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2023年9月8日金曜日

未来へつなぐ国立劇場プロジェクト 初代国立劇場さよなら特別公演 通し狂言「妹背山婦女庭訓」

2023-09-08 @国立劇場大劇場


近松半二=作
通し狂言「妹背山婦女庭訓」<第1部>三幕
(いもせやまおんなていきん)

  戸部銀作=脚本
  高根宏浩=美術

序 幕  春日野小松原の場
二幕目  太宰館花渡しの場
三幕目  吉野川の場

太宰後室定高⇒中村時蔵
蘇我入鹿坂東⇒坂東亀蔵
久我之助清舟⇒中村萬太郎
腰元小菊⇒市村橘太郎
采女の局⇒坂東新悟
太宰息女雛鳥⇒中村梅枝
大判事清澄⇒尾上松緑
       ほか



「妹背山婦女庭訓」は文楽発祥の大作で、文楽では19年に《国立文楽劇場開場35年》の記念興行で、2公演にわたって(10:30〜21:00という長丁場!)通し狂言として演じられたのを初めて観て大いに感心した。もう一度観たいと思っていたが、今回は歌舞伎で観ることができた。

歌舞伎版は初めてだったが、やはり大作なので、何かの記念公演で演じられることが多いようだ。今回は、《初代国立劇場さよなら特別公演》ということで、今月と来月に2公演に分けて通し狂言として演じられる。

核となる場面は「妹山背山の段」で歌舞伎では「吉野川の場」とタイトルが変わっているが、舞台装置は文楽と全く同様で、桜満開の吉野に敵味方に分かれた両家の別荘が、吉野川を挟んで対峙している。その舞台の美しいこと。

文楽でいう、太夫が三味線に合わせて語る「床」は、文楽の「妹山背山の段」と同様上手・下手の両方に設えてある。

文楽では人形の寸法に合わせて舞台も小ぶりだが、歌舞伎では言うまでもなく人間サイズだから、特に豪華に見える。
そして、極めて珍しい両花道を使って舞台全体が立体的に構成してあって、製作陣の意気込みを感ずる。


物語は、説明不可だ。大勢登場し、我が子の首を切ったり、首が嫁入りしたりと荒唐無稽だ。
寛大な気持ちで臨まなければこの話を楽しむことはできない。

♪2023-151/♪国立劇場-09

2022年10月11日火曜日

未来へつなぐ国立劇場プロジェクト 初代国立劇場さよなら公演 通し狂言「義経千本桜」【Bプロ】三段目

2022-10-11 @国立劇場大劇場


竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
通し狂言  義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)
 国立劇場美術係=美術

三段目
下市村椎の木の場
下市村竹藪小金吾討死の場
下市村釣瓶鮓屋(すし屋)の場


いがみの権太⇒菊之助
主馬小金吾武里⇒萬太郎
猪熊大之進⇒菊市郎
若葉の内侍⇒吉太朗
庄屋作兵衛⇒宇十郎
権太女房小せん⇒吉弥
鮓屋弥左衛門⇒権十郎
弥助実ハ三位中将維盛⇒梅枝
弥左衛門娘お里⇒米吉
弥左衛門女房おくら⇒橘太郎
梶原平三景時⇒又五郎 ほか


「義経千本桜」はそもそも義経は小さな脇役に過ぎないし、三段目に至っては義経のヨノの字も出ない。
ここでの主人公はちょいワルの”いがみの権太”という遊び人だ。

全体は所謂時代物だと思うが、この段だけは世話物風味で完全に浮いている。

が、多分一番面白い。

勿論、権太を演ずるのは菊之助。

一幕物として上演されることが多いのは「鮓屋(すし屋・鮨屋とも)」の場。

今回は”通し”と銘打っているので、前段も上演されたが、「椎の木の場」や「小金吾討死の場」は初めて観た。これが置かれることで「すし屋の場」が立体的になる。

物語は、相も変わらず、首実験や忠義の妻子犠牲だが、ドラマの布石が心憎い。
店先にたくさん並んだすし桶に、
権太は掠め取った金を隠す。
彼を勘当している父は小金吾の首を隠す。

その取り違え?がドラマを急転直下の感動に盛り上げる。

尤も、半世紀もすれば、このような時代錯誤の美意識は世間の批判に屈して観られなくなるかも(オペラも同様)。

菊之助は美形すぎてワルは似合わないように思うが、最近では髪結新三も良かったし、案外コワイ役も面白いかも。

♪2022-148/♪国立劇場-10

2022年10月7日金曜日

未来へつなぐ国立劇場プロジェクト 初代国立劇場さよなら公演 通し狂言「義経千本桜」【Aプロ】二段目

2022-10-07 @国立劇場大劇場



竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
通し狂言  義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)
 国立劇場美術係=美術

二段目
伏見稲荷鳥居前の場
渡海屋の場
大物浦の場

佐藤忠信実ハ源九郎狐/渡海屋銀平実ハ新中納言知盛
⇒尾上菊之助
武蔵坊弁慶⇒坂東彦三郎
銀平女房お柳実ハ典侍の局⇒中村梅枝
片岡八郎⇒市村竹松
静御前⇒中村米吉
銀平娘お安実ハ安徳帝⇒尾上丑之助
相模五郎⇒市村橘太郎
源義経⇒中村錦之助
 ほか



初代国立劇場さよなら公演。文楽は先月の公演が「〜さよなら公演」だったが、歌舞伎の1番手は今月の「義経千本桜」。二〜三〜四段目を3公演に分けて”通す”。

菊之助が3役を演ずるが、今日の出番は2役。
尤もいずれも”A実はB”なので、事実上4役。
もう今月の国立は菊之助一色だ。

客席は大入りだった。

馴染みの芝居だが、”通し”では初めて。

今日は、舞台が引き締まっていた。
菊之助の初の三役に挑む緊張感が全員に伝わっているのだろう。

彦三郎の大音量と滑舌の良さが心地よい。弁慶がぴったりだった。
静御前の米吉はホンに女性のよう。
丑之助くんも長丁場を立派にお勤め。

♪2022-144/♪国立劇場-09

2022年1月5日水曜日

初春歌舞伎公演「通し狂言 南総里見八犬伝(なんそうさとみはっけんでん)」

2022-01-05 @国立劇場大劇場


犬山道節⇒尾上菊五郎
犬坂毛野⇒中村時蔵
網乾左母二郎/犬飼現八⇒尾上松緑
犬塚信乃⇒尾上菊之助
犬田小文吾⇒坂東彦三郎
犬川荘助⇒坂東亀蔵
蟇六娘浜路⇒中村梅枝
犬村大角⇒中村萬太郎
横堀在村⇒市村竹松
甘利掻太⇒市村光
犬江親兵衛⇒尾上左近
軍木五倍二⇒市村橘太郎
大塚蟇六⇒片岡亀蔵
馬加大記⇒河原崎権十郎
蟇六女房亀笹
市村萬次郎
簸上宮六⇒市川團蔵
足利成氏⇒坂東楽善
扇谷定正⇒市川左團次
ほか

国立劇場開場55周年記念
曲亭馬琴=作/渥美清太郎=脚色/尾上菊五郎=監修
国立劇場文芸研究会=補綴

通し狂言 南総里見八犬伝(なんそうさとみはっけんでん)  五幕七場
序 幕  (武蔵)  大塚村蟇六内の場
          本郷円塚山の場
二幕目  (下総)  滸我足利成氏館の場
         芳流閣の場
三幕目  (下総)  行徳古那屋裏手の場
四幕目  (武蔵)  馬加大記館対牛楼の場
大 詰  (上野)  扇谷定正居城奥庭の場

国立劇場の初春歌舞伎は菊五郎劇団と決まっている。

毎年、お正月らしい派手な演目で、7年前も同じ「八犬伝」だった。


今日、プログラムを買ったら、配役と筋書きの一部変更の1枚紙が入っていた。ギリギリまで練り直していたという訳だが、7年前も同様だったというのがおかしい。

帰宅後、残してある過去のプログラムも読み直してみたが、7年前のプログラムに印刷された筋書きとその一部訂正、今回のプログラムの筋書きとその一部訂正という計4種類の筋書きがほぼ同じで、宿敵をその場で倒すか後日譚に任せるかの違いを毎回、手直ししている。


どうせ、スペクタクルが売り物の演目なので、そんなに拘ることもなかろうと思うけど…。


見どころの多い芝居だが、やはり、1番の見ものは菊之助と松緑の芳流閣の大屋根での立ち回りではないか。


灰色の瓦と白い漆喰の網目模様。

その上で真っ赤な着物の菊之助と金襴緞子の松緑が絡んでは見得を切る。

その姿が絵に描いたように美しい。


ところで、菊五郎御大の動きに力がなかったが、大丈夫だろうか。


国立劇場の歌舞伎として、久々の大入りは同慶の至り。


♪2022-002/♪国立劇場-01

2020年10月9日金曜日

10月歌舞伎公演第2部

 2020-10-09 @国立劇場


●新皿屋舗月雨暈  -魚屋宗五郎-
魚屋宗五郎          尾上菊五郎
宗五郎女房おはま   中村時蔵
宗五郎父太兵衛      市川團蔵
小奴三吉               河原崎権十郎
菊茶屋女房おみつ   市村萬次郎
鳶吉五郎               市村橘太郎
磯部召使おなぎ      中村梅枝
酒屋丁稚与吉         尾上丑之助
磯部主計之介         坂東彦三郎
家老浦戸十左衛門   市川左團次
岩上典蔵               片岡亀蔵
                              ほか

●太刀盗人
すっぱの九郎兵衛   尾上松緑
田舎者万兵衛       坂東亀蔵
目代丁字左衛門      片岡亀蔵
従者藤内     尾上菊伸

河竹黙阿弥=作
●新皿屋舗月雨暈(しんさらやしきつきのあまがさ)-魚屋宗五郎-

序 幕  片門前魚屋宗五郎内の場
ニ幕目  磯部邸玄関先の場
同           庭先の場

岡村柿紅=作
●太刀盗人(たちぬすびと)


●「魚屋宗五郎」は、もうそろそろ菊五郎には無理ではないか、もう少し若い人がやるべきではないか(芝翫の宗五郎は良かった。)と思っていたが、なかなか。

これまでに観た中で一番良かった。

芸は磨かれるし、まあ、僕の眼も少しは肥えてきたからかも。

以前は細部の不整合が気になったりしたが、もっとおおらかに観なくちゃいかんな。

気脈を通じ合った時蔵、團蔵、萬次郎らとの掛け合いは室内楽のような見事なアンサンブルだ。

こういう芝居では掛け声禁止が、客席の静寂(それにしても少ない。)と共にむしろ良い緊張感を生んでいると思った。

悲劇をベースにしながら、菊五郎酒乱の芸を楽しむ芝居でもある。

しこたま酔った宗五郎が酒樽を手に花道で見栄を切る。おかしくて哀れで、形がいい。

●「太刀盗人」は狂言由来。

田舎者/坂東亀蔵の太刀を騙し取ろうとする盗人/松緑がもう傑作だ。亀蔵にイマイチの弾けぶりが欲しかった。

♪2020-062/♪国立劇場-08

2020年1月11日土曜日

初春歌舞伎公演「通し狂言 菊一座令和仇討」

2020-01-11 @国立劇場


四世鶴屋南北=作『御国入曽我中村』より
尾上菊五郎=監修
国立劇場文芸研究会=補綴
通し狂言「菊一座令和仇討」
(きくいちざれいわのあだうち)四幕十場
             国立劇場美術係=美術

序   幕 鎌倉金沢瀬戸明神の場
               飛石山古寺客殿の場
               六浦川堤の場
二幕目   朝比奈切通し福寿湯の場
               鈴ヶ森の場
三幕目   下谷山崎町寺西閑心宅の場
               大音寺前三浦屋寮の場
               元の寺西閑心宅の場
大   詰 東海道戸塚宿境木の場
        同   三島宿敵討の場

(主な配役)
幡随院長兵衛/寺西閑心実ハ蒲冠者範頼⇒尾上菊五郎
三日月おせん実ハ佐々木の娘風折/頼朝御台政子御前⇒中村時蔵
笹野権三⇒尾上松緑
白井権八⇒尾上菊之助
大江志摩五郎/梶原源太景季⇒坂東彦三郎
江間小四郎義時/おせんの手下長蔵⇒坂東亀蔵
権八妹おさい⇒中村梅枝
大江千島之助/笹野の家来・岩木甚平⇒中村萬太郎
安西弥七郎景益⇒市村竹松
権三妹八重梅⇒尾上右近
新貝荒次郎実重⇒市村光
万寿君源頼家⇒尾上左近
茶道順斎/湯屋番頭三ぶ六⇒市村橘太郎
同宿残月/判人さぼてんの源六/和田左衛門尉義盛⇒片岡亀蔵
今市屋善右衛門/秩父庄司重忠⇒河原崎権十郎
白井兵左衛門⇒坂東秀調
遣手おくら⇒市村萬次郎
笹野三太夫/大江因幡守広元⇒市川團蔵
家主甚兵衛⇒坂東楽善
         ほか

国立劇場の正月公演は、毎年、菊五郎劇団の奇想天外な芝居と決まっている。
今年は「菊一座令和仇討」。
槍の権三、白井権八、幡随院長兵衛、頼家、北条政子など知った名前が蘇我の仇討ちを拝借しながら時空を超えて絡み合う。令和は取ってつけただけ。
正月にふさわしい華麗な舞台。

いつもながら、彦三郎・亀蔵兄弟の滑舌の良さが気持ち良い。
松緑も久しぶりに大きな役で菊之助といいコンビだった。

国立劇場での両花道は8年ぶりだそうな。僕は観ているはずだが、思い出せない。
その両花道は下手が松緑、上手が菊之助で、同時に出たり引っ込んだりするのだが、右を見て左を見てと忙しい。

♪2019-002/♪国立劇場-01

2019年2月26日火曜日

初世尾上辰之助三十三回忌追善 二月大歌舞伎 昼の部

2019-02-26 @歌舞伎座


初世尾上辰之助三十三回忌追善狂言
一 義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)〜すし屋
いがみの権太⇒松緑
弥助実は三位中将維盛⇒菊之助
娘お里⇒梅枝
若葉の内侍⇒新悟
梶原の臣⇒吉之丞
梶原の臣⇒男寅
梶原の臣⇒玉太郎
六代君⇒亀三郎
弥左衛門女房おくら⇒橘太郎
鮓屋弥左衛門⇒團蔵
梶原平三景時⇒芝翫

初世尾上辰之助三十三回忌追善狂言
長谷川 伸 作 / 村上元三 演出
二 暗闇の丑松(くらやみのうしまつ)
暗闇の丑松⇒菊五郎
丑松女房お米⇒時蔵
浪人潮止当四郎⇒團蔵
料理人作公⇒男女蔵
料理人伝公⇒彦三郎
料理人巳之吉⇒坂東亀蔵
料理人祐次⇒松也
建具職人熊吉⇒萬太郎
建具職人八五郎⇒巳之助
杉屋遣手おくの⇒梅花
湯屋番頭甚太郎⇒橘太郎
お米の母お熊⇒橘三郎
杉屋妓夫三吉⇒片岡亀蔵
岡っ引常松⇒権十郎
四郎兵衛女房お今⇒東蔵
四郎兵衛⇒左團次

三 団子売(だんごうり)
杵造⇒芝翫
お臼⇒孝太郎

「義経千本桜」から「すし屋」の段。
「義経千本桜」は五段続きだそうな。そのうちのいくつかは歌舞伎と文楽で観ていたが、「すし屋」は初めてだった。

凡その筋は知っているものの「すし屋」の前段に当たる「小金吾討死」の話が前に置かれるのかと思ったていたがそうではなく、いきなりの「すし屋」で、少しまごついた。予習しておいてよかったよ。

しかし、権太=松緑、維盛=菊之助の配役は、当代では最適・最好のコンビではなかったか。いずれも初役ということで、多分、厳しい目にはまだ役がこなれていないのだろうが、僕の目には十分楽しめた。この2人で再演を観たいものだ。

「暗闇の丑松」も初見。これは興味深い物語だった。
昭和初期の作品で、新歌舞伎といわれるジャンルだ。
新劇のような凝った構成と演出に唸る。
止むを得ず人を殺め、人混みの中に消えてゆく幕切れは「夏祭浪花鑑」を思わせた。底辺に暮らす無法者となった男や哀れ。

♪2019-023/♪歌舞伎座-01







2018年3月3日土曜日

三月歌舞伎公演「増補忠臣蔵」/「梅雨小袖昔八丈」

2018-03-03 @国立劇場

●『増補忠臣蔵』


桃井若狭之助⇒中村鴈治郎
三千歳姫⇒中村梅枝
井浪伴左衛門⇒市村橘太郎
加古川本蔵⇒片岡亀蔵
        ほか

●『梅雨小袖昔八丈』


髪結新三⇒尾上菊之助
下剃勝奴⇒中村萬太郎
白子屋手代忠七⇒中村梅枝
白子屋娘お熊⇒中村梅丸
白子屋後家お常⇒市村萬次郎
紙屋丁稚長松⇒寺嶋和史
家主女房お角⇒市村橘太郎
家主長兵衛⇒片岡亀蔵
加賀屋藤兵衛⇒河原崎権十郎
弥太五郎源七⇒市川團蔵
         ほか

明治150年記念

一、増補忠臣蔵(ぞうほちゅうしんぐら)一幕二場
 ―本蔵下屋敷―(ほんぞうしもやしき)
     国立劇場美術係=美術
  
  第一場 加古川家下屋敷茶の間の場
  第二場 同        奥書院の場

河竹黙阿弥=作
尾上菊五郎=監修
二、梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)三幕六場
 ―髪結新三―(かみゆいしんざ)
     国立劇場美術係=美術
  
  序幕  白子屋見世先の場
      永代橋川端の場
  二幕目 富吉町新三内の場
          家主長兵衛内の場
        元の新三内の場
  大詰    深川閻魔堂橋の場

国立の歌舞伎は通し狂言が多いが、昨年の秋に続いて今回は2本立てだった。
最初の「増補忠臣蔵」は僕には初モノだが、「仮名手本忠臣蔵」
の九段目(山科閑居)の前日譚だとは承知していたので楽しみだった。ここで主人公は加古川本蔵が仕える桃井若狭之助であるが、筋立てからは本蔵の方が重い役にも思える。「仮名手本〜」全体を通じても重要なキーパーソンであり、なかなか魅力的な人物だ。

「増補」と付いているのは、「仮名手本〜」の話の一部を膨らませたという意味だが、出来たのが明治の始め頃らしい。最初は人形浄瑠璃で、明治30年が歌舞伎版の初演。初代鴈治郎が桃井若狭之助を演じ、二代目も三代目(現・藤十郎)も得意とし、歴代鴈治郎が演じてきたが、当代の鴈治郎としては今回初役であり、先代までは東京では演じてこなかったので、東京での公演は65年ぶりなのだそうだ。

1幕2場で公演時間もちょうど1時間というこじんまりした作品だ。登場人物も少なく筋も簡単で分かりやすい。

ほとんど、若狭之助(鴈治郎)と本蔵(片岡亀蔵)の主従のやりとりで、若狭之助に見送られて虚無僧姿で出立するところでこの芝居は終わるが、忠臣蔵の物語としてはこの後に九段目が続くと思うと、なかなかその別れも味わい深いものがある。

今日は初日だったせいか、竹本と2人のセリフに少しズレというほどでもないけどぴったり感のない箇所があったような気がした。

また、これは本質的なことだけど、鴈治郎の芝居と亀蔵の芝居がそもそもタイプが違うというか、木に竹継いだようで、うまく噛み合っていなかったように思う。

2本めがいわゆる「髪結新三」だ。菊之助初役。
この人は美形過ぎてヤクザな新三には不似合いだと思っていたが、なかなかどうして、ほとんど違和感がなかった。
ただ、最初の方で忠七(梅枝)の髪を整えるところの仕草はちっとも髪結いには見えなかったな。誰だったか、現・芝翫だったか、松緑だったか思い出せないが、多分ふたりとも今日の菊之助より髪結いらしかったな。

まあ、こちらの腕も徐々に上がるだろう。
家主長兵衛とのやり取りなど、とてもおかしい。初役はひとまずは成功だと思う。

この長兵衛を片岡亀蔵が演じていて、ここではまことに嵌り役だ。この人は軽めの(こってりしない)芝居が合っているのではないか。

梅丸は既に何度か観て娘役として実にかわいらしいのでとても男が演じているとは思えない。

♪2018-026/♪国立劇場-005

2017年1月23日月曜日

国立劇場開場50周年記念 通し狂言 しらぬい譚(しらぬいものがたり)五幕九場 尾上菊之助筋交いの宙乗り相勤め申し候

2017-01-23 @国立劇場


国立劇場開場50周年記念
柳下亭種員ほか=作『白縫譚』より
尾上菊五郎=監修
国立劇場文芸研究会=脚本
通し狂言 しらぬい譚(しらぬいものがたり)五幕九場
尾上菊之助筋交いの宙乗り相勤め申し候
 詳細は1月3日参照

尾上菊五郎⇒鳥山豊後之助
中村時蔵⇒烏山家の乳母秋篠/将軍足利義輝
尾上松緑⇒鳥山秋作
尾上菊之助⇒大友若菜姫
 詳細は1月3日参照

2度め。今度は2等B席(3階最前列)だが、話が良く分かっているし、不満はなかった。強いて言えば菊之助の宙乗りの2回めのぶら下がったままの芝居が2階席に比べると少し遠かったが、それでも普段は見られない至近距離だ。

2度の筋交い宙乗りだけでなく屋台崩しや景色の一変など舞台装置の仕掛けも驚かせ、楽しませてくれるのだが、一番驚いたのは、ピコ太郎だ。

初日にも登場したが、それは謎の参詣人として片岡亀蔵が化けていたのだけど、今日は亀蔵版ピコ太郎に続いて本物のピコ太郎が登場したのにはもうびっくり。あとで聞くとこの日だけの特別な演出だったそうだ。
まあ、正月興行の華やかなお遊びということでこれもいいのではないか。

でも、よくよく考えると、話の筋書きにはかなり無理のある話だ。
元の話を換骨奪胎しているそうだから、いっそもっと刈り込んで、話を整理しても良かったのではないか。

♪2017-009/♪国立劇場-002

2017年1月3日火曜日

国立劇場開場50周年記念 通し狂言 しらぬい譚(しらぬいものがたり)五幕九場 尾上菊之助筋交いの宙乗り相勤め申し候

2017-01-03 @国立劇場


国立劇場開場50周年記念
柳下亭種員ほか=作『白縫譚』より
尾上菊五郎=監修
国立劇場文芸研究会=脚本
通し狂言 しらぬい譚(しらぬいものがたり)五幕九場
尾上菊之助筋交いの宙乗り相勤め申し候

発端 若菜姫術譲りの場
除幕 博多柳町独鈷屋の場
二幕目
 第一場 博多菊地館の場
 第二場 同 奥庭の場
三幕目 博多鳥山邸奥座敷の場
四幕目
 第一場 錦天満宮鳥居前の場
 第二場 室町御所の場
大詰め 島原の塞の場

尾上菊五郎⇒鳥山豊後之助
中村時蔵⇒烏山家の乳母秋篠/将軍足利義輝
尾上松緑⇒鳥山秋作
尾上菊之助⇒大友若菜姫
坂東亀三郎⇒菊地貞行
坂東亀寿⇒鳥山家家臣瀧川小文治
中村梅枝⇒秋作の許嫁照葉
中村萬太郎⇒雪岡家家臣鷲津六郎
市村竹松⇒足利家家臣三原要人
尾上右近⇒傾城綾機/足利狛姫/多田岳の山猫の精
尾上左近⇒菊地貞親
市村橘太郎⇒大蛇川鱗蔵
片岡亀蔵⇒大友刑部/謎の参詣人
河原崎権十郎⇒独鈷屋九郎兵衛/海賊玄海灘右衛門
坂東秀調⇒医者藪井竹庵
市村萬次郎⇒足利家老女南木
市川團蔵⇒雪岡多太夫
坂東彦三郎⇒錦が岳の土蜘蛛の精
 ほか

お家騒動、仇討ち、忠義の自己犠牲の話に、妖術、怪猫、霊力の宝物などが登場し、筋交い宙乗り(というのは珍しいのだろうな。舞台に直行するのは何度か見たが斜め横断は初めて見た。)や屋台崩しなどの大道具の仕掛けのほか、思いがけない小道具を含め全編がどっちから見ても外連味一杯の正月らしい派手な舞台だ。

「発端」で描かれる経緯が分かりにくかったが、その後の進行は見たとおりに理解できる。
まあ、乳母の献身ぶりには、それはないでしょう、と思ってしまうが、これも歌舞伎らしい。

ピコ太郎も登場するし、何でもありだ。

菊之助の宙乗りは舞台下手から3階席上手までという客席上を斜め横断だ。そのために、1階席よりむしろ2階席、3階席の方が楽しめる。
僕は2階席前から3列目中央だったので、ちょうど菊之助が止まって芝居をするのがほとんど目の前で、こんなに近くから役者を見るのは初めてだった。やはり、菊之助はなかなか妖しい魅力を振りまいていた。
松緑も「仮名手本忠臣蔵」では役不足を感じたが、今回は活躍場面が多くて楽しめた。

♪2017-001/♪国立劇場-001

2016年10月27日木曜日

国立劇場開場50周年記念 通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら) 第一部 四幕九場

2016-10-27 @国立劇場


平成28年度(第71回)文化庁芸術祭主催
竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)第一部四幕九場
国立劇場美術係=美術

大序   鶴ヶ岡社頭兜改めの場
二段目  桃井館力弥使者の場
       同 松切りの場
三段目   足利館門前の場
            同 松の間刃傷の場
            同 裏門の場
四段目   扇ヶ谷塩冶館花献上の場
            同 判官切腹の場
            同 表門城明渡しの場

(主な配役)⇒10/03のノート参照

初日に観たが、いよいよ第2部の公演も近づいて、復讐と予習を兼ねて千秋楽にも出かけた。

すっかり、頭に入っていたつもりだけど、見逃していた部分などもあって良い勉強になった。

やはり、4段目の判官切腹の場からの緊張感がいい。役者陣も1ヶ月近く演じてきただけに息が合ってきたのだろう。
観ている側の気持ちも、劇中にシンクロしてゆくようだった。
由良之助の幸四郎も、初日に感じたほどにはクセを感じなかった。
初日には足元がふらついた團蔵もシャキッと有終の美を飾った。

第2部が楽しみだ。
第2部も第3部も2回観ることにしている。
めったに観られない全段完全通しを全身全霊で味わいたいものだ。

♪2016-148/♪国立劇場-06

2016年10月3日月曜日

国立劇場開場50周年記念 通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら) 第一部 四幕九場

2016-10-03 @国立劇場



平成28年度(第71回)文化庁芸術祭主催
竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)第一部四幕九場
国立劇場美術係=美術

大序   鶴ヶ岡社頭兜改めの場
二段目  桃井館力弥使者の場
      同 松切りの場
三段目   足利館門前の場
            同 松の間刃傷の場
            同 裏門の場
四段目   扇ヶ谷塩冶館花献上の場
            同 判官切腹の場
            同 表門城明渡しの場

(主な配役)
【大序】
塩冶判官⇒中村梅玉
顔世御前⇒片岡秀太郎
足利直義⇒中村松江
桃井若狭之助⇒中村錦之助
高師直⇒市川左團次

【二段目】
桃井若狭之助⇒中村錦之助
本蔵妻戸無瀬⇒市村萬次郎
大星力弥⇒中村隼人
本蔵娘小浪⇒中村米吉
加古川本蔵⇒市川團蔵

【三段目】
塩冶判官⇒中村梅玉
早野勘平⇒中村扇雀
桃井若狭之助⇒中村錦之助
鷺坂伴内⇒市村橘太郎
腰元おかる⇒市川高麗蔵
加古川本蔵⇒市川團蔵
高師直⇒市川左團次

【四段目】
大星由良之助⇒松本幸四郎
石堂右馬之丞⇒市川左團次
薬師寺次郎左衛門⇒坂東彦三郎
大鷲文吾⇒坂東秀調
赤垣源蔵⇒大谷桂三
織部安兵衛⇒澤村宗之助
千崎弥五郎⇒市村竹松
大星力弥⇒中村隼人
佐藤与茂七⇒市川男寅
矢間重太郎⇒嵐橘三郎
斧九太夫⇒松本錦吾
竹森喜多八⇒澤村由次郎
原郷右衛門⇒大谷友右衛門
顔世御前⇒片岡秀太郎
塩冶判官⇒中村梅玉
ほか


今年は国立劇場会場50周年ということで記念の大型企画が各分野で並んだが、中でも、「仮名手本忠臣蔵」の3ヶ月連続公演による全段完全通し上演というのが画期的らしい。

全段通し上演と称した公演は度々行われているようだが、国立劇場が昭和61年に開場20周年記念で今回と同じく10月~12月の3回に分けて上演したものは本物の「完全通し上演」だそうだが、他の「全段通し」は実際にはいくつかの場面が省略されているらしい。

50周年記念の今回も、上演可能な場面はすべて網羅するという「完全通し上演」だと言うから、今回を逃したら次の機会に生きている保障はないかも…と思って、「あぜくら会」会員向けの3公演セット券を迷わず買った。歌舞伎鑑賞はたいてい3階席だが、今回は特別席と1等A席しかセット販売されないので1等Aを選んだ。

人形浄瑠璃からの移行作品の全段完全通しなので、一段目は「大序」と呼ばれるそうだが、この「大序」の前には定式幕の前に文楽人形が出てきて配役を紹介する。これを「口上人形」という。滑稽な表情とセリフがおかしく、かしこまった作品かと思っていたが楽しく出鼻をくじかれた。

口上が終わって幕が開くと鶴岡八幡宮の場面だが、ここでも役者たちは目を伏せうなだれたまま微動だにしない。そしてどこからか役者の名前を告げる声がしてそれに応じて一人ずつ精気を得たように「人形」から「人間」に生まれ変わる。

こういう演出はいずれも、原典の人形浄瑠璃に敬意を表するものだそうだ。

物語は、映画やテレビドラマなどでよく知っている「忠臣蔵」とはかなり異なるので驚きの連続。
しかし、省かれた場面がないので物語の連続性は分かりやすい。
なるほど、これが本物の「仮名手本忠臣蔵」なのか。

人形浄瑠璃として1748年に初演され、同年末には早くも歌舞伎に移行されて以来、270年近い歴史の中で、上演すれば必ずそれなりのヒットが見込まれたそうで、もはや日本人のDNAに刷り込まれているのかもしれない。

塩冶判官を演ずる梅玉はいつもながら渋い。
4段目になってようやく登場する由良之助の幸四郎は、やや、芝居が大仰ではないかと思うけど如何にもの幸四郎節で、やはり舞台の求心力は大きい。
左団次が演ずる加古川本蔵という登場人物のことは知らなかった。これまで映画やTVドラマなどではこの人に相当する人物は出てこなかったように思う。そもそも本蔵が仕える桃井若狭之介(錦之助)という殿様の存在も知らなかったが、どうやら、本蔵の存在が全段の物語の中で大きな役割を占めることになりそうだ。

「大序」も伝統に則った珍しい演出だったが、4段目切腹の場も古来「通さん場」と呼ばれ、お客の出入りを禁じたそうで、国立劇場でも踏襲された。

こんなところにも、格調を感じさせる大芝居だ。
この壮大な物語があと2回も続くというのはとてもワクワクする。


♪2016-132/♪国立劇場-05