2016-11-24 @国立劇場
平成28年度(第71回)文化庁芸術祭主催
竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)第二部四幕五場
国立劇場美術係=美術
浄瑠璃道行旅路の花聟 清元連中
五段目 山崎街道鉄砲渡しの場
同二つ玉の場
六段目 与市兵衛内勘平腹切の場
七段目 祇園一力茶屋の場
(主な配役)⇒11/03のノート参照
3日に続いて2度めの鑑賞。筋はすっかり頭に入っているつもりだったけど、やはり1度目には見落としているものがあった。
芝居として重要なのは六段目と七段目だ。
五段目の暗闇の山中で勘平が撃ち殺したのは、おかるの父与市兵衛を惨殺して50両を奪った斧定九郎なので勘平は岳父の仇を討ったことにになるのだが、勘平には誰を猪と誤って撃ったのかが分からなかったことと斧定九郎が与市兵衛から奪った財布を、これで出世の手がかりができたと自分の懐に入れたことが災いしてまことに運悪く、彼が与市兵衛を殺し50両を奪ったと自分でも思い込み、回りからも責め立てられ、ついに自ら腹を切って落とし前をつける羽目に至る。
その直後、彼の無実は明らかになり晴れて討ち入りの連判状に名を連ねてもらうことができたが、時既に遅し。
僅かな手違いが運命の糸を縺れさせ思いもかけない大事に。ここがとてもドラマチックだ。
この勘平を菊五郎(七代目)が演ずるのだが、この一連の芝居には三代目菊五郎の型を基本に五代目菊五郎が完成した「音羽屋型」が踏襲されているそうだ。尤も他の型は観たことがないのでどんなものか分からないけど、まあ、緻密に手順が定められているのだろう。観客はそれを知る必要もないのだけど知ればさらに面白いだろう。
七段目。大星由良之助(吉右衛門)はこの段にしか登場しないが、なんといっても全段を通したらこの役こそ主役だろう。
しかし、七段目だけを観ると、ここで面白いのは遊女になっているおかる(雀右衛門。なお、冒頭の道行と六段目では<おかると勘平>は<菊之助と錦之助>。)とその兄の平右衛門(又五郎)の話だ。
足軽にすぎない平右衛門だが、なんとか討ち入りの仲間に入れてほしいと願い出るものの、敵を欺くために味方も欺いている由良之助には冷たくあしらわれてしまう。
ところが、おかるが由良之助への密書を盗み見したことから由良之助はおかるを身請けしてやろうという話になった。その次第をおかるから聞いた平右衛門はすべてを察し、妹を殺してまでも連判状に加えてもらおうとする。訳が分からないおかるに平右衛門は(六段目で描かれる)父・与市兵衛の死や夫・勘平の自決を説明することで、おかるは絶望し、いっそ兄の手にかかって死のうと覚悟を決める。
このドラマがとても観応えがあり、面白い。
又五郎と雀右衛門のともに涙を絞られるような哀切の芝居は由良之助の存在を食ってしまって七段目の主役のようでさえある。
第1部は武士の世界が描かれたが、第2部では元武士を含む庶民の人情物語だ。「仮名手本忠臣蔵」という大芝居の懐の深さとでも言うか、よくできた物語だと感心する。
♪2016-162/♪国立劇場-08