2016-11-28 @東京文化会館
大野和士:指揮
東京都交響楽団
ピエール=ロラン・エマール:ピアノ *
天羽明惠:ソプラノ **
ベルク:アルテンベルク歌曲集 op.4 **
ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲 ニ長調 *
マーラー:交響曲第4番 ト長調 **
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アンコール
ブーレーズ:ノタシオン Ⅷ~Ⅻ *
ベルクの「アルテンベルク歌曲集」は初聴き。こういう作品の存在も知らなかった。
全5曲で10分強。
作曲者のベルクと作品名が似ているのでちょっと混乱したが、同時代の詩人アルテンベルクの詩集「絵葉書の詩」の中の5篇に音楽をつけたものだそうだ。
ベルクについてはシェーンベルクの弟子筋に当たる無調の作曲家ということくらいしか知らないが、まさにこの曲は無調音楽だ。
大規模な管弦楽を伴奏にしたソプラノの独唱だが、訳が分からない。つまらない。まあ、なんとなく夢遊病者みたいな感覚は再現しているのだけど、こういうのが音楽といえるのか疑問が払拭できない。しかし、旋律らしい旋律もない、和声や調性の手がかりのない音の連続を「歌う」のは相当困難なことだろうとは思った。
まことに個人的な趣味で言えば、天羽明恵が本領を発揮したのは最後のマーラーの第4番の最終楽章だ。これは良かった。きれいな透き通るソプラノが朗々と響いた。
ラヴェルの「左手のためのピアノ協奏曲」は既に何度も聴いている。舘野泉の演奏も聴いた。
しかし、何度聴いても大いに疑問があって気分が乗れなかった。
不幸にして片手しか使えなくなったピアニストはまことに気の毒だが、ピアノという楽器はいうまでもなく両手で弾いてこそ本領を発揮する。私的な楽しみのために(片手のための作品を)作曲し、演奏するのはそれで良いとしても、両手が使えるピアニストがわざわざ片手を封じて演奏するというのはどう受け止めたらいいのだろう。
この日の演奏も、こういう懸念が解消された訳ではないが、しかし、演奏は良かった。
ピエール=ロラン・エマールについては、NHKクラシック倶楽部で放映されたリサイタルを聴いたが、どんなレベルなのか分からない。プログラムの解説によると「当代最高のピアニストの一人」と書いてあるが、まあ、こういう紹介は常套文句だからどのくらいすごいのかは分からない。
が、ピアノも都響の管弦楽も緻密にしてダイナミック。
片手のみということが信じられない超絶テクニック(これまでも聴いた演奏も当然そうだったが)に気持ち良くあっけにとられているうちに行進曲風のリズミカルな3連符が続くがここが単一楽章の第2部なのだろうか。その後の長いカデンツァも鳥肌モノだ(本当は良い意味で「鳥肌」は誤用らしいが、この際適切な語彙が思いつかない。)。激しさだけではなく、ここでピアノはたっぷりロマンチックだ。甘い夢をさまようがごとく。
そんな訳で、「左手の〜」に引っかかりを残しながらも、今回はじめてこの音楽が美しいと感じた。
マーラーも良かった。
オケの定期にマーラーは欠かせないので、これまでも色々聴いたが、どういう訳か第4番は聴いたという記録がないし、記憶もはっきりしない。たぶんナマで聴くのは初めてだったのかも。
CDなどでは特徴的な第1楽章の出だしからすっと入りやすいが、第3楽章がやたら長すぎる(全楽章中最長で22分位)という思いがあった。しかし、ナマで聴くとこれはこれで楽しいものだ。
都響はいつも安定感抜群で、このオケこそ「管弦楽」(正しくは「管弦打楽」か。)を感じさせてくれる。
マーラーのような大規模な管弦楽作品となると俄然巧さが際立つようだ。
♪2016-165/♪東京文化会館-09