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2017年9月7日木曜日

秀山祭九月大歌舞伎 昼の部

2017-09-07 @歌舞伎座


一、彦山権現誓助剱(ひこさんごんげんちかいのすけだち)
毛谷村(けやむら)
毛谷村六助⇒染五郎
お園⇒菊之助
杣斧右衛門⇒吉之丞
お幸⇒吉弥
微塵弾正実は京極内匠⇒又五郎

仮名手本忠臣蔵
二、道行旅路の嫁入(みちゆきたびじのよめいり)
戸無瀬⇒藤十郎
小浪⇒壱太郎
奴可内⇒隼人

三、極付 幡随長兵衛(きわめつき ばんずいちょうべえ)
「公平法問諍」
幡随院長兵衛⇒吉右衛門

水野十郎左衛門⇒染五郎
近藤登之助⇒錦之助
子分極楽十三⇒松江
同 雷重五郎⇒亀鶴
同 神田弥吉⇒歌昇
同 小仏小平⇒種之助
御台柏の前⇒米吉
伊予守頼義⇒児太郎
坂田金左衛門⇒吉之丞
慢容上人⇒橘三郎
渡辺綱九郎⇒錦吾
坂田公平/出尻清兵衛⇒又五郎
唐犬権兵衛⇒歌六
長兵衛女房お時⇒魁春

毛谷村も幡随長兵衛も、既に何度も観ているので、どうしても以前の公演との比較で観てしまいがちだ。
菊五郎ー時蔵、仁左衛門ー孝太郎と比べると、今回の染五郎ー菊の助は味わいが乏しい。前2者が人間国宝のベテランであったのに対し、今回はまだ中堅なので、先入観もあるだろうけど、ちょいと軽い気がした。
染五郎の方は、滑稽味もあってそれなりの六助になっているけど、菊之助が硬い。
臼を振り回したり、尺八と火吹き竹を間違うところなど、ここで笑いたいというところでなかなか笑えない。
男勝りからしおらしい世話女房への変化も、何か、型どおりやっていますという感じだったな。

幡随長兵衛は前回が昨年の芝翫襲名だった。
新・芝翫の長兵衛もスッキリとして気持ちよく観れたが、やはり、こちらも吉右衛門の貫禄にはかなわないか。ただ、いつも思うに、子分たちの芝居が平板なので、長兵衛の重い決断がどうも軽く見えてしまう。

吉右衛門は、さすがに序幕で客席から登壇するとにわかに舞台が引き締まる。
ただ、ちょいと年齢的にはキツイ。本物の長兵衛は35、6歳で殺されているらしい。倍以上の歳の長兵衛なら「人は一代、名は末代」などと威勢の良い啖呵を切って殺されにはゆかなかったのではないか。この向こう見ずな意地っ張りぶりに関しては、芝翫の長兵衛が似合っていた。


ところで、序幕で芝居の邪魔をする水野の手勢の相手をして奮闘するのが舞台番の新吉。この役を演じているのが中村吉兵衛という役者で、僕は多分初めて観たと思う。口跡はいいし、顔つきが吉右衛門に良く似ているので、彼の血統かと思って調べたら、門下ではあるけど、他人で、国立劇場の12期研修修了生だそうだ。もう43歳で若いとはいえないけど、ちょっと、見どころのある役者だな、と感じた次第。

染五郎が敵役の水野を演じたが、ここではやはり貫禄負け。

なんか、今年の秀山祭・昼の部はミスキャストが多いな。本人のせいではなくて、文字どおり「配役」で損をしている。

♪2017-145/♪歌舞伎座-05

2017年8月16日水曜日

八月納涼歌舞伎 第一部

2017-08-16 @歌舞伎座


長谷川 伸 作
坂東玉三郎・石川耕士 演出
一刺青奇偶(いれずみちょうはん)二幕五場
半太郎⇒中車
お仲⇒七之助
赤っぱの猪太郎⇒亀鶴
従弟太郎吉⇒萬太郎
半太郎母おさく⇒梅花
半太郎父喜兵衛⇒錦吾
荒木田の熊介⇒猿弥
鮫の政五郎⇒染五郎

二 上 玉兎(たまうさぎ)
  下 団子売(だんごうり)
〈玉兎〉
玉兎⇒勘太郎
〈団子売〉
お福⇒猿之助
杵造⇒勘九郎

8月の歌舞伎座は1日に3部公演だ。それなら、もっと安くできないか、と思うが、役者をこき使って、狭い場所に大勢の観客を閉じ込めて、2部公演のときとさほど料金は変わらない。松竹の商魂がミエミエな感じで役者にはすまないけど、歌舞伎座での歌舞伎公演はなかなか好きになれない。国立でゆったりと大人の歌舞伎をリーズナブルな値段で観るのが好き。

とは言え、この月は国立の歌舞伎公演はないから、毎年納涼歌舞伎に行くことになる。3部構成の中で、一番興味を持ったのが第一部の「刺青奇偶」。泣かせてくれそうな江戸の粋な人情噺。これを玉三郎の共同演出、中車、七之助、染五郎の主演で演るというから楽しみだった。

博打さえしなければ良い男だが、ヤクザな稼業から足を洗えないでいる半太郎が、ふとした縁で川に身投げした酌婦のお仲を助けた。人生に疲れていたお仲は初めて男の真情に触れ、2人は相身互いの貧乏だが幸せな暮らしを送っていたが、無理が祟ってお仲は不治の病に。なんとか助けたいと思う半太郎は賭場に因縁つけてお金にありつこうとして半殺しで叩き出されるが、そこに土地の親分政五郎が半太郎の事情を聞き、その男気に惚れて子分にしてやろうというが、半太郎は断る。そこで政五郎、自分の有り金全部を賭けて丁半で勝負しようと持ちかけ、応じた半太郎が勝利する…のは偶然なのか政五郎の情けが通じたのか。
思ってもみなかった大金を手にした半太郎は、喜び勇んで臥せているお仲の元へと急ぎ足。…この先は描かれないが、愁嘆場が待っているのは想像に難くない。

隣のご婦人は途中からもうグズグズに崩れまくっていたが、それほどの噺かな。

いくつも不満を感じた。

まずは、舞台が暗い。客席も真っ暗だ。いくら夜の情景としても暗すぎる。その一幕の間に暗転が2回。大道具を作り変えるために仕方がないとは言え、三場とも暗くて役者の顔もよく見えない。すると不思議な事にセリフも聞き取りづらい。

第二幕で話は暗いままだが、舞台はようやく少し明るくなってこれで初めて生の舞台を見る中車の顔がはっきり見えた。
暗いのが長いと気鬱になる。

そもそも、これは歌舞伎なのか、という疑問も湧いてくる。三味線・浄瑠璃はなし。台詞回しも新劇のようで、つまりは前進座の芝居のような感じを受けたが、前進座も歌舞伎なのかも。少なくとも歌舞伎座で歌舞伎役者が演じたら歌舞伎なんだろうな。

一幕三場と二幕二場に、半太郎を探し訪ねて母親と甥、母親と父親がやってくるが、二度とも半太郎とは会えない。絡みがないのなら何のために登場させているのか分からない。
原作どおりなのだろうが、彼らの出番はカットしたほうがスッキリする。

な、次第で、期待は裏切られてしまった。

二つ目の演目、玉兎はホンのご愛嬌。
団子売りは、前に仁左衛門、孝太郎で観たが、今回の勘九郎、猿之助の方が陽気な感じで良かったかな。

♪2017-140/♪歌舞伎座-04

2017年4月10日月曜日

四月大歌舞伎@歌舞伎座

2017-04-10 @歌舞伎座


近松門左衛門 作
一、傾城反魂香(けいせいはんごんこう)
土佐将監閑居の場
浮世又平後に土佐又平光起⇒吉右衛門
女房おとく⇒菊之助
狩野雅楽之助⇒又五郎
土佐修理之助⇒錦之助
土佐将監⇒歌六
将監北の方⇒東蔵

二、桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)
帯屋
帯屋長右衛門⇒藤十郎
信濃屋娘お半/丁稚長吉⇒壱太郎
義母おとせ⇒吉弥
隠居繁斎⇒寿治郎
弟儀兵衛⇒染五郎
長右衛門女房お絹⇒扇雀

三代猿之助四十八撰の内
三、奴道成寺(やっこどうじょうじ)
白拍子花子実は狂言師左近⇒猿之助
所化⇒尾上右近
同⇒種之助
同⇒米吉
同⇒隼人
同⇒男寅
同⇒龍生(初舞台)

「桂川連理柵」を楽しみにしていたが、結果的には「傾城反魂香」の出来が良くて大いに楽しめた。
絵師又平を演ずる吉右衛門が飄々としておかしい。さりとて軽いのでもなく自然体というのだろうか。演技に筋が通っている様は素人目にも明らかだ。名人というのはこういうのを言うのかと思った。
吃音の又平に代わり女房のおとく(菊之助)が口達者という設定だ。前半は初役のためか、もう少しくだけた明るさがほしいと思ったが、膨大な長台詞を滑舌良くこなして、こちらも巧いものだと感心した。
歌舞伎らしい華やかさは無縁。物語としての面白みにも欠けるが、久しぶりに「芸」を味わう逸品だった。

「桂川連理柵」*は、物語が興味深い。実話に基づくそうだ。あらすじ以下の如し。
帯屋の養子として店を継いだ長右衛門(藤十郎)は、義理の母(吉弥)と義理の弟儀兵衛(染五郎)の悪辣な罠に嵌められる。お金や宝剣の不始末はともかくとして、長右衛門は言い訳できない失敗をした。隣の商家の娘お半(壱太郎)と旅先で情を通じたことがお半から「長さま」に宛てた手紙を盗んだ義理の母子によって追求されることになる。これを賢い女房お絹(扇雀)の機転で「長さま」というのはお半の店の丁稚長吉(壱太郎二役)だと言い、儀兵衛らによって呼び出され詰問される長吉もお絹の目配せや自分の見栄もあって「長さま」はおいらのことだ言い張ることでなんとか切り抜けることはできた。
養父繁斎(寿治郎)もお絹も良くできた人物で、当面の問題は解決できやれやれというところ。
しかし、その夜、お半は密かに寝込んでいた長右衛門を訪ね、死ぬつもりの置き手紙を残して桂川に向かう。それを知った長右衛門も心を決めて後を追う。

芝居としての興味は、85歳の藤十郎が26歳の孫・壱太郎と恋仲を演ずるのが果たしてどんなものか、というところだった。
実話では長右衛門38歳、お半14歳(数え歳!)で、芝居の設定も親子ほど歳が離れているということのようだが、そういう説明があったかどうだか記憶も怪しいが、ともかく、藤十郎と壱太郎が親子どころか祖父と孫という年齢の差が見たとおりなので、非常識なほどの歳の差の男女関係であることには違いない。
そういう男女の機微を藤十郎はお手のものとしても壱太郎にそのお相手が勤まるのだろうかという疑問があった。
ところが、壱太郎は、まずは丁稚の洟垂れ小僧・長吉として登場し、儀兵衛役の染五郎との掛け合いの面白さで、まことに嵌り役だと思わせてくれる。そして愈々終盤に至ってお半として登場すると、洟垂れの悪ガキとのあまりの落差に、これまたピタリと嵌まる。藤十郎との絡みも不自然さはなく、あれれこんなに巧い役者だったのかと認識を新たにした。むしろ、藤十郎の声量が弱々しくて聞き辛かったのが残念だ。

思いのほかと言えば、意地悪い儀兵衛を演じた染五郎のおかしいこと、いや、巧いことにもびっくりだ。上方訛も自然に操っていやはや人気だけでなく実力もあるんだと改めて感じ入ったり。

帰宅後、手持ちのCDで桂枝雀の「胴乱の幸助」を聴く。ああ、この話だったのかと大いに得心した。

「奴道成寺」は、舞台に登場する役者の数は多いが、実質的には猿之助の一人舞台。常磐津、長唄を伴奏にした舞踊劇だ。華やかなものだったが、この面白さを味わうには僕の素養が大いに不足している。

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*オリジナルである人形浄瑠璃(文楽)では全5段構成だが、完全通して演じられるのかどうか不知。歌舞伎では現在ではその最後の「帯屋」の段しか演じられなくなったようだ。なので、宝剣政宗を盗んだ犯人やお半から長右衛門宛の手紙をどうして儀兵衛が入手したのかなどは説明されないし、お半が一夜の契りであったにも関わらず妊娠していることも、なぜ旅先で長右衛門と深い仲になったのかも、長右衛門がお半の後を追って桂川に行く因縁話も説明されない。
全段の話は実に面白く良くできているように思うが「帯屋」だけではその面白さが伝わらないのは実に残念だ。

♪2017-055/♪歌舞伎座-02

2016年9月5日月曜日

秀山祭九月大歌舞伎 昼の部

2016-09-05 @歌舞伎座


右田寅彦 作
松岡 亮 補綴
一 碁盤忠信(ごばんただのぶ)
佐藤忠信⇒染五郎
塩梅よしのお勘実は呉羽の内侍⇒菊之助
右平太⇒歌昇
左源次⇒萬太郎
万寿姫⇒新悟
三郎吾⇒隼人
小車の霊⇒児太郎
浮橋⇒宗之助
壬生の小猿⇒桂三
摺針太郎⇒由次郎
宇都宮弾正⇒亀鶴
江間義時⇒松江
番場の忠太⇒亀蔵
横川覚範⇒松緑
小柴入道浄雲⇒歌六

岡村柿紅 作
二 太刀盗人(たちぬすびと)
すっぱの九郎兵衛⇒又五郎
田舎者万兵衛⇒錦之助
従者藤内⇒種之助
目代丁字左衛門⇒彌十郎
 
三 一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)
檜垣/奥殿/三代目中村吉之丞襲名披露
一條大蔵長成⇒吉右衛門
吉岡鬼次郎⇒菊之助
お京⇒梅枝
八剣勘解由⇒吉之助改め吉之丞
鳴瀬⇒京妙
茶亭与一⇒橘三郎
常盤御前⇒魁春


3作の内前2作は初めてだったが、いずれもよくできていて、それぞれに異なる歌舞伎の味わいを楽しめた。

「碁盤忠信」は「碁盤」が付くからといって忠臣蔵のスピンオフ「碁盤太平記」とは全然関係がない。しかしここに登場する「忠信」は「義経千本桜」の忠信と同一人物らしいが、「義経~」では狐として登場するので、両者の関係は分からない。まあ、別々に歴史上の人物をヒントに面白おかしく作り上げた物語だろうから、首尾一貫していなくとも問題では無いのだろう。

ま、ともかく、やたら碁盤を持って暴れるのだが、その様(荒事)が見どころで、実に歌舞伎の一つの典型を見る思いだ。

染五郎、菊之助、松緑という人気役者が揃うのだけど、あいにく、松緑の出番があまりに少ないのが残念だった。

「太刀盗人」は狂言を移し替えたもので、ほぼ、狂言そのものと言ってよい。
大勢の人で賑わう都に出てきた田舎者の万兵衛(錦之助)が持っていた刀をスリの九郎兵衛(又五郎)が市中の雑踏(…と言っても舞台には2人しか登場しないのも狂言の形を踏襲している。)の中で奪おうとする。盗られまいと刀を離さない万兵衛との間で、口論が始まり、変事を聞いてお役人(彌十郎)が駆けつけ、一体どちらに所有権があるのかの詮議始める。やがて泥棒の方は役人の追及に耐えかねてとうとう逃げ出す。「やるまいぞ、やるまいぞ」と追う役人と万兵衛。まさしく狂言仕立てのおかしさ。

「一條大蔵譚」は4年近く前に国立劇場で同じ吉右衛門の一条大蔵卿(と鬼一法眼の2役)主演で「鬼一法眼三略巻」清盛館・菊畑・檜垣・奥殿の構成で見たことがあり、2年前の秀山祭では菊畑を観ている(この時の鬼一法眼は歌六)が、どうも、話として各段の連携は密でなく(だからこそ、それぞれ独立して上演されるのだろうが)、なかなか頭に入ってこない。
ま、源氏再興のために阿呆のふりをしている一条大蔵卿が、ここぞという場面で正気を表し悪党を成敗するというまあ格好いい話だ。吉右衛門にとっては家の芸だそうで、身のこなし、セリフ回しの使い分けが面白い。
ふりをしている、のは大蔵卿だけではなくその妻常盤御前(魁春)も源氏への思いも忘れ揚げ弓に興じてばかりで、様子を見に来たかつての家来筋に当たる鬼次郎夫婦(菊之助・梅枝)は呆れ果てて弓を取り上げ打擲する始末。実は、これも世を忍ぶ仮の姿という訳でその後に常盤御前の長台詞で真実が明らかにされる。
話の流れは、このことがあってから、大蔵卿の阿呆ぶりも仮の姿であることが明らかになるので(観客は既にこの話の筋書きを知っているから驚きもしないが)、鬼次郎夫婦は大いにびっくりしただろうと、ちょいとおかしくなってしまう。
面白ければなんでもありだ。

♪2016-118/♪歌舞伎座-06

2016年8月16日火曜日

八月納涼歌舞伎 第一部

2016-08-16 @歌舞伎座


近松門左衛門 作
武智鉄二 補綴
一 嫗山姥(こもちやまんば)
岩倉大納言兼冬公館の場
荻野屋八重桐⇒扇雀
太田太郎⇒巳之助
局藤浪⇒歌女之丞
沢瀉姫⇒新悟
煙草屋源七実は坂田蔵人時行⇒橋之助

岡本綺堂 作
大場正昭 演出
二 権三と助十(ごんざとすけじゅう)
権三⇒獅童
助十⇒染五郎
権三女房おかん⇒七之助
助八⇒巳之助
小間物屋彦三郎⇒壱太郎
猿廻し与助⇒宗之助
左官屋勘太郎⇒亀蔵
石子伴作⇒秀調
家主六郎兵衛⇒彌十郎


2本とも初見。
「嫗山姥」は怪奇伝の類だろうか。
橋之助がその名前で出演する最後の舞台だが、それにしては甲斐性のない男の役(煙草屋源七実は坂田蔵人時行)だったな。

再会した女房八重桐(扇雀)から親の敵討ちや主家の難儀などを聞かされ、女房、妹や主君の苦労にひきかえ自分は源七と名を変え郭通いで身を持ち崩した不甲斐なさを恥じて切腹するが、その際に八重桐の胎内には時行の魂が宿り(将来坂田金時を産むことになる。)、そのため怪力の持ち主になって、悪党を蹴散らす~という話。

浄瑠璃(竹本)に合わせた長セリフが聴かせどころらしいが、あまり良く分からなかった。
元は傾城であった八重桐が神通力を得て変身するところが見どころで、これは衣装の早変わり(引き抜き?)もあっていかにも歌舞伎らしい。

「権三と助十」は江戸時代の長屋が舞台で繰り広げられる人情話であり、大岡裁きの話でもある。
まずは、この長屋の舞台装置がよく出来ていて、江戸時代の長屋はこういうものだったのか、と思わせる。猿回しや駕籠かき、小間物売りに女房たちが江戸の風情をよく表している。
染五郎(助十)と獅童(権三)もいかにもの江戸っ子ぶりで面白い。
話も良く出来ていて、セリフも現代劇風なので聴き取りやすい。

権三の女房おかんを演じた七之助が小粋な女っぷりでうまいなと思った。


♪2016-114/♪歌舞伎座-05

2016年4月18日月曜日

四月大歌舞伎 夜の部

2016-04-18 @歌舞伎座


一 彦山権現誓助剱(ひこさんごんげんちかいのすけだち)
杉坂墓所~毛谷村
毛谷村六助⇒仁左衛門
お園⇒孝太郎
杣斧右衛門⇒彌十郎
微塵弾正実は京極内匠⇒歌六
お幸⇒東蔵

高野山開創一二〇〇年記念
夢枕獏:原作、戸部和久:脚本、齋藤雅文:演出
新作歌舞伎
二 幻想神空海(げんそうしんくうかい)
沙門空海唐の国にて鬼と宴す
空海⇒染五郎
橘逸勢⇒松也
白龍⇒又五郎
黄鶴⇒彌十郎
白楽天⇒歌昇
廷臣馬之幕⇒廣太郎
牡丹⇒種之助
玉蓮⇒米吉
春琴⇒児太郎
劉雲樵⇒宗之助
楊貴妃⇒雀右衛門
丹翁⇒歌六
憲宗皇帝⇒幸四郎


「彦山権現誓助剱」は昨年2月に歌舞伎座で観たが、その時の主要な役者は菊五郎(六助)、時蔵(お園)、東蔵(お幸)で、東蔵は今回も同じ役だった。
この時は「毛谷村」だけの上演だったが、今回は「杉坂墓所」という前段が演じられて話がより分かりやすくなった。

前回は初見だったが、これは面白かった。そもそも話が面白いのだ。
今回は菊五郎から仁左衛門に、時蔵から孝太郎に変わったが、やはり面白い。一番楽しめるのは男勝りで腕自慢のお園が、六助こそ自分の許嫁であることを知って、急にしおらしく、女っぽくなるおかしさだ。
それでも照れながら庭の臼を転がしたりとつい地が出たり、慌てていて火吹き竹の代わりに尺八を吹いてしまうなど、まるでコントのようなおかしさだ。
それを孝太郎が実におかしくやるので笑いが止まらない。

仁左衛門の六助が菊五郎と違ってとても陽性で、人の良い六助にぴったりだ。この仁左衛門・孝太郎という実の親子の掛け合いが、本筋とは別に、とても幸福感に満ちて良かった。

さて、今月の歌舞伎座のメインは新作歌舞伎「幻想神空海」だろう。そう思い、興味もあって、今月は<夜の部>を選んだ。

しかし、これがちっとも面白くないのだ。
音楽、音響効果、照明、セリフ回しを含め、これが「歌舞伎」?という疑問もあるけど、まあ、そこは<面白ければ>なんでもあり、というのが「歌舞伎」の真髄だと思うので受け入れることができる。
しかし<面白ければ>許される新しい試みは全然効果を発揮していない。
まずもって、芝居の筋が分かり難い。
観劇の最中は客席の照明も落とされるし、2時間12分の長丁場に幕間休憩もないので、筋書きをチラチラ読むこともできない。
予めざっと目を通していたけど、人物の名前もなかなか覚えきれないまま本番に突入したので、ほとんど役に立たなかった。

空海が主役と思っていたが、必ずしもそうとも言えないようだ。
空海が留学僧として、唐で密教を学び成長してゆく話かと思いきや、なるほど夢枕獏の原作であるからにはそんな正統的な話であるはずがない。それはそれで良い。突飛な物語も結構だけど、空海の存在が希薄なのだ。
終わってみれば、楊貴妃をめぐる白龍と丹翁の確執の物語ではないか。空海は狂言回しのような存在にすぎない。

これは意欲的な取組みだったがこのままでは失敗作で終わるのではないか。


♪2016-047/♪歌舞伎座-03

2015年12月8日火曜日

12月歌舞伎公演「東海道四谷怪談」

2015-12-08 @国立劇場


松本幸四郎⇒民谷伊右衛門/石堂右馬之丞
中村錦之助⇒小汐田又之丞
市川染五郎⇒お岩/小仏小平/佐藤与茂七/大星由良之助/鶴屋南北
市川高麗蔵⇒赤垣伝蔵
中村松江⇒矢間十太郎
坂東新悟⇒お岩妹お袖/千崎弥五郎
大谷廣太郎⇒秋山長兵衛/大鷲文吾
中村米吉⇒喜兵衛孫娘お梅/大星力弥
中村隼人⇒奥田庄三郎/竹森喜多八
澤村宗之助⇒関口官蔵/織部安兵衛
松本錦吾⇒四谷左門
大谷桂三⇒薬売り藤八/金子屋庄七
片岡亀蔵⇒按摩宅悦/高家家来小林平内
市村萬次郎⇒伊右衛門母お熊
坂東彌十郎⇒直助権兵衛/仏孫兵衛
大谷友右衛門⇒伊藤喜兵衛/原郷右衛門
      ほか

四世鶴屋南北=作
通し狂言「東海道四谷怪談」とうかいどうよつやかいだん 三幕十場
          国立劇場美術係=美術


序幕   浅草観世音額堂の場
     浅草田圃地蔵前の場
     同     裏田圃の場

二幕目 雑司ヶ谷四谷町民谷伊右衛門浪宅の場
    伊藤喜兵衛宅の場
    元の伊右衛門浪宅の場 

大詰  砂村隠亡堀の場
    小汐田又之丞隠れ家の場
    蛇山庵室の場
    仇討の場


予備知識として、四谷怪談の物語の背景に忠臣蔵が同時に描かれているということは知っていたが、これはどうやら奇抜なアイデアではないらしい。
歌舞伎初演時から四谷怪談と忠臣蔵が、形は別の演目として独立しているものの、物語は同時進行的に描かれていたようだし、民谷伊右衛門が浅野家の浪士であるという設定は「四谷怪談」が単独上演されるようになって追加されたものではなく当初からのものらしい。

これまで「四谷怪談」は映画などでしばしば観ているが、伊右衛門が浅野家浪士だったとは気が付かなかったというか、果たしてそのように描かれていたのだろうか。

ま、ともかく、作者鶴屋南北は「四谷怪談」を「仮名手本忠臣蔵」の外伝として描いたそうだ。

そもそも歌舞伎で「四谷怪談」を観るのが初めてなので(国立劇場としても44年ぶりの上演らしい。)、「四谷怪談」と「忠臣蔵」を抱き合わせにするとはなんて斬新なアイデアだと思っていたが、その萌芽は初演時からあった訳だ。

人気の出し物を2本併せてた物語が組み立てられているせいか、全三幕十一場の場面を必要とするほどに話が複雑で、ついて行くのに苦労した。
普段は、役者の役どころや演目の筋をさらっておいてから出かけるのだけど、今回は忙しくて時間のゆとりがなかったことに加え、どうせ、両方とも話は分かっている、と甘く見ていたのが大間違いで、大筋はともかく、それを彩る、いや絡みつくというか、いろいろと細かい話が盛り沢山。それに最初に出た何気ないエピソードや小物が後の場になってつながってくるという筋立て上の仕掛けもあって、これは相当目配り・気配りしながら観ないと全体を楽しむことはできない。

塩冶家(⇒浅野家)の家臣小汐田又之丞(錦之助)が冒頭、高家(⇒吉良家)の家臣らにさんざ打擲されて歩けなくなるというエピソードなど、忘れてしまうような話だが、大詰め第二場で、民谷家家宝の薬ソウキセイ(桑寄生)が意味を明らかにし、これを持ってきた小仏小平(染五郎)とともに討ち入りにつながってくるのだからぼんやりしてられない。
いや、ぼんやりしていた部分はほかにあったのだけど思い出せないだけだ。



中盤は伊右衛門(幸四郎)とお岩(染五郎)の話が中心になるが、上述の小汐田又之丞隠れ家の場が踏み台になって舞台は一挙に討ち入りに変化する。

既に真っ白な雪が積もったところに惜しげも無く雪が舞い降りてそこでの戦闘シーンはきれいだ。途中、あれは誰と誰の戦いだったか、2人の上にドカ雪が落ちてきてもう互いに顔も見えない中での斬り合いが意表を突いて面白かった。

幸四郎の伊右衛門はコワイ。
だからとても良い。

染五郎は別としてほかにも良い味を感じた役者が何人かいた。
坂東彌十郎(直助権兵衛/仏孫兵衛)が存在感があった。
米吉(お梅/大星力弥)はお梅で存在感希薄。力弥では颯爽たる立ち回りが絵になっていた。
錦之助(小汐田又之丞)は冒頭の情けない場面と随分間があって「小汐田又之丞隠れ家の場」でタイトルロール?として登場するが、ここではさすがにかっこ良く、次の場面への期待を持たせるきっぱりとした芝居だ。


さて、染五郎。

お岩、小仏小平、佐藤与茂七、大星由良之助のほかに、冒頭、鶴屋南北としてすっぽんから登場して(幽霊なので)本公演の趣旨を述べ、又之丞打擲の芝居が終わると再度せり上がってきて、未来の役者、市川染五郎なるものが熱心に上演許可を求めてきたので許可した、ゆっくりご覧あれ…といったような口上を述べてセリ下がる。館内は笑いに包まれる。
そんな訳で計5役を勤めるのだ。
その中には、お岩と小平のような早変わりもある。
お岩の顔貌の早変わり?もある。
燃える提灯からの飛び出しって、昔からそういう仕掛けがあったのだろうか。
宙乗りもあってもう大奮闘だ。

最後に本懐を遂げた由良之助で終わるので、カタルシスがある。

まあ、とにかく、筋の仕掛け、舞台の仕掛けも複雑で盛り沢山だが、2、3度観なければ全貌を堪能するには至らないように思った。

もう一度、おさらいをしにゆくかな。


♪2015-122/♪国立劇場-06

2015年9月3日木曜日

松竹創業120周年 秀山祭九月大歌舞伎 昼の部

2015-09-03 @歌舞伎座


一 双蝶々曲輪日記
(ふたつちょうちょうくるわにっき)
 新清水浮無瀬(しんきよみずうかむせ)の場

二 新歌舞伎十八番の内
   紅葉狩(もみじがり)

  紀有常生誕一二〇〇年
三 競伊勢物語(だてくらべいせものがたり)
序幕 奈良街道茶店の場
   同  玉水渕の場
大詰 春日野小由住居の場
   同  奥座敷の場

一 双蝶々曲輪日記
南与兵衛⇒梅玉
藤屋吾妻⇒芝雀
平岡郷左衛門⇒松江
太鼓持佐渡七⇒宗之助
堤藤内⇒隼人
井筒屋お松⇒歌女之丞
手代権九郎⇒松之助
三原有右衛門⇒錦吾
山崎屋与五郎⇒錦之助
藤屋都⇒魁春

二 新歌舞伎十八番の内 紅葉狩(もみじがり)
更科姫実は戸隠山の鬼女⇒染五郎
局田毎⇒高麗蔵
侍女野菊⇒米吉
山神⇒金太郎
腰元岩橋⇒吉之助
従者左源太⇒廣太郎
従者右源太⇒亀寿
平維茂⇒松緑

  紀有常生誕一二〇〇年
三 競伊勢物語(だてくらべいせものがたり)
紀有常⇒吉右衛門
絹売豆四郎/在原業平⇒染五郎
娘信夫/井筒姫⇒菊之助
絹売お崎⇒米吉
同 お谷⇒児太郎
旅人倅⇒春太郎<初お目見得井上公春(桂三長男)>
およね⇒歌女之丞
川島典膳⇒橘三郎
茶亭五作⇒桂三
銅羅の鐃八⇒又五郎
母小由⇒東蔵


「双蝶々曲輪日記」は昨年の10月の国立劇場で「通し狂言」としてみているので、予習もせずに臨んだ。

今回の「新清水浮無瀬の場」(原作浄瑠璃から三段目の「小指の身代わり」の趣向も取り入れられている、と<筋書き>に書いてある。)は、通しでは除幕に当たる部分で、物語をすっかり忘れているのには我ながら呆れた。もっとも小指を噛み切られる話は忘れているというよりそもそもそんな芝居あったっけ?という疑問が頻りだ。

ただ、南与兵衛(なんよへい・梅玉)が新清水の舞台から商売道具の傘を落下傘のようにして飛び降りる宙吊り芸は思い出した。

見どころはそこだけかな。
<ふたつちょうちょう>と言っても相撲取りは登場しない。
やはり「引窓」を含む場面構成で観たいな。


「紅葉狩」は竹本、長唄、常磐津の掛け合いによる舞踊劇。
能の「紅葉狩」を題材にしているようだが、打って変わって舞台は歌舞伎らしい派手な紅葉尽くしだ。
平維茂(たいらのこれもち。松緑。ヒゲがない方が良かったぞ)が紅葉狩りに来た戸隠山中で更科姫(その正体は戸隠山の鬼女。染五郎)とその共の一行と会い、酒を酌み交わしながら彼女たちの舞を見るうちに睡魔に襲われる。
ここで更科姫が2枚の扇を使って踊るところがひとつの見所らしい。

更科姫一行が姿を消した合間に山神(金太郎)が現れて、維茂に更科姫の本性を告げる。
後半、美しかった更科姫が世にも恐ろしい鬼女とに変貌して維茂を襲うところがものすごい。これはなかなかコワイ。

維茂は愛刀小烏丸で対抗し、鬼女はその威徳に抗せずして松の大木に逃げるように飛び移って両者が睨み合う大見得で幕。

賑やかな浄瑠璃に乗って、派手な舞台と衣装、そして舞踊が華やかでよろしい。



「競伊勢物語」がメインディッシュだったのだろうが、この話も人間関係も複雑で分かりにくくなかなか楽しめなかったが、大詰めのそれも終盤に至っての劇的展開に完全覚醒し唖然とした。

紀有常(吉右衛門)が、実の娘・信夫(しのぶ。菊之助)と彼女の許婚である豆四郎(実は磯上俊清⇒在原業平の家臣。染五郎)の生命を犠牲にして主君業平(染五郎の二役)とその恋人井筒姫(有常の幼女。菊之助の二役)を救う話で、そのような経緯になったのは、あれやこれやあるけど、つまりは、信夫は井筒姫に、豆四郎は業平にそっくりだったったために身代わりにされたということだ。
その死に方もかなり残酷だ。

事情を知らされない信夫の養母小由(東蔵)は信夫と衝立を挟んで向い合い、別れの琴を弾いてほしいと頼み、自らもそれに合わせて砧を打つ(ここでは菊之助が本当に琴を弾いているのには驚いた。なんでもやれるんだ。)。
その琴と砧の音を聴きながら、豆四郎は切腹をし、有常に首を討たれ、ついで、信夫も有経の手にかかって惨殺される。
お家大事のためにやむをえなかったとはいえ、なんという悲惨極まりない筋立てに仕上げたものか。

これは少々気色が悪い話だ。
江戸の庶民はここまでもえげつない話を望んだのだろうか。

昼の部では吉右衛門、東蔵、菊之助の出番はこの演目だけだったが、染五郎も加わって、実に緊迫の芝居を見せてくれたものの、後味の悪い話ではあった。



♪2015-82/♪歌舞伎座-05

2015年4月10日金曜日

松竹創業120周年 中村翫雀改め 四代目中村鴈治郎襲名披露 四月大歌舞伎

2015-04-10 @歌舞伎座


●玩辞楼十二曲の内 碁盤太平記(ごばんたいへいき)
山科閑居の場

大石内蔵助     扇雀
岡平
 実は高村逸平太  染五郎
大石主税      壱太郎
医者玄伯      寿治郎
空念
 実は武林唯七   亀鶴
妻およし      孝太郎
母千寿       東蔵

●六歌仙容彩(ろっかせんすがたのいろどり)
〈遍照〉
僧正遍照      左團次
小野小町      魁春

〈文屋〉
文屋康秀      仁左衛門

〈業平小町〉
在原業平      梅玉
小野小町      魁春

〈喜撰〉
喜撰法師      菊五郎
祇園のお梶     芝雀
所化        團蔵
同         萬次郎
同         権十郎
同         松江
同         歌昇
同         竹松
同         廣太郎

〈黒主〉
大伴黒主      吉右衛門
小野小町      魁春

●玩辞楼十二曲の内 廓文章(くるわぶんしょう)吉田屋
劇中にて襲名口上申し上げ候

藤屋伊左衛門   翫雀改め鴈治郎
吉田屋喜左衛門  幸四郎
若い者松吉    又五郎
藤屋番頭藤助   歌六
おきさ        秀太郎
扇屋夕霧       藤十郎


「碁盤太平記」という演目があることは知っていたけど、これが所謂「忠臣蔵」の話とは知らなかった。大筋はこれまでにさんざ、映画、テレビなどで観てきたエピソードと同じだ。

大石内蔵助(扇雀)が吉良側を欺くために、遊興放蕩し、ついには、これを諌める妻(孝太郎)を離縁し、呆れる母(東蔵)からは勘当されてまでも、腹の中を隠し通そうとする。

吉良の家来・岡平(染五郎)は下僕に身を変えて大石に仕えながら彼らの動静を窺っていたが、字の読めないはずの岡平に手紙が届いたことから主税はその正体を見破り、若さゆえの短慮から、彼に斬りつけ、トドメを刺ささんとするところを内蔵助が押しとどめた。
内蔵助はとっくに岡平の正体を知りながら放置しむしろ陽動作戦に利用していたのだ。
しかし、主税が斬りつけたとあっては是非もない。
岡平に対し、吉良の身内なら屋敷の間取りを知っているだろうから、死ぬ前に教えてくれ、と虫のいいことを頼む。
頼まれた岡平は碁盤の上で碁石を並べて教えてから事切れる。

虫の息の岡平が吉良屋敷の間取りを教えるのは、実は岡平の親が浅野家家臣だったという理由だったか、大石親子の忠臣ぶりに情が移ったからか、ま、そんな理由があってのことなのだけど、この肝心な芝居に集中できずにいたものだから今や思い出せない。

筋書きを読めば思い出せる、あるいはそのものズバリの筋書きが書いてあったかもしれないが、終演後の飲み屋のはしごのどこかでカバンごと失くすという大失態。
それはともかく、NETで検索しても、「碁盤太平記」にはいくつかのパターンがあるらしい。


主役の名前が今回は「大石内蔵助」だったが、「碁盤太平記」の過去の上演記録では「由良之助」バージョンと「内蔵助」バージョンがあるようだ(後世、幾つもの忠臣蔵ものを集大成した「仮名手本忠臣蔵」では「大星由良之助」になっている。)。
名前の違いだけではなく、岡平の素性も、登場人物も若干異なる<あらすじ>が散見されるので、内容も少しずつ変化してきているのかもしれない、あるいは演出の違いなのか。

ま、ここはしかし、実の母や妻を欺かねばならない内蔵助や主税の心中と、斬られながらも死に際に大石親子の心中に共鳴する岡平の心の様をしっかり見届けなくてはいけなかったが、叙上の如く、岡平にはすまないことをした。

扇雀、染五郎の芝居は説得力があった。


さて、昼の部のメインは「廓文章 吉田屋」だ。

これは最近、テレビ録画で藤十郎の「伊左衛門」を観ていたのが良くなかったか。
四代目を襲名した鴈治郎がどんな風に演ずるのかという興味があったが、素人目にもどうも固い。

伊左衛門という男は、アホだけどにくめない人柄がとりえだと思うけど、それがいまいち出ていないように思う。
彼が惚れ込んだ夕霧はそんじょそこらにはお目にかかれないとびきりの才色兼備だ。そんな彼女でも商売抜きで心を寄せる、というにふさわしい伊左衛門の人柄がでなくちゃ、この話はアホらしいで終わってしまう。

そこがねえ。
ちょっと不足していたように思うよ。
夕霧が藤十郎で愛嬌振りまくのだもの、こっちのほうがずっと可愛い。

劇中口上では、芝居が面白おかしく口上につながって洒落ていた。
喜左衛門を演ずる幸四郎が紹介役なのだけど、貫禄十分!

♪2015/28 @歌舞伎座-02

2014年10月20日月曜日

10月歌舞伎公演「通し狂言 双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)」

2014-10-20 @国立劇場大劇場


松本 幸四郎
中村 東   蔵
中村 芝   雀
市川 高麗蔵
松本 錦   吾
大谷 廣太郎
大谷 廣   松
澤村 宗之助
中村 松   江
市川 染五郎
大谷 友右衛門
中村 魁   春
        ほか

竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
国立劇場文芸研究会=補綴
通し狂言双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき) 四幕五場       
        
   序   幕  新清水の場
   二幕目  堀江角力小屋の場
   三幕目  大宝寺町米屋の場
         難波芝居裏殺しの場        
   四幕目 八幡の里引窓の場


8月、9月に(国立劇場では)歌舞伎公演がなかったので、久しぶりの国立劇場だ。
歌舞伎座の華やかさも悪くないけど、国立劇場はロビーもホワイエも客席もゆったりとしていい。なんたって安価なのが一番いいけど、今月からプログラム代が900円に値上がりしていたなあ。
これとて歌舞伎座の筋書きに比べるとずっと安い。

今月は「通し狂言 双蝶々曲輪日記」で、幸四郎が半世紀ぶりに主人公濡髪を演じたり、染五郎が3役に扮するなどの見どころが前評判。
初めて鑑賞する演目だし、こういう話があるということも知らなかった。それならしっかり予習しておけばよかったけど、その時間もなくて、幕間に筋書きを読みながらの鑑賞だった。

この作品に限ったことではないけど、通し狂言となると、長丁場だし登場人物も多く、なかなか役柄も筋書きも頭に入らない。

プログラムには人物関係図が書いてあったが、これに加えて演じている役者も覚えようとすると並大抵ではない。
せっかくの熱演を目一杯楽しむには、せいぜい劇場に足を運んで目や耳を養わなくてはいかんなあ。


●序幕では、染五郎の(与五郎を助ける与兵衛)二役早替わりが面白く宙乗りも出たのにはびっくりした。

●2幕目の堀江角力小屋の場は面白い趣向だ。
舞台上手に掘建小屋のような角力小屋が作ってあるが、土俵は見えない。見物人が出入り口で押し合いへし合いの中、相撲見物に興じている。
その様子だけで勝負の有様を表現している。

この場面から主人公というべき関取濡髪長五郎(幸四郎)と因縁の仲となる素人力士放駒長吉(染五郎の3役目)が登場する。「双蝶々」というタイトルは、この両者がともに「長」が付く名前であることに由来しているそうだが、ちょいと無理がありゃしませぬか。

ともかく、なぜか結びの一番で二人が勝負をし、大番狂わせが起こる。それを端緒に二人は達引(意地の張り合い。それによる喧嘩)を約束することに。

●3幕目は放駒長吉の実家、米屋の場だ。
弟長吉の日頃の不行跡に業を煮やした姉おせき(魁春)が一策を案じて改心させる。達引に訪れた濡髪長五郎とも仲直りするが、その前には一波乱あり、両者の米俵を投げ合う喧嘩などがおかしくて見ものだ。

濡髪にとって贔屓筋の息子である与五郎と与五郎の恋仲である吾妻(高麗蔵)の身に危険が迫ったことを知り、救出に向かうが、誤って二人の武士を殺してしまい、落ち延びることになる。

●4幕目八幡の里引窓の場。
芝居としてはここが一番面白かった。
南与兵衛の住まいに、濡髪が忍んで来る。
実は(歌舞伎には「実は」が多い!)その家の主の継母お幸(東蔵)は濡髪の実母であった。
いずれ入牢することとなる前に一目実母に会いに来たのだ。
お幸はワケありげな様子の濡髪を2階の部屋に連れて行く。

同じ日、皮肉なことに与兵衛は、めでたく父の跡を継いで代官に取り立てられ、その初仕事が濡髪を捕らえることだった。

お幸はその話を聞いて驚愕する。
先妻の子(与兵衛)が実の子(濡髪)を捕らえるとなっては、居ても立っても居られない。
2階には濡髪が引窓を開けて下の様子を窺う。
それが手水鉢の水面に映ったのを与兵衛も見逃さない。
この緊張の三角関係の中で、母、実子、継子が互いを想う真情が交錯してとてもドラマチックだ。
時は恰も石清水八幡の放生会(魚や鳥を放す儀式)の前夜、というのが良い設定で、得心の大団円を迎えて満足。

♪2014-95/♪国立劇場-05

2014年9月3日水曜日

秀山祭九月大歌舞伎(昼の部)

2014-09-03 @歌舞伎座


一 鬼一法眼三略巻(きいちほうげんさんりゃくのまき)
・菊畑
   
吉岡鬼一法眼 歌 六
虎蔵実は源牛若丸 染五郎
皆鶴姫 米 吉
腰元白菊 歌女之丞
笠原湛海 歌 昇
智恵内実は吉岡鬼三太 松 緑

二 隅田川続俤(すみだがわごにちのおもかげ)
・法界坊
   
聖天町法界坊 吉右衛門
おくみ 芝 雀
手代要助 錦之助
野分姫 種之助(1日~13日)
      児太郎(14日~25日)
五百平 隼 人
丁稚長太 玉太郎
大阪屋源右衛門 橘三郎
代官牛島大蔵 由次郎
おらく 秀太郎
道具屋甚三 仁左衛門

・浄瑠璃 双面水照月(ふたおもてみずにてるつき)
   
法界坊の霊/野分姫の霊 吉右衛門
渡し守おしづ 又五郎
手代要助実は松若丸 錦之助
おくみ  芝 雀


「鬼一法眼三略巻」は平成24年の暮に国立劇場で観た(4幕構成-除幕・菊畑・檜垣・奥殿)。
吉右衛門が鬼一と一條大蔵卿だったが、話の中身は非常に複雑で、よく覚えていなかった。

今回は、「菊畑」一幕だけだが、やはり話はややこしい。
歌舞伎にありがちな、A君…実は源氏の御曹司、B君…実は主人の実の弟、という韓流ドラマもびっくりな関係がフツーに出てくるので、頭の中で、え~っと彼は、実は某…と置換え、確認しながら観ていないと取り残されてしまう。

この芝居の中心人物は、鬼一法眼の屋敷で奴(やっこ)奉公している鬼三太(きさんだ⇒松緑)と虎蔵(染五郎)で、両者は互いに「実は…」の関係を承知している。主従の間柄なのだ。

両者に絡む鬼三太の実兄鬼一と虎蔵に思いを寄せる皆鶴姫(米吉)は、「実は」の関係を知らない。
皆鶴姫に思いを寄せる湛海(歌昇)はじめその他衆も知らない。

この狂言全体の筋書きに関しては大して面白いものでもない(ように思う)が、主要な登場人物たちの間に、「実は」を知られないようにするがゆえの苦労があり、知らないがゆえの不幸があり、知ってしまったがゆえの悲劇が起こるさまが人間ドラマとして面白い。


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隅田川続俤(すみだがわごにちのおもかげ)=「法界坊」は、以前にTVで(勘三郎?)が楽しそうに演じているのをぼんやりと観ていたのだけど、全編の物語をきちんと観るのは今回が初めて。

御家再興の話が背景になって、ここでも「実は…」が含まれるけど、この作品では筋書きは大きな要素ではないと思う。
法界坊(吉右衛門)の存在があまりに大きいからだろう。
欲の塊、悪の権化のようでもあるけど間が抜けたところもあって、おかしい。

この悪党にさっそうと対抗するのは道具屋甚三(仁左衛門。この人も実は…)だ。
御家再興を願う要助(実は松若丸=錦之助)の窮地に登場し大岡裁きの如く法界坊らの悪党を懲らしめて痛快。
この後も法界坊との対決の場があって、なかなかの見応えだ。

この場面で、法界坊、というより吉右衛門がアドリブを連発して場内を大いに沸かすのだけど、仁左衛門がこれに応えられない(のは当然なのだけど)ところに吉右衛門の工夫が欠ける。つまりは、やり過ぎではないか。
まあ、満員の観客はやんやの喝采だったからここは素直に楽しむのが鑑賞の王道かもしれないけど。

ところで、この場だったかどうか記憶が定かではないけど、法界坊が少しよろけたように見えた。近くにいた後見がすぐ気がついて小走りで近づいたが、大事には至らなかった。本人も「体力的に最後かな」と言ったいたという記事が出ていたが、まだ70歳。大事にして長く続けて欲しい。





話が一段落して、幕が下り、次いで、大喜利として「浄瑠璃 双面水照月(ふたおもてみずにてるつき)」が演じられた。
この一幕は、単独でも上演されるそうだ。


セリフがないわけではないけど、全体が舞踊劇。
伴奏は、上手に竹本の太夫と三味線2人ずつ。下手に常磐津の太夫が8人と三味線7人。


この一幕の趣向には驚いた。

要助と彼を慕うおくみ、隅田川渡し守りのおしづの3人が、野分姫(要助の許嫁。法界坊に騙された挙句殺された。)の菩提を弔っているところに、もうひとりおくみが登場する。実は、法界坊と野分姫の霊が合体した怨霊なのだ。
さあ、要助とおしづにはどちらが本当のおくみか分からない…。

どうしてこの物語(本篇)に野分姫が登場するのか、イマイチ意味が合点できないでいたけど、ここに及んで、なるほどこのためか!

ともに恨みを持つ者同士が一体となり、ある時は野分姫に、ある時は法界坊の姿を見せる(吉右衛門が女形を演じている。)のも恐ろしや。

その際、野分姫のセリフは吉右衛門ではなく、後ろに付いた黒衣(くろご)だった。こういう場合は後見というのだろうか?裃後見は知っているけど、頭巾かぶりの後見もいるのか?
その黒衣が透けた顔を隠す布(なんていうのかな?)越しに口紅を指しているのが見えた。
女性が黒衣を務めるのだろうか?それとも女形の黒衣なのだろうか?

浄瑠璃は常磐津と竹本の掛け合い。
多分、野分姫と法界坊で語り分け、弾き分けていたように思ったが、怨霊の動きに気持ちを奪われて確かめるゆとりはなかった。

この一幕、舞踊劇として実に興味深い。


♪2014-82/♪歌舞伎座-05