2015年12月8日火曜日

12月歌舞伎公演「東海道四谷怪談」

2015-12-08 @国立劇場


松本幸四郎⇒民谷伊右衛門/石堂右馬之丞
中村錦之助⇒小汐田又之丞
市川染五郎⇒お岩/小仏小平/佐藤与茂七/大星由良之助/鶴屋南北
市川高麗蔵⇒赤垣伝蔵
中村松江⇒矢間十太郎
坂東新悟⇒お岩妹お袖/千崎弥五郎
大谷廣太郎⇒秋山長兵衛/大鷲文吾
中村米吉⇒喜兵衛孫娘お梅/大星力弥
中村隼人⇒奥田庄三郎/竹森喜多八
澤村宗之助⇒関口官蔵/織部安兵衛
松本錦吾⇒四谷左門
大谷桂三⇒薬売り藤八/金子屋庄七
片岡亀蔵⇒按摩宅悦/高家家来小林平内
市村萬次郎⇒伊右衛門母お熊
坂東彌十郎⇒直助権兵衛/仏孫兵衛
大谷友右衛門⇒伊藤喜兵衛/原郷右衛門
      ほか

四世鶴屋南北=作
通し狂言「東海道四谷怪談」とうかいどうよつやかいだん 三幕十場
          国立劇場美術係=美術


序幕   浅草観世音額堂の場
     浅草田圃地蔵前の場
     同     裏田圃の場

二幕目 雑司ヶ谷四谷町民谷伊右衛門浪宅の場
    伊藤喜兵衛宅の場
    元の伊右衛門浪宅の場 

大詰  砂村隠亡堀の場
    小汐田又之丞隠れ家の場
    蛇山庵室の場
    仇討の場


予備知識として、四谷怪談の物語の背景に忠臣蔵が同時に描かれているということは知っていたが、これはどうやら奇抜なアイデアではないらしい。
歌舞伎初演時から四谷怪談と忠臣蔵が、形は別の演目として独立しているものの、物語は同時進行的に描かれていたようだし、民谷伊右衛門が浅野家の浪士であるという設定は「四谷怪談」が単独上演されるようになって追加されたものではなく当初からのものらしい。

これまで「四谷怪談」は映画などでしばしば観ているが、伊右衛門が浅野家浪士だったとは気が付かなかったというか、果たしてそのように描かれていたのだろうか。

ま、ともかく、作者鶴屋南北は「四谷怪談」を「仮名手本忠臣蔵」の外伝として描いたそうだ。

そもそも歌舞伎で「四谷怪談」を観るのが初めてなので(国立劇場としても44年ぶりの上演らしい。)、「四谷怪談」と「忠臣蔵」を抱き合わせにするとはなんて斬新なアイデアだと思っていたが、その萌芽は初演時からあった訳だ。

人気の出し物を2本併せてた物語が組み立てられているせいか、全三幕十一場の場面を必要とするほどに話が複雑で、ついて行くのに苦労した。
普段は、役者の役どころや演目の筋をさらっておいてから出かけるのだけど、今回は忙しくて時間のゆとりがなかったことに加え、どうせ、両方とも話は分かっている、と甘く見ていたのが大間違いで、大筋はともかく、それを彩る、いや絡みつくというか、いろいろと細かい話が盛り沢山。それに最初に出た何気ないエピソードや小物が後の場になってつながってくるという筋立て上の仕掛けもあって、これは相当目配り・気配りしながら観ないと全体を楽しむことはできない。

塩冶家(⇒浅野家)の家臣小汐田又之丞(錦之助)が冒頭、高家(⇒吉良家)の家臣らにさんざ打擲されて歩けなくなるというエピソードなど、忘れてしまうような話だが、大詰め第二場で、民谷家家宝の薬ソウキセイ(桑寄生)が意味を明らかにし、これを持ってきた小仏小平(染五郎)とともに討ち入りにつながってくるのだからぼんやりしてられない。
いや、ぼんやりしていた部分はほかにあったのだけど思い出せないだけだ。



中盤は伊右衛門(幸四郎)とお岩(染五郎)の話が中心になるが、上述の小汐田又之丞隠れ家の場が踏み台になって舞台は一挙に討ち入りに変化する。

既に真っ白な雪が積もったところに惜しげも無く雪が舞い降りてそこでの戦闘シーンはきれいだ。途中、あれは誰と誰の戦いだったか、2人の上にドカ雪が落ちてきてもう互いに顔も見えない中での斬り合いが意表を突いて面白かった。

幸四郎の伊右衛門はコワイ。
だからとても良い。

染五郎は別としてほかにも良い味を感じた役者が何人かいた。
坂東彌十郎(直助権兵衛/仏孫兵衛)が存在感があった。
米吉(お梅/大星力弥)はお梅で存在感希薄。力弥では颯爽たる立ち回りが絵になっていた。
錦之助(小汐田又之丞)は冒頭の情けない場面と随分間があって「小汐田又之丞隠れ家の場」でタイトルロール?として登場するが、ここではさすがにかっこ良く、次の場面への期待を持たせるきっぱりとした芝居だ。


さて、染五郎。

お岩、小仏小平、佐藤与茂七、大星由良之助のほかに、冒頭、鶴屋南北としてすっぽんから登場して(幽霊なので)本公演の趣旨を述べ、又之丞打擲の芝居が終わると再度せり上がってきて、未来の役者、市川染五郎なるものが熱心に上演許可を求めてきたので許可した、ゆっくりご覧あれ…といったような口上を述べてセリ下がる。館内は笑いに包まれる。
そんな訳で計5役を勤めるのだ。
その中には、お岩と小平のような早変わりもある。
お岩の顔貌の早変わり?もある。
燃える提灯からの飛び出しって、昔からそういう仕掛けがあったのだろうか。
宙乗りもあってもう大奮闘だ。

最後に本懐を遂げた由良之助で終わるので、カタルシスがある。

まあ、とにかく、筋の仕掛け、舞台の仕掛けも複雑で盛り沢山だが、2、3度観なければ全貌を堪能するには至らないように思った。

もう一度、おさらいをしにゆくかな。


♪2015-122/♪国立劇場-06