2014-10-20 @国立劇場大劇場
中村 東 蔵
中村 芝 雀
市川 高麗蔵
松本 錦 吾
大谷 廣太郎
大谷 廣 松
澤村 宗之助
中村 松 江
市川 染五郎
大谷 友右衛門
中村 魁 春
ほか
国立劇場文芸研究会=補綴
通し狂言双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき) 四幕五場
序 幕 新清水の場
二幕目 堀江角力小屋の場
三幕目 大宝寺町米屋の場
難波芝居裏殺しの場
四幕目 八幡の里引窓の場
8月、9月に(国立劇場では)歌舞伎公演がなかったので、久しぶりの国立劇場だ。
歌舞伎座の華やかさも悪くないけど、国立劇場はロビーもホワイエも客席もゆったりとしていい。なんたって安価なのが一番いいけど、今月からプログラム代が900円に値上がりしていたなあ。
これとて歌舞伎座の筋書きに比べるとずっと安い。
今月は「通し狂言 双蝶々曲輪日記」で、幸四郎が半世紀ぶりに主人公濡髪を演じたり、染五郎が3役に扮するなどの見どころが前評判。
初めて鑑賞する演目だし、こういう話があるということも知らなかった。それならしっかり予習しておけばよかったけど、その時間もなくて、幕間に筋書きを読みながらの鑑賞だった。
この作品に限ったことではないけど、通し狂言となると、長丁場だし登場人物も多く、なかなか役柄も筋書きも頭に入らない。
プログラムには人物関係図が書いてあったが、これに加えて演じている役者も覚えようとすると並大抵ではない。
せっかくの熱演を目一杯楽しむには、せいぜい劇場に足を運んで目や耳を養わなくてはいかんなあ。
●序幕では、染五郎の(与五郎を助ける与兵衛)二役早替わりが面白く宙乗りも出たのにはびっくりした。
●2幕目の堀江角力小屋の場は面白い趣向だ。
舞台上手に掘建小屋のような角力小屋が作ってあるが、土俵は見えない。見物人が出入り口で押し合いへし合いの中、相撲見物に興じている。
その様子だけで勝負の有様を表現している。
この場面から主人公というべき関取濡髪長五郎(幸四郎)と因縁の仲となる素人力士放駒長吉(染五郎の3役目)が登場する。「双蝶々」というタイトルは、この両者がともに「長」が付く名前であることに由来しているそうだが、ちょいと無理がありゃしませぬか。
ともかく、なぜか結びの一番で二人が勝負をし、大番狂わせが起こる。それを端緒に二人は達引(意地の張り合い。それによる喧嘩)を約束することに。
●3幕目は放駒長吉の実家、米屋の場だ。
弟長吉の日頃の不行跡に業を煮やした姉おせき(魁春)が一策を案じて改心させる。達引に訪れた濡髪長五郎とも仲直りするが、その前には一波乱あり、両者の米俵を投げ合う喧嘩などがおかしくて見ものだ。
濡髪にとって贔屓筋の息子である与五郎と与五郎の恋仲である吾妻(高麗蔵)の身に危険が迫ったことを知り、救出に向かうが、誤って二人の武士を殺してしまい、落ち延びることになる。
●4幕目八幡の里引窓の場。
芝居としてはここが一番面白かった。
南与兵衛の住まいに、濡髪が忍んで来る。
実は(歌舞伎には「実は」が多い!)その家の主の継母お幸(東蔵)は濡髪の実母であった。
いずれ入牢することとなる前に一目実母に会いに来たのだ。
お幸はワケありげな様子の濡髪を2階の部屋に連れて行く。
同じ日、皮肉なことに与兵衛は、めでたく父の跡を継いで代官に取り立てられ、その初仕事が濡髪を捕らえることだった。
お幸はその話を聞いて驚愕する。
先妻の子(与兵衛)が実の子(濡髪)を捕らえるとなっては、居ても立っても居られない。
2階には濡髪が引窓を開けて下の様子を窺う。
それが手水鉢の水面に映ったのを与兵衛も見逃さない。
この緊張の三角関係の中で、母、実子、継子が互いを想う真情が交錯してとてもドラマチックだ。
時は恰も石清水八幡の放生会(魚や鳥を放す儀式)の前夜、というのが良い設定で、得心の大団円を迎えて満足。
♪2014-95/♪国立劇場-05