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2023年7月19日水曜日

未来へつなぐ国立劇場プロジェクト 初代国立劇場さよなら公演 令和5年7月歌舞伎鑑賞教室(第107回歌舞伎鑑賞教室) 『双蝶々曲輪日記-引窓-』

2023-06-10 @国立劇場



●解説「歌舞伎のみかた」
 澤村宗之助
 坂東やゑ亮
 中村橋三郎
 中村翫延

●『双蝶々曲輪日記-引窓-』
南与兵衛後ニ南方十次兵衛⇒中村芝翫
女房お早⇒市川高麗蔵
平岡丹平⇒中村松江
三原伝造⇒坂東彦三郎
母お幸⇒中村梅花
濡髪長五郎⇒中村錦之助
        ほか


本来は長い話で、その通し狂言も随分前に観たが筋はさっぱり覚えていない。しかし、「引窓」の1幕だけは独立して上演される機会が多いので、何度か観ている。よくできた話だ。

訳あって人を殺めた関取・濡髪が追手に捕まる前に、密かに再婚した母お幸に会いに来るが、お幸の再婚相手の義理の息子十次兵衛は皮肉にも十手持ちだった。

十次兵衛は父の亡き後代官の跡目を告げずに悶々としていたところ、今日は、ようやくにして代官に就任の命が下って親子夫婦ともども大喜び。
そんな時に、既に人相書きが出回り追い詰められた濡髪が登場するのだ。

もはやこれまでと覚悟を決めた濡髪を母親お幸が引窓の縄で縛る。

早速の大手柄を挙げることになった十次兵衛だが、濡髪が義母の実子と知って、縄を切り逃してやるのだった。

その日は、折しも生き物を放つ「放生会」の夜だった。

…見事にまとまった人情話である。

引窓なんて見たこともないが、引窓を開けて中秋の満月でも見たいものだ。

♪2023-125/♪国立劇場-08

2022年7月8日金曜日

7月歌舞伎鑑賞教室(第102回 歌舞伎鑑賞教室)

2022-07-08 @国立劇場


解説 歌舞伎のみかた

河竹黙阿弥=作
新歌舞伎十八番の内
『紅葉狩』(もみじがり)
常磐津連中/竹本連中/長唄連中
国立劇場美術係=美術

●「解説 歌舞伎のみかた」
 解説 中村萬太郎/尾上緑

●『紅葉狩』
余吾将軍平維茂⇒尾上松緑
更科姫実ハ戸隠山の鬼女⇒中村梅枝
侍女野菊⇒中村玉太郎
従者左源太⇒尾上左近
従者右源太⇒坂東亀蔵/中村萬太郎
山神⇒中村萬太郎/坂東亀蔵
局田毎⇒市川高麗蔵
        ほか


今日は社会人の為の鑑賞教室で19時の開演。昼間の高校生相手の鑑賞教室に付き物のピチピチギャルなどは全然いない。寧ろ和服のお姐さんが多かった。

2階最前列に好みの席が取れなかったので、珍しく1階席のそれも花道のすぐ右側に座った。ミーハーのおばちゃんたちの大好きな席だ。手を伸ばせば、役者に触れそう。
尤も、結果的には(本来なら一番高価な席だけど)前の席に戸隠の鬼みたいにデカいのが鎮座ましまして視界すこぶる悪い。やはり歌舞伎は2階最前列がいい。

社会人の為、という触れ込みだし、開演時刻が遅いという事もあってか、ほぼ満席状態だった。

「紅葉狩」は亜流も含めると3回目なのだけど、恥ずかしながら、全く何にも記憶にございません…でした。

簡単な歌舞伎解説があって、愈々開演すると舞台は見事な紅葉の満開だ。これほど派手な舞台は珍しい。
そして普通は御簾の中で演奏する竹本(義太夫節)などの音曲が表舞台にズラリと並んだ。常磐津連中、竹本連中、長唄連中と賑やかなこと(三方掛合というらしい。)。

ということは、芝居の方も舞踊主体だ。

しかし、終盤は、梅枝扮するの更科姫が誠に恐ろしい面構えの戸隠山の鬼女に変化し、松緑の平維茂と激しく切り結ぶという見どころもあり、勝負が付かないまま双方睨み合って見得を切って終わる。

いつもお姫様の梅枝の不気味な隈取りをした鬼の姿と舞台ではまず聞けない本来の男の地声が怖かったな。

♪2022-099/♪国立劇場-06

2021年7月5日月曜日

7月歌舞伎鑑賞教室(第100回 歌舞伎鑑賞教室)

2021-07-05 @国立劇場


解説 歌舞伎のみかた

竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)一幕
  国立劇場美術係=美術

  河連法眼館(かわつらほうげんやかた)の場


●「解説 歌舞伎のみかた」
解説                             
 中村種之助

●『義経千本桜』
佐藤忠信/源九郎狐       中村又五郎
駿河次郎                         中村
松江
亀井六郎                         中村種之助
法眼妻飛鳥                     中村梅花
河連法眼                         嵐橘三郎
源義経                            中村歌昇
静御前                            市川高麗蔵
                                              ほか


そもそも中高生の団体鑑賞の為の公演だが、内容は手抜きなしの本物だ。

好きな席が取りづらいのは止むを得ない。今回は2階の4列目。なのに、単眼鏡を忘れたのは残念。


解説は先月に続いて種之助。巧い。

今回は本編の内容にかなり入り込んだ説明だった 。


「義経千本桜」という長い物語の一場だけを上演するので、先立つ事情などを説明したのは良かった。

「河連法眼館(かわつらほうげんやかた)の場」は何度も観ているが、この芝居の面白さは、早変わりなどの見せ場もあるけど、400歳!の「子狐」の演技で親子の情愛を表現するところで、歌舞伎入門には良いが、さりとて簡単に卒業できる演目でもないなと思う。


♪2021-068/♪国立劇場-05

2019年12月4日水曜日

12月歌舞伎公演「近江源氏先陣館―盛綱陣屋―」/「蝙蝠の安さん」

2019-12-04 @国立劇場


①近松半二=作
『近江源氏先陣館』(おうみげんじせんじんやかた)
「盛綱陣屋」(もりつなじんや)一幕
        国立劇場美術係=美術

佐々木三郎兵衛盛綱⇒松本白鸚
高綱妻篝火⇒中村魁春
信楽太郎⇒松本幸四郎
盛綱妻早瀬⇒市川高麗蔵
後室微妙⇒上村吉弥
四天王⇒澤村宗之助
四天王⇒大谷廣太郎
竹下孫八⇒松本錦吾
伊吹藤太⇒市川猿弥
和田兵衛秀盛⇒坂東彌十郎
古郡新左衛門⇒大谷友右衛門
北條時政⇒坂東楽善
                      ほか

②チャールズ・チャップリン生誕130年
チャールズ・チャップリン=原作『街の灯』より
木村錦花=脚色
国立劇場文芸研究会=補綴
大野裕之=脚本考証
大和田文雄=演出
『蝙蝠の安さん』 (こうもりのやすさん)
    国立劇場美術係=美術

蝙蝠の安さん⇒松本幸四郎
花売り娘お花⇒坂東新悟
上総屋新兵衛⇒市川猿弥
井筒屋又三郎⇒大谷廣太郎
海松杭の松さん⇒澤村宗之助
お花の母おさき⇒上村吉弥
大家勘兵衛⇒大谷友右衛門
                                  ほか

高麗屋一門による「近江源氏先陣館―盛綱陣屋―」/「蝙蝠の安さん」。国立にしては珍しい2本立て。
「盛綱陣屋」はいかにも義太夫歌舞伎らしい本格派。
彌十郎がかっこいい。

「蝙蝠の安さん」はチャップリン「街の灯」を翻案した異色作だが、案外と良くできていた。

幸四郎と猿弥のやりとりの場面で、幸四郎のちょび髭が落ちてしまった。慌てる幸四郎に猿弥が「髭なしで何か面白いことをやれ」と囃し立てる。この場面は客席も大笑いだったが、てっきり、そういう演出だと思って観ていたが、実はそうではなく、髭が落ちたのは予期せぬ事故だったが、猿弥も幸四郎もアドリブで乗り切ったのだという。まあ、喜劇だから、どんな失敗が起こっても笑って済ませるからいいが、「盛綱陣屋」で白鸚のカツラが落ちたりしたらどうにも取り繕いもできないだろうな。

♪2019-193/♪国立劇場-15

2019年10月7日月曜日

10月歌舞伎公演「通し狂言 天竺徳兵衛韓噺」

2019-10-07 @国立劇場


天竺徳兵衛/座頭徳市/斯波左衛門⇒中村芝翫
梅津掃部⇒中村又五郎
梅津奥方葛城⇒市川高麗蔵
山名時五郎/奴鹿蔵⇒中村歌昇
下部磯平⇒大谷廣太郎
銀杏の前⇒中村米吉
佐々木桂之介⇒中村橋之助
侍女袖垣⇒中村梅花
石割源吾/笹野才造⇒中村松江
吉岡宗観/細川政元⇒坂東彌十郎
宗観妻夕浪⇒中村東蔵
          ほか

四世鶴屋南北=作
国立劇場文芸研究会=補綴
通し狂言「天竺徳兵衛韓噺」(てんじくとくべえいこくばなし)
 三幕六場
 国立劇場美術係=美術

序幕  北野天満宮鳥居前の場
   同         別当所広間の場
二幕目 吉岡宗観邸の場
   同         裏手水門の場
大詰  梅津掃部館の場
   同         奥座敷庭先の場

国立劇場での通し狂言としては20年ぶりだそうだが、17年前に猿之助の「天竺徳兵衛新噺」(明治座)を観ていたので、変だなと思ったが、よく読めば「韓噺〜いこくばなし」と「新噺〜いまようばなし」との違いがある。

今回のは「いまよう」ではないのだから、古くからある噺で本家なのだろう。

大蝦蟇が出てきたり妖術を使ったりと外連味たっぷりの娯楽作とはいえ、猿之助と芝翫ではだいぶキャラが違う。

たまたま両方の舞台に異なる役で出ている米吉も二つの演目は噺が違うとプログラムに書いているが、その違いはもはや思い出せず、猿之助版の方が遥かに面白かったことは思い出しながら芝翫版を観たのでイマイチ気合が入らなかった。



♪2019-152/♪国立劇場-13

2018年9月6日木曜日

秀山祭九月大歌舞伎 昼の部

2018-09-06 @歌舞伎座


  祇園祭礼信仰記
一、金閣寺
此下東吉実は真柴久吉⇒梅玉
雪姫⇒児太郎
狩野之介直信⇒幸四郎
松永鬼藤太⇒坂東亀蔵
此下家臣春川左近⇒橋之助
同   戸田隼人⇒男寅
同   内海三郎⇒福之助
同   山下主水⇒玉太郎
腰元⇒梅花
腰元⇒歌女之丞
十河軍平実は佐藤正清⇒彌十郎
松永大膳⇒松緑
慶寿院尼⇒福助

  萩原雪夫 作
  今井豊茂 補綴
二、鬼揃紅葉狩(おにぞろいもみじがり)
更科の前実は戸隠山の鬼女⇒幸四郎
平維茂⇒錦之助
侍女かえで⇒高麗蔵
侍女ぬるで⇒米吉
侍女かつら⇒児太郎
侍女もみじ⇒宗之助
従者月郎吾⇒隼人
従者雪郎太⇒廣太郎
男山八幡の末社⇒玉太郎 
男山八幡の末社⇒東蔵

  河竹黙阿弥 作
  天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)
三、河内山(こうちやま)
上州屋質見世
松江邸広間
同  書院
同  玄関先
河内山宗俊⇒吉右衛門
松江出雲守⇒幸四郎
宮崎数馬⇒歌昇
大橋伊織⇒種之助
黒沢要⇒隼人
腰元浪路⇒米吉
北村大膳⇒吉之丞 
高木小左衛門⇒又五郎
和泉屋清兵衛⇒歌六
後家おまき⇒魁春

「金閣寺」、「鬼揃紅葉狩」、「河内山」3本立て。それぞれに歌舞伎らしい作品だ。

「金閣寺」では久し振りに大きな役の松緑を楽しんだ。
児太郎が女形の大役「雪姫」に初役で挑んだ。児太郎はこれまで何度も観ていたけど大きな役は無かったので声の具合に着目したことがなかったから、今日の出来が普段どおりなのか喉の具合が悪かったのか判断できないが、少し嗄れるところが気になった。若いお姫様としてはもう少し済んだ声がほしいが。

その「金閣寺」で、5年近い病休から復帰した中村福助の登場では館内がどっと湧いた。

昼の部の吉右衛門の出番は「河内山」だけだが、声がよく通って良かった。七五調での聴かせどころは最後の二幕目第三場「玄関先の場」だが、ここでは大向うから盛んに掛け声が飛んだ。

こういうところは、歌舞伎が役者と観客とで成り立っている芸だなと実感する。

幸四郎は全作に登場し、夜の部にも出ている。そんなに器用に働いて芸が枯渇しないか?

個人的に好感している米吉くん。今日も良かった。

♪2018-105/♪歌舞伎座-05

2016年12月23日金曜日

国立劇場開場50周年記念 通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら) 第三部 四幕八場

2016-12-23 @国立劇場


竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら) 第三部 四幕八場
国立劇場美術係=美術

八段目   道行旅路の嫁入
九段目   山科閑居の場
十段目   天川屋義平内の場
十一段目 高家表門討入りの場
    同  広間の場
    同  奥庭泉水の場
    同  柴部屋本懐焼香の場
    花水橋引揚げの場


2日の初日鑑賞に続いて2回目だ。
前回は、めったにない事だけど、1階4列目中央やや上手寄りから観たが、今回は3階最前列席中央だったが、むしろこのチケット代の安い席の方が見通しが良くて楽しめた…ともいいきれないか。
なにしろ2回目なので筋が頭に入っているという利点もあったのだろう。
特に十一段目の高家表門の場では46名の居並ぶ迫力は高い場所から見下ろしていた方が迫力を感じた。

全3部を2回ずつ観て、この間に文楽版も観たのでいよいよ全篇が終わってしまうと寂しくもある。
単なる<仇討ち事件>を描くのではなく、殿様の短慮に巻き込まれた多くの、いろんな立場の人々の忠義やそれ故の悲劇を描く人間ドラマとなっているのが素晴らしく、良くできた話だと感心する。

この公演は当然録画は行われたはずだからNHKが放映してくれると嬉しいが、何しろ大長編であるから無理だろうな。

♪2016-183/♪国立劇場-010

2016年12月2日金曜日

国立劇場開場50周年記念 通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら) 第三部 四幕八場

2016-12-02 @国立劇場


竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら) 第三部 四幕八場
国立劇場美術係=美術

八段目   道行旅路の嫁入
九段目   山科閑居の場
十段目   天川屋義平内の場
十一段目 高家表門討入りの場
    同  広間の場
    同  奥庭泉水の場
    同  柴部屋本懐焼香の場
    花水橋引揚げの場

(主な配役)
【八段目】
本蔵妻戸無瀬⇒中村魁春
娘小浪⇒中村児太郎

【九段目】
加古川本蔵⇒松本幸四郎
妻戸無瀬⇒中村魁春
娘小浪⇒中村児太郎
一力女房お品⇒中村歌女之丞
由良之助妻お石⇒市川笑也
大星力弥⇒中村錦之助
大星由良之助⇒中村梅玉

【十段目】
天川屋義平⇒中村歌六
女房お園⇒市川高麗蔵
大鷲文吾⇒中村松江
竹森喜多八⇒坂東亀寿
千崎弥五郎⇒中村種之助
矢間重太郎⇒中村隼人
丁稚伊吾⇒澤村宗之助
医者太田了竹⇒松本錦吾
大星由良之助⇒中村梅玉

【十一段目】
大星由良之助⇒中村梅玉
大星力弥⇒中村米吉
寺岡平右衛門⇒中村錦之助
大鷲文吾⇒中村松江
竹森喜多八⇒坂東亀寿
千崎弥五郎⇒中村種之助
矢間重太郎⇒中村隼人
赤垣源蔵⇒市川男寅
茶道春斎⇒中村玉太郎
矢間喜兵衛⇒中村寿治郎
織部弥次兵衛⇒嵐橘三郎
織部安兵衛⇒澤村宗之助
高師泰⇒市川男女蔵
和久半太夫⇒片岡亀蔵
原郷右衛門⇒市川團蔵
小林平八郎⇒尾上松緑
桃井若狭之助⇒市川左團次
ほか


長大な芝居が遂に終わってしまった。
ま、今月中にもう一度観ることにしているけど、この先、<全段完全通し>は生きているうちには観られないだろうから良い経験ができた。

この芝居に関しては、第2部から(第1部も遡って)初めて台本を購入した。もちろん第3部も購入したので、今日は第3部の1回目でもあるので、台本と照らし合わせながら舞台を観たので非常に良く分かった。しかし、月内の次回鑑賞時は一切の解説本無しで舞台に集中しようと思う。

八段目道行は舞踊劇(竹本の伴奏による。セリフはない。)だが、加古川本蔵の妻(戸無瀬=魁春)と娘(小浪=児太郎)の東海道を京都山科にいる小浪の許嫁である力弥の屋敷までの嫁入りの旅で、不安な要素もないではないが全段中一番平和な話だ。
背景の景色が変化することで2人の道中が運んでゆくのが分かるようになっていて、他家の嫁入り行列なども紙人形で作ってあってユーモラスでもある。

九段目山科閑居の場では加古川本蔵の一家の物語が胸を熱くする。本蔵の幸四郎、由良之助の梅玉は芝居のタイプが全然違うけど、そんなことにはお構いなしが歌舞伎の面白さでもある。

由良之助の妻お石を演じた市川笑也という役者のことは全然知らなかった。多分、これまで一度も芝居を観たことがなかったのではないか。しかし、冷徹で筋目を通そうとする武士の妻お石を実に好演したと思う。厳しいばかりではなく、情の人でもあるところをさり気なく見せるところが良かった。今後楽しみな役者だ。
小浪は一部で米吉が演じて実に可愛らしかったので今回も力弥より小浪を演じたら良かったが、しかし、今回の児太郎の小浪も実に良かった。この人の芝居を始めていいと思ったよ。

講談・浪曲では「天野屋利兵衛は男でござる。」で知られる天川屋義平の十段目は筋に無理があるが、ここにも義理と人情の板挟みで苦しむ町人の物語が殺伐とした仇討ち物語に良い味付けではある。

いよいよ十一段目。
幕が開くと広い舞台に拵えられた高家の表門。その前に所狭しと46人の赤穂義士が居並ぶ様にまずは圧倒される。
こんなに大勢の役者が揃って同じ場面に立つという芝居がほかにあるだろうか。

このあとの討ち入りの様は、いわゆる歌舞伎風の踊りのような立ち回りではなく、時代劇映画の殺陣を観るようなかなりリアルな厳しいものなので驚いた。

ようやく師直の首を打ち取り、判官の位牌の前に供えた由良之助は、まずは師直に一矢を報いた矢間(やざま)重太郎(中村隼人)に手柄として最初の焼香を命ずる。次に足軽でありながらその忠義心から義士の連判状に名を連ねてもらった寺岡平右衛門(錦之助)に対し、勘平の遺した財布を手渡して妹婿の代わりに焼香させる。もう、ここでかなり目頭が熱くなる。

その後亡君の菩提寺まで引き揚げる途中の花水橋でそもそもこの事件の発端を作った若狭之助(左団次)に呼び止められ、あっぱれの本懐を讃えられ、義士の姓名を我が胸に刻みたいという申し出に応じて由良之助以下46人(これに勘平を加えて47士)が高らかに、誇らしげに名乗りを上げ、花道に消えてゆく。

芝居興行の世界では「忠臣蔵にはずれ無し」と言うそうだが、300年にわたって庶民に愛されてきたのもなるほ納得。いやはや面白い芝居をたっぷりと観せてもらった。

♪2016-166/♪国立劇場-09

2016年10月27日木曜日

国立劇場開場50周年記念 通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら) 第一部 四幕九場

2016-10-27 @国立劇場


平成28年度(第71回)文化庁芸術祭主催
竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)第一部四幕九場
国立劇場美術係=美術

大序   鶴ヶ岡社頭兜改めの場
二段目  桃井館力弥使者の場
       同 松切りの場
三段目   足利館門前の場
            同 松の間刃傷の場
            同 裏門の場
四段目   扇ヶ谷塩冶館花献上の場
            同 判官切腹の場
            同 表門城明渡しの場

(主な配役)⇒10/03のノート参照

初日に観たが、いよいよ第2部の公演も近づいて、復讐と予習を兼ねて千秋楽にも出かけた。

すっかり、頭に入っていたつもりだけど、見逃していた部分などもあって良い勉強になった。

やはり、4段目の判官切腹の場からの緊張感がいい。役者陣も1ヶ月近く演じてきただけに息が合ってきたのだろう。
観ている側の気持ちも、劇中にシンクロしてゆくようだった。
由良之助の幸四郎も、初日に感じたほどにはクセを感じなかった。
初日には足元がふらついた團蔵もシャキッと有終の美を飾った。

第2部が楽しみだ。
第2部も第3部も2回観ることにしている。
めったに観られない全段完全通しを全身全霊で味わいたいものだ。

♪2016-148/♪国立劇場-06

2016年10月3日月曜日

国立劇場開場50周年記念 通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら) 第一部 四幕九場

2016-10-03 @国立劇場



平成28年度(第71回)文化庁芸術祭主催
竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)第一部四幕九場
国立劇場美術係=美術

大序   鶴ヶ岡社頭兜改めの場
二段目  桃井館力弥使者の場
      同 松切りの場
三段目   足利館門前の場
            同 松の間刃傷の場
            同 裏門の場
四段目   扇ヶ谷塩冶館花献上の場
            同 判官切腹の場
            同 表門城明渡しの場

(主な配役)
【大序】
塩冶判官⇒中村梅玉
顔世御前⇒片岡秀太郎
足利直義⇒中村松江
桃井若狭之助⇒中村錦之助
高師直⇒市川左團次

【二段目】
桃井若狭之助⇒中村錦之助
本蔵妻戸無瀬⇒市村萬次郎
大星力弥⇒中村隼人
本蔵娘小浪⇒中村米吉
加古川本蔵⇒市川團蔵

【三段目】
塩冶判官⇒中村梅玉
早野勘平⇒中村扇雀
桃井若狭之助⇒中村錦之助
鷺坂伴内⇒市村橘太郎
腰元おかる⇒市川高麗蔵
加古川本蔵⇒市川團蔵
高師直⇒市川左團次

【四段目】
大星由良之助⇒松本幸四郎
石堂右馬之丞⇒市川左團次
薬師寺次郎左衛門⇒坂東彦三郎
大鷲文吾⇒坂東秀調
赤垣源蔵⇒大谷桂三
織部安兵衛⇒澤村宗之助
千崎弥五郎⇒市村竹松
大星力弥⇒中村隼人
佐藤与茂七⇒市川男寅
矢間重太郎⇒嵐橘三郎
斧九太夫⇒松本錦吾
竹森喜多八⇒澤村由次郎
原郷右衛門⇒大谷友右衛門
顔世御前⇒片岡秀太郎
塩冶判官⇒中村梅玉
ほか


今年は国立劇場会場50周年ということで記念の大型企画が各分野で並んだが、中でも、「仮名手本忠臣蔵」の3ヶ月連続公演による全段完全通し上演というのが画期的らしい。

全段通し上演と称した公演は度々行われているようだが、国立劇場が昭和61年に開場20周年記念で今回と同じく10月~12月の3回に分けて上演したものは本物の「完全通し上演」だそうだが、他の「全段通し」は実際にはいくつかの場面が省略されているらしい。

50周年記念の今回も、上演可能な場面はすべて網羅するという「完全通し上演」だと言うから、今回を逃したら次の機会に生きている保障はないかも…と思って、「あぜくら会」会員向けの3公演セット券を迷わず買った。歌舞伎鑑賞はたいてい3階席だが、今回は特別席と1等A席しかセット販売されないので1等Aを選んだ。

人形浄瑠璃からの移行作品の全段完全通しなので、一段目は「大序」と呼ばれるそうだが、この「大序」の前には定式幕の前に文楽人形が出てきて配役を紹介する。これを「口上人形」という。滑稽な表情とセリフがおかしく、かしこまった作品かと思っていたが楽しく出鼻をくじかれた。

口上が終わって幕が開くと鶴岡八幡宮の場面だが、ここでも役者たちは目を伏せうなだれたまま微動だにしない。そしてどこからか役者の名前を告げる声がしてそれに応じて一人ずつ精気を得たように「人形」から「人間」に生まれ変わる。

こういう演出はいずれも、原典の人形浄瑠璃に敬意を表するものだそうだ。

物語は、映画やテレビドラマなどでよく知っている「忠臣蔵」とはかなり異なるので驚きの連続。
しかし、省かれた場面がないので物語の連続性は分かりやすい。
なるほど、これが本物の「仮名手本忠臣蔵」なのか。

人形浄瑠璃として1748年に初演され、同年末には早くも歌舞伎に移行されて以来、270年近い歴史の中で、上演すれば必ずそれなりのヒットが見込まれたそうで、もはや日本人のDNAに刷り込まれているのかもしれない。

塩冶判官を演ずる梅玉はいつもながら渋い。
4段目になってようやく登場する由良之助の幸四郎は、やや、芝居が大仰ではないかと思うけど如何にもの幸四郎節で、やはり舞台の求心力は大きい。
左団次が演ずる加古川本蔵という登場人物のことは知らなかった。これまで映画やTVドラマなどではこの人に相当する人物は出てこなかったように思う。そもそも本蔵が仕える桃井若狭之介(錦之助)という殿様の存在も知らなかったが、どうやら、本蔵の存在が全段の物語の中で大きな役割を占めることになりそうだ。

「大序」も伝統に則った珍しい演出だったが、4段目切腹の場も古来「通さん場」と呼ばれ、お客の出入りを禁じたそうで、国立劇場でも踏襲された。

こんなところにも、格調を感じさせる大芝居だ。
この壮大な物語があと2回も続くというのはとてもワクワクする。


♪2016-132/♪国立劇場-05

2015年12月8日火曜日

12月歌舞伎公演「東海道四谷怪談」

2015-12-08 @国立劇場


松本幸四郎⇒民谷伊右衛門/石堂右馬之丞
中村錦之助⇒小汐田又之丞
市川染五郎⇒お岩/小仏小平/佐藤与茂七/大星由良之助/鶴屋南北
市川高麗蔵⇒赤垣伝蔵
中村松江⇒矢間十太郎
坂東新悟⇒お岩妹お袖/千崎弥五郎
大谷廣太郎⇒秋山長兵衛/大鷲文吾
中村米吉⇒喜兵衛孫娘お梅/大星力弥
中村隼人⇒奥田庄三郎/竹森喜多八
澤村宗之助⇒関口官蔵/織部安兵衛
松本錦吾⇒四谷左門
大谷桂三⇒薬売り藤八/金子屋庄七
片岡亀蔵⇒按摩宅悦/高家家来小林平内
市村萬次郎⇒伊右衛門母お熊
坂東彌十郎⇒直助権兵衛/仏孫兵衛
大谷友右衛門⇒伊藤喜兵衛/原郷右衛門
      ほか

四世鶴屋南北=作
通し狂言「東海道四谷怪談」とうかいどうよつやかいだん 三幕十場
          国立劇場美術係=美術


序幕   浅草観世音額堂の場
     浅草田圃地蔵前の場
     同     裏田圃の場

二幕目 雑司ヶ谷四谷町民谷伊右衛門浪宅の場
    伊藤喜兵衛宅の場
    元の伊右衛門浪宅の場 

大詰  砂村隠亡堀の場
    小汐田又之丞隠れ家の場
    蛇山庵室の場
    仇討の場


予備知識として、四谷怪談の物語の背景に忠臣蔵が同時に描かれているということは知っていたが、これはどうやら奇抜なアイデアではないらしい。
歌舞伎初演時から四谷怪談と忠臣蔵が、形は別の演目として独立しているものの、物語は同時進行的に描かれていたようだし、民谷伊右衛門が浅野家の浪士であるという設定は「四谷怪談」が単独上演されるようになって追加されたものではなく当初からのものらしい。

これまで「四谷怪談」は映画などでしばしば観ているが、伊右衛門が浅野家浪士だったとは気が付かなかったというか、果たしてそのように描かれていたのだろうか。

ま、ともかく、作者鶴屋南北は「四谷怪談」を「仮名手本忠臣蔵」の外伝として描いたそうだ。

そもそも歌舞伎で「四谷怪談」を観るのが初めてなので(国立劇場としても44年ぶりの上演らしい。)、「四谷怪談」と「忠臣蔵」を抱き合わせにするとはなんて斬新なアイデアだと思っていたが、その萌芽は初演時からあった訳だ。

人気の出し物を2本併せてた物語が組み立てられているせいか、全三幕十一場の場面を必要とするほどに話が複雑で、ついて行くのに苦労した。
普段は、役者の役どころや演目の筋をさらっておいてから出かけるのだけど、今回は忙しくて時間のゆとりがなかったことに加え、どうせ、両方とも話は分かっている、と甘く見ていたのが大間違いで、大筋はともかく、それを彩る、いや絡みつくというか、いろいろと細かい話が盛り沢山。それに最初に出た何気ないエピソードや小物が後の場になってつながってくるという筋立て上の仕掛けもあって、これは相当目配り・気配りしながら観ないと全体を楽しむことはできない。

塩冶家(⇒浅野家)の家臣小汐田又之丞(錦之助)が冒頭、高家(⇒吉良家)の家臣らにさんざ打擲されて歩けなくなるというエピソードなど、忘れてしまうような話だが、大詰め第二場で、民谷家家宝の薬ソウキセイ(桑寄生)が意味を明らかにし、これを持ってきた小仏小平(染五郎)とともに討ち入りにつながってくるのだからぼんやりしてられない。
いや、ぼんやりしていた部分はほかにあったのだけど思い出せないだけだ。



中盤は伊右衛門(幸四郎)とお岩(染五郎)の話が中心になるが、上述の小汐田又之丞隠れ家の場が踏み台になって舞台は一挙に討ち入りに変化する。

既に真っ白な雪が積もったところに惜しげも無く雪が舞い降りてそこでの戦闘シーンはきれいだ。途中、あれは誰と誰の戦いだったか、2人の上にドカ雪が落ちてきてもう互いに顔も見えない中での斬り合いが意表を突いて面白かった。

幸四郎の伊右衛門はコワイ。
だからとても良い。

染五郎は別としてほかにも良い味を感じた役者が何人かいた。
坂東彌十郎(直助権兵衛/仏孫兵衛)が存在感があった。
米吉(お梅/大星力弥)はお梅で存在感希薄。力弥では颯爽たる立ち回りが絵になっていた。
錦之助(小汐田又之丞)は冒頭の情けない場面と随分間があって「小汐田又之丞隠れ家の場」でタイトルロール?として登場するが、ここではさすがにかっこ良く、次の場面への期待を持たせるきっぱりとした芝居だ。


さて、染五郎。

お岩、小仏小平、佐藤与茂七、大星由良之助のほかに、冒頭、鶴屋南北としてすっぽんから登場して(幽霊なので)本公演の趣旨を述べ、又之丞打擲の芝居が終わると再度せり上がってきて、未来の役者、市川染五郎なるものが熱心に上演許可を求めてきたので許可した、ゆっくりご覧あれ…といったような口上を述べてセリ下がる。館内は笑いに包まれる。
そんな訳で計5役を勤めるのだ。
その中には、お岩と小平のような早変わりもある。
お岩の顔貌の早変わり?もある。
燃える提灯からの飛び出しって、昔からそういう仕掛けがあったのだろうか。
宙乗りもあってもう大奮闘だ。

最後に本懐を遂げた由良之助で終わるので、カタルシスがある。

まあ、とにかく、筋の仕掛け、舞台の仕掛けも複雑で盛り沢山だが、2、3度観なければ全貌を堪能するには至らないように思った。

もう一度、おさらいをしにゆくかな。


♪2015-122/♪国立劇場-06

2015年10月5日月曜日

10月歌舞伎公演「通し狂言 伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)」

2015-10-05 @国立劇場


中村梅玉⇒福岡貢
中村東蔵⇒貢の叔母おみね
中村鴈治郎⇒料理人喜助/正直正太夫
中村松江⇒油屋お鹿
中村亀鶴⇒奴林平
中村壱太郎⇒油屋お紺
中村寿治郎⇒銅脈の金兵衛
松本錦吾⇒猿田彦太夫
大谷桂三⇒徳島岩次(藍玉屋北六)
澤村由次郎⇒徳島岩次(藍玉屋北六)
市川高麗蔵⇒今田万次郎
大谷友右衛門⇒藤浪左膳
中村魁春⇒仲居万野
中村梅丸⇒油屋抱えお岸
ほか

近松徳三=作
通し狂言「伊勢音頭恋寝刃」(いせおんどこいのねたば)
 三幕八場
 国立劇場美術係=美術
       
序幕
第一場 伊勢街道相の山の場 
第二場 妙見町宿場の場
第三場 野道追駆けの場
第四場 野原地蔵前の場
第五場 二見ヶ浦の場

二幕目 御師福岡孫太夫内太々講の場

大詰
第一場 古市油屋店先の場
第二場 同 奥庭の場


国立劇場がこの作品を取り上げるのは開場以来初めてだそうだ。
他の劇場でも大詰めの二場が単独で度々演じられるそうだが、二幕目の太々講(だいだいこう)の場は歌舞伎座で演じられて以来53年ぶりになるという。

つまり、これまでは各場がバラバラに上演されてきたが、これを通し狂言として演ずるのは初めてということだ。
こういうのは国立劇場でしかできない仕事だ。

阿波国のお家騒動が下地にあって、将軍家に献上する予定の名刀「青江下坂(あおえしもさか)」が行方知れず、恋人の裏切り(実は…の展開)や妖刀の殺気に翻弄される大量殺人などが描かれる。

芝居全体の主役は梅玉演ずる福岡貢という伊勢神宮の御師であるが、陰惨な大詰めの前に置かれる太々講の場はむしろ喜劇で、ここでは正直正太夫を演ずる鴈治郎が実におかしい。

油屋(遊郭)店先の場では、貢がすったもんだの末に青江下坂は手にしたもののその折紙(鑑定書)を手に入れようと腐心するが、これを仲居の万野(魁春)が邪魔をする。愛人お紺(壱太郎)にも仔細あって邪険にされる。遊郭の決まりだと言われて、手に入れた刀を帳場に預けることになるが、敵方が刀を入れ替えてしまうなどのふんだり蹴ったりだ。

面目を失った貢が油屋を出た後、刀が入れ違っていると気づき油屋に戻るが、そこで、こちらも偽物の刀を掴まされたと思って貢の刀を取り返そうとする万野を貢が誤って斬りつけ、それが契機となって、万野の仲間(敵方)の連中をメッタ斬りにしたのは名刀青江下坂の妖気の故か。

お紺が折紙を手に貢のもとに駆けつけたことから、我に返った貢は自分がしたことの重大さにおののき腹を切ろうとするが、そこに料理人喜助(鴈治郎)が現れ、刀は自分が最終的に入れ替えておいた本物であることを告げ、めでたしめでたし。


まあ、大略こういう筋だ。
最後の最後にフラ~っと出てきた敵方の小物を貢が切り捨てた際に、喜助が「下坂の切れ味見事!」と声を掛けてお終いになったと思うが、これは人道的にひどい作劇だなあ、と思ったよ。

まあ、そういう残酷な殺戮シーンもあるが、滑稽な場面もあって、通し狂言の長丁場を退屈させない。


梅玉という役者が歌舞伎界でどういう位置を占めるのかよく分からない。
これまでに観た「双蝶々曲輪日記」の南与兵衛や「傾城反魂香」の又平も主役なのだろうが、今回が一番大きな役だったと思う。
それにしては地味な役者だ。渋いというべきかもしれないが、どうも彼の持ち味をどう受け止めて良いのかよく分からなかった。

正直正太夫という滑稽味と料理人喜助、実は貢の家来筋という2役で、この芝居のおいしいところをさらったのは鴈治郎ではなかったか。


♪2015-97/♪国立劇場-04

2014年10月20日月曜日

10月歌舞伎公演「通し狂言 双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)」

2014-10-20 @国立劇場大劇場


松本 幸四郎
中村 東   蔵
中村 芝   雀
市川 高麗蔵
松本 錦   吾
大谷 廣太郎
大谷 廣   松
澤村 宗之助
中村 松   江
市川 染五郎
大谷 友右衛門
中村 魁   春
        ほか

竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
国立劇場文芸研究会=補綴
通し狂言双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき) 四幕五場       
        
   序   幕  新清水の場
   二幕目  堀江角力小屋の場
   三幕目  大宝寺町米屋の場
         難波芝居裏殺しの場        
   四幕目 八幡の里引窓の場


8月、9月に(国立劇場では)歌舞伎公演がなかったので、久しぶりの国立劇場だ。
歌舞伎座の華やかさも悪くないけど、国立劇場はロビーもホワイエも客席もゆったりとしていい。なんたって安価なのが一番いいけど、今月からプログラム代が900円に値上がりしていたなあ。
これとて歌舞伎座の筋書きに比べるとずっと安い。

今月は「通し狂言 双蝶々曲輪日記」で、幸四郎が半世紀ぶりに主人公濡髪を演じたり、染五郎が3役に扮するなどの見どころが前評判。
初めて鑑賞する演目だし、こういう話があるということも知らなかった。それならしっかり予習しておけばよかったけど、その時間もなくて、幕間に筋書きを読みながらの鑑賞だった。

この作品に限ったことではないけど、通し狂言となると、長丁場だし登場人物も多く、なかなか役柄も筋書きも頭に入らない。

プログラムには人物関係図が書いてあったが、これに加えて演じている役者も覚えようとすると並大抵ではない。
せっかくの熱演を目一杯楽しむには、せいぜい劇場に足を運んで目や耳を養わなくてはいかんなあ。


●序幕では、染五郎の(与五郎を助ける与兵衛)二役早替わりが面白く宙乗りも出たのにはびっくりした。

●2幕目の堀江角力小屋の場は面白い趣向だ。
舞台上手に掘建小屋のような角力小屋が作ってあるが、土俵は見えない。見物人が出入り口で押し合いへし合いの中、相撲見物に興じている。
その様子だけで勝負の有様を表現している。

この場面から主人公というべき関取濡髪長五郎(幸四郎)と因縁の仲となる素人力士放駒長吉(染五郎の3役目)が登場する。「双蝶々」というタイトルは、この両者がともに「長」が付く名前であることに由来しているそうだが、ちょいと無理がありゃしませぬか。

ともかく、なぜか結びの一番で二人が勝負をし、大番狂わせが起こる。それを端緒に二人は達引(意地の張り合い。それによる喧嘩)を約束することに。

●3幕目は放駒長吉の実家、米屋の場だ。
弟長吉の日頃の不行跡に業を煮やした姉おせき(魁春)が一策を案じて改心させる。達引に訪れた濡髪長五郎とも仲直りするが、その前には一波乱あり、両者の米俵を投げ合う喧嘩などがおかしくて見ものだ。

濡髪にとって贔屓筋の息子である与五郎と与五郎の恋仲である吾妻(高麗蔵)の身に危険が迫ったことを知り、救出に向かうが、誤って二人の武士を殺してしまい、落ち延びることになる。

●4幕目八幡の里引窓の場。
芝居としてはここが一番面白かった。
南与兵衛の住まいに、濡髪が忍んで来る。
実は(歌舞伎には「実は」が多い!)その家の主の継母お幸(東蔵)は濡髪の実母であった。
いずれ入牢することとなる前に一目実母に会いに来たのだ。
お幸はワケありげな様子の濡髪を2階の部屋に連れて行く。

同じ日、皮肉なことに与兵衛は、めでたく父の跡を継いで代官に取り立てられ、その初仕事が濡髪を捕らえることだった。

お幸はその話を聞いて驚愕する。
先妻の子(与兵衛)が実の子(濡髪)を捕らえるとなっては、居ても立っても居られない。
2階には濡髪が引窓を開けて下の様子を窺う。
それが手水鉢の水面に映ったのを与兵衛も見逃さない。
この緊張の三角関係の中で、母、実子、継子が互いを想う真情が交錯してとてもドラマチックだ。
時は恰も石清水八幡の放生会(魚や鳥を放す儀式)の前夜、というのが良い設定で、得心の大団円を迎えて満足。

♪2014-95/♪国立劇場-05