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2018年5月17日木曜日

人形浄瑠璃文楽平成30年5月公演 第1部「本朝廿四孝」/「義経千本桜」

2018-05-17 @国立劇場


本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)
●桔梗原の段
 口 豊竹芳穂太夫/竹澤團吾
 奥 竹本三輪太夫/竹澤團七

●吉田幸助改め五代目吉田玉助襲名披露口上
 桐竹勘十郎・吉田簑助・(吉田幸助改)吉田玉男
 吉田和生・吉田玉男・吉田簑二郎・吉田玉誉・
 吉田玉勢・吉田玉志・吉田玉也・吉田玉輝・吉田玉佳

●景勝下駄の段
 竹本織太夫/鶴澤寛治

<襲名披露狂言>
●勘助住家の段
 前 豊竹呂太夫/鶴澤清介
 後 豊竹呂勢太夫/鶴澤清治

人形役割
 高坂妻唐織⇒吉田簑二郎
 越名妻入江⇒吉田一輔
 慈悲蔵(直江山城之助)⇒吉田玉男
 峰松⇒吉田簑悠
 高坂弾正⇒吉田玉輝
 越名壇上⇒吉田文司
 女房お種⇒吉田和生
 長尾景勝⇒吉田玉也
 横蔵(後に山本勘助)⇒(吉田幸助改)吉田玉男
 勘助の母⇒桐竹勘十郎(勘助住家<前>まで)
     ⇒吉田簑助(勘助住家<後>から) ほか

義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)
●道行初音旅
 静御前⇒豊竹咲太夫
 狐忠信⇒竹本織太夫
 竹本津國太夫・竹本南都太夫・豊竹咲寿太夫・
 竹本小住太夫・豊竹亘太夫・竹本碩太夫
 竹本文字太夫
 鶴澤燕三・竹澤宗助・鶴澤清志郎・鶴澤清馗・
 鶴澤清丈・鶴澤友之助・鶴澤清公・鶴澤清胤・
 鶴澤燕二郎

人形役割
 静御前⇒豊松清十郎
 狐忠信⇒桐竹勘十郎

吉田幸助という人形遣いはこれまでも何度か見ているが、顔と名前が一致しない。何しろ、人形使いはほぼ90%?が吉田某で残りの多くが桐竹某で、わずかに豊松という名がある。これは太夫、三味線でも同じ傾向だから姓・名を覚えるのは容易ではない。ついでに言えば、太夫は全員が○○太夫という名前で、かつ、その読み方が「○○だゆう」の場合と「○○たゆう」の場合があるので、ほとんどお手上げだ。

その幸助が五代目*玉助を襲名するというので5月文楽公演の第1部に披露口上が行われ、メインの演目である「本朝廿四孝」のうち「勘助住家の段」で横蔵(後の山本勘助)を遣った。

「本朝廿四孝」は全五段の大作で、今回はその三段目(山本勘助誕生の筋)が演じられた。

どんな話か、あらすじさえ書くこと能わず。
何しろ複雑な伏線が絡み合って、壮大な(武田信玄と上杉謙信)軍記を彷彿とさせる物語だ。

観ているときはそれなりの理解ができるのだけど、徐々に登場人物が多くなり、何某…実はナントカであった、というようなよくある話が一層話を複雑にして、とうとう消化不良のまま終わってしまった。
これは二度三度観なければ合点が行かないだろう。

襲名口上は、桐竹勘十郎、吉田簑助、吉田和生、吉田玉男、吉田蓑次郎など錚々たる布陣だった。
また、襲名狂言では人形を簑助、和生、玉男、勘十郎が、三味線を鶴澤清介、清治が、語りを呂太夫、ロ勢太夫といったベテランが参加して花を添えた。

「義経千本桜〜道行初音旅」は、歌舞伎では当たり前のように観る所作事(舞踊劇)で、これを文楽で観るのは初めてだった。
歌舞伎では(主に)長唄連中が舞台の後ろに大勢並んで踊りの伴奏をするが、文楽でも同様だった。
桜満開の吉野山を描いた背景の前に、前列に三味線が9人、後列に太夫が9人整列した様は見事だ。
人形は静御前(豊松清十郎)と狐忠信(桐竹勘十郎)だけだが、勘十郎は早変わりで忠信と狐を演ずる。

襲名披露とは直接関係のない出し物だけど、見事に美しい華やかな舞台だった。

♪2018-055/♪国立劇場-07

*幸助の父・玉幸は四代目玉助を襲名する前に亡くなったので、今回、四代目が父に追贈され、幸助が五代目を襲名した。

2017年9月4日月曜日

人形浄瑠璃文楽平成29年9月公演 第一部「生写朝顔話」

2017-09-04 @国立劇場


●生写朝顔話(しょううつしあさがおばなし)
 宇治川蛍狩りの段
 明石浦船別れの段
 浜松小屋の段
 嶋田宿笑い薬の段
 宿屋の段
 大井川の段

豊竹咲太夫
竹本津駒太夫
豊竹呂勢太夫
鶴澤寛治
鶴澤清治
吉田簑助
吉田和生
吉田玉男
桐竹勘壽
桐竹勘十郎
 ほか

オリジナルは全五段構成らしいが、今日演じられたのは全六段だ。尤もこの場合の「段」は「幕」とか「場」の意味も兼ねているらしい。なので、六段合わせてもオリジナルには不足の場があるようだが詳しいことは分からない。
今回はヒロインである「深雪(盲いて後に「朝顔」)」を中心に構成したと解説してあったが、初見にもかかわらず、そのお陰で実に分かりやすく、また、どの段も趣向は異なるがそれぞれに面白い。文楽を初めて観る人でも十分楽しめるだろう。

武家の娘、深雪は16~7歳。美しいだけでなく詩歌管弦の嗜みもある。
宇治川の船遊びで酔客に狼藉されかかった折、近くで蛍狩りをしていた若い武士阿曾次郎に助けられるが、そこで互いは惚れあってしまう。
中でも深雪のぞっこんぶりが武家の娘としては不自然なくらいはしたなくさえあるのだけど、このような強力なキャラクター設定こそが、その後の激変のドラマを引っ張るエネルギーになっていることにやがて納得できる。
納得できるということは既に観客が彼女に感情移入できているということであり、その健気さ、いじらしさに哀れを誘われ、時に胸に迫るものがある。

やむをえず、離ればなれに出立した阿曾次郎と深雪は、偶然互いに異なる船旅同士で再び出会うが、喜びもつかの間、嵐が2人を隔ててしまう。
それでも、深雪は阿曾次郎に会いたさ一途に大胆にも家出して1人で阿曾次郎を追うが、か細い若い娘のひとり旅の苦労と悲痛が深雪の視力を奪うことになる。

瞽女となった深雪は嶋田の宿で朝顔と名乗り、泊まり客の求めに応じて三味線や琴を聴かせて生業としていた。そこに偶然宿をとった阿曾次郎は、部屋の衝立に宇治川で別れる際に深雪に与えた扇に記した朝顔の歌が貼り付けてあるのを見てもしやと思い、宿の亭主・徳右衛門に質して「朝顔」と言う名の瞽女を座敷に呼び琴を所望した。
阿曾次郎は既に駒澤家の家督を継いで駒澤次郎左衛門と改名をしており、朝顔にはその名で紹介される。朝顔に探し求めていた次郎左衛門(阿曾次郎)の顔は見えない。

阿曾次郎は、やつれたとはいえ朝顔のその顔、声、音曲にこと寄せる一途な恋心から、朝顔こそ深雪に相違なしと思うが、同僚の岩代(しかも、お家転覆を狙う悪党)の手前もあって、深く尋ねることができずまたもその場で別れざるを得なかった。

一方、深雪の方も、かの人こそ阿曾次郎様ではないかとの胸騒ぎから、再び、宿を訪れるが、時既に遅し。阿曾次郎一行は出立した後だった。

深雪は、髪振り乱し、裾の乱れもなんのその大井川の渡しまで、やっとの思いでたどり着いたが、嵐のために阿曾次郎を追うための次の船が出ない。

こうして、なんどか、再会、名乗り合う機会がありながらもことごとく果たせない運命に、遂に深雪は死を決するが、ここにきてようやくかつての部下や事情を知った徳右衛門らによって助けられ、ようように、文字どおり明るい展望が開けるのだった。

若い娘の一途な恋物語である。すれ違いの悲恋物語である。
あり得ないような激しい恋の物語だが、最初に書いたように、その健気さには心打たれてしまう。

ところで、この話には、「嶋田宿笑い薬の段」という変わった名前のエピソードが挟まれる。
所謂「チャリ場」で、滑稽なシーンだ。
阿曾次郎を亡き者にしようと企んでいる岩代は仲間の藪医者、萩の祐仙と図って、お茶と称して痺れ薬を飲ませようとするが、徳右衛門の機転で祐仙自らが笑い薬を飲んでしまい、笑い転げて計画は破綻する。

この場面で祐仙の人形を遣うのが桐竹勘十郎だ。
祐仙が茶を点てる作法は多少は省略してあるようだが、ほとんどホンモノのお点前どおり。自分では阿曾次郎に飲ませる痺れ薬のつもりだが、本当は笑い薬を点てているとはつゆ知らず、生真面目に茶を点てる仕草のおかしいこと。この場をいかついマスクの桐竹勘十郎が演ずるから余計におかしい。

そして、毒味だと言って自らは痺れ薬用の解毒剤をこっそり飲んでから痺れ薬(実は笑い薬)を飲んだものだから、もう、笑いが止まらず、苦しくて、七転八倒のありさま。観客も大いに笑う。
この段の語りは太夫最高格の咲太夫だった。
もちろんうまい。
しかし、こういうおかしな場面ではむしろ、咲甫太夫とか千歳太夫で聴きたかったな。

どの場面もホンに面白い。
浜松小屋の段では、畏れ多くも人間国宝3人(鶴澤清治・吉田簑助・吉田和生)の共演を楽しむことができる。

実に充実した文楽鑑賞であった。

♪2017-143/♪国立劇場-13

2017年8月2日水曜日

夏休み文楽特別公演 第三部「夏祭浪花鑑」

2017-08-02 @国立文楽劇場


並木千柳、三好松洛竹田小出雲合作:夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)

●︎住吉鳥居前(すみよしとりいまえ)の段
 豊竹咲寿太夫/竹沢團吾
 豊竹睦太夫/竹澤宗助
●釣船三婦内(つりふねさぶうち)の段
 竹本小住太夫/鶴澤清公
 竹本千歳太夫/豊澤富助
●長町裏(ながまちうら)の段
 豊竹咲甫太夫・竹本津駒太夫/鶴澤寛治

◎人形
 桐竹勘壽・吉田玉輝・吉田簑助・吉田玉也・桐竹勘十郎・吉田幸助

第2部は長尺だったが、こちらは3段構成約2時間。

江戸の侠客には馴染みが深いが、大阪も変わらないのが面白い。しかも姐さん方の筋の通し方が半端じゃない。引き受けたからには「一寸」も引かない。引けば「顔が立たない」。面目を無くせば生きているのは恥ずかしい。

最後「長町裏の段」は陰惨な場面。その終盤、三味線も義太夫もピタリと止まって、かすかな祭り囃子の笛が聞こえる中、歌舞伎でいうだんまり状態での殺し合いが不気味だ。
そして、やむを得ず仕事を終えた団七が、血しぶきまみれの身体に水を浴びて気持ちを切り替え、祭りの喧騒の中にひっそり紛れて消える、この幕切れの粋なこと。

♪2017-134/♪国立文楽劇場-2

2017年5月29日月曜日

人形浄瑠璃文楽平成29年5月公演 第二部 加賀見山旧錦絵(かがみやまこきょうのにしきえ)

2017-05-29 @国立劇場







































●加賀見山旧錦絵(かがみやまこきょうのにしきえ)
 筑摩川の段 ⇒豊竹亘太夫/鶴澤清允
 又助住家の段⇒中:豊竹咲甫太夫/鶴澤清志郎
        奥:豊竹呂勢太夫/竹澤宗助
 
(人形役割)
鳥井又助⇒吉田幸助
加賀大領⇒吉田玉佳
近習山左衛門⇒桐竹勘次郎
女房お大⇒豊松清十郎
谷沢元馬⇒吉田勘彌
庄屋治郎作⇒吉田簑一郎
安田庄司⇒吉田文昇
ほかに吉田簑之・桐竹亀次・大ぜい

 草履打の段⇒竹本津駒太夫・豊竹睦太夫・
           豊竹希太夫・豊竹咲寿太夫・
       竹本小住太夫/鶴澤寛治
 廊下の段 ⇒豊竹咲甫太夫/竹澤團七
 長局の段 ⇒竹本千歳太夫/豊澤富助
 奥庭の段 ⇒豊竹始太夫・豊竹希太夫・
       竹本津國太夫・豊武亘太夫/野澤喜一朗

(人形役割)
中老尾上⇒吉田和生
局岩藤⇒吉田玉男
鷲の善六⇒吉田分哉
召使お初⇒桐竹勘十郎
安田庄司⇒吉田文昇
ほかに吉田玉勢・吉田玉誉・吉田玉輝・吉田紋吉・大ぜい

先日の第一部に続いて今日の第二部の演目が「かがみやまこきょうのにしきえ」とはなかなか読めない。
加賀藩お家騒動に忠臣蔵が合体したような筋書きだが、元々同じ素材を扱った異なる2つの作品を前半と後半に繋いだものらしい。

前半は忠義の又助とその一家滅亡の物語。忠義を貫こうとしたことが全て思惑外れて仇となる。浪人中の主人の帰参のために公金を使い込み、逆賊として敢えて討たれ、死に際に我が子を殺し、公金穴埋めに身売りした女房も自決。悲惨この上なし。

又助の物語だけでも見処多くかなり激しく動悸する。
前半が武家の表の話なら、後半は奥女中の話。主役は敵役の局・岩藤と彼女に疎まれる中老・尾上とその召使お初。岩藤に尾上が草履で叩かれる草履打の段が有名らしいが、もちろん初見参。

鶴岡八幡宮の華やかな舞台で繰り広げられる憎々しい岩藤と必死に堪える尾上のやり取りに目も心も釘付けになってしまう。人形とも思えぬ迫力。
岩藤が何故尾上を目の敵にするのかは、続く廊下の段で明らかになり、前半の話と僅かに繋がる。

長局の段は尾上の居室でのお初との会話劇。お初は草履打の件を知っており、忠臣蔵の塩谷の行動を引き合いに尾上の短慮をそれとなく諌めるが兼ねて覚悟の尾上には通ぜず事態は最悪の展開に。
この心理劇70分の長丁場。千歳太夫迫力の熱演。

使いを言い付けられたお初が妙な胸騒ぎに取って返すと尾上は既に自害し、傍にお家転覆の密書と遺恨の草履。お初はその草履と血の滴る尾上の懐剣を握りしめて奥庭にまっしぐら。出てきた岩藤めがけて斬りつける。この迫力に思わず息を呑む。

お初の手柄でお家騒動と女忠臣蔵の仇討ちが成就する。
芝居としての前半と後半の繋がりは誠に心細いが、一応繋がって、めでたしとなる。
いやはやこんなに激しい人間ドラマが文楽で演じられるとは知らなかった。奥が深い。止められぬ。

♪2017-094/♪国立劇場-09

2017年2月7日火曜日

国立劇場開場50周年記念 文楽公演 近松名作集<第二部> お初徳兵衛 曾根崎心中(そねざきしんじゅう)

2017-02-07 @国立劇場


近松門左衛門=作
 お初徳兵衛
   曾根崎心中(そねざきしんじゅう)
    生玉社前の段
    天満屋の段
    天神森の段

(主な出演者)
 竹本文字久太夫
 竹澤宗助
 豊竹咲太夫
 鶴澤燕三
 竹本津駒太夫
 豊竹咲甫太夫
 豊竹芳穂太夫
 豊竹亘太夫
 鶴澤寛治
 鶴澤清志郎
 鶴澤寛太郎
 鶴澤清公
 吉田玉男
 桐竹勘十郎
 吉田玉輝
 吉田文哉
  ほか


近松名作集全3作のうちでは一番有名な作品かな。
文楽で観るのは初めて。

歌舞伎では2014年4月に〜坂田藤十郎一世一代にてお初相勤め申し候〜という藤十郎がこれで最後のお初を演ずるという公演を観て、特に「天満屋の場」の床下に隠れた徳兵衛(鴈治郎=当時は翫雀)との件が非常に強い印象となって残っていたのが、良かったか、悪かったか。

とは言え、もともと文楽の方がオリジナル。
お初が足の先で徳兵衛に心中の決意を伝えるところなど、人形で演じた方が抵抗は少ない。生身の人間が演ると、やはり印象が強烈になる。

徳兵衛の甲斐性のなさにはじれったいが、この時お初19歳、徳兵衛25歳(数え年)。互いの愛を死を以て貫いたのは哀れかな。

〜未来成仏疑ひなき恋の手本となりにけり〜

♪2017-018/♪国立劇場-05

2016年12月7日水曜日

国立劇場開場50周年記念12月文楽公演『通し狂言 仮名手本忠臣蔵』第二部

2016-12-07 @国立劇場


七段目   祇園一力茶屋の段
八段目   道行旅路の嫁入
九段目   雪転しの段・山科閑居の段
十段目   天河屋の段
十一段目 花水橋引揚の段

(主な出演者)
 豊竹咲太夫
 豊竹咲甫太夫
 鶴澤寛治
 鶴澤清治
 吉田簑助
 桐竹勘十郎
     ほか

第1部と第2部は、一応別の公演なので、記録上も2本に分けて書いておこう。

歌舞伎と文楽で「仮名手本忠臣蔵」を堪能したが、最初は子供の頃から映画やTVドラマで馴染んできた所謂「忠臣蔵」とは大きく異なる話なのに大いに驚いた。

「忠臣蔵」では主人公はほぼ由良助だが、「仮名手本忠臣蔵」ではむしろ加古川本蔵かもしれない。いや、おかると早野勘平も重要人物だ。そして平右衛門も捨てがたい…、などと思い起こしていると、本蔵の後妻戸無瀬も、娘小浪も、由良助の妻・お石もみんな魅力的だ。


人間的魅力に溢れた彼らの心根が絡み合いすれ違いがたくさんの悲劇を生み、それらを乗り越えた暁に本懐が待っているのだ。

彼らの心の有り様を紐解くことこそ仮名手本忠臣蔵の面白さだろうと思う。

文楽としての面白さは七段目にとりわけ心動かされた。
平右衛門が由良助の密書を読んでしまった妹おかるに斬りかかる場面だ。この場面だけ、義太夫、三味線の定位置である舞台上手側に客席に向かってはみ出すように設けられた「出語り床」とは別に舞台下手に「出床」が設けられて、そこで(無本で)語ったのが豊竹咲甫太夫だが、この人の語りはものすごい迫力で、義太夫という芸の面白さを十分に味わった。

余談:
歌舞伎では「塩冶判官」、「由良之助」、「鶴ヶ岡」、「天川屋」
文楽では「塩谷判官」、「由良助」、「鶴が岡」、「天河屋」と表記が異なるそうだ。

♪2016-170/♪国立劇場-11


国立劇場開場50周年記念12月文楽公演『通し狂言 仮名手本忠臣蔵』第一部

2016-12-07 @国立劇場


大 序   鶴が岡兜改めの段・恋歌の段
二段目   桃井館本蔵松切の段
三段目   下馬先進物の段・腰元おかる文使いの段・
      殿中刃傷の段・裏門の段
四段目   花籠の段・塩谷判官切腹の段・城明渡しの段
五段目   山崎街道出合いの段・二つ玉の段
六段目   身売りの段・早野勘平腹切の段

(主な出演者)
 豊竹咲太夫
 豊竹咲甫太夫
 鶴澤寛治
 鶴澤清治
 吉田簑助
 桐竹勘十郎
     ほか


大劇場で10月から3部構成・3か月連続で公演している歌舞伎版の原作である人形浄瑠璃版「仮名手本忠臣蔵」は小劇場で2部構成で上演された。

歌舞伎版があまりに素晴らしいので、元祖「仮名手本忠臣蔵」も観たくなって、文楽なるものを初めてナマで鑑賞した。
文楽版は2部構成で、しかも1日で2部とも上演するのでここは思い切って1日で「全段完全通し」を観た。


10時30分開演で終演が21時30分なので拘束時間が11時間。休憩や第1部と第2部との入れ替え時間に席を立ったが、10時間近く椅子に座っていた勘定だ。
本来は、第1部と第2部は別の日に観るのだろう。
現に、第1部で僕の周りに座っていた人は第2部ですっかり入れ替わった。両方の公演をぶっ通しで見るなんて狂気の沙汰かもしれない。

しかし、「全段完全通し」て良かった。
話の内容がよく分かる。
歌舞伎版を既に第1部から第3部まで(第2部までは2回ずつ)観ていたのですっかり話の筋は分かっていたつもりだったが、2度観ても(歌舞伎と文楽の演出の違いは別としても)細部に発見があった。
そして面白い。
ベンベンと打つように鳴らされる太棹三味線の音楽がいい。
太夫の義太夫節がとても迫力がある。
人形の動きも、しばらくして馴染んでくると人形とも思えない不思議な感興が湧いてく
る。

何より、「仮名手本忠臣蔵」というドラマの奥深さに一歩踏み分けたような気がした。

♪2016-170/♪国立劇場-10