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2024年12月17日火曜日

令和6年12月文楽公演 第三部

2024-12-17 @県立青少年センター




●第三部 (午後6時45分開演)
野澤松之輔=脚色・作曲
曾根崎心中(そねざきしんじゅう)
 生玉社前の段
 天満屋の段
 天神森の段 






2公演を1日で観たので文楽漬けだったが、全然没入できなかった。字幕がないから。

全作品、数回は鑑賞済みなのでどういう話かは分かっているが、念を入れた詞章を味わう楽しみは別次元だ。

字幕なしで江戸時代の大阪の言葉を、それも掛け言葉やしゃれ、語呂合わせをふんだんに使う言葉遊びの世界でもあるのに耳からだけで理解できる訳がない。

自分のスマホで字幕アプリが使えます、と
は国立劇場のホームページや会報「あぜくら」にも書いてある。

それは、通常の字幕のほかに使うこともできるという意味だと考えていた。それで一応アプリもDLしておいたが、使う気はなかった。

ところが、まさかの「字幕なし」だよ。

途中からやむを得ず「字幕アプリ」を使ってみたが見づらいこと甚だしい。遠い舞台と手元のスマホに焦点を合わせられるお客はどれだけいるか?ほとんど高齢者ばかりなのに。

有料プログラムもいつも買っているが、買いたくない人もいるだろう。それに、演出によっては(今日の第三部「曾根崎心中」のように)客電も落とした薄暗い中で読めたものではない。
字幕なしで文楽が楽しめる者がどれほどいるだろう?

漂流する国立劇場は、お客様サービスも考えられないほどの迷走ぶりだ。

十数年、あぜくら会会員として、国立の歌舞伎と文楽は余程のことがない限り欠かさず観て来たのに、次回以降も字幕なしではもう止めようかしらと思う。


♪2024-176/♪県立青少年センター-2

2023年2月8日水曜日

未来へつなぐ国立劇場プロジェクト 初代国立劇場さよなら公演 近松名作集第Ⅰ部 心中天網島

2023-02-08@国立劇場


第一部
(11:00時〜14:32)
近松門左衛門=作
心中天網島 (しんじゅうてんのあみじま)
◎北新地河庄の段
 中 睦太夫/勝平
 切 千歳太夫/富助
◎天満紙屋内の段
 口 希太夫/友之助
 奥 藤太夫/團七
◎大和屋の段
 切 織太夫(咲太夫の代理)/燕三
◎道行名残の橋づくし
 小春  芳穂太夫
 治兵衛 小住太夫
     亘太夫・聖太夫
      /錦糸・寛太郎・清公・清允・清方

************************
人形役割
紀伊國屋小春⇒清十郎
花車⇒紋秀
江戸屋太兵衛⇒玉助
五貫屋善六⇒簑紫郎
粉屋孫右衛門⇒玉也
紙屋治兵衛⇒玉男
女房おさん⇒和生
倅勘太郎⇒勘昇
おさんの母⇒蓑一郎
舅五左衛門⇒玉輝


今月は近松名作集だ。誰の作であれ、一般的に時代物は荒唐無稽なものも少なくないが、世話物はリアルな筋立てで密度が高い。特に近松の心中物は話の歯車が外れない。

今回で3度目だが成程巧くできていると感心できたのは一歩理解が深まったか。

構成や詞章の巧さには感心できても、相変わらず、主人公の紙屋治兵衛には全く共感できない。こんな甲斐性なしの男に惚れた挙句心中する遊女小春にも同情できない。
すると、話の中心は治兵衛の女房おさんにあるな、と今回思い至った。彼女を軸に据えて脳内再構成すると話に求心力が出てきそう。

最終段「道行名残の橋づくし」は、良くできている。
ここへ来て浄瑠璃も太夫4人に三味線5人と大編成になる。
終始暗い舞台で、2人の情死行が渡る橋の名を織り込んだ義太夫節が流れる中、遂に、網島の寺の境内で全うする。少し離れて絶命するのはおさんへの気遣いらしい。
この絵が美しい。

♪2023-024/♪国立劇場-02

2021年12月6日月曜日

国立劇場開場55周年記念 人形浄瑠璃文楽 令和3年12月公演

2021-12-06@国立劇場




国立劇場開場55周年記念
仮名手本忠臣蔵 (かなでほんちゅうしんぐら)
 桃井館本蔵松切の段
 下馬先進物の段
 殿中刃傷の段
 塩谷判官切腹の段
 城明渡しの段
 道行旅路の嫁入


桃井館本葳松切の段
 竹本小住太夫/鶴澤清丈
下馬先進物の段
 竹本南都太夫/竹澤團吾
殿中刃傷の段
 豊竹靖太夫/野澤錦糸
塩谷判官切腹の段
 竹本織太夫/鶴澤燕三
城明渡しの段
 竹本碩太夫/鶴澤清允
道行旅路の嫁入
 小浪:豊竹呂勢太夫/鶴澤清志郎
 戸無瀬:豊竹咲寿太夫/鶴澤清公
 豊竹亘太夫/野澤錦吾
 竹本聖太夫/鶴澤燕二郎
 豊竹薫太夫/鶴澤清方

*****************************
人形役割
桃井若狭助⇒ 吉田玉佳
加古川本蔵⇒ 吉田勘市
妻戸無瀬⇒    豊松清十郎
娘小浪⇒ 吉田簑紫郎
高師直⇒ 吉田玉助
鷺坂伴內⇒    桐竹紋秀
塩谷判官⇒  吉田簑二郎
早野勘平⇒  吉田玉路
茶道珍才⇒  吉田蓑悠
原郷右衛門⇒ 桐竹亀次
石堂右馬丞⇒ 吉田玉輝
薬師寺次郎左衛門⇒吉田文哉
大星カ弥⇒  吉田簑太郎
大星由良助⇒ 吉田玉志
顔世卿前⇒  桐竹紋吉
その他 大ぜい

今から5年前の2016年。国立劇場では開場50年記念に、歌舞伎は3部(1か月公演X3回)、文楽の方は2部(昼夜公演)構成で全段通し「仮名手本忠臣蔵」をやった。
それが僕の文楽の初見で以後病みつきになった。

2019年には大阪の国立文楽劇場の開場35年で春・夏・秋に3部に分けて全段通しをやった。これも観に行った。

そして、今年は国立劇場開場55年記念の年だ。

そこで、記念の公演という訳だが、今回は、二、三、四、八段目からの抜粋だ。これは寂しい。

四段目のほかにも面白い七段目、九段目がない。これでは見どころは切腹の段のみというのも辛い。

それにどういう訳か、今回は太夫・三味線・人形ともに重鎮が出ていない。普通なら人間国宝級全員とは言わずとも出演するものだ。ましてや記念の公演なのに。
ま、今日の出演者の中では、個人的には織太夫とか呂勢太夫は好きだけど。
どれにしては寂しい公演だった。

同時に別興行で観賞教室をやっているがこっちの方が面白かった!


♪2021-146/♪国立劇場-11

2020年2月19日水曜日

人形浄瑠璃文楽令和2年2月公演第Ⅰ部

2020-02-19 @国立劇場


菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)
 吉田社頭車曳の段
  芳穂太夫・靖太夫・咲寿太夫・碩太夫・
  津國太夫/清友
 佐太村茶筅酒の段
  三輪太夫/團七
       喧嘩の段
  小住太夫/清馗
 同      訴訟の段
  靖太夫/錦糸
       桜丸切腹の段
  千歳太夫/富助
人形役割
 梅王丸⇒分司
 桜丸(車曳)⇒簑紫郎
 杉王丸⇒玉翔
 松王丸⇒玉輝
 左大臣時平⇒勘一
 親白太夫⇒和生
 女房八重⇒勘十郎
 女房千代⇒清十郎
 女房春⇒一輔
 桜丸(佐太村)⇒簑助
 ほか

文楽版菅原伝授手習鑑では、以前に、序幕というべき「車曳の段」も前段というべき「佐太村茶筅酒の段~桜丸切腹の段」も観ているのだけど、(歌舞伎でも)圧倒的に多いのが後段というべき「寺入り・寺子屋の段」で、その前段の話を味わうのは久しぶりだった。
それし、これらの話を知っていてこそ「寺子屋」の悲壮感が一層高まるのだ。

そういう意味で、今月の文楽公演は3部構成だが、第Ⅱ部か第Ⅲ部にどうして「寺入り」、「寺子屋」を演らなかったのか。残念なり。

忠義の為に、我が命も子供の命さえ犠牲にするという、超アナクロな筋立てに、自分の気持ちを整理するのも難しいが、それでも、やはりその真摯な生き様には感動を禁じ得ない。

クライマックスは「桜丸切腹の段」。目一杯の感情移入で語ってくれる千歳太夫が今日も素晴らしかった。

♪2020-025/♪国立劇場-03

2019年12月13日金曜日

人形浄瑠璃文楽令和元年12月公演「一谷嫰軍記」

2019-12-13 @国立劇場


一谷嫰軍記(いちのたにふたばぐんき)
 陣門の段
  小次郎⇒咲寿太夫
  平山⇒小住太夫
  熊谷⇒亘太夫
  軍兵⇒碩太夫
  宗助
 須磨浦の段
  希太夫/勝平
 組討の段
  睦太夫/清友
 熊谷桜の段
  芳穂太夫/藤蔵
 熊谷陣屋の段
  前:織太夫/燕三
  後:靖太夫/錦糸

人形役割
 小次郎直家(敦盛)⇒一輔
 平山武者所⇒玉翔
 次郎直実⇒玉助
 玉織姫⇒簑紫郎
 遠見の敦盛⇒簑之
 遠見の熊谷⇒和馬
 妻相模⇒勘彌
 堤軍次⇒玉誉
 藤の局⇒簑二郎
 梶原平次景高⇒紋吉
 石屋弥陀六実は弥平兵衛宗清⇒文司
 源義経⇒玉佳
     ほか

今回の上演は全段ではなくかなり切り詰められているようだ。歌舞伎と駒之助の素浄瑠璃を経験しているがいずれも「熊谷陣屋」しか演らなかったので今回初めて全体の輪郭を理解できた。そして自分の勉強不足に呆れるが、かくも壮大なトリックが仕掛けられているとは!

歌舞伎・文楽の時代物では我が子を犠牲にする話が珍しくはない。菅原伝授手習鑑や伽羅先代萩など。一谷嫰軍記も同様な話だが「熊谷陣屋」だけを観ても、首の入れ替えは既になされているので、違和感が無いのだが、前段の陣門・須磨の浦・組討の段から順に見ていると見事に騙されていたのが分かる。

いや、騙されるのは無理はない。いくらなんでも話に無理がある。
「熊谷陣屋」だけが際立って上演機会が多いのは全段中一番面白いから、という理由だけではなさそうな気がした。
初演は約270年前だそうだが、そんな昔に…よくぞかくも大胆な筋立てを考えたものだ。

Aクリスティの「アクロイド殺人事件」は「一谷嫰軍記」にヒントを得たのでは…いや、さすがにそれはないな。

一方で、これまで「熊谷陣屋」をいかにボーッと観ていたか、恥ずかしくなった。
手元に当代芝翫襲名の際の「熊谷陣屋」のビデオがあるので、年末年始にじっくり観直してみよう。

♪2019-204/♪国立劇場-17

2019年9月21日土曜日

人形浄瑠璃文楽令和元年09月公演 第2部

2019-09-21 @国立劇場


嬢景清八嶋日記(むすめかげきよやしまにっき)
 花菱屋の段
  織太夫/清介
 日向嶋の段
  千歳太夫/富助

 人形役割
  花菱屋女房⇒文昇
  花菱屋長⇒玉輝
  肝煎左治太夫⇒簑二郎
  娘糸滝(花菱屋)⇒簑紫郎
  悪七兵衛景清⇒玉男
  娘糸滝(日向嶋)⇒簑助
    ほか

艶容女舞衣(はですがたおんなまいぎぬ)
 酒屋の段
  靖太夫/錦糸
  藤太夫/清友
  津駒太夫/藤蔵
 道行霜夜の千日
  睦太夫・南都太夫・咲寿太夫・
  碩太夫・文字栄太夫/
  勝平・清馗・友之助・清公・清允

 人形役割
  半兵衛女房⇒簑一郎
  美濃屋三勝⇒一輔
  舅半兵衛⇒玉志
  親宗岸や玉也
  嫁お園⇒清十郎
  茜屋半七⇒玉助
    ほか

①嬢景清八嶋日記(むすめかげきよやしまにっき)
忠義一徹が仇で日向嶋に流された平家の武将・景清の元に父の仕官の費用を持参する娘糸滝との再会。しかし景清は武士の矜持が邪魔をして娘を蹴散らすように追い返す。

後で、そのお金は我が身を売って拵えたものであると知り既に岸を離れた糸滝の船に向かって「ヤレその子は売るまじ。娘よ、船よ返せ、戻せ」と慟哭。

このくだり、千歳大夫の叫びとも聞こえる渾身の義太夫が日本人DNAを鷲掴みにして胸を締め付ける(日向嶋の段)。

前段の「花菱屋の段」も、身を売らなければならなくなった糸滝の話に、店の面々が厚い情愛を寄せるところが、これまた胸が熱くなる。

②艶容女舞衣(はですがたおんなまいぎぬ)
茜屋の若主人半七は女房お園を迎える前から芸者三勝に入れ上げ子供まで設けていたが、ひょんなことから恋敵を殺してしまう。その罪を被った父半兵衛、心ならずも離縁されたお園、行き詰まった半七と三勝は我が子をそっと半兵衛らに託し、霜の夜、自害する。

冒頭「酒屋の段」。店の留守を任された丁稚の能天気さ。そこに酒を買いに来た子連れの女。頼まれて酒を運んでやる丁稚。この謎めいた場面から始まる。

半兵衛が代官所から戻り、丁稚がなぜか子供を背負って店に戻る。そこに離縁されたお園が父親とともに茜屋を訪ねてから話は急展開し、引き込まれる。

ただ、この時点でも半七・三勝は登場しないというのが凝った作劇で面白い。

実話に基づいているというが、誰一人真の悪人はいないのに、歯車が少し欠けたか、登場人物の人生を狂わせてゆく人間の情のおかしさ。

♪2019-143/♪国立劇場-12

2019年5月16日木曜日

国立文楽劇場開場35周年記念 人形浄瑠璃文楽05月公演 通し狂言「妹背山婦女庭訓」第1部

2019-05-16 @国立劇場


通し狂言「妹背山婦女庭訓」(いもせやまおんなていきん)

●第一部(午前10時30分開演)
 大   序
  大内の段
   碩太夫・亘太夫・小住太夫・咲寿太夫/
   清允・燕二郎・錦吾・清公
      小松原の段
   芳穂太夫・咲寿太夫・南都太夫・
   文字栄太夫・津国太夫/團吾
      蝦夷子館の段
   口:亘太夫/清公
   奥:三輪太夫/清友

 二段目
  猿沢池の段
   希太夫/友之助
      鹿殺しの段
   碩太夫/錦吾
      掛乞の段
   睦太夫/寛太郎
      万歳の段
   織太夫/清志郎・清允
      芝六忠義の段
   切:咲太夫/燕三

 三段目
  太宰館の段
   靖太夫/錦糸
     
人形▶玉佳・玉勢・紋臣・簑太郎・玉助・簑紫郎
   玉男・文司・清十郎・玉也・勘次郎・
   簑二郎・和馬・勘十郎・ほか

今月は、国立文楽劇場会場35周年の記念であり、令和に改元後最初の公演ということもあってか、日本で初めて元号が定められた「大化の改新」を題材にした超大作が、昼夜2部に及ぶ通し狂言として上演された。
第1部は10時半から。第2部終演は21時という時間割だが、これだけ長いと日を分けて鑑賞するのが普通だと思うが、今月はやたら忙しいので、1日で一挙に観てしまうことにした。もちろん幕間はあるし、1部終演後2部開演までにもお客の入れ替えの時間があるが、入館してしまえば出るまで拘束10時間半だ。
これはかなり体力が必要で、若干、不安もあったが、始まってみると実に面白くて、疲労など全然感じるどころではなかった。

この演目は、初めての鑑賞だ。およその筋書きは頭に入っていたが、まあ、登場人物が多く、最初のうちはなかなか彼らの関係性が飲み込めず、買ったプログラムの「人物相関図」などをチラチラ見ながら、なんとかついてゆくという感じだった。

ややこしいのは人間関係だけではなく、そもそもの筋書きがもう破天荒なのだ。
中大兄皇子(天智天皇)、藤原(中臣)鎌足側と、蘇我蝦夷・入鹿親子側との権力争いが大筋である(こういう狂言を「王代物」というらしい。)が、タイトルからしても違和感があるように、途中では室町か鎌倉の時代物風になったり、さらには江戸時代の世話物の様な話も加わり、元の大筋はだんだんとボケてゆき、まるで違う話が2つ3つ合わさっているようだ。

まあ、面白ければなんでもあり、という文楽・歌舞伎の庶民芸能の面目躍如だ。

第1部では文楽版ロメオとジュリエットとも言える久我之助(こがのすけ)と雛鳥の出会いを描く「小松原の段」、天智帝やその部下が大納言兼秋らが匿われているあばら家に掛け取りに来た商人とのトンチンカンなやりとりを描く「掛乞いの段」、親子の犠牲を描く「芝六忠義の段」が印象的だった。

♪2019-064/♪国立劇場-06

2019年2月2日土曜日

人形浄瑠璃文楽平成31年02月公演 第3部

2019-02-02 @国立劇場


第三部
鶊山姫捨松(ひばりやまひめすてのまつ)
 中将姫雪責の段
     前⇒  靖太夫/錦糸
     奥⇒  千歳太夫/富助
     胡弓⇒    錦吾

  人形▶紋臣・一輔・二郎・文哉・紋秀・清五郎・簑助・玉也

壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)
 阿古屋琴責の段
     阿古屋⇒ 津駒太夫
     重忠⇒  織太夫
     岩永⇒       津國太夫
     榛沢⇒       小住太夫
     水奴⇒       碩太夫
          清助
     ツレ⇒       清志郎
     三曲⇒       寛太郎

  人形▶玉助・文司・玉翔・勘十郎・勘助・玉路・和馬・簑之

Ⅰ部、Ⅱ部は後日に回して。
Ⅲ部は「鶊山(ひばりやま)姫捨松」中将姫雪責の段と「壇浦兜軍記」阿古屋琴責の段。
2本とも若い女性が責められまくる話って、ちょっと興奮させる?
後者は歌舞伎の玉三郎で観たが人形では初めて。前者は歌舞伎も知らない。

「鶊山姫捨松」では、権力闘争の煽りを食って、無実の中将姫が雪の舞う庭で、継母岩根御前による殺害目的の折檻を受ける場面=雪責めがメインだ。

打掛を剥がされ竹刀でさんざの打擲に苦しむ姿を、豊澤富助の三味線に乗せ竹本千歳太夫が振り絞るように語り、人間国宝吉田簑助が人形に命を吹き込む。

「壇浦兜軍記」は傾城阿古屋が、源氏方代官重忠と岩永から、彼女が馴染みだった平家の重臣・景清の行方を聞き出そうと拷問を受ける一幕だ。
逸(はや)る岩永を制して冷静な重忠は阿古屋に琴・三味線・胡弓を弾かせその調子で阿古屋の本心を探ろうとする。
歌舞伎では一人の役者が3種を操る処が見どころ。

文楽でも同様だが、ここでは人に操られる人形が演奏するフリをするという屈折した面白さがある。
楽器の実演は三味線方(鶴澤寛太郎の見事な演奏)が担うが、それに合わせて、さも演奏しているかのようにピタッと合わせて阿古屋を遣うのが桐竹勘十郎の名人芸。見事でありおかしくもある。

観客は、寛太郎の演奏を横目で見ながら勘十郎が遣う人形のフリを同時に見るので、撥・弓・指遣いの微妙な仕草までシンクロするのがよく分かって只管感心するが、舞台上の憎まれ役岩永も阿古屋の名演につい惹き込まれる様子も傑作で、場内は笑い声が広がる。津駒太夫・織太夫らも名調子。

阿古屋琴責めでは中将姫雪責めと違って、三味線方も太夫も大勢で人形を演じ分け、責めるといってもこちらは優雅なもので傾城の見事な衣装も楽しめるし、賑やかで、おかしくてホンに楽しい一幕ではあった。

♪2019-010/♪国立劇場-02

2018年5月17日木曜日

人形浄瑠璃文楽平成30年5月公演 第2部「彦山権現誓助剣」

2018-05-17 @国立劇場


彦山権現誓助剣(ひこさんごんげんちかいのすけだち)
●須磨浦の段
  お菊⇒竹本三輪太夫
  内匠⇒豊竹始太夫
  友平⇒竹本小住太夫
  弥三松⇒豊竹咲寿太夫/鶴澤清友
 
●瓢簞棚の段 
 中 豊竹希太夫/鶴澤寛太郎
 奥 竹本津駒太夫/鶴澤藤蔵・鶴澤清公 

●杉坂墓所の段
 口 豊竹亘太夫/野澤錦吾
 奥 豊竹靖太夫/野沢錦糸
 
●毛谷村六助住家の段
 中 豊竹睦太夫/野沢勝平
 奥 竹本千歳太夫/豊澤富助

人形役割
  娘お菊⇒吉田勘彌
  弥三松⇒吉田簑太郎
  友平 ⇒吉田文昇
  内匠 ⇒吉田玉志
  佐五平⇒吉田玉勢
  お園 ⇒吉田和生
  伝五右衛門⇒吉田玉佳
  六助 ⇒吉田玉男
  母お幸⇒桐竹勘壽
 ほか

一昨日、鑑賞したばかりだが、頭に入っていない部分があって、気になってもう一度観ることにした。

「毛谷村」の段で、お園は父の決めた許婚六助に出会い、急に女らしく振る舞うようになるのだが、夕飯の支度をする時にかまどに火吹き竹で息を送る際に、あまりに慌てていて尺八を口にするシーンが歌舞伎にはある。

最初の鑑賞の際、ボーッとしていて、それに気づかなかった。果たして尺八の場面はあったのかなかったのか、それが気になってならない。それで、第1部の鑑賞日に第2部のチケットがあるかどうか調べたら幸いなことに良い席が残っていたので即GETした。

ところが、朝から第1部4時間超を観た後に、続いて第2部を観るというのはなかなかしんどいものがある。
いよいよというところまで来てまたもや注意散漫になってしまった。
「彦山権現誓助剣」は休憩込みで4時間37分もあるので、最後の毛谷村迄行きつく頃は相当疲れが溜まっていたのだ。

結局、火吹き竹の場面は確認できずじまいだった。
六助がお園や姑の見送りを受け、梅の枝と椿の枝を背中に挿してもらって仇討ちに出かけるところは観ていたのだけど。どうも、その瞬間、エアポケットに落ち込んだみたいだ。

ま、2回観たので、全体像ははっきりしてきたので良かったけど。

しかし、朝から通せば9時間37分だ。
休憩が合計90分。第1部と第2部の間の切り替えの時間が38分あったとはいえ、1日で2部とも観るというのはかなりの体力勝負だ。

♪2018-056/♪国立劇場-08

https://beelogbee.blogspot.jp/2018/05/305-2.html

2018年5月15日火曜日

人形浄瑠璃文楽平成30年5月公演 第2部「彦山権現誓助剣」

2018-05-15 @国立劇場


彦山権現誓助剣(ひこさんごんげんちかいのすけだち)
●須磨浦の段
 お菊⇒竹本三輪太夫
 内匠⇒豊竹始太夫
 友平⇒竹本小住太夫
 弥三松⇒豊竹咲寿太夫
 /鶴澤清友
 
●瓢簞棚の段 
 中 豊竹希太夫/鶴澤寛太郎
 奥 竹本津駒太夫/鶴澤藤蔵・鶴澤清公 

●杉坂墓所の段
 口 豊竹亘太夫/野澤錦吾
 奥 豊竹靖太夫/野沢錦糸
 
●毛谷村六助住家の段
 中 豊竹睦太夫/野沢勝平
 奥 竹本千歳太夫/豊澤富助

人形役割
  娘お菊⇒吉田勘彌
  弥三松⇒吉田簑太郎
  友平 ⇒吉田文昇
  内匠 ⇒吉田玉志
  佐五平⇒吉田玉勢
  お園 ⇒吉田和生
  伝五右衛門⇒吉田玉佳
  六助 ⇒吉田玉男
  母お幸⇒桐竹勘壽
  ほか

今月の文楽公演は第1部が吉田玉助襲名披露公演で出演陣もなかなか豪華だ。ま、そちらはあとの楽しみにして、まずは第2部から出かけた。
演目は「彦山権現誓助剣」。本来十一段構成から六段目から九段目までの半通し上演だ。
このうち、九段目に当たる「毛谷村六助住家の段」は、歌舞伎では何度か観ている。歌舞伎では、大抵「毛谷村」としてこの段だけが単独で上演され、稀にその前段の「杉坂墓所の段」も置かれる場合があるが、今回の文楽公演のように四段・半通しは多分ないのだろう。

「須磨浦の段」と「瓢箪棚の段」を前置することで話がわかりやすくなったかと言えば、どうもそうでもなかった。むしろ、複雑になって全体像を掴みにくかったように思うが、それは、これら前二段を観るのが初めてだったからかもしれない。

物語性はともかく、「瓢箪棚の段」は、単独でもなかなか見どころがある。全体を通したヒロインであるお園が初めてここで登場し、仇役との対決場面だ。

お園は武術指南の娘として生まれたので武術全般に通じているだけでなく、180cmという偉丈夫(偉丈婦?)で怪力の持ち主でもある。鎖鎌まで使う剣戟、棚から遣い手もろとも人形が飛び降りる演出など、これはなかなかの見どころだ。

その彼女が「毛谷村六助住家の段」で、親が決めた彼女の許嫁でめっぽう剣術の巧い六助に出会い、その途端、しおらしくなり何くれとなく世話を焼くが、つい怪力の地が出てしまうところは、歌舞伎でも滑稽シーンが連続する楽しいところだ。

この「毛谷村」の「奥」を語ったのが千歳太夫。
人形は六助を吉田玉男、お園を吉田和生が遣った。
うまい下手は判断付けかねるが、みんな熱演で良かった。

♪2018-054/♪国立劇場-06

2017年12月7日木曜日

人形浄瑠璃文楽平成29年12月公演「ひらかな盛衰記」

2017-12-07 @国立劇場


ひらかな盛衰記(ひらがなせいすいき)

●義仲館の段
 豊竹始太夫、竹本南都太夫、豊竹希太夫、豊竹亘太夫、竹沢團吾
●大津宿屋の段
 豊竹靖太夫、野沢錦糸、鶴澤燕二郎
●笹引の段
 豊竹咲甫太夫、鶴澤清友
●松右衛門内の段
 豊竹芳穂太夫、野澤喜一朗、豊竹呂太夫、鶴澤清介
●逆櫓の段
 豊竹睦太夫、鶴澤清志郎

◎人形
 吉田簑二郎、吉田清五郎、吉田玉彦、吉田玉佳、吉田一輔、吉田玉也、吉田分昇、吉田玉勢、吉田玉志、吉田玉輝ほか

「ひらかな盛衰記」に<ひらがなせいすいき>とルビが振ってある。これまで、ずっと<ひらかなせいすいき>と読むものとばかり思っていた。もっと正確にいうと、元になった「源平盛衰記」も<げんぺいじょうすいき>と読むのが正しく、これをうんと易しくしたという意味で「ひらかな」が付いたけど、「盛衰記」の方は<せいすいき>に変化したのはどうしてだろう。


また、<ひらがなせいすいき>の<が>は鼻濁音が正しいのだそうだ。そう言えば、小学校か中学校の音楽の時間に<が行>は鼻濁音で発音せよと教えられたものだったが、すると「加賀見山旧錦絵」<かがみやまこきょうのにしきえ>や「源平布引滝」<げんぺいぬのびきのたき>など<が行>が含まれているとやはり鼻濁音で読むのだろうか?
本筋と関係のない話だけど、気になった。

今日の構成は、全段通しという訳ではないようだが、話はよく通って分かりやすかった。特に「松右衛門内の段」と「逆櫓の段」は歌舞伎でも観ているので話の内容はしっかり覚えていたが、そこに至るまでの前3段もおよその筋は知っていたので、嗚呼、なるほどかくして「逆櫓」に至るのかと納得。
特に「笹引の段」には大いに心動かされた。

太夫は好みの咲甫太夫。
旅先で命を落としてしまった山吹御前の亡骸を腰元お筆が竹を1本伐採してその葉に巻きつけ、引きずってゆくのだが、重いから容易ではない。その芸がとてもリアルだし、浄瑠璃と相まって哀切極まりない。
そこに捕り手が襲いかかるが、剣の達人でもあるお筆は捕り手の顔を梨割りに切り裂くのがおかしくもある。

お筆が船頭権四郎を尋ねてくる「松右衛門内の段」も悲痛な話だが、何と言ってもクライマックスは「逆櫓の段」。

娘婿である松右衛門(実は樋口次郎兼光)を裏切って敵方(畠山重忠)に訴人してまでも<彼の血の通った子ではないからと>自分の孫(実は木曽義仲の遺児)だけは助けてほしいと訴える権四郎の深慮遠謀に松右衛門も主家の末裔の命を守ってくれようとする心根を知り潔く縄につくのだ。敵方の将畠山重忠が、松右衛門の義理の関係とは言え父と子に最後の対面を許すのは、それが実は最後の主従の対面であることを知っての武士の情けである。

かくして、義理と人情が交錯して各人の熱い思いが湧き上がる中に「涙に咽ぶ腰折れ松、余所の千年は知らねども、我が身に辛き有為無常、老いは留まり若きは行く、世は逆様の逆櫓の松と、朽ちぬその名を福島に枝葉を今に残しける」と名調子で大団円を迎える。

♪2017-197/♪国立劇場-18

2017年2月21日火曜日

国立劇場開場50周年記念 あぜくらの集い 復曲素浄瑠璃試演会 花魁莟八総(はなのあにつぼみのやつふさ)

2017-02-21 @国立劇場



素浄瑠璃試演会 花魁莟八総
●行女塚(たびめづか)の段
   豊竹靖太夫
   野澤錦糸
●伴作住家の段
口 豊竹亘太夫
   豊澤龍爾
奥 竹本千歳太夫
   豊澤富助

座談会
 竹本千歳太夫
 野澤錦糸
 豊澤富助
司会 児玉竜一

年末に初めて人形浄瑠璃(文楽)を観てから、太棹三味線のベンベン!に惹かれている。

国立劇場の友の会である「あぜくら会」会員向けの企画で、素浄瑠璃を聴かせるというので応募したら当選したので出かけた次第。

素浄瑠璃と言うのは人形が付かない<三味線と太夫の語りだけ>だ。
今回の出し物は「花魁莟八総」という作品の中から二段で、この作品は上演されなくなっておよそ百年になるところ、当代野澤錦糸という三味線方の名人が残っている楽譜を元にして太夫と協力しながら公演に耐えるような形に仕上げているのだそうだ。

「花魁莟八総」。
「やつふさ」という名前から「南総里見八犬伝」に関係するのかと思っていたが、まさにそのとおりだったが、これが非常に複雑怪奇な物語で、登場人物も多く、しかもその一部(といっても素浄瑠璃だけで2時間半ほど要した。その後に座談会もあり。)なので…、という言い訳も通らないほどそもそも語りがよく聴き取れない。

文楽公演の際は字幕も付いたが、今回は字幕なし(仮に字幕がついても最前列だったから読めないが。)。
床本(台本の意)が配られたが、現代語で書かれていても中身は古文であるから、早々簡単には読み切れないのだ。

そんな訳で、筋はほとんど分からずじまい。ただ、調子の良い三味線と語りを聴きながら…正直なところ、船を漕いでしまった。

義太夫節には慣れも必要だろう。

来月6日には人間国宝竹本駒之助を聴きに行くことにしているが、失礼にならぬようしっかり準備して臨まねばなるまい。

♪2017-027/♪国立劇場-06

2017年2月7日火曜日

国立劇場開場50周年記念 文楽公演 近松名作集<第一部> 平家女護島(へいけにょごのしま)

2017-02-07 @国立劇場


近松門左衛門=作
 平家女護島(へいけにょごのしま)
    六波羅の段
    鬼界が島の段
    舟路の道行より敷名の浦の段

(主な出演者)
 豊竹靖太夫 野澤錦糸
 豊竹英太夫 鶴澤清介
 豊竹咲甫太夫 鶴澤藤蔵
 竹本三輪太夫 野澤喜一朗
 竹本南都太夫 鶴澤燕二郎
 
 吉田一輔
 桐竹亀次
 吉田玊佳
 吉田玉翔
 吉田幸助
 吉田玉勢
 吉田和生
 吉田勘彌
 吉田簑助
 吉田簑紫郎
 ほか

暮の「仮名手本忠臣蔵」2部に分けての全段通しの次の国立劇場文楽公演は「近松名作集」だ。
今回は3作を1日で3部に分けての公演だ。
11時から20時まで頑張れなくもないけど、最近の体力不足が心配で、今回は1部と2部は同日に続けて、3部は別の日に鑑賞することにした。

「平家女護島」は本来の形はもっと長いもの(全5段11場)らしいが、今回は最も有名な「鬼界が島の段」(なぜ「女護の島の段」と言わないのか不思議だけど。)を真ん中に据えて、前段に俊寛の妻の六波羅での横死を描き、後段で清盛入道の極悪非道ぶりを描く。
原作の2段目と5段目が省略されているが、それでも話が通るようにできている。

今日の中段が歌舞伎でも有名な鬼界が島での顛末だ。
鹿ヶ谷の陰謀が露見して配流されて3年。そこに訪れた赦免船の使者から申し渡された俊寛の恩赦の喜びも束の間、妻が自害して果てたことを知り、絶望のあまり、自分は鬼界が島にとどまるので、島の海女である千鳥を代わりに船に乗せて都に連れて行ってやってほしいと頼む。
色々とあった後、それが叶ったものの、俊寛は海辺の大きな岩に聳える松の木に縋って、赦免の船を見送るのだが、そこで、独りになってしまった寂しさに心が折れて気持ちが崩れてしまう。
かつて都で権勢を誇った俊寛僧都でも、島に取り残された時、思いもしなかった寂寥感に襲われて身悶えする。そこが、人間俊寛の魅力でもあリ、この物語の見どころだ。

鬼界が島の段で俊寛が自分の代わりに船に乗せてやる女・千鳥が海女という設定が、敷名の浦の段の活劇で生きてくるのは巧い作劇だ。

♪2017-017/♪国立劇場-04