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2024年2月6日火曜日

令和6年2月文楽公演第1部

2024-02-06 @日本青年館ホール



第一部 (12時開演〜14:20)
●二人三番叟 (ににんさんばそう)
  睦太夫・亘太夫・聖太夫/勝平・寛太郎・錦吾・清方

●仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)
 山崎街道出合いの段
   小住大夫/清馗 

 二つ玉の段
   希太夫/團七/胡弓:藤之亮

 身売りの段
   織太夫/藤蔵

 早野勘平腹切の段
 切 呂太夫/清介

 人形▶二番叟⇒紋吉
    三番叟⇒玉翔
    -----------------------------
    早野勘平⇒玉助
    千崎弥五郎⇒勘一
    斧定九郎⇒簑紫郎
    女房おかる⇒紋臣
    与市兵衛女房⇒簑二郎
    一文字屋才兵衛⇒簑一郎
    めっぽう弥八⇒玉征
    原郷右衛門⇒文司





昨年12月から文楽公演も漂流しているが、年が改まって初の「国立」文楽は、なんと「青年」の館に爺さん・婆さんたちが集まった次第。

おめでたの「三番叟」に続いて久しぶりの「忠臣蔵」から5段目、6段目の上演。
「二つ玉の段」は落語や最近では芝居でも取り上げられている中村仲蔵が、歌舞伎のこの段で今に伝わる工夫をしたことで有名だが、文楽でもおおよそ踏襲されている。

勘平が暗闇の中、猪と見間違って斧定九郎を撃ち殺し、懐の財布を持ち帰ったが為に狂い出した歯車。
真実は観客のみ知るが、義母も塩谷家中も本人さえも舅を殺して50両を奪ったと思い込み、遂に無念の切腹の悲劇に至る。
この辺の話の運びが、良くできていて、なんて、アナクロだよと思いつつも引き込まれてしまう。

♪2024-022/♪日本青年館ホール-1

2022年11月2日水曜日

未来へつなぐ国立劇場プロジェクト 初代国立劇場さよなら公演 “歌舞伎&落語 コラボ忠臣蔵”

2022-11-02 @国立劇場大劇場


春風亭小朝
翁家社中
----------
早野勘平⇒中村芝翫
女房おかる⇒市川笑也
千崎弥五郎⇒中村歌昇
母おかや⇒中村梅花
判人源六⇒中村松江
一文字屋お才⇒市村萬次郎
斧定九郎/原郷右衛門⇒中村歌六
         ほか

●落語 春風亭小朝
 一 殿中でござる(でんちゅうでござる)
  -太神楽-曲芸 翁家社中
 二 中村仲蔵(なかむらなかぞう)
 
●歌舞伎  仮名手本忠臣蔵 二幕三場
     (かなでほんちゅうしんぐら)
    竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
         国立劇場美術係=美術
    
 五段目 山崎街道鉄砲渡しの場
 同   二つ玉の場
 六段目 与市兵衛内勘平腹切の場



<歌舞伎&落語>
小朝と芝翫の組合せを繋ぐのは「忠臣蔵」。

企画は良かったが、イマイチの出来。

現存真打の中でも最高ランクの小朝にしては、大劇場の空気を掴み取れなかったか。そもそも寄席の芸を披露する場ではなかったか。

「殿中でござる」は新作だが、忠臣蔵の一つの見方の解説止まり。

1番の楽しみ「中村仲蔵」は志ん朝を愛聴している為にどうしても比較してしまう。小朝も悪か無いけど、気持ちが入っていかん。

音楽でもそうだが、過去に優れたものに接していると、それを超えるもので無い限り、なかなか感動は得られない。寄席で聴けばまた違った味わいがあったかも。残念。

芝翫の早野勘平。これもイケメン過ぎたか。

好感したのは、斧定九郎を演じた歌六だ。
この芝居こそ、中村仲蔵の工夫が今に受け継がれている。
黒の着付けに蛇の目傘。朱鞘の大小。鉄砲に撃たれて着物からはみ出た白塗りの脚に垂れる鮮血。
定九郎の台詞はたった一つ「五十両」だけだが、見事にこの場を引き締めて「千両」役者。

♪2022-164/♪国立劇場-11

2021年12月6日月曜日

国立劇場開場55周年記念 人形浄瑠璃文楽 令和3年12月公演

2021-12-06@国立劇場




国立劇場開場55周年記念
仮名手本忠臣蔵 (かなでほんちゅうしんぐら)
 桃井館本蔵松切の段
 下馬先進物の段
 殿中刃傷の段
 塩谷判官切腹の段
 城明渡しの段
 道行旅路の嫁入


桃井館本葳松切の段
 竹本小住太夫/鶴澤清丈
下馬先進物の段
 竹本南都太夫/竹澤團吾
殿中刃傷の段
 豊竹靖太夫/野澤錦糸
塩谷判官切腹の段
 竹本織太夫/鶴澤燕三
城明渡しの段
 竹本碩太夫/鶴澤清允
道行旅路の嫁入
 小浪:豊竹呂勢太夫/鶴澤清志郎
 戸無瀬:豊竹咲寿太夫/鶴澤清公
 豊竹亘太夫/野澤錦吾
 竹本聖太夫/鶴澤燕二郎
 豊竹薫太夫/鶴澤清方

*****************************
人形役割
桃井若狭助⇒ 吉田玉佳
加古川本蔵⇒ 吉田勘市
妻戸無瀬⇒    豊松清十郎
娘小浪⇒ 吉田簑紫郎
高師直⇒ 吉田玉助
鷺坂伴內⇒    桐竹紋秀
塩谷判官⇒  吉田簑二郎
早野勘平⇒  吉田玉路
茶道珍才⇒  吉田蓑悠
原郷右衛門⇒ 桐竹亀次
石堂右馬丞⇒ 吉田玉輝
薬師寺次郎左衛門⇒吉田文哉
大星カ弥⇒  吉田簑太郎
大星由良助⇒ 吉田玉志
顔世卿前⇒  桐竹紋吉
その他 大ぜい

今から5年前の2016年。国立劇場では開場50年記念に、歌舞伎は3部(1か月公演X3回)、文楽の方は2部(昼夜公演)構成で全段通し「仮名手本忠臣蔵」をやった。
それが僕の文楽の初見で以後病みつきになった。

2019年には大阪の国立文楽劇場の開場35年で春・夏・秋に3部に分けて全段通しをやった。これも観に行った。

そして、今年は国立劇場開場55年記念の年だ。

そこで、記念の公演という訳だが、今回は、二、三、四、八段目からの抜粋だ。これは寂しい。

四段目のほかにも面白い七段目、九段目がない。これでは見どころは切腹の段のみというのも辛い。

それにどういう訳か、今回は太夫・三味線・人形ともに重鎮が出ていない。普通なら人間国宝級全員とは言わずとも出演するものだ。ましてや記念の公演なのに。
ま、今日の出演者の中では、個人的には織太夫とか呂勢太夫は好きだけど。
どれにしては寂しい公演だった。

同時に別興行で観賞教室をやっているがこっちの方が面白かった!


♪2021-146/♪国立劇場-11

2019年11月19日火曜日

国立文楽劇場開場35周年記念11月文楽公演 通し狂言「仮名手本忠臣蔵」第Ⅲ部

2019-11-19 @国立文楽劇場


通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)
八段目から十一段目まで 4時間30分(正味3時間50分)

 八段目 道行旅路の嫁入
  津駒太夫・織太夫・南都太夫・亘太夫・碩太夫/
  宗助・清志郎・寛太郎・錦吾・燕二郎
 九段目 雪転しの段-山科閑居の段
  芳穂太夫/勝平
  前 千歳太夫/富助
  後 藤太夫/藤蔵     
 十段目 天河屋の段
  口 小住太夫/寛太郎
  奥 靖太夫/錦糸
   十一段目 花水橋引揚より光明寺焼香の段
  睦太夫・津國太夫・咲寿太夫・碩太夫/清𠀋

人形役割
  妻戸無瀬⇒和生
  娘小浪⇒一輔
  大星由良助⇒玉男
  妻お石⇒勘彌
  大星力弥⇒玉佳
  加古川本蔵⇒勘十郎
  天川屋義平⇒玉也
  原郷右衛門⇒分司
  矢間十太郎⇒勘一
  寺岡平右衛門⇒簑太郎
  桃井若狭之助⇒玉志
         ほか

3年前に国立劇場開場50周年記念の「仮名手本忠臣蔵」…2部構成の11段通しを観たのが、恥ずかしながらナマ文楽の最初で、これで嵌ってしまった。
その後は東京の公演は1回も欠かさず。今年は大阪遠征も3回・4公演を楽しんだ。

今年の3部構成の忠臣蔵も今回で全段終幕。

本場大阪では、国立文楽劇場開場35周年行事として時間をたっぷりかけたので、東京では演らなかった2段目冒頭、力弥使者の段と11段目の最後の最後、光明寺焼香の段も観られて良かった。
やはり焼香の段は泣かせる場面だ。花水川引き揚げで終わるよりカタルシスが得られて満足感が高い。

この本格的全段通し、次回はいつか。
もう一度くらい観たいね。
3回皆勤賞で手拭GET。

♪2019-182/♪国立文楽劇場-3

2019年8月1日木曜日

国立文楽劇場開場35周年記念夏休み文楽特別公演 通し狂言「仮名手本忠臣蔵」第Ⅰ部

2019-08-01 @国立文楽劇場


通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)五段目から七段目まで 
4時間18分(正味3時間33分)

 五段目 山崎街道出合いの段
                      小住大夫・勝平 
     二つ玉の段
       靖太夫・錦糸・燕二郎
 六段目 身売りの段
       咲太夫・燕三
            早野勘平腹切の段
       呂勢太夫・清治
 七段目 祇園一力茶屋の段

       由良助⇒呂太夫
       力弥⇒咲寿太夫
                     十太郎⇒津国太夫
       喜多八⇒文字栄大夫
       弥五郎⇒芳穂太夫
       仲居⇒亘太夫
       おかる⇒津駒太夫
       仲居⇒碩太夫
       一力亭主⇒南都太夫
       伴内⇒希太夫
       九太夫⇒三輪太夫
       平右衛門⇒藤太夫
     前 宗助
     後 清友

人形役割
       
       早野勘平⇒和生
       千崎弥五郎⇒玉勢
       百姓与市兵衛⇒亀次
       斧定九郎⇒玉輝
       女房おかる⇒一輔
       与市兵衛女房⇒簑二郎
       一文字屋才兵衛⇒簑太郎
       原郷右衛門⇒玉也
       斧九大夫⇒勘壽
       鷺坂伴内⇒文司
       矢間十太郎⇒紋吉
       大星由良之助⇒勘十郎
       寺岡平右衛門⇒玉助
       大星力弥⇒玉翔
       遊女おかる⇒簑助

4月公演に続いて第2弾。今回は、五段目から七段目まで。

大序(一段目)から四段目までは、侍たちの四角四面の意地の張り合いのような物語だが、五段目〜六段目は、農家や商家の人々の人情話で、これがなかなか面白い。

五、六段目の主役は早野勘平(萱野三平重実がモデルと言われている。)だ。
彼氏、善良で忠義の男なのだが、ちょいとうっかりミスが多い。ほんのささいな失敗から不運が不運を呼んで、岳父を亡くし、恋女房は遊女に身売りし、挙句、自分は早まって腹を切ることになる。

ここは人間国宝に内定している咲太夫の名調子だったが、なんだか、一段とありがたく聴こえた。

おかるがその身を売られた後に、勘平が切腹をしたので、おかるはその事情を知らずに遊女として祇園「一力」で働いている。

七段目は、全段の中で、一番面白いかもしれない。
「一力」で放蕩を尽くす由良助の元に敵も味方も彼の本心を探りにくる。容易なことで内心を明かさない駆け引きがまずは面白い。

判官(内匠頭)の妻・顔世御前から由良助宛の密書を、ひょんなことからおかるは盗み見してしまう。それを知った由良助はおかるを身請けしてやるという。喜ぶおかるだが、おかるの兄・足軽の平右衛門は、それを聞いて由良助の仇討ちの決意を読み取り、おかるは密書を見た為に殺されるのだと説く。
驚くおかるに、亭主の勘平は切腹し、父親は殺されたことを伝え、「その命、兄にくれ!その命と引き換えに仇討ちの仲間に入れてもらえるよう嘆願する」と切りかかる。もはや、生きる希望を失ったおかるは兄の望みが叶うならと命を差し出すその刹那、陰で聞いていた由良助が平右衛門の覚悟のほどを知り、刀を納めさせ、平右衛門の仇討ち参加を許す。

と、ざっと書いたが、実際はこの段だけで1時間半もある。
いろんなエピソードがあって見どころ、聴きどころ満載。よくぞ、こんな面白い話を作ったものだと思う。

次回公演は11月だ。これで全段完了。また、行かねばなるまい。


♪2019-113/♪国立文楽劇場-2

2019年4月9日火曜日

国立文楽劇場開場35周年記念4月文楽公演 通し狂言「仮名手本忠臣蔵」第Ⅰ部

2019-04-09 @国立文楽劇場


国立文楽劇場開場35周年記念4月文楽公演
通し狂言「仮名手本忠臣蔵」(かなでほんちゅうしんぐら)
第Ⅰ部大序から四段目まで 4時間18分(正味3時間43分)

 大序
  鶴が岡兜改めの段
   碩太夫・亘太夫・小住太夫・咲寿太夫/
   清允・燕二郎・錦吾・清公
  恋歌の段
   津国太夫・南都太夫・文字栄太夫/
   團吾

 二段目
  桃井館力弥使者の段
   芳穂太夫/清丈
  本蔵松切の段
   三輪太夫/清友 

 
三段目
  下馬先進物の段
   小住太夫/寛太郎
  腰元おかる文使いの段
   希太夫/清馗
  殿中刃傷の段
   呂勢太夫/清治
  裏門の段
   睦太夫/勝平

  
四段目
   花籠の段
    文字久太夫改め豊竹藤太夫/團七
   塩谷判官切腹の段
    切:咲太夫/燕三
   城明渡しの段
    碩太夫/清允
◎人形
 勘十郎・和生・玉輝・文司・玉佳・簑助・玉男ほか

国立文楽劇場では「仮名手本忠臣蔵」を今年、春夏秋3季に分けて全段通し上演する。
2年半前の国立劇場での全段通しは2部構成1日公演だったが、今回は時間をかける分、国立文楽劇場としては初演となるの場面(桃井館力弥使者の段)の上演など、全段通しにふさわしく細部も忠実に公演するのは、本場大阪の矜持を感じて嬉しい。

Ⅰ部は全11段中大序から四段目・城明け渡しまで。
やはりこの最後の段は特別に厳粛だ。人の死がかくも丁寧・荘重に描かれる芝居は他に例がないのではないか?
主人の無念の切腹を受け、明け渡した城を後にする由良助は万感を胸に秘め、その想いは延々三味線だけで表されるが、最後に太夫が一声大きく「『はつた』と睨んで」と城を振り返る由良助の思いを叫んで幕となる。

心憎い幕切れである。

全体として、この話は、口にできぬ人の思いを阿吽の呼吸や腹で探り、受け止め、あるいは命に変えて伝えんとする、激しい情の交錯が見所だ。そのように受け止める時に、時代を超えて今にも通づる人の情けの美しさが胸を打つのだろう。

この後の段も楽しみだが果たして大阪まで遠征できるか。

余談:たこ焼き屋の隣の劇場はとてもナショナル・シアターとも思えぬ気取りの無さ。この味わいが嬉しいや。


♪2019-045/♪国立文楽劇場-1

2016年12月23日金曜日

国立劇場開場50周年記念 通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら) 第三部 四幕八場

2016-12-23 @国立劇場


竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら) 第三部 四幕八場
国立劇場美術係=美術

八段目   道行旅路の嫁入
九段目   山科閑居の場
十段目   天川屋義平内の場
十一段目 高家表門討入りの場
    同  広間の場
    同  奥庭泉水の場
    同  柴部屋本懐焼香の場
    花水橋引揚げの場


2日の初日鑑賞に続いて2回目だ。
前回は、めったにない事だけど、1階4列目中央やや上手寄りから観たが、今回は3階最前列席中央だったが、むしろこのチケット代の安い席の方が見通しが良くて楽しめた…ともいいきれないか。
なにしろ2回目なので筋が頭に入っているという利点もあったのだろう。
特に十一段目の高家表門の場では46名の居並ぶ迫力は高い場所から見下ろしていた方が迫力を感じた。

全3部を2回ずつ観て、この間に文楽版も観たのでいよいよ全篇が終わってしまうと寂しくもある。
単なる<仇討ち事件>を描くのではなく、殿様の短慮に巻き込まれた多くの、いろんな立場の人々の忠義やそれ故の悲劇を描く人間ドラマとなっているのが素晴らしく、良くできた話だと感心する。

この公演は当然録画は行われたはずだからNHKが放映してくれると嬉しいが、何しろ大長編であるから無理だろうな。

♪2016-183/♪国立劇場-010

2016年12月7日水曜日

国立劇場開場50周年記念12月文楽公演『通し狂言 仮名手本忠臣蔵』第二部

2016-12-07 @国立劇場


七段目   祇園一力茶屋の段
八段目   道行旅路の嫁入
九段目   雪転しの段・山科閑居の段
十段目   天河屋の段
十一段目 花水橋引揚の段

(主な出演者)
 豊竹咲太夫
 豊竹咲甫太夫
 鶴澤寛治
 鶴澤清治
 吉田簑助
 桐竹勘十郎
     ほか

第1部と第2部は、一応別の公演なので、記録上も2本に分けて書いておこう。

歌舞伎と文楽で「仮名手本忠臣蔵」を堪能したが、最初は子供の頃から映画やTVドラマで馴染んできた所謂「忠臣蔵」とは大きく異なる話なのに大いに驚いた。

「忠臣蔵」では主人公はほぼ由良助だが、「仮名手本忠臣蔵」ではむしろ加古川本蔵かもしれない。いや、おかると早野勘平も重要人物だ。そして平右衛門も捨てがたい…、などと思い起こしていると、本蔵の後妻戸無瀬も、娘小浪も、由良助の妻・お石もみんな魅力的だ。


人間的魅力に溢れた彼らの心根が絡み合いすれ違いがたくさんの悲劇を生み、それらを乗り越えた暁に本懐が待っているのだ。

彼らの心の有り様を紐解くことこそ仮名手本忠臣蔵の面白さだろうと思う。

文楽としての面白さは七段目にとりわけ心動かされた。
平右衛門が由良助の密書を読んでしまった妹おかるに斬りかかる場面だ。この場面だけ、義太夫、三味線の定位置である舞台上手側に客席に向かってはみ出すように設けられた「出語り床」とは別に舞台下手に「出床」が設けられて、そこで(無本で)語ったのが豊竹咲甫太夫だが、この人の語りはものすごい迫力で、義太夫という芸の面白さを十分に味わった。

余談:
歌舞伎では「塩冶判官」、「由良之助」、「鶴ヶ岡」、「天川屋」
文楽では「塩谷判官」、「由良助」、「鶴が岡」、「天河屋」と表記が異なるそうだ。

♪2016-170/♪国立劇場-11


国立劇場開場50周年記念12月文楽公演『通し狂言 仮名手本忠臣蔵』第一部

2016-12-07 @国立劇場


大 序   鶴が岡兜改めの段・恋歌の段
二段目   桃井館本蔵松切の段
三段目   下馬先進物の段・腰元おかる文使いの段・
      殿中刃傷の段・裏門の段
四段目   花籠の段・塩谷判官切腹の段・城明渡しの段
五段目   山崎街道出合いの段・二つ玉の段
六段目   身売りの段・早野勘平腹切の段

(主な出演者)
 豊竹咲太夫
 豊竹咲甫太夫
 鶴澤寛治
 鶴澤清治
 吉田簑助
 桐竹勘十郎
     ほか


大劇場で10月から3部構成・3か月連続で公演している歌舞伎版の原作である人形浄瑠璃版「仮名手本忠臣蔵」は小劇場で2部構成で上演された。

歌舞伎版があまりに素晴らしいので、元祖「仮名手本忠臣蔵」も観たくなって、文楽なるものを初めてナマで鑑賞した。
文楽版は2部構成で、しかも1日で2部とも上演するのでここは思い切って1日で「全段完全通し」を観た。


10時30分開演で終演が21時30分なので拘束時間が11時間。休憩や第1部と第2部との入れ替え時間に席を立ったが、10時間近く椅子に座っていた勘定だ。
本来は、第1部と第2部は別の日に観るのだろう。
現に、第1部で僕の周りに座っていた人は第2部ですっかり入れ替わった。両方の公演をぶっ通しで見るなんて狂気の沙汰かもしれない。

しかし、「全段完全通し」て良かった。
話の内容がよく分かる。
歌舞伎版を既に第1部から第3部まで(第2部までは2回ずつ)観ていたのですっかり話の筋は分かっていたつもりだったが、2度観ても(歌舞伎と文楽の演出の違いは別としても)細部に発見があった。
そして面白い。
ベンベンと打つように鳴らされる太棹三味線の音楽がいい。
太夫の義太夫節がとても迫力がある。
人形の動きも、しばらくして馴染んでくると人形とも思えない不思議な感興が湧いてく
る。

何より、「仮名手本忠臣蔵」というドラマの奥深さに一歩踏み分けたような気がした。

♪2016-170/♪国立劇場-10

2016年12月2日金曜日

国立劇場開場50周年記念 通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら) 第三部 四幕八場

2016-12-02 @国立劇場


竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら) 第三部 四幕八場
国立劇場美術係=美術

八段目   道行旅路の嫁入
九段目   山科閑居の場
十段目   天川屋義平内の場
十一段目 高家表門討入りの場
    同  広間の場
    同  奥庭泉水の場
    同  柴部屋本懐焼香の場
    花水橋引揚げの場

(主な配役)
【八段目】
本蔵妻戸無瀬⇒中村魁春
娘小浪⇒中村児太郎

【九段目】
加古川本蔵⇒松本幸四郎
妻戸無瀬⇒中村魁春
娘小浪⇒中村児太郎
一力女房お品⇒中村歌女之丞
由良之助妻お石⇒市川笑也
大星力弥⇒中村錦之助
大星由良之助⇒中村梅玉

【十段目】
天川屋義平⇒中村歌六
女房お園⇒市川高麗蔵
大鷲文吾⇒中村松江
竹森喜多八⇒坂東亀寿
千崎弥五郎⇒中村種之助
矢間重太郎⇒中村隼人
丁稚伊吾⇒澤村宗之助
医者太田了竹⇒松本錦吾
大星由良之助⇒中村梅玉

【十一段目】
大星由良之助⇒中村梅玉
大星力弥⇒中村米吉
寺岡平右衛門⇒中村錦之助
大鷲文吾⇒中村松江
竹森喜多八⇒坂東亀寿
千崎弥五郎⇒中村種之助
矢間重太郎⇒中村隼人
赤垣源蔵⇒市川男寅
茶道春斎⇒中村玉太郎
矢間喜兵衛⇒中村寿治郎
織部弥次兵衛⇒嵐橘三郎
織部安兵衛⇒澤村宗之助
高師泰⇒市川男女蔵
和久半太夫⇒片岡亀蔵
原郷右衛門⇒市川團蔵
小林平八郎⇒尾上松緑
桃井若狭之助⇒市川左團次
ほか


長大な芝居が遂に終わってしまった。
ま、今月中にもう一度観ることにしているけど、この先、<全段完全通し>は生きているうちには観られないだろうから良い経験ができた。

この芝居に関しては、第2部から(第1部も遡って)初めて台本を購入した。もちろん第3部も購入したので、今日は第3部の1回目でもあるので、台本と照らし合わせながら舞台を観たので非常に良く分かった。しかし、月内の次回鑑賞時は一切の解説本無しで舞台に集中しようと思う。

八段目道行は舞踊劇(竹本の伴奏による。セリフはない。)だが、加古川本蔵の妻(戸無瀬=魁春)と娘(小浪=児太郎)の東海道を京都山科にいる小浪の許嫁である力弥の屋敷までの嫁入りの旅で、不安な要素もないではないが全段中一番平和な話だ。
背景の景色が変化することで2人の道中が運んでゆくのが分かるようになっていて、他家の嫁入り行列なども紙人形で作ってあってユーモラスでもある。

九段目山科閑居の場では加古川本蔵の一家の物語が胸を熱くする。本蔵の幸四郎、由良之助の梅玉は芝居のタイプが全然違うけど、そんなことにはお構いなしが歌舞伎の面白さでもある。

由良之助の妻お石を演じた市川笑也という役者のことは全然知らなかった。多分、これまで一度も芝居を観たことがなかったのではないか。しかし、冷徹で筋目を通そうとする武士の妻お石を実に好演したと思う。厳しいばかりではなく、情の人でもあるところをさり気なく見せるところが良かった。今後楽しみな役者だ。
小浪は一部で米吉が演じて実に可愛らしかったので今回も力弥より小浪を演じたら良かったが、しかし、今回の児太郎の小浪も実に良かった。この人の芝居を始めていいと思ったよ。

講談・浪曲では「天野屋利兵衛は男でござる。」で知られる天川屋義平の十段目は筋に無理があるが、ここにも義理と人情の板挟みで苦しむ町人の物語が殺伐とした仇討ち物語に良い味付けではある。

いよいよ十一段目。
幕が開くと広い舞台に拵えられた高家の表門。その前に所狭しと46人の赤穂義士が居並ぶ様にまずは圧倒される。
こんなに大勢の役者が揃って同じ場面に立つという芝居がほかにあるだろうか。

このあとの討ち入りの様は、いわゆる歌舞伎風の踊りのような立ち回りではなく、時代劇映画の殺陣を観るようなかなりリアルな厳しいものなので驚いた。

ようやく師直の首を打ち取り、判官の位牌の前に供えた由良之助は、まずは師直に一矢を報いた矢間(やざま)重太郎(中村隼人)に手柄として最初の焼香を命ずる。次に足軽でありながらその忠義心から義士の連判状に名を連ねてもらった寺岡平右衛門(錦之助)に対し、勘平の遺した財布を手渡して妹婿の代わりに焼香させる。もう、ここでかなり目頭が熱くなる。

その後亡君の菩提寺まで引き揚げる途中の花水橋でそもそもこの事件の発端を作った若狭之助(左団次)に呼び止められ、あっぱれの本懐を讃えられ、義士の姓名を我が胸に刻みたいという申し出に応じて由良之助以下46人(これに勘平を加えて47士)が高らかに、誇らしげに名乗りを上げ、花道に消えてゆく。

芝居興行の世界では「忠臣蔵にはずれ無し」と言うそうだが、300年にわたって庶民に愛されてきたのもなるほ納得。いやはや面白い芝居をたっぷりと観せてもらった。

♪2016-166/♪国立劇場-09

2016年11月24日木曜日

国立劇場開場50周年記念 通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら) 第二部 四幕五場

2016-11-24 @国立劇場


平成28年度(第71回)文化庁芸術祭主催
竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)第二部四幕五場
国立劇場美術係=美術


浄瑠璃道行旅路の花聟   清元連中
五段目   山崎街道鉄砲渡しの場
        同二つ玉の場
六段目   与市兵衛内勘平腹切の場
七段目   祇園一力茶屋の場

(主な配役)⇒11/03のノート参照


3日に続いて2度めの鑑賞。筋はすっかり頭に入っているつもりだったけど、やはり1度目には見落としているものがあった。

芝居として重要なのは六段目と七段目だ。
五段目の暗闇の山中で勘平が撃ち殺したのは、おかるの父与市兵衛を惨殺して50両を奪った斧定九郎なので勘平は岳父の仇を討ったことにになるのだが、勘平には誰を猪と誤って撃ったのかが分からなかったことと斧定九郎が与市兵衛から奪った財布を、これで出世の手がかりができたと自分の懐に入れたことが災いしてまことに運悪く、彼が与市兵衛を殺し50両を奪ったと自分でも思い込み、回りからも責め立てられ、ついに自ら腹を切って落とし前をつける羽目に至る。
その直後、彼の無実は明らかになり晴れて討ち入りの連判状に名を連ねてもらうことができたが、時既に遅し。
僅かな手違いが運命の糸を縺れさせ思いもかけない大事に。ここがとてもドラマチックだ。

この勘平を菊五郎(七代目)が演ずるのだが、この一連の芝居には三代目菊五郎の型を基本に五代目菊五郎が完成した「音羽屋型」が踏襲されているそうだ。尤も他の型は観たことがないのでどんなものか分からないけど、まあ、緻密に手順が定められているのだろう。観客はそれを知る必要もないのだけど知ればさらに面白いだろう。

七段目。大星由良之助(吉右衛門)はこの段にしか登場しないが、なんといっても全段を通したらこの役こそ主役だろう。
しかし、七段目だけを観ると、ここで面白いのは遊女になっているおかる(雀右衛門。なお、冒頭の道行と六段目では<おかると勘平>は<菊之助と錦之助>。)とその兄の平右衛門(又五郎)の話だ。

足軽にすぎない平右衛門だが、なんとか討ち入りの仲間に入れてほしいと願い出るものの、敵を欺くために味方も欺いている由良之助には冷たくあしらわれてしまう。
ところが、おかるが由良之助への密書を盗み見したことから由良之助はおかるを身請けしてやろうという話になった。その次第をおかるから聞いた平右衛門はすべてを察し、妹を殺してまでも連判状に加えてもらおうとする。訳が分からないおかるに平右衛門は(六段目で描かれる)父・与市兵衛の死や夫・勘平の自決を説明することで、おかるは絶望し、いっそ兄の手にかかって死のうと覚悟を決める。
このドラマがとても観応えがあり、面白い。

又五郎と雀右衛門のともに涙を絞られるような哀切の芝居は由良之助の存在を食ってしまって七段目の主役のようでさえある。

第1部は武士の世界が描かれたが、第2部では元武士を含む庶民の人情物語だ。「仮名手本忠臣蔵」という大芝居の懐の深さとでも言うか、よくできた物語だと感心する。

♪2016-162/♪国立劇場-08