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2024年2月7日水曜日

令和6年2月文楽公演第2部

2024-02-06 @日本青年館ホール



第二部 (15:15開演〜17:30)
●艶容女舞衣(はですがたおんなまいぎぬ)
 酒屋の段
 中 三輪太夫/清友
 切 錣太夫/宗助
 奥 呂勢太夫/清治

●戻駕色相肩(もどりかごいろにあいかた)
 廓噺の段
   藤太夫・靖太夫・碩太夫/
   燕三・清𠀋・清公・燕二郎

 人形▶丁稚長太⇒玉彦
    半兵衛女房⇒文昇
    美濃屋三勝⇒清十郎
    娘お通⇒和登
    舅半兵衛⇒勘壽
    五人組の頭⇒亀次
    親宗岸⇒玉也
    嫁お園⇒勘十郎
    茜屋半七⇒清五郎
    -----------------------------
    浪花次郎作⇒玉佳
    吾妻与四郎⇒玉勢
    かむろ⇒一輔




4年半ぶりに「艶容女舞衣(はですがたおんなまいぎぬ)」を観た。
前回は、半七と芸者・三勝(さんかつ)との心中道行があったが、今回は「酒屋の段」のみ。
それで、少し印象が変わったが、これはこれで、むしろスッキリと面白い。

冒頭、店の留守を任された丁稚の能天気さ。
そこに酒を買いに来た子連れの女。
頼まれて酒を運んでやる丁稚。
この謎めいた場面から始まる。

半七の父、半兵衛が代官所から戻り、丁稚がなぜか子供を背負って店に戻る。
そこに離縁されたお半七の女房お園が父親とともに茜屋を訪ねてから話は急展開する。
ただ、この時点でもまだ半七・三勝は登場しないというのが凝った作劇だ。

実話に基づいているというが、誰一人真の悪人はいないのに、歯車が少し欠けたか、登場人物の人生が狂ってゆくさま哀れ也。

♪2024-022/♪日本青年館ホール-2

2022年5月8日日曜日

豊竹咲太夫文化功労者顕彰記念 文楽座命名150年 文楽公演第Ⅲ部

2022-05-08@国立劇場


●桂川連理柵 (かつらがわれんりのしがらみ)
 石部宿屋の段
  竹本三輪太夫・ツレ:豊竹咲寿太夫
 /野澤勝平・鶴澤清允

 六角堂の段
  豊竹希太夫/竹澤團吾

 帯屋の段
前 豊竹呂勢太夫/鶴澤清治
切 豊竹呂太夫/鶴澤清介

 道行朧の桂川
お半       豊竹睦太夫
長右衛門 豊竹芳穂太夫
ツレ       竹本津國太夫・竹本碩太夫・豊竹薫大夫
/竹澤團七・鶴澤友之助・野澤錦吾・鶴澤清方

************************
人形役割
娘お半⇒    豊松清十郎
丁稚長吉⇒      吉田玉佳
帯屋長右衛門⇒吉田玉也
出刃屋九右衛門⇒桐竹亀次
女房お絹⇒  吉田勘彌
弟儀兵衛⇒  吉田玉志
母おとせ⇒  桐竹勘壽
親繁斎⇒   吉田清五郎


「桂川連理柵」(かつらがわれんりのしがらみ)は文楽でも歌舞伎でも数回観ている。これは面白い!

立派な妻・お絹がいるのに、女性にだらしない帯屋の主人・長右衛門(38歳。以下、数え年だと思う)。

旅先で、彼女にしつこく言い寄るのが隣家信濃屋の丁稚の長吉。彼から逃れて長右衛門の部屋にきたのが信濃屋の娘・お半(14歳)。子供ゆえに寝間に入れてやる。それが間違いの元。

長右衛門は帯屋の跡取り養子。帯屋の隠居・繁斎の妻は後妻で連れ子が儀兵衛。繁斎はできた男だが、後妻と儀兵衛は性悪で長右衛門を追い出しにかかっている。

旅先での出来事を盗み見した丁稚長吉も、長右衛門からお半を奪わんとする悪党。

長右衛門は前後左右から濡れ衣を着せられ、悪い事にお半は妊娠。

懸命なお絹の働きにも拘らず八方塞がりの中、先に死を決したお半の後を追って、長右衛門も桂川に。

四段構成だが、これが実に効果的に組み立てられている。
一番面白いのが「帯屋の段」で1時間超だが、長さを感じさせない。前半の儀兵衛と長吉の遣り取りが傑作だ。呂勢大夫の語りが素晴らしい。

この浄瑠璃が作られた当時(1776年初演)、上方では大流行して、「帯屋」の段は「お半長」とも呼ばれて子供でも知っている話となった、と上方落語「胴乱の幸助」に取り入れられていて、こちらも大傑作だ(枝雀が素晴らしい)。

追記:
4月から呂太夫/錣大夫/千歳太夫が切語りに昇格した。同慶也。

♪2022-065/♪国立劇場-04

2021年9月5日日曜日

国立劇場開場55周年記念 人形浄瑠璃文楽 令和3年9月公演第Ⅱ部

2021-09-05@国立劇場



●卅三間堂棟由来 (さんじゅうさんげんどうむなぎのゆらい)
 平太郎住家より木遣音頭の段
中 睦太夫/清志郎
切 咲太夫/燕三
奥 呂勢太夫/清治
人形 吉田和生・桐竹紋臣・吉田簑一郎・
   吉田簑二郎・吉田玉助・桐竹勘次郎

●日高川入相花王 (ひだかがわいりあいざくら)
 渡し場の段
三輪太夫・咲寿太夫/
碩太夫・聖太夫・團七・清𠀋・錦吾_清允・青方
人形 吉田清五郎・吉田勘市


機会の少ない文楽の前回公演を、コロナ拡大中につき弱気にも断念したので、2月公演以来の久しぶりの文楽観賞だった。
客席に座った時に、その場限りにせよ、日常が戻ったなあと嬉しくなった。

「卅三間堂棟由来」は文楽では始めての観賞だが、歌舞伎では数回観ている。

異類婚姻譚の一種。
柳の精・お柳は、平太郎と縁あって結ばれ、子(緑丸)を成す。
平和な暮らしも長くは続かず、ある日、白河法皇の病気平癒のため建てる三十三間堂の棟木に使う柳の大木が切り倒されることに。
その柳の木こそお柳その者なのだ。

切り倒されて都に運ばれる柳の大木は夫と緑丸が見送る場面で動かなくなる。

夫が歌う木遣音頭に合わせて緑丸が綱を曳くと、びくとも動かなかった柳が動き出す。
夫婦・母子の無念の別れが涙を誘う。

豊竹咲太夫・鶴澤清治・吉田和生の人間国宝トリオが結集して、何やらありがたい舞台ではあった。

♪2021-089/♪国立劇場-06

2020年9月22日火曜日

人形浄瑠璃文楽令和2年9月公演第Ⅲ部

 2020-09-22 @国立劇場


絵本太功記 (えほんたいこうき)
 夕顔棚の段

    睦太夫/清志郎
 尼ヶ崎の段
  前 呂勢太夫/清治
  後 呂太夫/清介

人形役割
 母さつき⇒勘壽
 妻操⇒簑二郎
 嫁初菊⇒一輔
 真柴久吉⇒文昇
 武智光秀⇒玉志
 武智十次郎⇒勘彌
 加藤正清⇒勘次郎
 ほか


「絵本太功記」。これは人気演目で上演機会も多く僕も観ている。が、面白さが分からないのが悲しい。

登場人物の名前はお上の規制のために変えてあるが、要は明智光秀が信長を討ち取った直後の光秀の家族に降りかかる悲劇だ。

1人尼崎で蟄居する光秀の母の元に吸い寄せられるように集まる家族。

光秀の妻、夫妻の息子、その許嫁、謎の旅僧(実は秀吉)、旅僧を追ってきた光秀。

主人殺しを許せない気持ちと我が子可愛さとの思いで、それぞれに引き裂かれそうになっている母と妻。

知ってか知らずか勢いたつ光秀は、風呂に入った旅僧を秀吉と睨んで外から竹槍を。が、中にいたのは身代わりになった母だった。光秀の犯した罪の重さを知らしめ、大罪が少しでも軽くなるようにと身を呈した母。祝言をあげたばかりで初陣した息子は息も絶え絶えに帰参する。


この状況で光秀や如何!


ま、その辺に中々共感できないのだが見所・聴き処は多い。


♪2020-055/♪国立劇場-06

2020年2月19日水曜日

人形浄瑠璃文楽令和2年2月公演第Ⅱ部

2020-02-19 @国立劇場


新版歌祭文(しんばんうたざいもん)
 野崎村の段
  中 睦太夫/勝平
  前 織太夫/清治
  切 咲太夫/燕三
    ツレ 燕二郎 
人形役割
 娘おみつ⇒簑二郎
 祭文売り⇒玉延
 親久作⇒勘壽
 手代小助⇒紋秀
 丁稚久松⇒玉志
 下女およし⇒紋吉
 娘お染⇒簑一郎
 ほか

竹本津駒太夫改め
六代目竹本錣太夫襲名披露狂言
傾城反魂香(けいせいはんごんこう)
 土佐将監閑居の段
  口 希太夫/團吾
    津駒太夫改め
  奥 錣太夫/宗助
    ツレ 寛太郎

人形役割
 門弟修理之介⇒玉勢
 土佐将監⇒玉也
 将監奥方⇒文昇
 浮世又平⇒勘十郎
 女房おとく⇒清十郎
 狩野雅楽之介⇒一輔
 ほか

「新版歌祭文」はいわゆる「お染め・久松」の物語だが、先行作があるので本作は「新版~」というらしい。
歌舞伎では「野崎村の段」に先立つ「座摩社」も併せて観たが、今回は「野崎村の段」だけ。
この先お染めと久松は心中をするのだが、まあ、この若い2人は知恵が足らないから自業自得だけど、幼い頃からの久松の許嫁・おみつこそ哀れなり。

この段は3人で語り分け。
「中」が睦太夫、「前」が織太夫、「切」は当然唯一の切り場語り・人間国宝の咲太夫。
咲太夫が登場すると、テンションが高まる感じだ。

後半は、竹本津駒太夫改め六代目竹本錣太夫襲名披露狂言
「傾城反魂香」土佐将監閑居の段。
歌舞伎では2度観ているが文楽は初めて。

絵の才能はあるが、吃音のせいもあって万事うまく立ち回れない又平に代わって、女房のおとくが陽気に喋りすぎるところが好対照の面白さだが、出世を弟弟子に越され、絵師「土佐」の名を与えてもらえない。万事休すで2人は心中を決め、師匠・土佐将監の家の庭の手水鉢に遺書代りに絵を描くと、これが裏面にまで抜け現れる。
その才能に驚いて師匠は又平にも「土佐」の名を与える。

本作の後半、「奥」を「錣太夫」が語った。
津駒太夫時代から聴いていて、上手いとかどうこう言えるほどの耳もないが、素人ながら申し上げれば、上手なんだろうな。いや、本公演に登場するような太夫はみんな上手なので、あとは好みの問題。織太夫、千歳太夫、藤太夫のような情熱派ではないが、堂々として素直な語り口のように思う。

♪2020-026/♪国立劇場-04

2019年11月20日水曜日

国立文楽劇場開場35周年記念11月文楽公演 第1部「心中天網島」

2019-11-20 @国立文楽劇場


心中天網島(しんじゅうてんのあみじま)
 北新地河庄の段
  織太夫/清介
  呂勢太夫/清治
 天満紙屋内の段
  希太夫/清馗
  呂太夫/團七
 大和屋の段
  咲太夫/燕三
 道行名残の橋づくし
  三輪太夫・睦太夫・靖太夫・小住太夫・
  文字栄太夫/ 
  清友・團吾・友之助・清公・清允

 人形役割
  紀伊国屋小春⇒簑二郎
  粉屋(こや)孫右衛門⇒玉助
  紙屋治兵衛⇒勘十郎
  女房おさん⇒清十郎
         ほか

「心中天網島」は9月に東京で観たばかりだが、せっかく大阪に行くのだからこちらも鑑賞。

演者が少し変わった。
東京では小春を和生が遣ったが大阪では河庄の前後半で簑二郎・簑助が勤めた。
太夫・三味線も変わったが河庄奥の呂勢太夫・清治、天満紙屋奥の呂太夫・団七、大和屋切の咲太夫・燕三といった重要な場面は同じ配役だった。

唯一人の切り場語り咲太夫は何度も聴いているけど、この秋、人間国宝に指定されてからは初めてということになる。ますます、ありがたみが増したような…。

甲斐性なしの紙屋治兵衛28歳。
惚れてしまった遊女小春18歳。
いずれも数えだから現代風ではもうちょっと幼い。
巻き込まれた女房おさんこそ大迷惑。

治兵衛らに同情はできないが、その心中場面。
先に殺めた小春から抜き取った真っ赤な帯揚げ?で首を括る治兵衛。
この絵の美しさが哀れを引き立たせる。

咲太夫
♪2019-183/♪国立文楽劇場-4

2019年9月19日木曜日

人形浄瑠璃文楽令和元年09月公演 第1部 心中天網島

2019-09-19 @国立劇場


心中天網島(しんじゅうてんのあみじま)
 北新地河庄の段
  三輪太夫/清志郎
  呂勢太夫/清治
 天満紙屋内の段
  津国太夫/團吾
  呂太夫/團七
 大和屋の段
  咲太夫/燕三
 道行名残の橋づくし
  芳穂太夫・希太夫・小住太夫・亘太夫・碩太夫/ 
  宗助・清丈・寛太郎・錦吾・燕二郎

 人形役割
  紀伊国屋小春⇒和生
  粉屋(こや)孫右衛門⇒玉男
  紙屋治兵衛⇒勘十郎
  女房おさん⇒勘彌
    ほか

妻子有28歳紙屋治兵衛が曽根崎新地の19歳遊女小春に入れあげ、女房おさんは苦しみつつも亭主の顔を立て、小春もおさんと治兵衛の情の板挟みで身動き取れず。
恋・金・義理・人情が絡んでほぐれずどうにもならぬと落ちてゆくも哀れなり。

「道行名残の橋づくし」の義太夫に乗せて、難波の川端彷徨って遂には網島・大長寺で情死する。治兵衛と小春は身から出た錆とは言えるが、おさんがあまりに可哀想。4時間近い大曲だが救いのない話に悄然と劇場を出る。

♪2019-141/♪国立劇場-11

2019年8月1日木曜日

国立文楽劇場開場35周年記念夏休み文楽特別公演 通し狂言「仮名手本忠臣蔵」第Ⅰ部

2019-08-01 @国立文楽劇場


通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)五段目から七段目まで 
4時間18分(正味3時間33分)

 五段目 山崎街道出合いの段
                      小住大夫・勝平 
     二つ玉の段
       靖太夫・錦糸・燕二郎
 六段目 身売りの段
       咲太夫・燕三
            早野勘平腹切の段
       呂勢太夫・清治
 七段目 祇園一力茶屋の段

       由良助⇒呂太夫
       力弥⇒咲寿太夫
                     十太郎⇒津国太夫
       喜多八⇒文字栄大夫
       弥五郎⇒芳穂太夫
       仲居⇒亘太夫
       おかる⇒津駒太夫
       仲居⇒碩太夫
       一力亭主⇒南都太夫
       伴内⇒希太夫
       九太夫⇒三輪太夫
       平右衛門⇒藤太夫
     前 宗助
     後 清友

人形役割
       
       早野勘平⇒和生
       千崎弥五郎⇒玉勢
       百姓与市兵衛⇒亀次
       斧定九郎⇒玉輝
       女房おかる⇒一輔
       与市兵衛女房⇒簑二郎
       一文字屋才兵衛⇒簑太郎
       原郷右衛門⇒玉也
       斧九大夫⇒勘壽
       鷺坂伴内⇒文司
       矢間十太郎⇒紋吉
       大星由良之助⇒勘十郎
       寺岡平右衛門⇒玉助
       大星力弥⇒玉翔
       遊女おかる⇒簑助

4月公演に続いて第2弾。今回は、五段目から七段目まで。

大序(一段目)から四段目までは、侍たちの四角四面の意地の張り合いのような物語だが、五段目〜六段目は、農家や商家の人々の人情話で、これがなかなか面白い。

五、六段目の主役は早野勘平(萱野三平重実がモデルと言われている。)だ。
彼氏、善良で忠義の男なのだが、ちょいとうっかりミスが多い。ほんのささいな失敗から不運が不運を呼んで、岳父を亡くし、恋女房は遊女に身売りし、挙句、自分は早まって腹を切ることになる。

ここは人間国宝に内定している咲太夫の名調子だったが、なんだか、一段とありがたく聴こえた。

おかるがその身を売られた後に、勘平が切腹をしたので、おかるはその事情を知らずに遊女として祇園「一力」で働いている。

七段目は、全段の中で、一番面白いかもしれない。
「一力」で放蕩を尽くす由良助の元に敵も味方も彼の本心を探りにくる。容易なことで内心を明かさない駆け引きがまずは面白い。

判官(内匠頭)の妻・顔世御前から由良助宛の密書を、ひょんなことからおかるは盗み見してしまう。それを知った由良助はおかるを身請けしてやるという。喜ぶおかるだが、おかるの兄・足軽の平右衛門は、それを聞いて由良助の仇討ちの決意を読み取り、おかるは密書を見た為に殺されるのだと説く。
驚くおかるに、亭主の勘平は切腹し、父親は殺されたことを伝え、「その命、兄にくれ!その命と引き換えに仇討ちの仲間に入れてもらえるよう嘆願する」と切りかかる。もはや、生きる希望を失ったおかるは兄の望みが叶うならと命を差し出すその刹那、陰で聞いていた由良助が平右衛門の覚悟のほどを知り、刀を納めさせ、平右衛門の仇討ち参加を許す。

と、ざっと書いたが、実際はこの段だけで1時間半もある。
いろんなエピソードがあって見どころ、聴きどころ満載。よくぞ、こんな面白い話を作ったものだと思う。

次回公演は11月だ。これで全段完了。また、行かねばなるまい。


♪2019-113/♪国立文楽劇場-2

2019年5月16日木曜日

国立文楽劇場開場35周年記念 人形浄瑠璃文楽05月公演 通し狂言「妹背山婦女庭訓」第2部

2019-05-16 @国立劇場


通し狂言「妹背山婦女庭訓」
(いもせやまおんなていきん)

●第二部(午後3時45分開演〜午後9時終演予定)
 三段目
  妹山背山の段
   背山:千歳太夫・藤太夫<文字久太夫改>/藤蔵・富助
      妹山:呂勢太夫・織太夫/清助・清治*・清公

 四段目
  杉酒屋の段
   津駒太夫/宗助
      道行恋苧環(みちゆきこいのおだまき)
   芳穂太夫・靖太夫・希太夫・咲寿太夫・
   碩太夫/勝平・清丈・寛太郎・錦吾・燕二郎
      鱶七上使の段
   藤太夫/清馗
      姫戻りの段
   小住太夫/友之助
      金殿の段
   呂太夫/團七
     
人形▶簑紫郎・簑助*・玉助・玉男・和生*・一輔・
   清十郎・勘十郎・分司・玉志・ほか

*人間国宝


第2部は「妹山背山の段」から始まる。話は、序盤で出会った若い久我之助と雛鳥の、両家(の親)が争っているが故に恋を成就できない悲劇の物語だ。どこが「大化の改新」と繋がるのか、これは相当無理がある。しかし、ここでは、そんなことはどうでも良い。最終的にはそれなりに繋がるのだから。

さて、第1部の開幕前に客席に入るとすぐ気がついたことは、太夫・三味線が座る「床」が、今回の公演では2カ所にあるということだ。通常は舞台上手側の客席に張り出している。今回は、下手にも全く同様の「床」が誂えてあった。左右対照に向かい合っているのだ。こんな形を見るのは初めてなので、どういう風に使うのだろうと、疑問に思っていたが、第1部では結局使われなかった。

第2部冒頭の「妹山背山の段」ではその両方の床に太夫と三味線が位置した。舞台上は中央に吉野川が舞台奥から客席側に向かって流れている。川を挟んで下手が妹山側で、こちらに雛鳥が住む太宰の館があり、上手は背山側で、大判事の館には久我之助が住んでいる。互いに顔は見合わすことができるが、川を渡ることは禁じられている。
この2人に、それぞれの家の立場の確執が元で悲劇が生ずる。
それを、左右の床で語り分け、掛け合うのが素晴らしい。
この段の三味線も義太夫も人形も、悲劇的な筋書きも相まって鳥肌ものの緊張が続く。この段だけで休憩なしの約2時間という長丁場。いやはや興奮の連続だ。

ここでは、千歳太夫、藤太夫、呂勢太夫、織太夫の義太夫も人間国宝・鶴澤清治ほかの三味線も迫力満点でゾクゾクしてくる。
人形の方も、吉田簑助・吉田和生と人間国宝が登場し、文楽界の3人しかいない人間国宝が全員、この段に投入されているのだ。この贅沢感は目眩がするほどの興奮をもたらしてくれる。

が、この段が終わると、物語はまた木に竹継いだような運びになる。

藤原鎌足の息子・藤原淡海(求馬)を巡る、彼の政敵・蘇我入鹿の妹・橘姫と酒屋の娘・お三輪の三角関係の話が続き、その過程で女性の守るべき教え=「婦女庭訓」のエピソードがほんの少し登場してタイトルの辻褄を合わせる。
橘姫を追って入鹿の屋敷に入った求馬をお三輪も追いかけたが、彼女にはその屋敷の中で思いもよらぬ運命が待っていた。

全体としてはかなり無理のある継ぎ接ぎだらけの話なのだけど、最終的には藤原勢が入鹿を追い詰めるということで、大化の改新の大筋は保っている。また、継ぎ接ぎを構成するそれぞれの話が、各個独立して面白いので、全体の整合性はともかく、大いに楽しめる。いやはやびっくりするほど楽しめる。

♪2019-065/♪国立劇場-07

2019年2月15日金曜日

人形浄瑠璃文楽平成31年02月公演 第1部

2019-02-15 @国立劇場


第一部
桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)
 石部宿屋の段
     芳穂太夫・亘太夫/
     野澤勝平・野澤錦吾
 六角堂の段
     希太夫・咲寿太夫・
     文字栄太夫/竹澤團吾
 帯屋の段
     前⇒呂勢太夫/鶴澤清治
     切⇒咲太夫/鶴澤燕三
 道行朧の桂川
     織太夫・睦太夫・小住太夫・
     亘太夫・碩太夫/竹澤宗助・
     鶴澤清馗・鶴澤清公・鶴澤燕二郎・
     鶴澤清允

  人形▶豊松清十郎・桐竹紋吉・吉田文昇・
     吉田玉男・吉田勘彌・吉田勘壽・
     吉田玉輝

「桂川連理柵」は「帯屋の段」が有名で、歌舞伎でもここだけ取り出したのを観ているが、今回はその前後も合わせて全4段。

話せば長い物語を端折りまくって記せば…。

帯屋の主人長右衛門(38歳)養子である。帯屋隠居の後妻のおとせ(とその連れ子儀兵衛)は、儀兵衛に店の跡を継がせようという魂胆から長右衛門に何かと辛く当たる。

一方、帯屋の丁稚長吉は隣家の信濃屋の娘お半(14歳)に夢中。お半は長吉など眼中になく、帯屋の跡取り、長右衛門を恋い慕っている。

儀兵衛はお半が長右衛門に宛てた恋文を入手したを幸いに、また、長右衛門が女房お絹の実弟のために密かに用立てた百両が店の金庫から消えていることを発見し、加えて自分たちがくすねた五十両も長右衛門の窃取だと言い長右衛門を責め立てる。
さらに、長右衛門が旅先で、長吉に言い寄られて困っているお半を我が寝所に入れた為に犯した一夜の過ちの結果、お半が妊娠してしまったことや、長吉の悪巧みでお客から預かった宝剣が見当たらなくなったことなどが重なり合い、長右衛門は八方塞がりになる。

そうこうしている間に、お半も、不義の子を宿した以上生きてはゆけないと長右衛門に書き置きを残し桂川に向かう。
もう、死を覚悟していた長右衛門だったが、お半が桂川で入水するということを知って、彼は昔の情死事件を思い起こさずにはおられなかった。
15年前に当時惚れ合った芸妓と桂川で心中しようと誓ったものの自分1人生き残ってしまった長右衛門は、これこそ天の啓示とばかり今度こそ情死を全うせんとお半の後を追うのだった。

…と長いあらすじを書いてしまった。これ以上短くすると、自分で思い出すときに役に立たないだろう。それにせっかく書いたから消さないでおこう。
実際の話はもっと入り組んでいる。

人生のほんのちょっとしたゆき違いが、運悪く重なり繋がることで、人の運命を転がし、それが雪だるまのように膨れ上がってしまうと、もう誰にも止めることはできなくなる。

現在進行形の柵(しがらみ)が、長右衛門にとってコントロール不能にまでがんじがらめに心を縛り尽くした時、ふと蘇る15年前の同じ桂川での心中未遂事件!

長右衛門にとっては、お半と桂川で心中することは、むしろ暗闇の中で見えた曙光なのかもしれない。
また、<14歳のお半>、<15年前の事件>と並べると、お半は芸妓の生まれ変わりか、あるいは芸妓が生んだ長右衛門の子供であったのかもしれない…と観客に余韻を残して幕を閉じるこの哀しい物語にはぐったりと胸を打たれる。

余談ながら、備忘録代わりに書いておこう。
人形を3人で操る場合の主遣い(おもづかい)は黒衣衣装ではなく顔を見せて演ずるのが普通だが、今回「石部宿屋の段」と「六角堂の段」では主遣いも、左遣い、足遣い同様、黒衣衣装だった(今回の公演第2部の「大経師昔暦」の「大経師内の段」も)。
不思議に思って、国立劇場に尋ねたら、極力人形に集中してもらうための演出で、昔から行われているるのだそうだ。黒頭巾をとったら弟子だった、ということはないそうだ。ま、そうでしょ。

余談その2
上方落語「どうらんの幸助」は、大阪の義太夫稽古処で「桂川連理の柵」ー「帯屋の段」のうち、後妻のおとせが長右衛門の嫁をいじめている部分を外から漏れ聞いたどうらんの幸助(喧嘩仲裁を楽しみとしている老人)が、本当の話だと勘違いして、これはほっておけないと、京都柳の馬場・押小路の帯屋に喧嘩納めにゆく、というとんでもない話でヒジョーにおかしい。

♪2019-016/♪国立劇場-03

2018年5月17日木曜日

人形浄瑠璃文楽平成30年5月公演 第1部「本朝廿四孝」/「義経千本桜」

2018-05-17 @国立劇場


本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)
●桔梗原の段
 口 豊竹芳穂太夫/竹澤團吾
 奥 竹本三輪太夫/竹澤團七

●吉田幸助改め五代目吉田玉助襲名披露口上
 桐竹勘十郎・吉田簑助・(吉田幸助改)吉田玉男
 吉田和生・吉田玉男・吉田簑二郎・吉田玉誉・
 吉田玉勢・吉田玉志・吉田玉也・吉田玉輝・吉田玉佳

●景勝下駄の段
 竹本織太夫/鶴澤寛治

<襲名披露狂言>
●勘助住家の段
 前 豊竹呂太夫/鶴澤清介
 後 豊竹呂勢太夫/鶴澤清治

人形役割
 高坂妻唐織⇒吉田簑二郎
 越名妻入江⇒吉田一輔
 慈悲蔵(直江山城之助)⇒吉田玉男
 峰松⇒吉田簑悠
 高坂弾正⇒吉田玉輝
 越名壇上⇒吉田文司
 女房お種⇒吉田和生
 長尾景勝⇒吉田玉也
 横蔵(後に山本勘助)⇒(吉田幸助改)吉田玉男
 勘助の母⇒桐竹勘十郎(勘助住家<前>まで)
     ⇒吉田簑助(勘助住家<後>から) ほか

義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)
●道行初音旅
 静御前⇒豊竹咲太夫
 狐忠信⇒竹本織太夫
 竹本津國太夫・竹本南都太夫・豊竹咲寿太夫・
 竹本小住太夫・豊竹亘太夫・竹本碩太夫
 竹本文字太夫
 鶴澤燕三・竹澤宗助・鶴澤清志郎・鶴澤清馗・
 鶴澤清丈・鶴澤友之助・鶴澤清公・鶴澤清胤・
 鶴澤燕二郎

人形役割
 静御前⇒豊松清十郎
 狐忠信⇒桐竹勘十郎

吉田幸助という人形遣いはこれまでも何度か見ているが、顔と名前が一致しない。何しろ、人形使いはほぼ90%?が吉田某で残りの多くが桐竹某で、わずかに豊松という名がある。これは太夫、三味線でも同じ傾向だから姓・名を覚えるのは容易ではない。ついでに言えば、太夫は全員が○○太夫という名前で、かつ、その読み方が「○○だゆう」の場合と「○○たゆう」の場合があるので、ほとんどお手上げだ。

その幸助が五代目*玉助を襲名するというので5月文楽公演の第1部に披露口上が行われ、メインの演目である「本朝廿四孝」のうち「勘助住家の段」で横蔵(後の山本勘助)を遣った。

「本朝廿四孝」は全五段の大作で、今回はその三段目(山本勘助誕生の筋)が演じられた。

どんな話か、あらすじさえ書くこと能わず。
何しろ複雑な伏線が絡み合って、壮大な(武田信玄と上杉謙信)軍記を彷彿とさせる物語だ。

観ているときはそれなりの理解ができるのだけど、徐々に登場人物が多くなり、何某…実はナントカであった、というようなよくある話が一層話を複雑にして、とうとう消化不良のまま終わってしまった。
これは二度三度観なければ合点が行かないだろう。

襲名口上は、桐竹勘十郎、吉田簑助、吉田和生、吉田玉男、吉田蓑次郎など錚々たる布陣だった。
また、襲名狂言では人形を簑助、和生、玉男、勘十郎が、三味線を鶴澤清介、清治が、語りを呂太夫、ロ勢太夫といったベテランが参加して花を添えた。

「義経千本桜〜道行初音旅」は、歌舞伎では当たり前のように観る所作事(舞踊劇)で、これを文楽で観るのは初めてだった。
歌舞伎では(主に)長唄連中が舞台の後ろに大勢並んで踊りの伴奏をするが、文楽でも同様だった。
桜満開の吉野山を描いた背景の前に、前列に三味線が9人、後列に太夫が9人整列した様は見事だ。
人形は静御前(豊松清十郎)と狐忠信(桐竹勘十郎)だけだが、勘十郎は早変わりで忠信と狐を演ずる。

襲名披露とは直接関係のない出し物だけど、見事に美しい華やかな舞台だった。

♪2018-055/♪国立劇場-07

*幸助の父・玉幸は四代目玉助を襲名する前に亡くなったので、今回、四代目が父に追贈され、幸助が五代目を襲名した。

2018年2月19日月曜日

人形浄瑠璃文楽平成30年2月公演 第2部「花競四季寿」、「八代目竹本綱太夫五十回忌追善/豊竹咲甫太夫改め六代目竹本織太夫襲名披露 口上」、「追善・襲名披露狂言 摂州合邦辻」

2018-02-19 @国立劇場


●花競四季寿(はなくらべしきのことぶき)
 〜万才・鷺娘
  豊竹睦太夫
  竹本津國太夫
  竹本小住太夫
  竹本碩太夫
  野澤喜一朗
  鶴澤清丈
  鶴澤寛太郎
  鶴澤清公
  鶴澤燕二郎
 ◎人形
  吉田玉勢⇒太夫
  桐竹紋臣⇒才蔵
  吉田文昇⇒鷺娘 

●八代目竹本綱太夫五十回忌追善/豊竹咲甫太夫改め六代目竹本織太夫襲名披露 口上
 豊竹咲太夫
 竹本織太夫

●追善・襲名披露狂言
 摂州合邦辻(せっしゅうがっぽうがつじ)
 〜合邦住家の段
中 竹本南都太夫
  鶴澤清馗
切 豊竹咲太夫*
  鶴澤清治**
後 竹本織太夫
  鶴澤燕三
 ◎人形
  吉田和生⇒合邦道心**
  桐竹勘壽⇒合邦女房
  桐竹勘十郎⇒玉手御前
  吉田玉佳⇒奴入平
  吉田簑二郎⇒浅香姫
  吉田一輔⇒高安俊徳丸
          ほか(**は人間国宝。*は切場語り)

今月の国立劇場文楽公演は全3部制で、そのうち第2部が八代目竹本綱太夫五十回忌追善/豊竹咲甫太夫改め六代目竹本織太夫襲名披露 口上を含む記念の公演で、綱太夫追善と新・竹本織太夫の襲名披露の演目は「摂州合邦辻」〜合邦住家の段だ。
これだけだと短いし、祝いごとなので、「花競四季寿」から春と冬の場が演じられた。

「摂州合邦辻」は歌舞伎では観たことがある。お家騒動を軸に、義理の関係とはいえ母(玉手御前)が息子(俊徳丸)に恋をするというとんでもない設定だ。それも、義理の息子に毒を飲ませて面体を醜く崩し、彼の許嫁には結婚を思いとどまらせようとする。この女難を避けて出奔した俊徳丸を玉手御前はさらに追いかけて私と一緒になろうと詰め寄る。とはなんという無茶苦茶な話か、と思いきや、ちゃんと筋が通るようにできてはいるものの、そんなバカな、という類の話だ。

見方によっては、これも一つの愛の形なのかもしれないが、なかなか共感はしにくい。


さて、この演目は織太夫夫の襲名披露ということもあってか、強力な、あるいは身内のスタッフが揃った。
中で三味線を弾いた鶴澤清馗は織太夫の弟だ。
切場を担当したのは目下、唯一の切り場語りで太夫最高格の咲太夫が語った。その三味線を弾いたのは人間国宝であり織太夫の伯父に当たる鶴澤清治だ。
また、人形では合邦を人間国宝・吉田和生が遣った。
つまり太夫・三味線・人形の各分野の最高格が部分的にせよ勤めたのだ。贅沢なものであった。

咲甫太夫の頃からよく通る声と豊かな感情表現が見事で、大いに楽しみな新・織太夫だが、この出し物は元々八代目綱太夫の得意狂言だったようで、それで追善の演目として選ばれたらしいが、織太夫の面目躍如とまではゆかなかったような気がした。もっと、派手な語りこそ彼にはよく似合うのではないか。
しかし、今後も非常に楽しみな太夫の一人であることには違いない。初めて咲甫太夫を聴いたのは「仮名手本忠臣蔵」の九段目、出床で妹・お軽と兄・平右衛門の凄惨な絡みの場の迫力に圧倒されたものだ。また、ああいうすごい義太夫を是非とも聴いてみたい。

♪2018-021/♪国立劇場-03

2017年9月4日月曜日

人形浄瑠璃文楽平成29年9月公演 第一部「生写朝顔話」

2017-09-04 @国立劇場


●生写朝顔話(しょううつしあさがおばなし)
 宇治川蛍狩りの段
 明石浦船別れの段
 浜松小屋の段
 嶋田宿笑い薬の段
 宿屋の段
 大井川の段

豊竹咲太夫
竹本津駒太夫
豊竹呂勢太夫
鶴澤寛治
鶴澤清治
吉田簑助
吉田和生
吉田玉男
桐竹勘壽
桐竹勘十郎
 ほか

オリジナルは全五段構成らしいが、今日演じられたのは全六段だ。尤もこの場合の「段」は「幕」とか「場」の意味も兼ねているらしい。なので、六段合わせてもオリジナルには不足の場があるようだが詳しいことは分からない。
今回はヒロインである「深雪(盲いて後に「朝顔」)」を中心に構成したと解説してあったが、初見にもかかわらず、そのお陰で実に分かりやすく、また、どの段も趣向は異なるがそれぞれに面白い。文楽を初めて観る人でも十分楽しめるだろう。

武家の娘、深雪は16~7歳。美しいだけでなく詩歌管弦の嗜みもある。
宇治川の船遊びで酔客に狼藉されかかった折、近くで蛍狩りをしていた若い武士阿曾次郎に助けられるが、そこで互いは惚れあってしまう。
中でも深雪のぞっこんぶりが武家の娘としては不自然なくらいはしたなくさえあるのだけど、このような強力なキャラクター設定こそが、その後の激変のドラマを引っ張るエネルギーになっていることにやがて納得できる。
納得できるということは既に観客が彼女に感情移入できているということであり、その健気さ、いじらしさに哀れを誘われ、時に胸に迫るものがある。

やむをえず、離ればなれに出立した阿曾次郎と深雪は、偶然互いに異なる船旅同士で再び出会うが、喜びもつかの間、嵐が2人を隔ててしまう。
それでも、深雪は阿曾次郎に会いたさ一途に大胆にも家出して1人で阿曾次郎を追うが、か細い若い娘のひとり旅の苦労と悲痛が深雪の視力を奪うことになる。

瞽女となった深雪は嶋田の宿で朝顔と名乗り、泊まり客の求めに応じて三味線や琴を聴かせて生業としていた。そこに偶然宿をとった阿曾次郎は、部屋の衝立に宇治川で別れる際に深雪に与えた扇に記した朝顔の歌が貼り付けてあるのを見てもしやと思い、宿の亭主・徳右衛門に質して「朝顔」と言う名の瞽女を座敷に呼び琴を所望した。
阿曾次郎は既に駒澤家の家督を継いで駒澤次郎左衛門と改名をしており、朝顔にはその名で紹介される。朝顔に探し求めていた次郎左衛門(阿曾次郎)の顔は見えない。

阿曾次郎は、やつれたとはいえ朝顔のその顔、声、音曲にこと寄せる一途な恋心から、朝顔こそ深雪に相違なしと思うが、同僚の岩代(しかも、お家転覆を狙う悪党)の手前もあって、深く尋ねることができずまたもその場で別れざるを得なかった。

一方、深雪の方も、かの人こそ阿曾次郎様ではないかとの胸騒ぎから、再び、宿を訪れるが、時既に遅し。阿曾次郎一行は出立した後だった。

深雪は、髪振り乱し、裾の乱れもなんのその大井川の渡しまで、やっとの思いでたどり着いたが、嵐のために阿曾次郎を追うための次の船が出ない。

こうして、なんどか、再会、名乗り合う機会がありながらもことごとく果たせない運命に、遂に深雪は死を決するが、ここにきてようやくかつての部下や事情を知った徳右衛門らによって助けられ、ようように、文字どおり明るい展望が開けるのだった。

若い娘の一途な恋物語である。すれ違いの悲恋物語である。
あり得ないような激しい恋の物語だが、最初に書いたように、その健気さには心打たれてしまう。

ところで、この話には、「嶋田宿笑い薬の段」という変わった名前のエピソードが挟まれる。
所謂「チャリ場」で、滑稽なシーンだ。
阿曾次郎を亡き者にしようと企んでいる岩代は仲間の藪医者、萩の祐仙と図って、お茶と称して痺れ薬を飲ませようとするが、徳右衛門の機転で祐仙自らが笑い薬を飲んでしまい、笑い転げて計画は破綻する。

この場面で祐仙の人形を遣うのが桐竹勘十郎だ。
祐仙が茶を点てる作法は多少は省略してあるようだが、ほとんどホンモノのお点前どおり。自分では阿曾次郎に飲ませる痺れ薬のつもりだが、本当は笑い薬を点てているとはつゆ知らず、生真面目に茶を点てる仕草のおかしいこと。この場をいかついマスクの桐竹勘十郎が演ずるから余計におかしい。

そして、毒味だと言って自らは痺れ薬用の解毒剤をこっそり飲んでから痺れ薬(実は笑い薬)を飲んだものだから、もう、笑いが止まらず、苦しくて、七転八倒のありさま。観客も大いに笑う。
この段の語りは太夫最高格の咲太夫だった。
もちろんうまい。
しかし、こういうおかしな場面ではむしろ、咲甫太夫とか千歳太夫で聴きたかったな。

どの場面もホンに面白い。
浜松小屋の段では、畏れ多くも人間国宝3人(鶴澤清治・吉田簑助・吉田和生)の共演を楽しむことができる。

実に充実した文楽鑑賞であった。

♪2017-143/♪国立劇場-13