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2024年12月17日火曜日

令和6年12月文楽公演 第二部

2024-12-17 @県立青少年センター



●第二部 (午後2時30分開演)
一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)
 熊谷桜の段
 熊谷陣屋の段

壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)
 阿古屋琴責の段 






2公演を1日で観たので文楽漬けだったが、全然没入できなかった。字幕がないから。

全作品、数回は鑑賞済みなのでどういう話かは分かっているが、念を入れた詞章を味わう楽しみは別次元だ。

字幕なしで江戸時代の大阪の言葉を、それも掛け言葉やしゃれ、語呂合わせをふんだんに使う言葉遊びの世界でもあるのに耳からだけで理解できる訳がない。

自分のスマホで字幕アプリが使えます、と
は国立劇場のホームページや会報「あぜくら」にも書いてある。

それは、通常の字幕のほかに使うこともできるという意味だと考えていた。それで一応アプリもDLしておいたが、使う気はなかった。

ところが、まさかの「字幕なし」だよ。

途中からやむを得ず「字幕アプリ」を使ってみたが見づらいこと甚だしい。遠い舞台と手元のスマホに焦点を合わせられるお客はどれだけいるか?ほとんど高齢者ばかりなのに。

有料プログラムもいつも買っているが、買いたくない人もいるだろう。それに、演出によっては(今日の第三部「曾根崎心中」のように)客電も落とした薄暗い中で読めたものではない。
字幕なしで文楽が楽しめる者がどれほどいるだろう?

漂流する国立劇場は、お客様サービスも考えられないほどの迷走ぶりだ。

十数年、あぜくら会会員として、国立の歌舞伎と文楽は余程のことがない限り欠かさず観て来たのに、次回以降も字幕なしではもう止めようかしらと思う。



♪2024-175/♪県立青少年センター-1

2024年2月6日火曜日

令和6年2月文楽公演第1部

2024-02-06 @日本青年館ホール



第一部 (12時開演〜14:20)
●二人三番叟 (ににんさんばそう)
  睦太夫・亘太夫・聖太夫/勝平・寛太郎・錦吾・清方

●仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)
 山崎街道出合いの段
   小住大夫/清馗 

 二つ玉の段
   希太夫/團七/胡弓:藤之亮

 身売りの段
   織太夫/藤蔵

 早野勘平腹切の段
 切 呂太夫/清介

 人形▶二番叟⇒紋吉
    三番叟⇒玉翔
    -----------------------------
    早野勘平⇒玉助
    千崎弥五郎⇒勘一
    斧定九郎⇒簑紫郎
    女房おかる⇒紋臣
    与市兵衛女房⇒簑二郎
    一文字屋才兵衛⇒簑一郎
    めっぽう弥八⇒玉征
    原郷右衛門⇒文司





昨年12月から文楽公演も漂流しているが、年が改まって初の「国立」文楽は、なんと「青年」の館に爺さん・婆さんたちが集まった次第。

おめでたの「三番叟」に続いて久しぶりの「忠臣蔵」から5段目、6段目の上演。
「二つ玉の段」は落語や最近では芝居でも取り上げられている中村仲蔵が、歌舞伎のこの段で今に伝わる工夫をしたことで有名だが、文楽でもおおよそ踏襲されている。

勘平が暗闇の中、猪と見間違って斧定九郎を撃ち殺し、懐の財布を持ち帰ったが為に狂い出した歯車。
真実は観客のみ知るが、義母も塩谷家中も本人さえも舅を殺して50両を奪ったと思い込み、遂に無念の切腹の悲劇に至る。
この辺の話の運びが、良くできていて、なんて、アナクロだよと思いつつも引き込まれてしまう。

♪2024-022/♪日本青年館ホール-1

2021年9月5日日曜日

国立劇場開場55周年記念 人形浄瑠璃文楽 令和3年9月公演第Ⅱ部

2021-09-05@国立劇場



●卅三間堂棟由来 (さんじゅうさんげんどうむなぎのゆらい)
 平太郎住家より木遣音頭の段
中 睦太夫/清志郎
切 咲太夫/燕三
奥 呂勢太夫/清治
人形 吉田和生・桐竹紋臣・吉田簑一郎・
   吉田簑二郎・吉田玉助・桐竹勘次郎

●日高川入相花王 (ひだかがわいりあいざくら)
 渡し場の段
三輪太夫・咲寿太夫/
碩太夫・聖太夫・團七・清𠀋・錦吾_清允・青方
人形 吉田清五郎・吉田勘市


機会の少ない文楽の前回公演を、コロナ拡大中につき弱気にも断念したので、2月公演以来の久しぶりの文楽観賞だった。
客席に座った時に、その場限りにせよ、日常が戻ったなあと嬉しくなった。

「卅三間堂棟由来」は文楽では始めての観賞だが、歌舞伎では数回観ている。

異類婚姻譚の一種。
柳の精・お柳は、平太郎と縁あって結ばれ、子(緑丸)を成す。
平和な暮らしも長くは続かず、ある日、白河法皇の病気平癒のため建てる三十三間堂の棟木に使う柳の大木が切り倒されることに。
その柳の木こそお柳その者なのだ。

切り倒されて都に運ばれる柳の大木は夫と緑丸が見送る場面で動かなくなる。

夫が歌う木遣音頭に合わせて緑丸が綱を曳くと、びくとも動かなかった柳が動き出す。
夫婦・母子の無念の別れが涙を誘う。

豊竹咲太夫・鶴澤清治・吉田和生の人間国宝トリオが結集して、何やらありがたい舞台ではあった。

♪2021-089/♪国立劇場-06

2021年2月17日水曜日

鶴澤清治文化功労者顕彰記念 人形浄瑠璃文楽 令和3年3月公演第Ⅱ部

 2021-02-17@国立劇場



曲輪文章 (くるわぶんしょう)*

 吉田屋の段

菅原伝授手習鑑 (すがわらでんじゅてならいかがみ)
 寺入りの段
 寺子屋の段

*「文章」は「文」+「章」の1文字

睦太夫/勝平/錦吾/咲太夫/織太夫/藤太夫/南都太夫/咲寿太夫/燕三/燕二郎
勘次郎/玉彦/勘助/勘壽/紋秀/紋吉/玉男/簑助/清十郎〜
-----------------------------------------------------
希太夫/清馗/呂太夫/清介/藤太夫/清友
清之助/玉翔/清五郎/簑二郎/蓑之/簑太郎/玉也/玉輝/玉助/玉誉〜


2本立て。

最初は「曲輪文章(くるわぶんしょう)」。

正確には「文」と「章」はへんとつくりで1文字で表されるが、そんなフォントはない。

因みに同じ話を歌舞伎では「廓文章」と書く。


なんで無理やり作った文字を使うのか?
調べたら、どうやら験担ぎらしい。
3文字(奇数)にする為のようだ。

そういえば、他の演目は全て字数が奇数だ。

そして、題名にはほとんど仮名を使わないにもかかわらず「冥途の飛脚」などは「冥土飛脚」で良さそうなものだが、それでは偶数なので敢えて「の」を入れて5文字にしている。

偶数は2で割れるので席を割るに繋がり、これを嫌うのだそうだ。



遊女夕霧に入れ込んだ大家の若旦那・伊左衛門は法外な借金を拵えた挙句勘当される。
落ちぶれてなお未練な夕霧に会いに恥を忍んで吉田屋へ。

1年ぶりの再会に夕霧は喜ぶも、伊左衛門は不貞腐れ、拗ねて、甘えて、え〜いあほらしや!

1時間ほどの短い話だが太夫が6人で登場人物を語り分ける様は豪華なこと。



2本目はお馴染み「菅原伝授手習鑑」から「寺入り」、「寺子屋」の段。

本心を偽って敵方に仕えた松王丸とその妻の、これほど残酷なことが他にあろうかという極大悲劇。

息子の亡骸をいろは歌に擬えた名文句で野辺の送り(いろは送り)は何度観ても聴いても、突き刺さる。


♪2021-012/♪国立劇場-01

2019年12月13日金曜日

人形浄瑠璃文楽令和元年12月公演「一谷嫰軍記」

2019-12-13 @国立劇場


一谷嫰軍記(いちのたにふたばぐんき)
 陣門の段
  小次郎⇒咲寿太夫
  平山⇒小住太夫
  熊谷⇒亘太夫
  軍兵⇒碩太夫
  宗助
 須磨浦の段
  希太夫/勝平
 組討の段
  睦太夫/清友
 熊谷桜の段
  芳穂太夫/藤蔵
 熊谷陣屋の段
  前:織太夫/燕三
  後:靖太夫/錦糸

人形役割
 小次郎直家(敦盛)⇒一輔
 平山武者所⇒玉翔
 次郎直実⇒玉助
 玉織姫⇒簑紫郎
 遠見の敦盛⇒簑之
 遠見の熊谷⇒和馬
 妻相模⇒勘彌
 堤軍次⇒玉誉
 藤の局⇒簑二郎
 梶原平次景高⇒紋吉
 石屋弥陀六実は弥平兵衛宗清⇒文司
 源義経⇒玉佳
     ほか

今回の上演は全段ではなくかなり切り詰められているようだ。歌舞伎と駒之助の素浄瑠璃を経験しているがいずれも「熊谷陣屋」しか演らなかったので今回初めて全体の輪郭を理解できた。そして自分の勉強不足に呆れるが、かくも壮大なトリックが仕掛けられているとは!

歌舞伎・文楽の時代物では我が子を犠牲にする話が珍しくはない。菅原伝授手習鑑や伽羅先代萩など。一谷嫰軍記も同様な話だが「熊谷陣屋」だけを観ても、首の入れ替えは既になされているので、違和感が無いのだが、前段の陣門・須磨の浦・組討の段から順に見ていると見事に騙されていたのが分かる。

いや、騙されるのは無理はない。いくらなんでも話に無理がある。
「熊谷陣屋」だけが際立って上演機会が多いのは全段中一番面白いから、という理由だけではなさそうな気がした。
初演は約270年前だそうだが、そんな昔に…よくぞかくも大胆な筋立てを考えたものだ。

Aクリスティの「アクロイド殺人事件」は「一谷嫰軍記」にヒントを得たのでは…いや、さすがにそれはないな。

一方で、これまで「熊谷陣屋」をいかにボーッと観ていたか、恥ずかしくなった。
手元に当代芝翫襲名の際の「熊谷陣屋」のビデオがあるので、年末年始にじっくり観直してみよう。

♪2019-204/♪国立劇場-17

2019年11月20日水曜日

国立文楽劇場開場35周年記念11月文楽公演 第1部「心中天網島」

2019-11-20 @国立文楽劇場


心中天網島(しんじゅうてんのあみじま)
 北新地河庄の段
  織太夫/清介
  呂勢太夫/清治
 天満紙屋内の段
  希太夫/清馗
  呂太夫/團七
 大和屋の段
  咲太夫/燕三
 道行名残の橋づくし
  三輪太夫・睦太夫・靖太夫・小住太夫・
  文字栄太夫/ 
  清友・團吾・友之助・清公・清允

 人形役割
  紀伊国屋小春⇒簑二郎
  粉屋(こや)孫右衛門⇒玉助
  紙屋治兵衛⇒勘十郎
  女房おさん⇒清十郎
         ほか

「心中天網島」は9月に東京で観たばかりだが、せっかく大阪に行くのだからこちらも鑑賞。

演者が少し変わった。
東京では小春を和生が遣ったが大阪では河庄の前後半で簑二郎・簑助が勤めた。
太夫・三味線も変わったが河庄奥の呂勢太夫・清治、天満紙屋奥の呂太夫・団七、大和屋切の咲太夫・燕三といった重要な場面は同じ配役だった。

唯一人の切り場語り咲太夫は何度も聴いているけど、この秋、人間国宝に指定されてからは初めてということになる。ますます、ありがたみが増したような…。

甲斐性なしの紙屋治兵衛28歳。
惚れてしまった遊女小春18歳。
いずれも数えだから現代風ではもうちょっと幼い。
巻き込まれた女房おさんこそ大迷惑。

治兵衛らに同情はできないが、その心中場面。
先に殺めた小春から抜き取った真っ赤な帯揚げ?で首を括る治兵衛。
この絵の美しさが哀れを引き立たせる。

咲太夫
♪2019-183/♪国立文楽劇場-4

2019年9月21日土曜日

人形浄瑠璃文楽令和元年09月公演 第2部

2019-09-21 @国立劇場


嬢景清八嶋日記(むすめかげきよやしまにっき)
 花菱屋の段
  織太夫/清介
 日向嶋の段
  千歳太夫/富助

 人形役割
  花菱屋女房⇒文昇
  花菱屋長⇒玉輝
  肝煎左治太夫⇒簑二郎
  娘糸滝(花菱屋)⇒簑紫郎
  悪七兵衛景清⇒玉男
  娘糸滝(日向嶋)⇒簑助
    ほか

艶容女舞衣(はですがたおんなまいぎぬ)
 酒屋の段
  靖太夫/錦糸
  藤太夫/清友
  津駒太夫/藤蔵
 道行霜夜の千日
  睦太夫・南都太夫・咲寿太夫・
  碩太夫・文字栄太夫/
  勝平・清馗・友之助・清公・清允

 人形役割
  半兵衛女房⇒簑一郎
  美濃屋三勝⇒一輔
  舅半兵衛⇒玉志
  親宗岸や玉也
  嫁お園⇒清十郎
  茜屋半七⇒玉助
    ほか

①嬢景清八嶋日記(むすめかげきよやしまにっき)
忠義一徹が仇で日向嶋に流された平家の武将・景清の元に父の仕官の費用を持参する娘糸滝との再会。しかし景清は武士の矜持が邪魔をして娘を蹴散らすように追い返す。

後で、そのお金は我が身を売って拵えたものであると知り既に岸を離れた糸滝の船に向かって「ヤレその子は売るまじ。娘よ、船よ返せ、戻せ」と慟哭。

このくだり、千歳大夫の叫びとも聞こえる渾身の義太夫が日本人DNAを鷲掴みにして胸を締め付ける(日向嶋の段)。

前段の「花菱屋の段」も、身を売らなければならなくなった糸滝の話に、店の面々が厚い情愛を寄せるところが、これまた胸が熱くなる。

②艶容女舞衣(はですがたおんなまいぎぬ)
茜屋の若主人半七は女房お園を迎える前から芸者三勝に入れ上げ子供まで設けていたが、ひょんなことから恋敵を殺してしまう。その罪を被った父半兵衛、心ならずも離縁されたお園、行き詰まった半七と三勝は我が子をそっと半兵衛らに託し、霜の夜、自害する。

冒頭「酒屋の段」。店の留守を任された丁稚の能天気さ。そこに酒を買いに来た子連れの女。頼まれて酒を運んでやる丁稚。この謎めいた場面から始まる。

半兵衛が代官所から戻り、丁稚がなぜか子供を背負って店に戻る。そこに離縁されたお園が父親とともに茜屋を訪ねてから話は急展開し、引き込まれる。

ただ、この時点でも半七・三勝は登場しないというのが凝った作劇で面白い。

実話に基づいているというが、誰一人真の悪人はいないのに、歯車が少し欠けたか、登場人物の人生を狂わせてゆく人間の情のおかしさ。

♪2019-143/♪国立劇場-12

2019年8月1日木曜日

国立文楽劇場開場35周年記念夏休み文楽特別公演 通し狂言「仮名手本忠臣蔵」第Ⅰ部

2019-08-01 @国立文楽劇場


通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)五段目から七段目まで 
4時間18分(正味3時間33分)

 五段目 山崎街道出合いの段
                      小住大夫・勝平 
     二つ玉の段
       靖太夫・錦糸・燕二郎
 六段目 身売りの段
       咲太夫・燕三
            早野勘平腹切の段
       呂勢太夫・清治
 七段目 祇園一力茶屋の段

       由良助⇒呂太夫
       力弥⇒咲寿太夫
                     十太郎⇒津国太夫
       喜多八⇒文字栄大夫
       弥五郎⇒芳穂太夫
       仲居⇒亘太夫
       おかる⇒津駒太夫
       仲居⇒碩太夫
       一力亭主⇒南都太夫
       伴内⇒希太夫
       九太夫⇒三輪太夫
       平右衛門⇒藤太夫
     前 宗助
     後 清友

人形役割
       
       早野勘平⇒和生
       千崎弥五郎⇒玉勢
       百姓与市兵衛⇒亀次
       斧定九郎⇒玉輝
       女房おかる⇒一輔
       与市兵衛女房⇒簑二郎
       一文字屋才兵衛⇒簑太郎
       原郷右衛門⇒玉也
       斧九大夫⇒勘壽
       鷺坂伴内⇒文司
       矢間十太郎⇒紋吉
       大星由良之助⇒勘十郎
       寺岡平右衛門⇒玉助
       大星力弥⇒玉翔
       遊女おかる⇒簑助

4月公演に続いて第2弾。今回は、五段目から七段目まで。

大序(一段目)から四段目までは、侍たちの四角四面の意地の張り合いのような物語だが、五段目〜六段目は、農家や商家の人々の人情話で、これがなかなか面白い。

五、六段目の主役は早野勘平(萱野三平重実がモデルと言われている。)だ。
彼氏、善良で忠義の男なのだが、ちょいとうっかりミスが多い。ほんのささいな失敗から不運が不運を呼んで、岳父を亡くし、恋女房は遊女に身売りし、挙句、自分は早まって腹を切ることになる。

ここは人間国宝に内定している咲太夫の名調子だったが、なんだか、一段とありがたく聴こえた。

おかるがその身を売られた後に、勘平が切腹をしたので、おかるはその事情を知らずに遊女として祇園「一力」で働いている。

七段目は、全段の中で、一番面白いかもしれない。
「一力」で放蕩を尽くす由良助の元に敵も味方も彼の本心を探りにくる。容易なことで内心を明かさない駆け引きがまずは面白い。

判官(内匠頭)の妻・顔世御前から由良助宛の密書を、ひょんなことからおかるは盗み見してしまう。それを知った由良助はおかるを身請けしてやるという。喜ぶおかるだが、おかるの兄・足軽の平右衛門は、それを聞いて由良助の仇討ちの決意を読み取り、おかるは密書を見た為に殺されるのだと説く。
驚くおかるに、亭主の勘平は切腹し、父親は殺されたことを伝え、「その命、兄にくれ!その命と引き換えに仇討ちの仲間に入れてもらえるよう嘆願する」と切りかかる。もはや、生きる希望を失ったおかるは兄の望みが叶うならと命を差し出すその刹那、陰で聞いていた由良助が平右衛門の覚悟のほどを知り、刀を納めさせ、平右衛門の仇討ち参加を許す。

と、ざっと書いたが、実際はこの段だけで1時間半もある。
いろんなエピソードがあって見どころ、聴きどころ満載。よくぞ、こんな面白い話を作ったものだと思う。

次回公演は11月だ。これで全段完了。また、行かねばなるまい。


♪2019-113/♪国立文楽劇場-2

2019年5月16日木曜日

国立文楽劇場開場35周年記念 人形浄瑠璃文楽05月公演 通し狂言「妹背山婦女庭訓」第1部

2019-05-16 @国立劇場


通し狂言「妹背山婦女庭訓」(いもせやまおんなていきん)

●第一部(午前10時30分開演)
 大   序
  大内の段
   碩太夫・亘太夫・小住太夫・咲寿太夫/
   清允・燕二郎・錦吾・清公
      小松原の段
   芳穂太夫・咲寿太夫・南都太夫・
   文字栄太夫・津国太夫/團吾
      蝦夷子館の段
   口:亘太夫/清公
   奥:三輪太夫/清友

 二段目
  猿沢池の段
   希太夫/友之助
      鹿殺しの段
   碩太夫/錦吾
      掛乞の段
   睦太夫/寛太郎
      万歳の段
   織太夫/清志郎・清允
      芝六忠義の段
   切:咲太夫/燕三

 三段目
  太宰館の段
   靖太夫/錦糸
     
人形▶玉佳・玉勢・紋臣・簑太郎・玉助・簑紫郎
   玉男・文司・清十郎・玉也・勘次郎・
   簑二郎・和馬・勘十郎・ほか

今月は、国立文楽劇場会場35周年の記念であり、令和に改元後最初の公演ということもあってか、日本で初めて元号が定められた「大化の改新」を題材にした超大作が、昼夜2部に及ぶ通し狂言として上演された。
第1部は10時半から。第2部終演は21時という時間割だが、これだけ長いと日を分けて鑑賞するのが普通だと思うが、今月はやたら忙しいので、1日で一挙に観てしまうことにした。もちろん幕間はあるし、1部終演後2部開演までにもお客の入れ替えの時間があるが、入館してしまえば出るまで拘束10時間半だ。
これはかなり体力が必要で、若干、不安もあったが、始まってみると実に面白くて、疲労など全然感じるどころではなかった。

この演目は、初めての鑑賞だ。およその筋書きは頭に入っていたが、まあ、登場人物が多く、最初のうちはなかなか彼らの関係性が飲み込めず、買ったプログラムの「人物相関図」などをチラチラ見ながら、なんとかついてゆくという感じだった。

ややこしいのは人間関係だけではなく、そもそもの筋書きがもう破天荒なのだ。
中大兄皇子(天智天皇)、藤原(中臣)鎌足側と、蘇我蝦夷・入鹿親子側との権力争いが大筋である(こういう狂言を「王代物」というらしい。)が、タイトルからしても違和感があるように、途中では室町か鎌倉の時代物風になったり、さらには江戸時代の世話物の様な話も加わり、元の大筋はだんだんとボケてゆき、まるで違う話が2つ3つ合わさっているようだ。

まあ、面白ければなんでもあり、という文楽・歌舞伎の庶民芸能の面目躍如だ。

第1部では文楽版ロメオとジュリエットとも言える久我之助(こがのすけ)と雛鳥の出会いを描く「小松原の段」、天智帝やその部下が大納言兼秋らが匿われているあばら家に掛け取りに来た商人とのトンチンカンなやりとりを描く「掛乞いの段」、親子の犠牲を描く「芝六忠義の段」が印象的だった。

♪2019-064/♪国立劇場-06

2019年2月2日土曜日

人形浄瑠璃文楽平成31年02月公演 第3部

2019-02-02 @国立劇場


第三部
鶊山姫捨松(ひばりやまひめすてのまつ)
 中将姫雪責の段
     前⇒  靖太夫/錦糸
     奥⇒  千歳太夫/富助
     胡弓⇒    錦吾

  人形▶紋臣・一輔・二郎・文哉・紋秀・清五郎・簑助・玉也

壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)
 阿古屋琴責の段
     阿古屋⇒ 津駒太夫
     重忠⇒  織太夫
     岩永⇒       津國太夫
     榛沢⇒       小住太夫
     水奴⇒       碩太夫
          清助
     ツレ⇒       清志郎
     三曲⇒       寛太郎

  人形▶玉助・文司・玉翔・勘十郎・勘助・玉路・和馬・簑之

Ⅰ部、Ⅱ部は後日に回して。
Ⅲ部は「鶊山(ひばりやま)姫捨松」中将姫雪責の段と「壇浦兜軍記」阿古屋琴責の段。
2本とも若い女性が責められまくる話って、ちょっと興奮させる?
後者は歌舞伎の玉三郎で観たが人形では初めて。前者は歌舞伎も知らない。

「鶊山姫捨松」では、権力闘争の煽りを食って、無実の中将姫が雪の舞う庭で、継母岩根御前による殺害目的の折檻を受ける場面=雪責めがメインだ。

打掛を剥がされ竹刀でさんざの打擲に苦しむ姿を、豊澤富助の三味線に乗せ竹本千歳太夫が振り絞るように語り、人間国宝吉田簑助が人形に命を吹き込む。

「壇浦兜軍記」は傾城阿古屋が、源氏方代官重忠と岩永から、彼女が馴染みだった平家の重臣・景清の行方を聞き出そうと拷問を受ける一幕だ。
逸(はや)る岩永を制して冷静な重忠は阿古屋に琴・三味線・胡弓を弾かせその調子で阿古屋の本心を探ろうとする。
歌舞伎では一人の役者が3種を操る処が見どころ。

文楽でも同様だが、ここでは人に操られる人形が演奏するフリをするという屈折した面白さがある。
楽器の実演は三味線方(鶴澤寛太郎の見事な演奏)が担うが、それに合わせて、さも演奏しているかのようにピタッと合わせて阿古屋を遣うのが桐竹勘十郎の名人芸。見事でありおかしくもある。

観客は、寛太郎の演奏を横目で見ながら勘十郎が遣う人形のフリを同時に見るので、撥・弓・指遣いの微妙な仕草までシンクロするのがよく分かって只管感心するが、舞台上の憎まれ役岩永も阿古屋の名演につい惹き込まれる様子も傑作で、場内は笑い声が広がる。津駒太夫・織太夫らも名調子。

阿古屋琴責めでは中将姫雪責めと違って、三味線方も太夫も大勢で人形を演じ分け、責めるといってもこちらは優雅なもので傾城の見事な衣装も楽しめるし、賑やかで、おかしくてホンに楽しい一幕ではあった。

♪2019-010/♪国立劇場-02

2018年12月9日日曜日

人形浄瑠璃文楽平成30年12月公演「鎌倉三代記」ほか

2018-12-09 @国立劇場


鎌倉三代記(かまくらさんだいき)
     局使者の段⇒希太夫/清馗
     米洗いの段⇒靖太夫/錦糸
     三浦之助母別れの段⇒文字久太夫/藤蔵
     高綱物語の段⇒織太夫/清介
  人形▶和生・簑一郎・紋臣・紋秀・紋吉・勘彌・玉志・玉助・文哉

伊達娘恋緋鹿子(だてむすめこいのひがのこ)
     八百屋内の段⇒津駒太夫/宗助
     火の見櫓の段⇒芳穂太夫・南都太夫・亘太夫・碩太夫/
            勝平・清公・錦吾・燕二郎
  人形▶玉勢・簑紫郎・一輔・勘市・亀次・玉翔・勘助・玉路

「鎌倉三代記」と「伊達娘恋緋鹿子」2本立て。

前者は、これまで歌舞伎で数回観ているが、歌舞伎ではもっぱら「絹川村閑居の場」のみが上演される。

今回の文楽公演では「絹川村〜」という名の「段」はないのだが、「三浦之助母別れの段」と「高綱物語の段」がそれに相当するのではないか、と観たがどうだか、確かなことは分からない。
いずれにせよ、この二段が話の中核だ。
だが、話の内容が結構複雑なことと、愛や忠義の為の究極の選択に素直な感情移入が難しい。

後者はまったくの初見。
所謂「八百屋お七」の物語だが、その「火の見櫓の段」こそ見もの。白黒世界に雪が舞い赤い振袖長襦袢。お七が梯を登るところが刮目の一工夫。火炙り覚悟の半鐘打ちの壮烈で美しいこと。


♪2018-166/♪国立劇場-18

2018年9月10日月曜日

人形浄瑠璃文楽平成30年9月公演 第1部「良弁杉由来」、「増補忠臣蔵」

2018-09-10 @国立劇場


<明治150年記念>
南都二月堂
●良弁杉由来(ろうべんすぎのゆらい)
 志賀の里の段
  睦太夫・小住太夫/鶴澤清友
 桜の宮物狂いの段
  津駒太夫・津國太夫・芳穂太夫・咲寿太夫/鶴澤藤蔵・ 
  清馗・寛太郎・清公・清允
 東大寺の段
  靖太夫・野澤錦糸
 二月堂の段
  千歳太夫・豊澤富助
◎人形⇒吉田和生・桐竹紋臣・吉田玉男

●増補忠臣蔵(ぞうほちゅうしんぐら)
 本蔵下屋敷の段
  呂太夫・咲太夫/竹澤團七・鶴澤燕三・燕二郎
◎人形⇒吉田玉佳・吉田玉志・吉田玉助・吉田一輔

1日で第1部と第2部を通して観た。歌舞伎座で昼の部と夜の部を通して見るようなものだ。11時から20時34分まで。もちろん数回の休憩と入れ替えの時間があるが、それらを含めて9時間34分も小劇場の椅子に座っていたことになる。

2部の「夏祭浪花鑑」については興行が別なので感想も別に書いたが、これは消化不良だった。

それに対比して、第1部の2本*はいずれも初見だったにもかかわらず、ほぼ完全消化できた。そしていずれも大いに楽しめた。

●「良弁杉由来」は、幼い子どもを鷲に攫われた渚の方が悲しみのあまり狂女となって30年。乗り合わせた船の中で東大寺の良弁上人が幼い頃鷲にさらわれたという噂を聞き、訪ねた二月堂で親子念願の再会を果たす。
「志賀の里の段」での大鷲の仕掛け、「桜の宮物狂いの段」では桜の花盛りの中、シャボン玉も登場して笑いを誘う。その華やかさの一方でやつれ果てた狂女のが川面に写った自分の姿を見て30年間失っていた正気を取り戻す。
「二月堂の段」では書割とはいえ、二月堂の威容が見事だ。感動的な名乗り合いと再会の前に、良弁の登場の先触れに登場する奴たちが長い槍を放り投げては受け取るというアクロバティックな見どころも用意されていて心憎い。
この段では千歳太夫の渾身の語りが観る者、聴く者の心を揺り動かした。

●「増補忠臣蔵」は「仮名手本忠臣蔵」の外伝の一つで、有名な九段目「山科閑居の場」の前日譚だ。
本篇(仮名手本〜)では家老加古川本蔵の主人、桃井若狭之助は短慮で直情径行な若殿という扱いになっているが、この増補版では本蔵の心情を良く理解し、本蔵の決死の覚悟を知って見送る英邁な若殿様に成長している。
後日にできた前日譚だろうが、この話を知ることで、本篇九段目に本蔵が虚無僧姿で山科の由良助の閑居を訪れること、高師直の屋敷の図面を持っていることなどが、ピシャリと嵌ってなるほどと思う訳だ。

主従の絆や親子の情愛がとても分り易く表現されて面白い。
この演目で、「前」の太夫は呂太夫(三味線は團七)、「切」は唯一の切場語りである咲太夫(〃燕三)という豪華版でしっとりと聞かせてくれた。

*第1部は「明治150年記念」という冠がついているが、2本とも明治期に初演された演目だ。

♪2018-109/♪国立劇場-12