2024年2月7日水曜日
令和6年2月文楽公演第2部
2023年10月15日日曜日
文楽協会創立60周年記念 人形浄瑠璃文楽 「桂川連理柵」
2022年12月16日金曜日
未来へつなぐ国立劇場プロジェクト 初代国立劇場さよなら公演 本朝廿四孝 (ほんちょうにじゅうしこう)
2022-12-16@国立劇場
●二段目
◎信玄館の段
薫太夫/清允
◎村上義清上使の段
南都太夫/團吾
◎勝頼切腹の段
織太夫/燕三
◎信玄物語の段
藤太夫/宗助
●四段目
◎景勝上使の段
碩太夫/友之助
◎鉄砲渡しの段
咲寿太夫/寛太郎
◎十種香の段
呂勢太夫/藤蔵
◎奥庭狐火の段
希太夫/清志郎
ツレ 燕二郎/琴:清方
アト 聖太夫/清方
◎道三最後の段
亘太夫/錦吾
人形役割
腰元濡衣⇒一輔
常磐井御前⇒文昇
村上義清⇒玉彦
勝頼実は板垣子息⇒紋臣
板垣兵部⇒亀次
蓑作実は勝頼⇒玉佳
武田信玄⇒文司
長尾謙信⇒玉勢
長尾景勝⇒紋秀
花守関兵衛実は斎藤道三⇒簑紫郎
八重垣姫⇒簑二郎
山本勘助⇒玉輝
18年5月に「本朝廿四孝」(全五段)のうち、三段目(桔梗原の段、景勝下駄の段、勘助住家の段)を観たが、なかなか複雑な話に付いてゆけなかった。
今回は、二段目(信玄館の段、村上義清上使の段、勝頼切腹の段、信玄物語の段)と四段目(景勝上使の段、鉄砲渡しの段、十種香[じゅしゅこう]の段、奥庭狐火の段、道三最後の段)だ。
これに最初に初段(大序<足利館大広間の段、足利館奥御殿の段>)と最後に五段目が加わって完成形…という訳でもなく四段目には今回省かれた[道行似合の女夫丸]と[和田別所化生屋敷の段]が<景勝上使の段>に先立つ。
なので、18年の公演と今回を合わせても、「全段」というには、抜けが多いのだけど、おそらく、二、三、四段目(のうちの<景勝上使の段>以降)を観れば、「本朝廿四孝」のほぼ全容が理解できる…らしい。
●感想…と言っても、とにかく、筋が頭の中で筋が繋がらない。特に今回は途中の三段目が抜けているので、解説など読みながら怪しい記憶と格闘したが難しい。
ただ、今回30年ぶりに上演されたという「道三最後の段」を観て、この複雑な戦国絵巻の争いの構図がぼんやりとではあるが、分かった。
ミステリー小説のように、重要な設定が最後までお客には隠されているのでアンフェアな感じもするが、それが明かされる大団円でなるほど、全てのエピソードがこうして繋がるのか、と合点した。
まる1日をかけて、あるいは、短い間隔で全段を観ることができたら、作者が仕掛けた壮大な物語を楽しむことができるだろう。
♪2022-194/♪国立劇場-132021年9月5日日曜日
国立劇場開場55周年記念 人形浄瑠璃文楽 令和3年9月公演第Ⅲ部
2021年2月19日金曜日
鶴澤清治文化功労者顕彰記念 人形浄瑠璃文楽 令和3年2月公演第Ⅲ部
2021-02-19@国立劇場
●冥途の飛脚
淡路町の段
封印切の段
道行相合かご
小住太夫/清𠀋/織太夫/宗助/
千歳太夫/富助/
三輪太夫/芳穂太夫/亘太夫/碩太夫/團七/團吾/友之助/清允
紋臣/亀次/勘市/勘十郎/玉佳/文司/蓑一郎/勘彌/玉翔/玉誉〜
近松の心中もの。ちょうど4年前の2月公演でも上演されて観に行った。
遊女梅川に入れ込んだ飛脚問屋の跡継忠兵衛が、預り金に手を付けてまで身請けしたものの、それまでに築き上げてきた財産も信用もなくした上に法を犯して追われる身となり果てる。
かくなる上は二人して「生きられるだけ生きよう」と必死の道行。
霙の舞う中、一枚の羽織を「お前が」、「忠兵衛さんが」と互いに着せ合うのが美しくも哀しい。
自分で自分を冥土に運ぶ飛脚になってしまった忠兵衛は二十四歳。
梅川も二十歳前後だろう。
分別無くし、運命の糸に絡みとられて死出の旅。
♪2021-015/♪国立劇場-02
2020年2月19日水曜日
人形浄瑠璃文楽令和2年2月公演第Ⅱ部
2019年11月19日火曜日
国立文楽劇場開場35周年記念11月文楽公演 通し狂言「仮名手本忠臣蔵」第Ⅲ部
通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)
八段目から十一段目まで 4時間30分(正味3時間50分)
八段目 道行旅路の嫁入
津駒太夫・織太夫・南都太夫・亘太夫・碩太夫/
宗助・清志郎・寛太郎・錦吾・燕二郎
九段目 雪転しの段-山科閑居の段
芳穂太夫/勝平
前 千歳太夫/富助
後 藤太夫/藤蔵
十段目 天河屋の段
口 小住太夫/寛太郎
奥 靖太夫/錦糸
十一段目 花水橋引揚より光明寺焼香の段
睦太夫・津國太夫・咲寿太夫・碩太夫/清𠀋
人形役割
妻戸無瀬⇒和生
娘小浪⇒一輔
大星由良助⇒玉男
妻お石⇒勘彌
大星力弥⇒玉佳
加古川本蔵⇒勘十郎
天川屋義平⇒玉也
原郷右衛門⇒分司
矢間十太郎⇒勘一
寺岡平右衛門⇒簑太郎
桃井若狭之助⇒玉志
ほか
3年前に国立劇場開場50周年記念の「仮名手本忠臣蔵」…2部構成の11段通しを観たのが、恥ずかしながらナマ文楽の最初で、これで嵌ってしまった。
その後は東京の公演は1回も欠かさず。今年は大阪遠征も3回・4公演を楽しんだ。
今年の3部構成の忠臣蔵も今回で全段終幕。
本場大阪では、国立文楽劇場開場35周年行事として時間をたっぷりかけたので、東京では演らなかった2段目冒頭、力弥使者の段と11段目の最後の最後、光明寺焼香の段も観られて良かった。
やはり焼香の段は泣かせる場面だ。花水川引き揚げで終わるよりカタルシスが得られて満足感が高い。
この本格的全段通し、次回はいつか。
もう一度くらい観たいね。
3回皆勤賞で手拭GET。
♪2019-182/♪国立文楽劇場-3
2019年8月1日木曜日
国立文楽劇場開場35周年記念夏休み文楽特別公演 通し狂言「仮名手本忠臣蔵」第Ⅰ部
通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)五段目から七段目まで
4時間18分(正味3時間33分)
五段目 山崎街道出合いの段
小住大夫・勝平
二つ玉の段
靖太夫・錦糸・燕二郎
六段目 身売りの段
咲太夫・燕三
早野勘平腹切の段
呂勢太夫・清治
七段目 祇園一力茶屋の段
由良助⇒呂太夫
力弥⇒咲寿太夫
十太郎⇒津国太夫
喜多八⇒文字栄大夫
弥五郎⇒芳穂太夫
仲居⇒亘太夫
おかる⇒津駒太夫
仲居⇒碩太夫
一力亭主⇒南都太夫
伴内⇒希太夫
九太夫⇒三輪太夫
平右衛門⇒藤太夫
前 宗助
後 清友
人形役割
早野勘平⇒和生
千崎弥五郎⇒玉勢
百姓与市兵衛⇒亀次
斧定九郎⇒玉輝
女房おかる⇒一輔
与市兵衛女房⇒簑二郎
一文字屋才兵衛⇒簑太郎
原郷右衛門⇒玉也
斧九大夫⇒勘壽
鷺坂伴内⇒文司
矢間十太郎⇒紋吉
大星由良之助⇒勘十郎
寺岡平右衛門⇒玉助
大星力弥⇒玉翔
遊女おかる⇒簑助
4月公演に続いて第2弾。今回は、五段目から七段目まで。
大序(一段目)から四段目までは、侍たちの四角四面の意地の張り合いのような物語だが、五段目〜六段目は、農家や商家の人々の人情話で、これがなかなか面白い。
五、六段目の主役は早野勘平(萱野三平重実がモデルと言われている。)だ。
彼氏、善良で忠義の男なのだが、ちょいとうっかりミスが多い。ほんのささいな失敗から不運が不運を呼んで、岳父を亡くし、恋女房は遊女に身売りし、挙句、自分は早まって腹を切ることになる。
ここは人間国宝に内定している咲太夫の名調子だったが、なんだか、一段とありがたく聴こえた。
おかるがその身を売られた後に、勘平が切腹をしたので、おかるはその事情を知らずに遊女として祇園「一力」で働いている。
七段目は、全段の中で、一番面白いかもしれない。
「一力」で放蕩を尽くす由良助の元に敵も味方も彼の本心を探りにくる。容易なことで内心を明かさない駆け引きがまずは面白い。
判官(内匠頭)の妻・顔世御前から由良助宛の密書を、ひょんなことからおかるは盗み見してしまう。それを知った由良助はおかるを身請けしてやるという。喜ぶおかるだが、おかるの兄・足軽の平右衛門は、それを聞いて由良助の仇討ちの決意を読み取り、おかるは密書を見た為に殺されるのだと説く。
驚くおかるに、亭主の勘平は切腹し、父親は殺されたことを伝え、「その命、兄にくれ!その命と引き換えに仇討ちの仲間に入れてもらえるよう嘆願する」と切りかかる。もはや、生きる希望を失ったおかるは兄の望みが叶うならと命を差し出すその刹那、陰で聞いていた由良助が平右衛門の覚悟のほどを知り、刀を納めさせ、平右衛門の仇討ち参加を許す。
と、ざっと書いたが、実際はこの段だけで1時間半もある。
いろんなエピソードがあって見どころ、聴きどころ満載。よくぞ、こんな面白い話を作ったものだと思う。
次回公演は11月だ。これで全段完了。また、行かねばなるまい。
2019年2月15日金曜日
人形浄瑠璃文楽平成31年02月公演 第1部
第一部
桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)
石部宿屋の段
芳穂太夫・亘太夫/
野澤勝平・野澤錦吾
六角堂の段
希太夫・咲寿太夫・
文字栄太夫/竹澤團吾
帯屋の段
前⇒呂勢太夫/鶴澤清治
切⇒咲太夫/鶴澤燕三
道行朧の桂川
織太夫・睦太夫・小住太夫・
亘太夫・碩太夫/竹澤宗助・
鶴澤清馗・鶴澤清公・鶴澤燕二郎・
鶴澤清允
人形▶豊松清十郎・桐竹紋吉・吉田文昇・
吉田玉男・吉田勘彌・吉田勘壽・
吉田玉輝
「桂川連理柵」は「帯屋の段」が有名で、歌舞伎でもここだけ取り出したのを観ているが、今回はその前後も合わせて全4段。
話せば長い物語を端折りまくって記せば…。
帯屋の主人長右衛門(38歳)養子である。帯屋隠居の後妻のおとせ(とその連れ子儀兵衛)は、儀兵衛に店の跡を継がせようという魂胆から長右衛門に何かと辛く当たる。
一方、帯屋の丁稚長吉は隣家の信濃屋の娘お半(14歳)に夢中。お半は長吉など眼中になく、帯屋の跡取り、長右衛門を恋い慕っている。
儀兵衛はお半が長右衛門に宛てた恋文を入手したを幸いに、また、長右衛門が女房お絹の実弟のために密かに用立てた百両が店の金庫から消えていることを発見し、加えて自分たちがくすねた五十両も長右衛門の窃取だと言い長右衛門を責め立てる。
さらに、長右衛門が旅先で、長吉に言い寄られて困っているお半を我が寝所に入れた為に犯した一夜の過ちの結果、お半が妊娠してしまったことや、長吉の悪巧みでお客から預かった宝剣が見当たらなくなったことなどが重なり合い、長右衛門は八方塞がりになる。
そうこうしている間に、お半も、不義の子を宿した以上生きてはゆけないと長右衛門に書き置きを残し桂川に向かう。
もう、死を覚悟していた長右衛門だったが、お半が桂川で入水するということを知って、彼は昔の情死事件を思い起こさずにはおられなかった。
15年前に当時惚れ合った芸妓と桂川で心中しようと誓ったものの自分1人生き残ってしまった長右衛門は、これこそ天の啓示とばかり今度こそ情死を全うせんとお半の後を追うのだった。
…と長いあらすじを書いてしまった。これ以上短くすると、自分で思い出すときに役に立たないだろう。それにせっかく書いたから消さないでおこう。
実際の話はもっと入り組んでいる。
人生のほんのちょっとしたゆき違いが、運悪く重なり繋がることで、人の運命を転がし、それが雪だるまのように膨れ上がってしまうと、もう誰にも止めることはできなくなる。
現在進行形の柵(しがらみ)が、長右衛門にとってコントロール不能にまでがんじがらめに心を縛り尽くした時、ふと蘇る15年前の同じ桂川での心中未遂事件!
長右衛門にとっては、お半と桂川で心中することは、むしろ暗闇の中で見えた曙光なのかもしれない。
また、<14歳のお半>、<15年前の事件>と並べると、お半は芸妓の生まれ変わりか、あるいは芸妓が生んだ長右衛門の子供であったのかもしれない…と観客に余韻を残して幕を閉じるこの哀しい物語にはぐったりと胸を打たれる。
余談ながら、備忘録代わりに書いておこう。
人形を3人で操る場合の主遣い(おもづかい)は黒衣衣装ではなく顔を見せて演ずるのが普通だが、今回「石部宿屋の段」と「六角堂の段」では主遣いも、左遣い、足遣い同様、黒衣衣装だった(今回の公演第2部の「大経師昔暦」の「大経師内の段」も)。
不思議に思って、国立劇場に尋ねたら、極力人形に集中してもらうための演出で、昔から行われているるのだそうだ。黒頭巾をとったら弟子だった、ということはないそうだ。ま、そうでしょ。
余談その2
上方落語「どうらんの幸助」は、大阪の義太夫稽古処で「桂川連理の柵」ー「帯屋の段」のうち、後妻のおとせが長右衛門の嫁をいじめている部分を外から漏れ聞いたどうらんの幸助(喧嘩仲裁を楽しみとしている老人)が、本当の話だと勘違いして、これはほっておけないと、京都柳の馬場・押小路の帯屋に喧嘩納めにゆく、というとんでもない話でヒジョーにおかしい。
♪2019-016/♪国立劇場-03
2018年2月19日月曜日
人形浄瑠璃文楽平成30年2月公演 第3部「女殺油地獄」
近松門左衛門=作
女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく)
●徳庵堤の段
豊竹靖太夫⇒与兵衛
豊竹希太夫⇒お吉(きち)/小菊
竹本小住太夫⇒七左衛門/森右衛門/大尽蠟九
豊竹亘太夫⇒小栗八弥/弥五郎
竹本碩太夫⇒お清/花車
●河内屋内の段
口 豊竹咲寿太夫
竹沢團吾
奥 竹本津駒太夫
鶴澤清友
●豊島屋油店の段(てしまやあぶらみせのだん)
豊竹呂太夫
鶴澤清介
●同 逮夜の段
豊竹呂勢太夫
竹澤宗助
◎人形
吉田和生*⇒豊島屋女房お吉
吉田簑之⇒豊島屋姉娘お清
桐竹勘昇⇒茶屋の亭主
吉田玉男⇒河内屋与兵衛
吉田簑太郎⇒小栗八弥
吉田玉輝⇒山本森右衛門
吉田玉志⇒豊島屋七左衛門
吉田玉也⇒河内屋徳兵衛
吉田勘彌⇒徳兵衛女房お沢
吉田幸助⇒河内屋太兵衛
吉田簑助*⇒与兵衛の妹おかち
吉田玉誉⇒綿屋小兵衛
ほか(*は人間国宝)
2月公演の第3部は、一番楽しみの「女殺油地獄」だ。
僕が初めてこの作品を観たのは歌舞伎版で40年近く昔の事、国立劇場だった。多分、当時の片岡孝夫、現・15代仁左衛門の与兵衛だったように微かに記憶しているが、何にも記録していないので勘違いかもしれない。とにかく、その時に受けたインパクトは大きくて「豊島屋油店の場(段)」というタイトルはとっくに忘れていたがあの油まみれで舞台を滑りながらの刃傷沙汰は忘れられない。
その後、歌舞伎でも見る機会がなかったが、ようやく文楽の形で再見が叶うことになったが、一体、人形であの殺しの場面をどう表現するのかというところが興味深い。
久しぶりに(と言っても文楽としては初見だが)この演目を観ると4つの段はそれぞれによくできている。面白い。それは、3段目に大きな山場があることが分かっているから、今の出来事、人間関係がどう絡み合って愁嘆場を迎えることになるのかという関心が人形や語りに集中させてくれるからだろう。
そして、主役の与兵衛のキャラクターがいい。番頭上がりで主人亡き後婿養子に入った継父の河内屋徳兵衛が元の主人の実子である与兵衛には厳しく処すことができず、いわば甘やかし放題の結果、放蕩息子になってしまっているのだが、近松のほかの世話物(例:心中物)などでも登場する男たちはだらしのない情けない男ばかりだが、彼らにはどこか憎めないところがある。しかし、この「女殺油地獄」の河内屋与兵衛はもう徹底的な悪党で寸毫も同情の余地はない。さりとて大きなことができるほどの器量もないただの出来損ないの小悪党だ。継父や実母や豊島屋の女房お吉などの思いやりはまるで素通りして親も打擲するわ、最後に借金返済のために人殺しをして平然としている。
このようなキャラクター設定が、他の近松作品や文楽作品にも登場するのかどうか浅学のため知らないが、おそらくユニークな人物だろう。そう言えば、歌舞伎「霊験亀山鉾」(鶴屋南北作)の藤田水右衛門が近いか。でもこちらは侍だ。与兵衛は本来なら義理や人情で思いやりを交わしながら暮らしを営む市井の人物なのだからやはり、とんだ精神的畸形といえる。
この性悪が悪さの限りを尽くすことで、観ている観客も一切何らの同情心も湧かず、突き放してみることができるところがある意味痛快でもある。
さて、件(くだん)の「豊島屋油店の段」での殺人だが、豊島屋の亭主の留守に女房お吉に金の無心。断られて持参していた脇差しをお吉に突き立て、斬り掛かり、断末魔のお吉が苦し紛れに店の油を与兵衛に投げつける。床は油とお吉の血だらけとなる…が、もちろん文楽の舞台は想像するだけだが。その床で与兵衛もツツーっと滑り、逃げるお吉もツツーっと滑り、なかなか身体が互いに思うに任せず。やがては動かなくなったお吉を「『南無阿弥陀仏』と引き寄せて右手(めて)より左手(ゆんで)の太腹へ、刺いては刳り抜いては切…息絶えたり」。
戸棚から金を盗んでその逃走中、脇差しを栴檀木橋から川へ捨てた…と太夫の語り。
まったくの余談だけど、かつての大阪勤務時代にこの粋な名前の橋は何度も渡った。北浜から中之島の図書館へ行くには土佐堀川に架かるこの橋を渡らなくてはならない。江戸時代初期に架けられた当時は橋の袂に栴檀の大木があったことから名づけられたそうだ。当然その頃は木橋だ。景勝地区にあって、橋もきれいだった。今ではもっと整備されて中之島公園と一体になっているのだろう。
今から400年ほど前の5月端午の節句の夜、河内屋与兵衛は血糊がべっとり付いた脇差しをこの橋から土佐堀川に捨てたのだ…と思うと、ロマンチックでなくなるな。
なお、実際にこのような事件があったらしい…とされている。
観応え、聴き応え十分な作品であった。
♪2018-022/♪国立劇場-04
2017年9月14日木曜日
人形浄瑠璃文楽平成29年9月公演 第二部「玉藻前曦袂」
●第二部
玉藻前曦袂(たまものまえあさひのたもと)
清水寺の段
道春館の段
神泉苑の段
廊下の段
訴訟の段
祈りの段
化粧殺生石
(主な出演者)
竹本千歳太夫
豊澤富助
吉田和生
吉田玉男
豊竹咲寿太夫
豊竹咲甫太夫
鶴澤清助
桐竹勘十郎
吉田玉也
豊竹睦太夫
野澤喜一朗
竹本文字久太夫
竹澤宗助
吉田幸助
竹本小住太夫
豊竹亘太夫
ほか
今回は、七段で構成されたが、本来の「段」なのか、「段」の中の「場」に相当するものも混じっているのかは分からない。少なくともこの七段の前に、序(初)段と二段があって、それぞれは天竺と唐の国が舞台だというから、スケールの大きな話だ。いずれも金毛九尾の妖狐がそれぞれの国で大暴れした後に日本にやってくるという話で、三段目以降日本を舞台にする。
そのオリジナルの三段目が今回の「清水寺の段」に当たるのだと思うが、はっきりしたことは分からなかった。
いずれにせよ、今回の公演は「清水寺の段」で始まり、「道春館の段」以下に続く。「道春館の段」までは妖狐は登場しないが、帝の兄・薄雲の皇子の謀反の企てや皇子に見染められてしまった亡き道春の2人の娘・桂姫、初花姫の悲劇として、見応えのある大曲だ。
続く「神泉苑の段」から「祈りの段」までが妖狐と安倍兄弟との戦(いくさ)話だが、「廊下の段」と「訴訟の段」の間には、本来は「段」だか「場」だかが置かれていたようだ。でなければ話がつながらない。で、「祈りの段」で両者の争いには一応の決着がつく。一応の…と言うのは、悪者である妖狐は都を逃げ出すものの成敗されたわけではなく、薄雲の皇子は流罪を申し付けられるものの従う気はなさそうで一体どうなるのか示されないから。

このような構成なので、通し狂言というには、いささか構成感に不足する。
しかし、最後の「化粧殺生石」は見応え充分だ。人形劇とも思えない早変わり七変化のスペクタクルは舞台装置の仕掛けも色々と工夫されていて面白い。最後は桐竹勘十郎まで宙乗りに暗闇の空に消えた。
♪2017-149/♪国立劇場-14
2017年8月2日水曜日
夏休み文楽特別公演 第三部「夏祭浪花鑑」
並木千柳、三好松洛竹田小出雲合作:夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)
●︎住吉鳥居前(すみよしとりいまえ)の段
豊竹咲寿太夫/竹沢團吾
豊竹睦太夫/竹澤宗助
●釣船三婦内(つりふねさぶうち)の段
竹本小住太夫/鶴澤清公
竹本千歳太夫/豊澤富助
●長町裏(ながまちうら)の段
豊竹咲甫太夫・竹本津駒太夫/鶴澤寛治
◎人形
桐竹勘壽・吉田玉輝・吉田簑助・吉田玉也・桐竹勘十郎・吉田幸助
第2部は長尺だったが、こちらは3段構成約2時間。
江戸の侠客には馴染みが深いが、大阪も変わらないのが面白い。しかも姐さん方の筋の通し方が半端じゃない。引き受けたからには「一寸」も引かない。引けば「顔が立たない」。面目を無くせば生きているのは恥ずかしい。

そして、やむを得ず仕事を終えた団七が、血しぶきまみれの身体に水を浴びて気持ちを切り替え、祭りの喧騒の中にひっそり紛れて消える、この幕切れの粋なこと。
♪2017-134/♪国立文楽劇場-2
2017年2月7日火曜日
国立劇場開場50周年記念 文楽公演 近松名作集<第二部> お初徳兵衛 曾根崎心中(そねざきしんじゅう)
近松門左衛門=作
お初徳兵衛
曾根崎心中(そねざきしんじゅう)
生玉社前の段
天満屋の段
天神森の段
(主な出演者)
竹本文字久太夫
竹澤宗助
豊竹咲太夫
鶴澤燕三
竹本津駒太夫
豊竹咲甫太夫
豊竹芳穂太夫
豊竹亘太夫
鶴澤寛治
鶴澤清志郎
鶴澤寛太郎
鶴澤清公
吉田玉男
桐竹勘十郎
吉田玉輝
吉田文哉
ほか

近松名作集全3作のうちでは一番有名な作品かな。
文楽で観るのは初めて。
歌舞伎では2014年4月に〜坂田藤十郎一世一代にてお初相勤め申し候〜という藤十郎がこれで最後のお初を演ずるという公演を観て、特に「天満屋の場」の床下に隠れた徳兵衛(鴈治郎=当時は翫雀)との件が非常に強い印象となって残っていたのが、良かったか、悪かったか。
とは言え、もともと文楽の方がオリジナル。
お初が足の先で徳兵衛に心中の決意を伝えるところなど、人形で演じた方が抵抗は少ない。生身の人間が演ると、やはり印象が強烈になる。
徳兵衛の甲斐性のなさにはじれったいが、この時お初19歳、徳兵衛25歳(数え年)。互いの愛を死を以て貫いたのは哀れかな。
〜未来成仏疑ひなき恋の手本となりにけり〜
♪2017-018/♪国立劇場-05