2018-06-11 @国立劇場
解説 歌舞伎のみかた
坂東巳之助
河竹黙阿弥=作
連獅子 長唄囃子連中
狂言師右近後に親獅子の精⇒ 中村又五郎
狂言師左近後に仔獅子の精⇒ 中村歌昇
浄土の僧遍念⇒ 中村隼人
法華の僧蓮念⇒ 中村福之助
今月の鑑賞教室は珍しく舞踊劇「連獅子」。又五郎・歌昇実の親子が獅子の親子を舞った。口跡の良い又五郎の台詞が聴けないのは寂しいなと思っていたけど、今回は舞踊劇=所作事の中でも舞台、衣装も派手で、踊りもアクロバティックなものだけに普段は苦手に思っているジャンルだけどあらたな面白さを発見できたように思う。
大きく3つの部分に分かれるが、最初は2人の狂言師が親子の獅子の「子落とし」の伝説を語らい(舞踊のみで発声はしない。)、自らが獅子の親子に化身してその物語を演ずる。
中間部に文字通りの「狂言」が多少歌舞伎化されて登場するが、僧侶が2人。ともに道不案内な旅の途中で知り合って、心強く思っていたが、話をしてみると互いに宗門が異なる。1人は浄土宗で念仏を唱える。もう1人は日蓮宗で題目を唱える。そこで、互いが自分の宗門こそ正しい道だお譲らず宗論が始まるが、互いに念仏と題目を耳うるさく唱え合うばかりで実におかしい。
今は昔のことだけど、能狂言に夢中になっていた時期があってずいぶん能楽堂に通った。それで、今日は本当にずいぶんの久しぶりで「狂言」を楽しめたのも収穫の一つ。隼人と福之助が演じた。まだ芸に不足は感ずるけど、こうやって、芸域を広げて歌舞伎役者としてうまくなってゆくのだろう。
その「狂言」を挟んで第3部に当たるのが、白毛の親獅子の精と赤毛の仔獅子の精だ。
松羽目を背景に真っ赤なひな壇の上下に三味線・太鼓・笛などの長唄連中が20名ほど。その音楽に乗せて長い毛を振り乱し舞い遊ぶ。実の親子が演じていると思うと、舞によって演じられる親子の情愛がしみじみと伝わるとともに、徐々に激しくなる音楽と乱舞にしばし陶酔の感があった。
恒例、歌舞伎解説の巳之助も慣れたもので、今回は演目に合わせて歌舞伎の「舞」を中心に説明してくれたが、大いに可笑しくて為になった。
♪2018-068/♪国立劇場-09
2016年8月16日火曜日
八月納涼歌舞伎 第一部
2016-08-16 @歌舞伎座
近松門左衛門 作
武智鉄二 補綴
一 嫗山姥(こもちやまんば)
岩倉大納言兼冬公館の場
荻野屋八重桐⇒扇雀
太田太郎⇒巳之助
局藤浪⇒歌女之丞
沢瀉姫⇒新悟
煙草屋源七実は坂田蔵人時行⇒橋之助
岡本綺堂 作
大場正昭 演出
二 権三と助十(ごんざとすけじゅう)
権三⇒獅童
助十⇒染五郎
権三女房おかん⇒七之助
助八⇒巳之助
小間物屋彦三郎⇒壱太郎
猿廻し与助⇒宗之助
左官屋勘太郎⇒亀蔵
石子伴作⇒秀調
家主六郎兵衛⇒彌十郎
2本とも初見。
「嫗山姥」は怪奇伝の類だろうか。
橋之助がその名前で出演する最後の舞台だが、それにしては甲斐性のない男の役(煙草屋源七実は坂田蔵人時行)だったな。
再会した女房八重桐(扇雀)から親の敵討ちや主家の難儀などを聞かされ、女房、妹や主君の苦労にひきかえ自分は源七と名を変え郭通いで身を持ち崩した不甲斐なさを恥じて切腹するが、その際に八重桐の胎内には時行の魂が宿り(将来坂田金時を産むことになる。)、そのため怪力の持ち主になって、悪党を蹴散らす~という話。
浄瑠璃(竹本)に合わせた長セリフが聴かせどころらしいが、あまり良く分からなかった。
元は傾城であった八重桐が神通力を得て変身するところが見どころで、これは衣装の早変わり(引き抜き?)もあっていかにも歌舞伎らしい。
「権三と助十」は江戸時代の長屋が舞台で繰り広げられる人情話であり、大岡裁きの話でもある。
まずは、この長屋の舞台装置がよく出来ていて、江戸時代の長屋はこういうものだったのか、と思わせる。猿回しや駕籠かき、小間物売りに女房たちが江戸の風情をよく表している。
染五郎(助十)と獅童(権三)もいかにもの江戸っ子ぶりで面白い。
話も良く出来ていて、セリフも現代劇風なので聴き取りやすい。
権三の女房おかんを演じた七之助が小粋な女っぷりでうまいなと思った。
♪2016-114/♪歌舞伎座-05
2014年4月10日木曜日
歌舞伎座新開場一周年記念 鳳凰祭四月大歌舞伎
2014-04-10 @歌舞伎座
一 壽春鳳凰祭(いわうはるこびきのにぎわい)
女御: 時蔵/女御:扇雀/大臣:橋之助/大臣:錦之助/女御:梅 枝
ほか
二 鎌倉三代記(かまくらさんだいき)
絹川村閑居の場
佐々木高綱:幸四郎/時姫:魁春/母長門:歌江/おくる:
歌女之丞
ほか
三 壽靱猿(ことぶきうつぼざる)
鳴滝八幡宮の場
猿曳寿太夫:三津五郎
奴橘平:巳之助
女大名三芳野:又五郎
ほか
坂田藤十郎一世一代にてお初相勤め申し候
四 曾根崎心中(そねざきしんじゅう)
お初:藤十郎/平野屋徳兵衛:翫雀/油屋九平次:橋之助/天満屋惣兵衛:東蔵/平野屋久右衛門:左團次
ほか
チケット購入時には知らなかったけど、2週間ほど前だったか、NHK-TVの9時のニュースで藤十郎の「曾根崎心中」が取り上げられていたが、それは藤十郎が今回の舞台を以って「お初」の役から降りるということだった。
それで演目に「一世一代」が冠されたそうだ。
82歳というが、色艶もよく言語も明瞭で、もっと続けられそうな気もするし、現に鑑賞後もそう思っているけど、素人が思っているほど楽な役ではなさそうだ。
藤十郎が扇雀の時代に復活初演し、60年を超えて演じ続けてきたいわば「家」の芸というより「自分」の芸だ。
初めて観る僕にとっても一世一代の「曾根崎心中」になった。
ニュース番組でも紹介されていたが、女形(お初)が立役(徳兵衛)の手をとって花道を行く場面(このような形は従来の歌舞伎ではありえなかった演出だそうだ。)や、天満屋の縁に腰掛けて煙草を吸いながら(平静を装いつつ)、縁の下に隠した徳兵衛との間で、片足で互いに心中の覚悟を伝え合う場面など、なるほど印象深い名場面だ。人間国宝藤十郎の最後の「お初」を観られたことはまことに幸運だった。
三津五郎(「武士の一分」!)が病気入院後久しぶりに舞台に立つというのも話題となっていたが、「壽靱猿」の面白いこと。
元は狂言「靱猿」らしいが、大名の内儀が奴を連れて神社に代参し、そこに迷い込んできた小猿<子役>を見つけ、ちょうど靭(矢の入れ物)の皮に好都合と弓で射ち殺そうとする。
そこに小猿を探していた主人(猿まわし芸人<三津五郎>)が現れ、「おやめください」と懇願するも、内儀は聞く耳持たず。
諦めざるをえない主人は、ならば、弓で射抜いては皮に傷がつくし、自分の手で殺したいと願い、その了解を得る。
主人は何にも事情が飲み込めていない小猿に因果を含めて説明し、自ら殺そうとするが、主人のそうした行為が、芸を求められていると勘違いする小猿が必死の芸を見せる。
あまりに無邪気な様子にさすがの内儀も同情し靭にすることを諦める、という話だけど、この小猿が実に可愛らしくてあどけなくて、小さい体で、短い足を投げ出して見得を切るのもいとおかし。
「壽春鳳凰祭」では長唄、「鎌倉三代記」、「曾根崎心中」では浄瑠璃、「壽靭猿」では常磐津と、伴奏音楽?の聴き比べが勉強になった。
♪2014-28/♪歌舞伎座-02