマシだった。高域に煌めきがあった。
しかし、中域-低域は相変わらず木石を叩くような情けない音だ。明瞭さに欠けるので、オケの強奏に、あれだけ力強く弾いていてもPfの音が埋もれていた。

そもそもあれはPfの音ではない。

今日の都響は、まずまず。
時々隠した力を出す時があるが、今日は、隠し通したようだ。
17日の読響の見事なアンサンブルを聴いた後では、もう、当分、満足できるオケ演奏は聴けないだろうな。

♪2023-222/♪サントリーホール-27

午後の音楽会第158回 ≪プレミアムコンサート≫ 倉冨亮太×笹沼樹×入江一雄 ピアノトリオコンサート

2023-12-19 @リリスホール



倉冨亮太:バイオリン♯
笹沼樹:チェロ♭
入江一雄:ピアノ*

ヴィエニャフスキ:モスクワの思い出 Op.6 ♯+*
ラフマニノフ:前奏曲「鐘」Op.3-2*
ショパン:序奏と華麗なるポロネーズ Op.3♭+*

チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲イ短調 Op50「偉大なる芸術家の思い出に」
 ⅠPezzo elegiaco
 ⅡTema con variazioni:variazione finale e coda
------アンコール------
シチェドリン:三つの愉快な小品から 第2番



本郷台のリリスは行く機会が少ないけど、行く度に音がいいと感心する。

今日も、PfもVnもVcもビンビン、ガンガンと鳴り響いて、チャイコの終盤など、もう怖いくらいの迫力があった。

音の良さと共に、演奏家の若さを堪能した。

チャイコのトリオは、ベートーベン「大公」がまだ重荷だった頃、僕にとってPfトリオというジャンルへの扉を開けてくれた作品だ。
メランコリー、ロマンス、エモーション(どれか一つくらい当たっているだろう。)の奔流に飲み込まれ、心揺さぶられる激しい音楽で、歳とってからの印象は少し変わってきたけど、10代に受けた感興を、今では失うまいと頑張って聴いていいるようなところもある。チャイコはこれを41歳くらいで作曲したそうだから、その歳でもまだ<青春真っ盛り>だったんだな、と驚く。

若いからこそ50分に及ぶこの大曲を、溢れるエネルギーで弾き切った感あり。元気が出過ぎて強奏部分に弦2本の音が外れるように聴こえた部分もあったが、勢いがあって良かった。

♪2023-221/♪リリスホール-01

2023年12月17日日曜日

読売日本交響楽団第131回横浜マチネー名曲シリーズ「第九」❹

2023-12-17 @みなとみらいホール



ヤン=ウィレム・デ・フリーント:指揮
読売日本交響楽団
合唱:新国立劇場合唱団

ソプラノ:森谷真理
メゾ・ソプラノ:山下裕賀
テノール:アルヴァロ・ザンブラーノ
バス:加藤宏隆

ベートーベン:交響曲第9番ニ短調「合唱付き」作品125



ちょっと残念な点を先に言うなら、独唱が舞台前で歌えばなお良かった。3-4楽章の休止をもっと短く、半呼吸で終楽章になだれ込んで欲しかった。

しかし、こんな不満など、軽く吹き飛ばしてしまう快演・名演だった。

「第九」は今日で今年の4回目。年内にN響を含む6オケが残っているが、おそらく、今日の読響を超える演奏は聴くことができないだろう。
そういえば、昨年は12回聴いたが、僕の採点表では、鈴木優人+読響と飯守泰次郎+シティ・フィルが同点で、N響を僅差で抜いて1番だった。どうも、今年もそういう展開が予想できる。

初めて聴くヤン=ウィレム・デ・フリーント氏の音楽は、遠い昔から馴染んだ、全く正統派で、独自色がないのが独自色か。下手に個性を発揮してくれないでいい。喉にも胃にも閊(つか)えるところがない完全消化できる、とても好感度の高い音楽だった。

今日の読響の弦編成は12型。昨年多くのオケを聴いた中でも16型はN響と<なんでも16型の>都響だけで、他のオケは14型が一つ、10型が一つ、その他は全て12型だった。
大編成ではないが、各部が明瞭に鳴るのがいい。特に、みなとみらいホールは弦を明瞭に際立たせる。それゆえ下手なオケでは悲劇が生まれることもあるが、読響クラスになると、一糸乱れず、まるで一本の楽器が発するような透明感を維持しつつ、共鳴・共振・反響が作り上げる弦の響が見事に美しい。こういう音を聴きたい、といつも願っている、その音が舞台から繰り出される充実感と幸福感。

管打の乗りも良く、ほぼ非の打ち所がない。

配置は、Vn1に対抗するのは珍しくVc(首席は遠藤真理)だった。読響に限らず、プロオケではVcは中に入るのが通例だが、今日は違った。フリーント氏の狙いは、当然、終楽章のレシタティーヴォを明確に歌わせたかったのだろう。この狙いも見事に当たった。6本のVcと4本のCbは息を合わせて歌った。音量のバランスも良く、低音楽器コンビでは音程が正確であればあるほど調子外れに聴こえがちだが、Vcがリードすることで旋律が浮かび上がった。聴きながらもったいないと思うくらい美しいユニゾンだ。

新国立合唱団は、昨日・今日と「一千人の交響曲」にも出ているはずで、総勢何人いるのか知らないが、うち男声・女声合わせて60人が読響の舞台に立った。この数も今年の「第九」で目下最少。おそらく全回聴き終えても最少だろう。それでも迫力に何の問題もなかった。

音楽的感動は規模がもたらすものではないという当たり前のことを実感した。
こんなに見事な合奏力を味わったのは、数年ぶりではないだろうか。
読響、恐るべし。

♪2023-220/♪みなとみらいホール-48

NHK交響楽団2000回A定期 11月公演

2023-12-16 @NHKホール



ファビオ・ルイージ:指揮
NHK交響楽団
新国立劇場合唱団
NHK東京児童合唱団

ソプラノ:
 ジャクリン・ワーグナー
 ヴァレンティナ・ファルカシュ
 三宅理恵
アルト:
 オレシア・ペトロヴァ
 カトリーナ・モリソン
テノール:ミヒャエル・シャーデ
バリトン:ルーク・ストリフ
バス:ダーヴィッド・ステフェンス

マーラー:交響曲第8番変ホ長調 「一千人の交響曲」
 Ⅰ賛歌「来たれ、創造主である精霊よ」
 Ⅱ『ファウスト』の終幕の場




定期2000回記念の「一千人の交響曲」は実際は「三百人の交響曲」だった。

神奈川フィル@県民ホールは合唱だけでも500人、総勢650人規模だった。

N響90周年の時は合唱が300人規模だったと記憶している。オケも同じ弦16型でもCbは10本、Vc12本と低域が増強されていた。

また、今日の声楽独唱陣はオケの後ろ、合唱の前に並んだが、90周年の際は、独唱全員が舞台の最前列に並んだので、迫力が違った。

それら思うと、今日の「三百人の交響曲」は、オケ・合唱の編成が小さく物足りない点もあった。何しろ、大げさが売りの音楽だものなあ。

定期演奏会なので、いつもの席で聴いたのだけど、声楽独唱は弱い。バンダで登場した三宅理恵はオルガン席で歌ったのでこれはもう明瞭で良かったが、舞台の奥に立った独唱陣の声は十分届かなかった(なぜ、舞台前方で歌わなかったのだろう。)。


実際、前半は気持ちが乗らずに、この音楽にどう対処しようかと迷いながら聴いていた感があった。
後半、それもSpがバンダで登場した辺りから面白くなってきて、終盤のクライマックスはなかなかの聴きものであった。特筆はN響ブラス。お見事。

♪2023-219/♪NHKホール-09

2023年12月15日金曜日

新日フィル「第九」特別演奏会2023 ❸



2023-12-15 @みなとみらいホール



佐渡裕:指揮
新日本フィルハーモニー交響楽団
合唱:栗友会合唱団

ソプラノ:高野百合絵
メゾ・ソプラノ:清水華澄
テノール:笛田博昭
バリトン:平野和

ベートーベン:交響曲第9番ニ短調「合唱付き」作品125





9日の秋山「第九」の出来は例年より満足度が低かったが、今日の新日フィルを聴きながら、やっぱり秋山「第九」は良かったなあと思った。

昨年も、佐渡+新日フィル@みなとみらいHで聴いたが、その時は<とても良かった>のに、今回は<とても悪い>。

楽器の音、特に弦は明瞭に聴こえる。時に美しい透明感を備えていたが、迫力に欠けた。
編成の規模の問題ではない(秋山「第九」は弦12型計44人に対して新日フィルは14型51人)。特に低弦はスカスカで、抑えすぎたのではないか。
Vc最高の出番である終楽章低弦のレシタも弱く、初めて歓喜のテーマが登場するところではCbの方が強めに聴こえたので、音程がはっきりせず旋律が浮かび上がらなかった。
HrもTbも聴かせどころが不発に終わった。失敗はしなかったが朗々と歌わないのが欲求不満。
何より、佐渡さんの音楽作りが、秋山御大を聴いた後では、薄っぺらく思えて仕方がなかったな。昨年はどんな耳で聴いていたのだろう。


声楽は概ね良し。
笛田くん、声デカすぎ!
四重唱が独唱+三重唱みたいだったぞ。
合唱はP席を使わず全員舞台後方だったが、百名余で秋山「第九」よりほんの少し少ない程度。こちらは迫力があって、オケに埋もれるどころか、オケが合唱に埋もれるような場面も。

暫時、佐渡氏の音楽は要観察としよう。

♪2023-218/♪みなとみらいホール-47