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2024年12月17日火曜日

令和6年12月文楽公演 第三部

2024-12-17 @県立青少年センター




●第三部 (午後6時45分開演)
野澤松之輔=脚色・作曲
曾根崎心中(そねざきしんじゅう)
 生玉社前の段
 天満屋の段
 天神森の段 






2公演を1日で観たので文楽漬けだったが、全然没入できなかった。字幕がないから。

全作品、数回は鑑賞済みなのでどういう話かは分かっているが、念を入れた詞章を味わう楽しみは別次元だ。

字幕なしで江戸時代の大阪の言葉を、それも掛け言葉やしゃれ、語呂合わせをふんだんに使う言葉遊びの世界でもあるのに耳からだけで理解できる訳がない。

自分のスマホで字幕アプリが使えます、と
は国立劇場のホームページや会報「あぜくら」にも書いてある。

それは、通常の字幕のほかに使うこともできるという意味だと考えていた。それで一応アプリもDLしておいたが、使う気はなかった。

ところが、まさかの「字幕なし」だよ。

途中からやむを得ず「字幕アプリ」を使ってみたが見づらいこと甚だしい。遠い舞台と手元のスマホに焦点を合わせられるお客はどれだけいるか?ほとんど高齢者ばかりなのに。

有料プログラムもいつも買っているが、買いたくない人もいるだろう。それに、演出によっては(今日の第三部「曾根崎心中」のように)客電も落とした薄暗い中で読めたものではない。
字幕なしで文楽が楽しめる者がどれほどいるだろう?

漂流する国立劇場は、お客様サービスも考えられないほどの迷走ぶりだ。

十数年、あぜくら会会員として、国立の歌舞伎と文楽は余程のことがない限り欠かさず観て来たのに、次回以降も字幕なしではもう止めようかしらと思う。


♪2024-176/♪県立青少年センター-2

2023年10月15日日曜日

文楽協会創立60周年記念 人形浄瑠璃文楽 「桂川連理柵」

2023-10-15 @県立青少年センター



演目解説…豊竹芳穂太夫

桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)
 石部宿屋の段(今回は省略)
     
 六角堂の段
     豊竹亘太夫/鶴沢清公

 帯屋の段
     前⇒豊竹藤太夫/竹澤宗助
     切⇒竹本錣太夫/鶴澤藤蔵
 道行朧の桂川
     お半:豊竹芳穂太夫
     長右衛門:竹本小住大夫
     豊竹薫大夫/
     鶴澤清馗・鶴澤清公・鶴澤清方     


  人形▶女房お絹⇒吉田勘彌
     弟儀兵衛⇒吉田玉志
     丁稚長吉⇒吉田玉勢
     母おとせ⇒吉田簑一郎
     親繁斎⇒吉田勘市
     帯屋長右衛門⇒吉田玉也
     娘お半⇒吉田簑紫郎
     下男⇒大ぜい

     望月太明蔵社中









文楽の世話ものと言えば、「お半・長右衛門=桂川連理柵」、「お初・徳兵衛=曾根崎心中」、「お染・久松=新版歌祭文」など心中ものをすぐ思い浮かべるのは、多分、このジャンルに傑作が多いからではないか?

大抵は、だらしのない男が墓穴を掘って女性を道連れにする話だ。

「桂川連理柵かつらがわれんりのしがらみ」の主人公、帯屋の主人・長右衛門(38歳くらい)は養父・繁斎や隣家の信濃屋にも恩を受けており、女房お絹もよくできた女性だ。しかし、旅先で、偶然一緒になった信濃屋の娘お半…コレがなんと14歳…と床を一つにし、妊娠させてしまう。
商売上の失敗やら繁斎の子連れ後妻にいじめ抜かれ、にっちもさっちもゆかなくなって、「桂川で死にます」と書き置きを残して出て行ったお半の後を追い、身投げをする。

2まわりも若い、それも14歳(数え)のほんの子どもと過ちを犯し挙句入水するなんて、あほらし!という気もするが、実は、それほど荒唐な話でもなく、丁寧に味わえば、それなりの説得力があって、そのような道行になるのも納得はできる。


全編悲劇に終始するかと思えばそうではなく、三段中(今回は、先立つ「石部宿屋の段」が省略された。)最も長尺の「帯屋の段」は、後半、笑いがとまらない。

つまりは、非常にうまくできた話なのでいつまで経っても人気が衰えないのだろう。

余談:枝雀の落語「どうらんの幸助」では、この「帯屋の段」が面白く取り入れられて実におかしい。



♪2023-174/♪県立青少年センター-1

2023年2月8日水曜日

未来へつなぐ国立劇場プロジェクト 初代国立劇場さよなら公演 近松名作集第Ⅰ部 心中天網島

2023-02-08@国立劇場


第一部
(11:00時〜14:32)
近松門左衛門=作
心中天網島 (しんじゅうてんのあみじま)
◎北新地河庄の段
 中 睦太夫/勝平
 切 千歳太夫/富助
◎天満紙屋内の段
 口 希太夫/友之助
 奥 藤太夫/團七
◎大和屋の段
 切 織太夫(咲太夫の代理)/燕三
◎道行名残の橋づくし
 小春  芳穂太夫
 治兵衛 小住太夫
     亘太夫・聖太夫
      /錦糸・寛太郎・清公・清允・清方

************************
人形役割
紀伊國屋小春⇒清十郎
花車⇒紋秀
江戸屋太兵衛⇒玉助
五貫屋善六⇒簑紫郎
粉屋孫右衛門⇒玉也
紙屋治兵衛⇒玉男
女房おさん⇒和生
倅勘太郎⇒勘昇
おさんの母⇒蓑一郎
舅五左衛門⇒玉輝


今月は近松名作集だ。誰の作であれ、一般的に時代物は荒唐無稽なものも少なくないが、世話物はリアルな筋立てで密度が高い。特に近松の心中物は話の歯車が外れない。

今回で3度目だが成程巧くできていると感心できたのは一歩理解が深まったか。

構成や詞章の巧さには感心できても、相変わらず、主人公の紙屋治兵衛には全く共感できない。こんな甲斐性なしの男に惚れた挙句心中する遊女小春にも同情できない。
すると、話の中心は治兵衛の女房おさんにあるな、と今回思い至った。彼女を軸に据えて脳内再構成すると話に求心力が出てきそう。

最終段「道行名残の橋づくし」は、良くできている。
ここへ来て浄瑠璃も太夫4人に三味線5人と大編成になる。
終始暗い舞台で、2人の情死行が渡る橋の名を織り込んだ義太夫節が流れる中、遂に、網島の寺の境内で全うする。少し離れて絶命するのはおさんへの気遣いらしい。
この絵が美しい。

♪2023-024/♪国立劇場-02

2022年5月8日日曜日

豊竹咲太夫文化功労者顕彰記念 文楽座命名150年 文楽公演第Ⅲ部

2022-05-08@国立劇場


●桂川連理柵 (かつらがわれんりのしがらみ)
 石部宿屋の段
  竹本三輪太夫・ツレ:豊竹咲寿太夫
 /野澤勝平・鶴澤清允

 六角堂の段
  豊竹希太夫/竹澤團吾

 帯屋の段
前 豊竹呂勢太夫/鶴澤清治
切 豊竹呂太夫/鶴澤清介

 道行朧の桂川
お半       豊竹睦太夫
長右衛門 豊竹芳穂太夫
ツレ       竹本津國太夫・竹本碩太夫・豊竹薫大夫
/竹澤團七・鶴澤友之助・野澤錦吾・鶴澤清方

************************
人形役割
娘お半⇒    豊松清十郎
丁稚長吉⇒      吉田玉佳
帯屋長右衛門⇒吉田玉也
出刃屋九右衛門⇒桐竹亀次
女房お絹⇒  吉田勘彌
弟儀兵衛⇒  吉田玉志
母おとせ⇒  桐竹勘壽
親繁斎⇒   吉田清五郎


「桂川連理柵」(かつらがわれんりのしがらみ)は文楽でも歌舞伎でも数回観ている。これは面白い!

立派な妻・お絹がいるのに、女性にだらしない帯屋の主人・長右衛門(38歳。以下、数え年だと思う)。

旅先で、彼女にしつこく言い寄るのが隣家信濃屋の丁稚の長吉。彼から逃れて長右衛門の部屋にきたのが信濃屋の娘・お半(14歳)。子供ゆえに寝間に入れてやる。それが間違いの元。

長右衛門は帯屋の跡取り養子。帯屋の隠居・繁斎の妻は後妻で連れ子が儀兵衛。繁斎はできた男だが、後妻と儀兵衛は性悪で長右衛門を追い出しにかかっている。

旅先での出来事を盗み見した丁稚長吉も、長右衛門からお半を奪わんとする悪党。

長右衛門は前後左右から濡れ衣を着せられ、悪い事にお半は妊娠。

懸命なお絹の働きにも拘らず八方塞がりの中、先に死を決したお半の後を追って、長右衛門も桂川に。

四段構成だが、これが実に効果的に組み立てられている。
一番面白いのが「帯屋の段」で1時間超だが、長さを感じさせない。前半の儀兵衛と長吉の遣り取りが傑作だ。呂勢大夫の語りが素晴らしい。

この浄瑠璃が作られた当時(1776年初演)、上方では大流行して、「帯屋」の段は「お半長」とも呼ばれて子供でも知っている話となった、と上方落語「胴乱の幸助」に取り入れられていて、こちらも大傑作だ(枝雀が素晴らしい)。

追記:
4月から呂太夫/錣大夫/千歳太夫が切語りに昇格した。同慶也。

♪2022-065/♪国立劇場-04

2021年12月6日月曜日

国立劇場第53回 文楽鑑賞教室 「新版歌祭文」野崎村の段

2021-12-06@国立劇場



●解説 文楽の魅力
 吉田簑太郎

●新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)
 野崎村の段

中 豊竹亘太夫/鶴澤寛太郎
前 豊竹芳穂太夫/野澤勝平
後 豊竹藤太夫/鶴澤藤蔵
     ツレ 鶴澤清允
************************
人形役割
娘おみつ⇒ 吉田一輔
祭文売り⇒ 吉田和馬
親久作⇒    吉田玉也
手代小助⇒ 吉田玉誉
丁稚久松⇒ 吉田清五郎
娘お染⇒    桐竹紋臣
下女およし⇒ 豊松清之助
駕籠屋⇒    吉田玉延
駕籠屋⇒    吉田玉征
母おかつ⇒ 吉田簑太郎



鑑賞教室として開催。20分程初心者向け解説付き。


本演目は歌舞伎でも文楽でもしばしば取り上げられるが、歌舞伎と異なり、文楽では「野崎村の段」のみが上演される。所謂「お染・久松」の物語だ。


本篇では恋に狂った若い2人の先行きは描かれないが、心中する話だ。



久松の育ての親久作は、久松を兄妹同然に育ったおみつと夫婦にするつもり。

しかし、久松は大坂で奉公した店の娘お染と身分違いの恋をする。

その奉公先で未実の罪を着せられ、クビになった久松は野崎村の久作の元に戻される。それを追って、お染も大坂から野崎村へ。


この三角関係はお染の親も知ることになり、仲を割かれて野崎村を、お染は船で、久松は籠で後にし大坂に戻される。

後に残った可哀想なおみつは尼に。


燃え上がった恋心だけでは世間は渡れない。

何だか、最近世を賑わしたような話だが、素材となった実話では心中することを知っているからこのモヤモヤとした話もなんとか腹に収まる。


最後の陸路/水路での2人の道行で、今回初めて気づいた。

籠かきと船頭は登場するが、お染久松は登場しない。


夫々乗り物の中にいて、姿は見えない。


最終幕ではこの人夫達が主人公なのだ。


汗を拭き、手ぬぐいを搾り、竿を突き、竿を水に落とし、その様子の滑稽なこと。

モヤモヤした色恋話は、このようにして幕引きをするのだ。

いや、うまく考えた構成だ。かくしてスト〜ンと腑に落ちた。


♪2021-147/♪国立劇場-12

2021年2月19日金曜日

鶴澤清治文化功労者顕彰記念 人形浄瑠璃文楽 令和3年2月公演第Ⅲ部

 2021-02-19@国立劇場


●冥途の飛脚

 淡路町の段
 封印切の段
 道行相合かご


小住太夫/清𠀋/織太夫/宗助/

千歳太夫/富助/

三輪太夫/芳穂太夫/亘太夫/碩太夫/團七/團吾/友之助/清允

紋臣/亀次/勘市/勘十郎/玉佳/文司/蓑一郎/勘彌/玉翔/玉誉〜


近松の心中もの。ちょうど4年前の2月公演でも上演されて観に行った。

遊女梅川に入れ込んだ飛脚問屋の跡継忠兵衛が、預り金に手を付けてまで身請けしたものの、それまでに築き上げてきた財産も信用もなくした上に法を犯して追われる身となり果てる。

かくなる上は二人して「生きられるだけ生きよう」と必死の道行。

霙の舞う中、一枚の羽織を「お前が」、「忠兵衛さんが」と互いに着せ合うのが美しくも哀しい。

自分で自分を冥土に運ぶ飛脚になってしまった忠兵衛は二十四歳。
梅川も二十歳前後だろう。

分別無くし、運命の糸に絡みとられて死出の旅。



♪2021-015/♪国立劇場-02

2020年9月22日火曜日

人形浄瑠璃文楽令和2年9月公演第Ⅱ部

 2020-09-22 @国立劇場


鑓の権三重帷子 (やりのごんざかさねかたびら)

   浜の宮馬場の段
    藤太夫/團七
 浅香市之進留守宅の段
    織太夫/藤蔵・清允(琴)
 数寄屋の段
  切 咲太夫/燕三  
 伏見京橋妻敵討の段
    三輪太夫・芳穂太夫・小住太夫・
    亘太夫・碩太夫/清友・團吾・友之助・清公

人形役割
 笹野権三⇒玉男
 川側伴之氶⇒文司
 岩木忠太兵衛⇒玉輝
 女房おさゐ⇒和生
 浅香市之進⇒玉佳
 ほか



2月以来7月ぶりの再開文楽公演は1日4部公演に。第4部は鑑賞教室なので実質は3公演と、まあこれまでも無かった訳ではないが、各部間の待ち時間が1時間以上に延びて、本篇は1時間半〜2時間弱とえらく短くなった。料金は少し安くなったが、時間単価は高くなりぬ。


第2部は「鑓の権三重帷子」で初見。東京では11年ぶりの上演。

近松三大姦通ものの一つだそうな。これは実に面白かった。


そんなつもりは毛頭なけれどちょっとした偶然が重なって、権三と茶道師匠の女房おさゐは姦通を疑われ、疑いを晴らすことなく師匠による妻敵討ちにあう途を選択する。

町は多くの盆踊りに興ずる人たち。祭囃子も賑やかだ。

その喧騒を背景に江戸から帰ったおさゐの夫の手にかかり2人は彼らなりの本望を遂げ、何もなかったかのように祭りは続く。

粋な終わり方にだ。

2人は姦通などしなかった。

が、その後の道行きで両者は深い仲になったのではないか。


それらしき行動も台詞も一切ないが、それを感じさせるところが艶かしい。そうでなくちゃ言い訳もせずに、心中もせずに、おさゐの夫の名誉の為に、妻(め)敵討ち(妻を奪った男を成敗する)を待つなんてたまらないからなあ…と思うのは下衆な感性かな。


♪2020-054/♪国立劇場-05

2020年2月19日水曜日

人形浄瑠璃文楽令和2年2月公演第Ⅰ部

2020-02-19 @国立劇場


菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)
 吉田社頭車曳の段
  芳穂太夫・靖太夫・咲寿太夫・碩太夫・
  津國太夫/清友
 佐太村茶筅酒の段
  三輪太夫/團七
       喧嘩の段
  小住太夫/清馗
 同      訴訟の段
  靖太夫/錦糸
       桜丸切腹の段
  千歳太夫/富助
人形役割
 梅王丸⇒分司
 桜丸(車曳)⇒簑紫郎
 杉王丸⇒玉翔
 松王丸⇒玉輝
 左大臣時平⇒勘一
 親白太夫⇒和生
 女房八重⇒勘十郎
 女房千代⇒清十郎
 女房春⇒一輔
 桜丸(佐太村)⇒簑助
 ほか

文楽版菅原伝授手習鑑では、以前に、序幕というべき「車曳の段」も前段というべき「佐太村茶筅酒の段~桜丸切腹の段」も観ているのだけど、(歌舞伎でも)圧倒的に多いのが後段というべき「寺入り・寺子屋の段」で、その前段の話を味わうのは久しぶりだった。
それし、これらの話を知っていてこそ「寺子屋」の悲壮感が一層高まるのだ。

そういう意味で、今月の文楽公演は3部構成だが、第Ⅱ部か第Ⅲ部にどうして「寺入り」、「寺子屋」を演らなかったのか。残念なり。

忠義の為に、我が命も子供の命さえ犠牲にするという、超アナクロな筋立てに、自分の気持ちを整理するのも難しいが、それでも、やはりその真摯な生き様には感動を禁じ得ない。

クライマックスは「桜丸切腹の段」。目一杯の感情移入で語ってくれる千歳太夫が今日も素晴らしかった。

♪2020-025/♪国立劇場-03

2020年2月12日水曜日

人形浄瑠璃文楽令和2年2月公演第Ⅲ部

2020-02-12 @国立劇場


傾城恋飛脚 (けいせいこいびきゃく)
 新口村の段
  口:亘太夫/友之助
  奥:呂太夫/清介
人形役割
 忠三女房⇒簑一郎
 忠兵衛⇒玉佳
 遊女梅川⇒勘彌
 親孫右衛門⇒玉也
 ほか
----------------
鳴響安宅新関(なりひびくあたかのしんせき)
 勧進帳の段
  弁慶:藤太夫/藤蔵
  冨樫:織太夫/清志郎
  義経:芳穂太夫/清𠀋
  伊勢・片岡:南都太夫/清公
  駿河・常陸坊:文字栄太夫/錦吾
  番卒:亘太夫/清允
  番卒:碩太夫/清方
人形役割
 冨樫⇒玉志
 義経⇒文昇
 伊勢三郎⇒勘次郎
 駿河次郎⇒玉彦
 片岡八郎⇒和馬
 常陸坊海尊⇒亀次
 武蔵坊弁慶⇒玉男
 番卒⇒大ぜい

今月の文楽公演は3公演。1日で観られないこともないが、体力に不安を感ずるので2回に分けて鑑賞得ることにした。3公演はそれぞれに演目が異なるので、どれから観ても構わない。
なので、第Ⅲ部からスタートした。

「傾城恋飛脚」から「新口村」は既に何度も観ているので申し訳ないが体調回復を目的とした鑑賞…って何?ま、うっすら眠りながら義太夫の名調子を楽しむということかな。

文楽では初めての「勧進帳」に期待したが、これは凄い。
期待を大きく上回り、心が震えるような感動を覚えた。

舞台は能と同じ作り。

冒頭の冨樫と番卒のやりとりも謡なら、有名な「旅の衣は鈴懸の~」もまるで謡。徐々に三味線が入って義太夫らしくなる。
弁慶・富樫の丁丁発止のスリリングなやりとりに話の筋は分かっていても手に汗握る。何しろ弁慶を語る藤太夫の迫力のすごい事。

冨樫・織太夫も負けてはいない。

この組み合わせは、昨年の「妹背山婦女庭訓」の「妹山背山の段」の対決?シーンを彷彿とさせる。

最高潮は7人の太夫と7挺の三味線の大合奏!
「文楽はミュージカル」だなと、熟熟得心。

人形の遣い手は、普通、主遣(おもづか)いのみ素顔で、左遣い・脚遣いは黒衣姿と決まっているが、弁慶役に限っては3人とも顔を見せる。今日は左が吉田玉佳で、普段なら主遣いをしている(新口村では忠兵衛)。要するに人形遣いにとって弁慶は極めて重い役なのだ。また、顔が見えると遣い手の気合いも伝わって一層の迫力を増した。

♪2020-021/♪国立劇場-02

2019年12月13日金曜日

人形浄瑠璃文楽令和元年12月公演「一谷嫰軍記」

2019-12-13 @国立劇場


一谷嫰軍記(いちのたにふたばぐんき)
 陣門の段
  小次郎⇒咲寿太夫
  平山⇒小住太夫
  熊谷⇒亘太夫
  軍兵⇒碩太夫
  宗助
 須磨浦の段
  希太夫/勝平
 組討の段
  睦太夫/清友
 熊谷桜の段
  芳穂太夫/藤蔵
 熊谷陣屋の段
  前:織太夫/燕三
  後:靖太夫/錦糸

人形役割
 小次郎直家(敦盛)⇒一輔
 平山武者所⇒玉翔
 次郎直実⇒玉助
 玉織姫⇒簑紫郎
 遠見の敦盛⇒簑之
 遠見の熊谷⇒和馬
 妻相模⇒勘彌
 堤軍次⇒玉誉
 藤の局⇒簑二郎
 梶原平次景高⇒紋吉
 石屋弥陀六実は弥平兵衛宗清⇒文司
 源義経⇒玉佳
     ほか

今回の上演は全段ではなくかなり切り詰められているようだ。歌舞伎と駒之助の素浄瑠璃を経験しているがいずれも「熊谷陣屋」しか演らなかったので今回初めて全体の輪郭を理解できた。そして自分の勉強不足に呆れるが、かくも壮大なトリックが仕掛けられているとは!

歌舞伎・文楽の時代物では我が子を犠牲にする話が珍しくはない。菅原伝授手習鑑や伽羅先代萩など。一谷嫰軍記も同様な話だが「熊谷陣屋」だけを観ても、首の入れ替えは既になされているので、違和感が無いのだが、前段の陣門・須磨の浦・組討の段から順に見ていると見事に騙されていたのが分かる。

いや、騙されるのは無理はない。いくらなんでも話に無理がある。
「熊谷陣屋」だけが際立って上演機会が多いのは全段中一番面白いから、という理由だけではなさそうな気がした。
初演は約270年前だそうだが、そんな昔に…よくぞかくも大胆な筋立てを考えたものだ。

Aクリスティの「アクロイド殺人事件」は「一谷嫰軍記」にヒントを得たのでは…いや、さすがにそれはないな。

一方で、これまで「熊谷陣屋」をいかにボーッと観ていたか、恥ずかしくなった。
手元に当代芝翫襲名の際の「熊谷陣屋」のビデオがあるので、年末年始にじっくり観直してみよう。

♪2019-204/♪国立劇場-17

2019年11月19日火曜日

国立文楽劇場開場35周年記念11月文楽公演 通し狂言「仮名手本忠臣蔵」第Ⅲ部

2019-11-19 @国立文楽劇場


通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)
八段目から十一段目まで 4時間30分(正味3時間50分)

 八段目 道行旅路の嫁入
  津駒太夫・織太夫・南都太夫・亘太夫・碩太夫/
  宗助・清志郎・寛太郎・錦吾・燕二郎
 九段目 雪転しの段-山科閑居の段
  芳穂太夫/勝平
  前 千歳太夫/富助
  後 藤太夫/藤蔵     
 十段目 天河屋の段
  口 小住太夫/寛太郎
  奥 靖太夫/錦糸
   十一段目 花水橋引揚より光明寺焼香の段
  睦太夫・津國太夫・咲寿太夫・碩太夫/清𠀋

人形役割
  妻戸無瀬⇒和生
  娘小浪⇒一輔
  大星由良助⇒玉男
  妻お石⇒勘彌
  大星力弥⇒玉佳
  加古川本蔵⇒勘十郎
  天川屋義平⇒玉也
  原郷右衛門⇒分司
  矢間十太郎⇒勘一
  寺岡平右衛門⇒簑太郎
  桃井若狭之助⇒玉志
         ほか

3年前に国立劇場開場50周年記念の「仮名手本忠臣蔵」…2部構成の11段通しを観たのが、恥ずかしながらナマ文楽の最初で、これで嵌ってしまった。
その後は東京の公演は1回も欠かさず。今年は大阪遠征も3回・4公演を楽しんだ。

今年の3部構成の忠臣蔵も今回で全段終幕。

本場大阪では、国立文楽劇場開場35周年行事として時間をたっぷりかけたので、東京では演らなかった2段目冒頭、力弥使者の段と11段目の最後の最後、光明寺焼香の段も観られて良かった。
やはり焼香の段は泣かせる場面だ。花水川引き揚げで終わるよりカタルシスが得られて満足感が高い。

この本格的全段通し、次回はいつか。
もう一度くらい観たいね。
3回皆勤賞で手拭GET。

♪2019-182/♪国立文楽劇場-3

2019年9月19日木曜日

人形浄瑠璃文楽令和元年09月公演 第1部 心中天網島

2019-09-19 @国立劇場


心中天網島(しんじゅうてんのあみじま)
 北新地河庄の段
  三輪太夫/清志郎
  呂勢太夫/清治
 天満紙屋内の段
  津国太夫/團吾
  呂太夫/團七
 大和屋の段
  咲太夫/燕三
 道行名残の橋づくし
  芳穂太夫・希太夫・小住太夫・亘太夫・碩太夫/ 
  宗助・清丈・寛太郎・錦吾・燕二郎

 人形役割
  紀伊国屋小春⇒和生
  粉屋(こや)孫右衛門⇒玉男
  紙屋治兵衛⇒勘十郎
  女房おさん⇒勘彌
    ほか

妻子有28歳紙屋治兵衛が曽根崎新地の19歳遊女小春に入れあげ、女房おさんは苦しみつつも亭主の顔を立て、小春もおさんと治兵衛の情の板挟みで身動き取れず。
恋・金・義理・人情が絡んでほぐれずどうにもならぬと落ちてゆくも哀れなり。

「道行名残の橋づくし」の義太夫に乗せて、難波の川端彷徨って遂には網島・大長寺で情死する。治兵衛と小春は身から出た錆とは言えるが、おさんがあまりに可哀想。4時間近い大曲だが救いのない話に悄然と劇場を出る。

♪2019-141/♪国立劇場-11

2019年5月16日木曜日

国立文楽劇場開場35周年記念 人形浄瑠璃文楽05月公演 通し狂言「妹背山婦女庭訓」第2部

2019-05-16 @国立劇場


通し狂言「妹背山婦女庭訓」
(いもせやまおんなていきん)

●第二部(午後3時45分開演〜午後9時終演予定)
 三段目
  妹山背山の段
   背山:千歳太夫・藤太夫<文字久太夫改>/藤蔵・富助
      妹山:呂勢太夫・織太夫/清助・清治*・清公

 四段目
  杉酒屋の段
   津駒太夫/宗助
      道行恋苧環(みちゆきこいのおだまき)
   芳穂太夫・靖太夫・希太夫・咲寿太夫・
   碩太夫/勝平・清丈・寛太郎・錦吾・燕二郎
      鱶七上使の段
   藤太夫/清馗
      姫戻りの段
   小住太夫/友之助
      金殿の段
   呂太夫/團七
     
人形▶簑紫郎・簑助*・玉助・玉男・和生*・一輔・
   清十郎・勘十郎・分司・玉志・ほか

*人間国宝


第2部は「妹山背山の段」から始まる。話は、序盤で出会った若い久我之助と雛鳥の、両家(の親)が争っているが故に恋を成就できない悲劇の物語だ。どこが「大化の改新」と繋がるのか、これは相当無理がある。しかし、ここでは、そんなことはどうでも良い。最終的にはそれなりに繋がるのだから。

さて、第1部の開幕前に客席に入るとすぐ気がついたことは、太夫・三味線が座る「床」が、今回の公演では2カ所にあるということだ。通常は舞台上手側の客席に張り出している。今回は、下手にも全く同様の「床」が誂えてあった。左右対照に向かい合っているのだ。こんな形を見るのは初めてなので、どういう風に使うのだろうと、疑問に思っていたが、第1部では結局使われなかった。

第2部冒頭の「妹山背山の段」ではその両方の床に太夫と三味線が位置した。舞台上は中央に吉野川が舞台奥から客席側に向かって流れている。川を挟んで下手が妹山側で、こちらに雛鳥が住む太宰の館があり、上手は背山側で、大判事の館には久我之助が住んでいる。互いに顔は見合わすことができるが、川を渡ることは禁じられている。
この2人に、それぞれの家の立場の確執が元で悲劇が生ずる。
それを、左右の床で語り分け、掛け合うのが素晴らしい。
この段の三味線も義太夫も人形も、悲劇的な筋書きも相まって鳥肌ものの緊張が続く。この段だけで休憩なしの約2時間という長丁場。いやはや興奮の連続だ。

ここでは、千歳太夫、藤太夫、呂勢太夫、織太夫の義太夫も人間国宝・鶴澤清治ほかの三味線も迫力満点でゾクゾクしてくる。
人形の方も、吉田簑助・吉田和生と人間国宝が登場し、文楽界の3人しかいない人間国宝が全員、この段に投入されているのだ。この贅沢感は目眩がするほどの興奮をもたらしてくれる。

が、この段が終わると、物語はまた木に竹継いだような運びになる。

藤原鎌足の息子・藤原淡海(求馬)を巡る、彼の政敵・蘇我入鹿の妹・橘姫と酒屋の娘・お三輪の三角関係の話が続き、その過程で女性の守るべき教え=「婦女庭訓」のエピソードがほんの少し登場してタイトルの辻褄を合わせる。
橘姫を追って入鹿の屋敷に入った求馬をお三輪も追いかけたが、彼女にはその屋敷の中で思いもよらぬ運命が待っていた。

全体としてはかなり無理のある継ぎ接ぎだらけの話なのだけど、最終的には藤原勢が入鹿を追い詰めるということで、大化の改新の大筋は保っている。また、継ぎ接ぎを構成するそれぞれの話が、各個独立して面白いので、全体の整合性はともかく、大いに楽しめる。いやはやびっくりするほど楽しめる。

♪2019-065/♪国立劇場-07

国立文楽劇場開場35周年記念 人形浄瑠璃文楽05月公演 通し狂言「妹背山婦女庭訓」第1部

2019-05-16 @国立劇場


通し狂言「妹背山婦女庭訓」(いもせやまおんなていきん)

●第一部(午前10時30分開演)
 大   序
  大内の段
   碩太夫・亘太夫・小住太夫・咲寿太夫/
   清允・燕二郎・錦吾・清公
      小松原の段
   芳穂太夫・咲寿太夫・南都太夫・
   文字栄太夫・津国太夫/團吾
      蝦夷子館の段
   口:亘太夫/清公
   奥:三輪太夫/清友

 二段目
  猿沢池の段
   希太夫/友之助
      鹿殺しの段
   碩太夫/錦吾
      掛乞の段
   睦太夫/寛太郎
      万歳の段
   織太夫/清志郎・清允
      芝六忠義の段
   切:咲太夫/燕三

 三段目
  太宰館の段
   靖太夫/錦糸
     
人形▶玉佳・玉勢・紋臣・簑太郎・玉助・簑紫郎
   玉男・文司・清十郎・玉也・勘次郎・
   簑二郎・和馬・勘十郎・ほか

今月は、国立文楽劇場会場35周年の記念であり、令和に改元後最初の公演ということもあってか、日本で初めて元号が定められた「大化の改新」を題材にした超大作が、昼夜2部に及ぶ通し狂言として上演された。
第1部は10時半から。第2部終演は21時という時間割だが、これだけ長いと日を分けて鑑賞するのが普通だと思うが、今月はやたら忙しいので、1日で一挙に観てしまうことにした。もちろん幕間はあるし、1部終演後2部開演までにもお客の入れ替えの時間があるが、入館してしまえば出るまで拘束10時間半だ。
これはかなり体力が必要で、若干、不安もあったが、始まってみると実に面白くて、疲労など全然感じるどころではなかった。

この演目は、初めての鑑賞だ。およその筋書きは頭に入っていたが、まあ、登場人物が多く、最初のうちはなかなか彼らの関係性が飲み込めず、買ったプログラムの「人物相関図」などをチラチラ見ながら、なんとかついてゆくという感じだった。

ややこしいのは人間関係だけではなく、そもそもの筋書きがもう破天荒なのだ。
中大兄皇子(天智天皇)、藤原(中臣)鎌足側と、蘇我蝦夷・入鹿親子側との権力争いが大筋である(こういう狂言を「王代物」というらしい。)が、タイトルからしても違和感があるように、途中では室町か鎌倉の時代物風になったり、さらには江戸時代の世話物の様な話も加わり、元の大筋はだんだんとボケてゆき、まるで違う話が2つ3つ合わさっているようだ。

まあ、面白ければなんでもあり、という文楽・歌舞伎の庶民芸能の面目躍如だ。

第1部では文楽版ロメオとジュリエットとも言える久我之助(こがのすけ)と雛鳥の出会いを描く「小松原の段」、天智帝やその部下が大納言兼秋らが匿われているあばら家に掛け取りに来た商人とのトンチンカンなやりとりを描く「掛乞いの段」、親子の犠牲を描く「芝六忠義の段」が印象的だった。

♪2019-064/♪国立劇場-06