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2023年3月15日水曜日

未来へつなぐ国立劇場プロジェクト 初代国立劇場さよなら公演 歌舞伎名作入門「源氏の旗揚げ」 「鬼一法眼三略巻 一條大蔵譚」「五條橋」

2023-03-15 @国立劇場大劇場



●入門「源氏の旗揚げ」
ご案内 片岡亀蔵

●文耕堂・長谷川千四=作《鬼一法眼三略巻》
「一條大蔵譚」二幕
一條大蔵卿長成 中村又五郎
吉岡鬼次郎   中村歌昇
鬼次郎女房お京 中村種之助
勘解由妻鳴瀬  中村梅花
播磨大掾広盛  嵐橘三郎
八剣勘解由   片岡亀蔵
常盤御前    中村魁春 ほか

●「五條橋」一幕
武蔵坊弁慶   中村歌昇
牛若丸     中村種之助 ほか



「鬼一法眼三略巻」は度々観ているが、一度として同じ構成はない。とてもややこしい。今回は、元の文楽の四、五段目だが、四段目中「檜垣茶屋」は省略し、上演が極めて珍しい「曲舞」と、こちらもなかなか上演されない五段目の「五條橋」が加わった。
これ迄縺れていた知識を解きほぐしてようやく全体の構成が分かるようになった。

その上演されることの少ない両方の幕(場)とも初見だったが、面白い。

見どころは、鑑賞教室ではここ数年主役を演ずることがあったが、本舞台での主役=大蔵卿を初役で演じた中村又五郎。
吉右衛門が当たり役のようにしていたし、その舞台も観ているので、阿呆の場面ではしっくりこなかったが、正気を表す場面では”又五郎”が出てきて興味深かった。

新発見は種之助の牛若丸。随分前から観ているのに莟玉、米吉ほどの優しげな顔立ちではないので、女方ではあまり印象的な芝居が思い出せない人だが、今日の彼の牛若丸はなんと美しい。
「大蔵譚」でも女役だったが、全く別人のようだ。今後要注目。

余談:3月13日からのマスク着用のルールが緩和されたのに伴って、入場に当たってマスクはお客各人の判断に委ねられた。大いに結構。
ただし、歌舞伎の完全復活はまだ遠いな。何しろ、「大向こう」が封じられている。前回の公演から、決められたエリアから(一般客は立ち入れない)大向こうの”専門家”による模範的掛け声が始まったが、人数も少なく、雰囲気が盛り上がらない。
歌舞伎は双方向芸術だ。客席とのやりとりがあって、初めて見得も決まる。

♪2023-044/♪国立劇場-04

2022年3月18日金曜日

令和4年3月歌舞伎公演『近江源氏先陣館-盛綱陣屋-』

2022-03-18 @国立劇場大劇場



佐々木盛綱⇒       尾上菊之助
高綱妻篝火⇒       中村梅枝
信楽太郎⇒         中村萬太郎
伊吹藤太⇒         中村種之助
盛綱妻早瀬⇒       中村莟玉
高綱一子小四郎⇒   尾上丑之助
盛綱一子小三郎⇒   小川大晴
古郡新左衛門⇒     嵐橘三郎
盛綱母微妙⇒       上村吉弥
北條時政⇒         片岡亀蔵
和田兵衛秀盛⇒     中村又五郎
                           ほか

入門 “盛綱陣屋”(もりつなじんや)をたのしむ

近松半二=作
近江源氏先陣館  一幕
-盛綱陣屋-
 国立劇場美術係=美術
        

「熊谷陣屋」は歌舞伎・文楽で何度も観たが、「盛綱陣屋」は初めて…と思っていたが、19年の暮れに松本白鸚の盛綱で観てたよ。ホンにこの頃の記憶力低下は自分でもゾッとするよ。

両者の話に共通点は多い。
偽頸実験。
うまく騙した後の一波乱。
何より極端なくらいの忠孝。

物語としては「熊谷」の方が上等な気がするが、「盛綱」も面白かった。と言うか、今回はちびっ子2人にやられた!

主人公盛綱の長男役を小川大晴(ひろはる=梅枝の長男)が。
盛綱の弟である高綱の長男役を丑之助(菊之助の長男)が演ずる。

この絵本の桃太郎のような2人が非常に可愛らしいので、登場しただけで癒される。

が、やがて悲劇に見舞われる丑之助の健気さに胸を掻きむしられ迂闊にも落涙!

このところ、国立の3月は「菊之助劇団」で定着しそうだが、ところどころに、昨秋亡くなった吉右衛門を思い起こさせる雰囲気があった。

美形中の美形、莟玉の顔がえらく丸々としていた。まあ、いつまでも美少年ではいられないし、顔つきも変わってゆくのだろうか。あまり太らないのがよろしい…けど。

ところで、コロナも下火になりつつあるが、舞台と客席が双方向的に交流する歌舞伎では「大向こう(掛け声)」が復活しないと、本当の「歌舞伎」にならない。
拍手ではもどかしい。手練れの間合いの良い掛け声を聞いて役者も気持ちを乗せられるだろうし、声を掛けないお客もこの雰囲気を楽しめるのだが。

♪2022-038/♪国立劇場-02

2021年7月5日月曜日

7月歌舞伎鑑賞教室(第100回 歌舞伎鑑賞教室)

2021-07-05 @国立劇場


解説 歌舞伎のみかた

竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)一幕
  国立劇場美術係=美術

  河連法眼館(かわつらほうげんやかた)の場


●「解説 歌舞伎のみかた」
解説                             
 中村種之助

●『義経千本桜』
佐藤忠信/源九郎狐       中村又五郎
駿河次郎                         中村
松江
亀井六郎                         中村種之助
法眼妻飛鳥                     中村梅花
河連法眼                         嵐橘三郎
源義経                            中村歌昇
静御前                            市川高麗蔵
                                              ほか


そもそも中高生の団体鑑賞の為の公演だが、内容は手抜きなしの本物だ。

好きな席が取りづらいのは止むを得ない。今回は2階の4列目。なのに、単眼鏡を忘れたのは残念。


解説は先月に続いて種之助。巧い。

今回は本編の内容にかなり入り込んだ説明だった 。


「義経千本桜」という長い物語の一場だけを上演するので、先立つ事情などを説明したのは良かった。

「河連法眼館(かわつらほうげんやかた)の場」は何度も観ているが、この芝居の面白さは、早変わりなどの見せ場もあるけど、400歳!の「子狐」の演技で親子の情愛を表現するところで、歌舞伎入門には良いが、さりとて簡単に卒業できる演目でもないなと思う。


♪2021-068/♪国立劇場-05

2021年6月9日水曜日

6月歌舞伎鑑賞教室

 2021-06-09 @国立劇場


●解説 歌舞伎のみかた

●三遊亭円朝=口演

竹柴金作=脚色
尾上菊五郎=監修
人情噺文七元結(にんじょうばなしぶんしちもっとい)二幕四場
      国立劇場美術係=美術

序 幕  第一場 本所割下水長兵衛内の場
    第二場 吉原角海老内証の場
二幕目  第一場 本所大川端の場
     第二場 元の長兵衛内の場

●「解説 歌舞伎のみかた」
解説                    中村種之助

●『人情噺文七元結』
左官長兵衛          尾上松緑
女房お兼                  中村扇雀
和泉屋手代文七       坂東亀蔵
鳶頭伊兵衛              中村種之助
娘お久                    坂東新悟
和泉屋清兵衛          市川團蔵
角海老女房お駒       中村魁春
                                ほか


この芝居は落語から移し替えられた。

本家落語版では、なんと言っても名人志ん朝の「文七元結」が大好きだ。何十回も聴いているが、おかしくて、ほろっとさせられる。


落語は時空が噺家の自在になるが、芝居ではそうもゆかないので、落語の話を少し端折ってあるが、うまく繋いであるので少しも違和感がない。

この芝居、昨年菊五郎ほか豪華版で楽しんだが、今回は主役長兵衛を松緑に譲り(初役)、菊五郎は監修に回った。

やはり松緑こそ実年に近く味わいもピッタリだ。菊之助では長兵衛は務まらない。


毎回、こんなバカな話はないぞ、と思いながらも惹き込まれ、ホクホク、ウルウルしてくる。

娘が身を売って拵えた50両の大金を、長兵衛は店の金を無くして身投げ寸前の文七に逡巡の挙げ句人の命にゃ変えられない、とやってしまう。


長兵衛の女房(お兼=扇雀)はどうせ博打で擦ったのだろうと大喧嘩。この扇雀も巧い。2人の絡みの面白さで話に説得力が生まれ、バカな話もありそうな話になってくる。


今月(来月も)は観賞教室として開催されているので、中・高生の団体がたくさん入っていて、2階最前列の好きな席は取れなかったが、その後取り消しが相次いだようで、結局、2階はガラガラだった。よほどか、空いてる席に移りたかったが、ま、それはじっと我慢して後ろの方で観ていたよ。


本篇に先立って恒例の歌舞伎案内を今回は種之助が務めた(本篇も)が、手際良く、滑舌良く、上手だった。



♪2021-051/♪国立劇場-04

2020年11月20日金曜日

11月歌舞伎公演第1部

 2020-11-20 @国立劇場

【第一部】
近松門左衛門=作
国立劇場文芸研究会=補綴
平家女護島(へいけにょごのしま)-俊寛-
            国立劇場美術係=美術

序幕 六波羅清盛館の場
二幕目 鬼界ヶ島の場

平相国入道清盛/俊寛僧都   中村吉右衛門
海女千鳥           中村雀右衛門
俊寛妻東屋/丹左衛門尉基康    尾上菊之助
有王丸                         中村歌昇
菊王丸                           中村種之助
平判官康頼                          中村吉之丞
越中次郎兵衛盛次               嵐橘三郎
丹波少将成経                        中村錦之助
瀬尾太郎兼康                        中村又五郎
能登守教経                          中村歌六



所謂「俊寛」〜鬼界ヶ島。

吉右衛門、菊之助、雀右衛門。
役者が揃ったせいか、コロナ隆盛にも関わらず市松満席近い。

考えてみれば鑑賞・観劇は他人と対面する事は少なく、客は無言で咳払いも粗無い。施設はマメに消毒しているようだし、家に居るより安全?

…とでも思っていなきゃ怖くて観に行けない。

この芝居は、鬼界ヶ島に1人残される俊寛の葛藤が見処だが、放免されないと知った際の地団駄踏む子供じみた態度に比べると船を見送る際の無念さは諦観からか存外おとなしい。

歌舞伎・文楽で何度か観ている中で今回は一番静かな俊寛だったが、あの立場で、あの事情で、人はどんな態度を取るものだろうか、考えさせられた。

吉右衛門は長くこの役を演じながら考え抜いて今の形に至ったのだろうが、これは難しい芝居だなと気付かされた。

それが今日の収穫かな。

♪2020-080/♪国立劇場-10

2020年9月16日水曜日

九月大歌舞伎 第三部

 2020-09-16 @歌舞伎座


双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)
引窓

濡髪長五郎⇒吉右衛門
南与兵衛後に南方十次兵衛⇒菊之助
平岡丹平⇒歌昇
三原伝造⇒種之助
お早⇒雀右衛門
お幸⇒東蔵

訳あって人を殺めた関取・濡髪(吉右衛門)が密かに再婚した母お幸(東蔵)に会いに来るが、再婚相手の義理の息子十次兵衛(菊之助)は十手持ちだった。

既に人相書きが出回り、覚悟を決めた濡髪をお幸が引窓の縄で縛る。

十次兵衛は濡髪が義母の実子と知って、縄を切る。
折しも生き物を放つ「放生会」の夜だった。

…と縮めればかくの如し。人情話である。

吉右衛門・東蔵という人間国宝2人に雀右衛門、菊之助と人気の美形が揃って見応え十分。

本来はもっと長い話だが、「引窓」だけでも成立している。


♪2020-051/♪歌舞伎座-05

2019年11月11日月曜日

11月歌舞伎公演「孤高勇士嬢景清(ここうのゆうしむすめかげきよ)―日向嶋―」

2019-11-11 @国立劇場


西沢一風・田中千柳=作『大仏殿万代石楚』
若竹笛躬・黒蔵主・中邑阿契=作『嬢景清八嶋日記』から
国立劇場文芸研究会=補綴
通し狂言 孤高勇士嬢景清(ここうのゆうしむすめかげきよ) 四幕五場
   ― 日向嶋 (ひゅうがじま) ―
            国立劇場美術係=美術

序   幕 鎌倉大倉御所の場
二幕目 南都東大寺大仏供養の場
三幕目 手越宿花菱屋の場
四幕目 日向嶋浜辺の場
             日向灘海上の場

悪七兵衛景清⇒中村吉右衛門
源頼朝/花菱屋長⇒中村歌六
肝煎左治太夫⇒中村又五郎
仁田四郎忠常⇒中村松江
三保谷四郎国時⇒中村歌昇
里人実ハ天野四郎⇒中村種之助
玉衣姫⇒中村米吉
里人実ハ土屋郡内⇒中村鷹之資
和田左衛門義盛⇒中村吉之丞
俊乗坊重源/花菱屋遣手おたつ⇒嵐橘三郎
梶原平三景時⇒大谷桂三
秩父庄司重忠⇒中村錦之助
景清娘糸滝⇒中村雀右衛門
花菱屋女房おくま⇒中村東蔵
           ほか

9月の文楽「嬢景清八島日記」に前段2幕を加えた歌舞伎版通し。
時代物に世話物がサンドイッチになった構造。
特に終幕・日向嶋は能の様式も取り入れて多彩な見もの。
吉右衛門、歌六、又五郎、雀右衛門、東蔵とうれしい芸達者が揃った。
最近歌昇がいい。

♪2019-174/♪国立劇場-14

2018年12月6日木曜日

12月歌舞伎公演 通し狂言「増補双級巴」〜石川五右衛門〜

2018-12-06 @国立劇場


石川五右衛門⇒ 中村吉右衛門
壬生村の次左衛門⇒ 中村歌六
三好修理太夫長慶⇒ 中村又五郎
此下藤吉郎久吉・真柴筑前守久吉⇒尾上菊之助
大名粂川但馬⇒ 中村松江
大名田島主水/早野弥藤次⇒  中村歌昇
足柄金蔵/大名白須賀民部⇒ 中村種之助
次左衛門娘小冬⇒ 中村米吉
大名天野刑部/小鮒の源五郎⇒ 中村吉之丞
大名星合兵部/三二五郎兵衛⇒ 嵐橘三郎
呉羽中納言氏定/大名六角右京⇒ 大谷桂三
足利義輝⇒ 中村錦之助
傾城芙蓉/五右衛門女房おたき⇒ 中村雀右衛門
義輝御台綾の台⇒ 中村東蔵
                                                ほか

三世瀬川如皐=作
国立劇場文芸研究会=補綴
国立劇場美術係=美術

通し狂言 増補双級巴(ぞうほふたつどもえ)四幕九場
    ―石川五右衛門―
         中村吉右衛門宙乗りにて
             つづら抜け相勤め申し候

発   端 芥川の場
序   幕 壬生村次左衛門内の場
二幕目 第一場  大手並木松原の場
            第二場  松並木行列の場
三幕目 第一場  志賀都足利別館奥御殿の場
            第二場  同                     奥庭の場
            第三場  木屋町二階の場
大  詰    第一場  五右衛門隠家の場
            第二場  藤の森明神捕物の場

今月の国立劇場は役者が豪華。
吉右衛門、歌六、又五郎、菊之助、錦之助、雀右衛門、東蔵ら。

石川五右衛門を題材とするいくつかの作品を素材に三世瀬川如皐が取りまとめた作品(1851年初演)を基に、今回、新たに翻案したそうである。
場面によっては、90年(木屋町二階)、70年(壬生村)、50年(五右衛門隠家)ぶりの発掘という。こういうところが国立劇場らしい。

が、<娯楽>に留めず、石川五右衛門の家族を思う人間味を表現しようとした試みが、次ぎ接いだ前後で五右衛門の様子が異なる印象を齎す結果となり、謂わば木に竹接いだ感じになってしまったのは残念。

が、今回の売り物の一つ、「宙乗葛籠抜け」には驚いた。
花道上を大きな葛籠が宙にぶら下がって2階客席前辺りまできたところで、その中から吉右衛門が飛び出すのは、そういう仕掛けがあることは承知していたけど、実際に眼前で起こって、これは驚いた。目の前で見たのだけど、どういう仕掛けになっていたのか、一瞬の出来事なので、分からなかった。

最後は吉右衛門の大立ち回りだ。
これも、形を見せるものだとはいえ、背中が丸くなったような吉右衛門のひたすらスローモーションの立回りに不安を禁じ得なかった。

役の大きさの割に見せ場の少なかった菊之助、娘役がドンピシャの米吉が1幕で姿を消すなど、欲求不満が残ったものである。

♪2018-162/♪国立劇場-016

2018年5月22日火曜日

團菊祭五月大歌舞伎 昼の部

2018-05-22 @歌舞伎座


成田山開基1080年
二世市川團十郎生誕330年
安田蛙文・中田万助 作
奈河彰輔 演出
藤間勘十郎 演出・振付
通し狂言
一、雷神不動北山櫻(なるかみふどうきたやまざくら)
市川海老蔵五役相勤め申し候
鳴神上人⇒海老蔵
粂寺弾正⇒海老蔵
早雲王子⇒海老蔵
安倍清行⇒海老蔵
不動明王⇒海老蔵


雲の絶間姫⇒菊之助
秦民部⇒彦三郎
文屋豊秀⇒松也
秦秀太郎⇒児太郎
小野春風/矜羯羅童子⇒廣松
錦の前⇒梅丸
八剣数馬/制多迦童子⇒九團次
小原万兵衛実は石原瀬平/黒雲坊⇒市蔵
白雲坊⇒齊入
小松原中納言⇒家橘
関白基経⇒錦之助
八剣玄蕃⇒團蔵
小野春道⇒友右衛門
腰元巻絹⇒雀右衛門

二、女伊達(おんなだて)
女伊達木崎のお光⇒時蔵
男伊達中之島鳴平⇒種之助
同  淀川の千蔵⇒橋之助

「雷神不動北山櫻」は僕にとって初めての演目だった。
全4幕の通し狂言で、そのうちに歌舞伎十八番(市川宗家のお家芸として選定された荒事の演目。)に選ばれている「毛抜・鳴神・不動」の3作を含むというのだから、1作で3度おいしい作品という言える。
尤も、歌舞伎十八番も現代も実際に演じられているのは8作品程度で、残りは今ではほとんど演じられることはないそうだ。内容が伝承されていないので、演るとすれば新作を作り上げるに等しいらしい。
「毛抜・鳴神・不動」も実際に舞台にかかるのはほぼ「毛抜」だけと言ってもよい状態のようだ。

僕も、「毛抜」は数回観たが、「鳴神」も「不動」も観たことはないし、今回の鑑賞で初めてそういう作品があることを知った次第だ。

1人口上から4幕大詰まで海老蔵が5役出ずっぱりで八面六臂の大活躍。外連味たっぷりの見得がこれ程似合うのは海老蔵だけか。
菊之助との絡みも見所。

筋の運びが必ずしも滑らかではないし、長過ぎるような気もするが、歌舞伎の面白さ、楽しさ、美しさをたっぷり詰め込んだ力作だ。

余談だが、「毛抜」が単独で演じられる時は、何故か劇中劇の形をとる。今回も2幕目がそれに当たるが、やはり、この幕だけは、舞台上手と下手に芝居小屋の看板が掲げられ、粂寺弾正が若衆や腰元にちょっかい出しては失敗する度に客席に向かって頭を下げ、「面目次第もござりませぬ」と言い訳するところも今回の「通し」上演でも同じだった。

♪2018-058/♪歌舞伎座-03





2017年12月11日月曜日

12月歌舞伎公演「今様三番三」、「通し狂言 隅田春妓女容性―御存梅の由兵衛―」

2017-12-11 @国立劇場


●今様三番三(いまようさんばそう)
   大薩摩連中
   長唄囃子連中

並木五瓶=作
国立劇場文芸研究会=補綴
●通し狂言 隅田春妓女容性(すだのはるげいしゃかたぎ) 三幕九場
 ―御存梅の由兵衛― (ごぞんじうめのよしべえ)
             国立劇場美術係=美術
序幕  柳島妙見堂の場
    同 橋本座敷の場
    同 入口塀外の場
二幕目 蔵前米屋店先の場
    同 塀外の場
    同 奥座敷の場
    本所大川端の場
大詰  梅堀由兵衛内の場
    同 仕返しの場

中村吉右衛門⇒梅の由兵衛
中村歌六⇒源兵衛堀の源兵衛
中村又五郎⇒土手のどび六実は十平次
尾上菊之助⇒由兵衛女房小梅/丁稚長吉
中村歌昇⇒佐々木小太郎行氏/延紙長五郎
中村種之助⇒結城三郎貞光/芸者小糸
中村米吉⇒米屋娘お君
中村吉之丞⇒医者三里久庵
嵐橘三郎⇒米屋佐次兵衛
大谷桂三⇒曽根伴五郎
中村錦之助⇒金谷金五郎
中村雀右衛門⇒曽我二の宮実は如月姫/額の小三
中村東蔵⇒信楽勘十郎
 ほか

連日の劇場通いで初見演目なのに予習なし。寝不足。折角2階花道寄り最前列を取ったのに集中できず。吉右衛門、雀右衛門、歌六、東蔵、又五郎、菊之助、米吉…みんな好きなのにゴメン!
でも、筋もイマイチだったかもな。39年ぶり上演(=永く上演機会がなかった)にはこういう理由もあるのかも。


♪2017-199/♪国立劇場-19

2016年12月23日金曜日

国立劇場開場50周年記念 通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら) 第三部 四幕八場

2016-12-23 @国立劇場


竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら) 第三部 四幕八場
国立劇場美術係=美術

八段目   道行旅路の嫁入
九段目   山科閑居の場
十段目   天川屋義平内の場
十一段目 高家表門討入りの場
    同  広間の場
    同  奥庭泉水の場
    同  柴部屋本懐焼香の場
    花水橋引揚げの場


2日の初日鑑賞に続いて2回目だ。
前回は、めったにない事だけど、1階4列目中央やや上手寄りから観たが、今回は3階最前列席中央だったが、むしろこのチケット代の安い席の方が見通しが良くて楽しめた…ともいいきれないか。
なにしろ2回目なので筋が頭に入っているという利点もあったのだろう。
特に十一段目の高家表門の場では46名の居並ぶ迫力は高い場所から見下ろしていた方が迫力を感じた。

全3部を2回ずつ観て、この間に文楽版も観たのでいよいよ全篇が終わってしまうと寂しくもある。
単なる<仇討ち事件>を描くのではなく、殿様の短慮に巻き込まれた多くの、いろんな立場の人々の忠義やそれ故の悲劇を描く人間ドラマとなっているのが素晴らしく、良くできた話だと感心する。

この公演は当然録画は行われたはずだからNHKが放映してくれると嬉しいが、何しろ大長編であるから無理だろうな。

♪2016-183/♪国立劇場-010

2016年12月2日金曜日

国立劇場開場50周年記念 通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら) 第三部 四幕八場

2016-12-02 @国立劇場


竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら) 第三部 四幕八場
国立劇場美術係=美術

八段目   道行旅路の嫁入
九段目   山科閑居の場
十段目   天川屋義平内の場
十一段目 高家表門討入りの場
    同  広間の場
    同  奥庭泉水の場
    同  柴部屋本懐焼香の場
    花水橋引揚げの場

(主な配役)
【八段目】
本蔵妻戸無瀬⇒中村魁春
娘小浪⇒中村児太郎

【九段目】
加古川本蔵⇒松本幸四郎
妻戸無瀬⇒中村魁春
娘小浪⇒中村児太郎
一力女房お品⇒中村歌女之丞
由良之助妻お石⇒市川笑也
大星力弥⇒中村錦之助
大星由良之助⇒中村梅玉

【十段目】
天川屋義平⇒中村歌六
女房お園⇒市川高麗蔵
大鷲文吾⇒中村松江
竹森喜多八⇒坂東亀寿
千崎弥五郎⇒中村種之助
矢間重太郎⇒中村隼人
丁稚伊吾⇒澤村宗之助
医者太田了竹⇒松本錦吾
大星由良之助⇒中村梅玉

【十一段目】
大星由良之助⇒中村梅玉
大星力弥⇒中村米吉
寺岡平右衛門⇒中村錦之助
大鷲文吾⇒中村松江
竹森喜多八⇒坂東亀寿
千崎弥五郎⇒中村種之助
矢間重太郎⇒中村隼人
赤垣源蔵⇒市川男寅
茶道春斎⇒中村玉太郎
矢間喜兵衛⇒中村寿治郎
織部弥次兵衛⇒嵐橘三郎
織部安兵衛⇒澤村宗之助
高師泰⇒市川男女蔵
和久半太夫⇒片岡亀蔵
原郷右衛門⇒市川團蔵
小林平八郎⇒尾上松緑
桃井若狭之助⇒市川左團次
ほか


長大な芝居が遂に終わってしまった。
ま、今月中にもう一度観ることにしているけど、この先、<全段完全通し>は生きているうちには観られないだろうから良い経験ができた。

この芝居に関しては、第2部から(第1部も遡って)初めて台本を購入した。もちろん第3部も購入したので、今日は第3部の1回目でもあるので、台本と照らし合わせながら舞台を観たので非常に良く分かった。しかし、月内の次回鑑賞時は一切の解説本無しで舞台に集中しようと思う。

八段目道行は舞踊劇(竹本の伴奏による。セリフはない。)だが、加古川本蔵の妻(戸無瀬=魁春)と娘(小浪=児太郎)の東海道を京都山科にいる小浪の許嫁である力弥の屋敷までの嫁入りの旅で、不安な要素もないではないが全段中一番平和な話だ。
背景の景色が変化することで2人の道中が運んでゆくのが分かるようになっていて、他家の嫁入り行列なども紙人形で作ってあってユーモラスでもある。

九段目山科閑居の場では加古川本蔵の一家の物語が胸を熱くする。本蔵の幸四郎、由良之助の梅玉は芝居のタイプが全然違うけど、そんなことにはお構いなしが歌舞伎の面白さでもある。

由良之助の妻お石を演じた市川笑也という役者のことは全然知らなかった。多分、これまで一度も芝居を観たことがなかったのではないか。しかし、冷徹で筋目を通そうとする武士の妻お石を実に好演したと思う。厳しいばかりではなく、情の人でもあるところをさり気なく見せるところが良かった。今後楽しみな役者だ。
小浪は一部で米吉が演じて実に可愛らしかったので今回も力弥より小浪を演じたら良かったが、しかし、今回の児太郎の小浪も実に良かった。この人の芝居を始めていいと思ったよ。

講談・浪曲では「天野屋利兵衛は男でござる。」で知られる天川屋義平の十段目は筋に無理があるが、ここにも義理と人情の板挟みで苦しむ町人の物語が殺伐とした仇討ち物語に良い味付けではある。

いよいよ十一段目。
幕が開くと広い舞台に拵えられた高家の表門。その前に所狭しと46人の赤穂義士が居並ぶ様にまずは圧倒される。
こんなに大勢の役者が揃って同じ場面に立つという芝居がほかにあるだろうか。

このあとの討ち入りの様は、いわゆる歌舞伎風の踊りのような立ち回りではなく、時代劇映画の殺陣を観るようなかなりリアルな厳しいものなので驚いた。

ようやく師直の首を打ち取り、判官の位牌の前に供えた由良之助は、まずは師直に一矢を報いた矢間(やざま)重太郎(中村隼人)に手柄として最初の焼香を命ずる。次に足軽でありながらその忠義心から義士の連判状に名を連ねてもらった寺岡平右衛門(錦之助)に対し、勘平の遺した財布を手渡して妹婿の代わりに焼香させる。もう、ここでかなり目頭が熱くなる。

その後亡君の菩提寺まで引き揚げる途中の花水橋でそもそもこの事件の発端を作った若狭之助(左団次)に呼び止められ、あっぱれの本懐を讃えられ、義士の姓名を我が胸に刻みたいという申し出に応じて由良之助以下46人(これに勘平を加えて47士)が高らかに、誇らしげに名乗りを上げ、花道に消えてゆく。

芝居興行の世界では「忠臣蔵にはずれ無し」と言うそうだが、300年にわたって庶民に愛されてきたのもなるほ納得。いやはや面白い芝居をたっぷりと観せてもらった。

♪2016-166/♪国立劇場-09

2016年11月24日木曜日

国立劇場開場50周年記念 通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら) 第二部 四幕五場

2016-11-24 @国立劇場


平成28年度(第71回)文化庁芸術祭主催
竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)第二部四幕五場
国立劇場美術係=美術


浄瑠璃道行旅路の花聟   清元連中
五段目   山崎街道鉄砲渡しの場
        同二つ玉の場
六段目   与市兵衛内勘平腹切の場
七段目   祇園一力茶屋の場

(主な配役)⇒11/03のノート参照


3日に続いて2度めの鑑賞。筋はすっかり頭に入っているつもりだったけど、やはり1度目には見落としているものがあった。

芝居として重要なのは六段目と七段目だ。
五段目の暗闇の山中で勘平が撃ち殺したのは、おかるの父与市兵衛を惨殺して50両を奪った斧定九郎なので勘平は岳父の仇を討ったことにになるのだが、勘平には誰を猪と誤って撃ったのかが分からなかったことと斧定九郎が与市兵衛から奪った財布を、これで出世の手がかりができたと自分の懐に入れたことが災いしてまことに運悪く、彼が与市兵衛を殺し50両を奪ったと自分でも思い込み、回りからも責め立てられ、ついに自ら腹を切って落とし前をつける羽目に至る。
その直後、彼の無実は明らかになり晴れて討ち入りの連判状に名を連ねてもらうことができたが、時既に遅し。
僅かな手違いが運命の糸を縺れさせ思いもかけない大事に。ここがとてもドラマチックだ。

この勘平を菊五郎(七代目)が演ずるのだが、この一連の芝居には三代目菊五郎の型を基本に五代目菊五郎が完成した「音羽屋型」が踏襲されているそうだ。尤も他の型は観たことがないのでどんなものか分からないけど、まあ、緻密に手順が定められているのだろう。観客はそれを知る必要もないのだけど知ればさらに面白いだろう。

七段目。大星由良之助(吉右衛門)はこの段にしか登場しないが、なんといっても全段を通したらこの役こそ主役だろう。
しかし、七段目だけを観ると、ここで面白いのは遊女になっているおかる(雀右衛門。なお、冒頭の道行と六段目では<おかると勘平>は<菊之助と錦之助>。)とその兄の平右衛門(又五郎)の話だ。

足軽にすぎない平右衛門だが、なんとか討ち入りの仲間に入れてほしいと願い出るものの、敵を欺くために味方も欺いている由良之助には冷たくあしらわれてしまう。
ところが、おかるが由良之助への密書を盗み見したことから由良之助はおかるを身請けしてやろうという話になった。その次第をおかるから聞いた平右衛門はすべてを察し、妹を殺してまでも連判状に加えてもらおうとする。訳が分からないおかるに平右衛門は(六段目で描かれる)父・与市兵衛の死や夫・勘平の自決を説明することで、おかるは絶望し、いっそ兄の手にかかって死のうと覚悟を決める。
このドラマがとても観応えがあり、面白い。

又五郎と雀右衛門のともに涙を絞られるような哀切の芝居は由良之助の存在を食ってしまって七段目の主役のようでさえある。

第1部は武士の世界が描かれたが、第2部では元武士を含む庶民の人情物語だ。「仮名手本忠臣蔵」という大芝居の懐の深さとでも言うか、よくできた物語だと感心する。

♪2016-162/♪国立劇場-08

2016年11月3日木曜日

国立劇場開場50周年記念 通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら) 第二部 四幕五場

2016-11-03 @国立劇場


平成28年度(第71回)文化庁芸術祭主催
竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)第二部四幕五場
国立劇場美術係=美術


浄瑠璃道行旅路の花聟   清元連中
五段目   山崎街道鉄砲渡しの場
      同二つ玉の場
六段目   与市兵衛内勘平腹切の場
七段目   祇園一力茶屋の場

(主な配役)
【道行旅路の花聟】
早野勘平⇒中村錦之助
鷺坂伴内坂⇒東亀三郎
腰元おかる⇒尾上菊之助

【五段目】
早野勘平⇒尾上菊五郎
千崎弥五郎⇒河原崎権十郎
斧定九郎⇒尾上松緑

【六段目】
早野勘平⇒尾上菊五郎
原郷右衛門⇒中村歌六
勘平女房おかる⇒尾上菊之助
千崎弥五郎⇒河原崎権十郎
判人源六⇒市川團蔵
与市兵衛女房おかや⇒中村東蔵
一文字屋お才⇒中村魁春

【七段目】
大星由良之助⇒中村吉右衛門
寺岡平右衛門⇒中村又五郎
赤垣源蔵⇒坂東亀三郎
矢間重太郎⇒坂東亀寿
竹森喜多八⇒中村隼人
鷺坂伴内⇒中村吉之丞
斧九太夫⇒嵐橘三郎
大星力弥⇒中村種之助
遊女おかる⇒中村雀右衛門
ほか

3ヶ月とも初日を取りたかったが、11月の第2部は2日目に観劇することになった。

今回はおかる・勘平の道行に始まって7段目の一力茶屋まで。

忠臣蔵を描いた歌舞伎は、これまでに観た記憶・記録にあるものを並べると「主税と右衛門七」、「弥作の鎌腹」、「忠臣蔵形容画合」、「碁盤太平記」、「東海道四谷怪談」などがあるが、このうち「忠臣蔵形容画合」が「仮名手本忠臣蔵」の大序から7段目までを抜粋してまとめたものなので、少なくとも7段目までの筋は覚えていても良さそうなものなのに全然頭に入っていなかった。

今回は、気合を入れて予習・復習しているから話の展開は非常によく分かった。
芝居の前半は早野勘平の悲劇物語。不自然なほどに作り込まれた筋だが見せ場は多い。

落語の「中村仲蔵」は5段目に登場する斧定九郎を演ずる役者の工夫の物語で、実話だそうだ。今回の舞台では松緑が扮するのだけど、中村仲蔵の工夫によって斧定九郎の役が大きくなったので今や松緑クラスにも配役されるのだろうが、それにしても松緑には役不足ではなかったか。

落語では「4段目」というのもあって、今回通し公演を観ているからこそ、この落語のおかしさが良く分かった。

7段目が第2部の芝居の後半といえる。
「忠臣蔵」には欠かせない一番良く知られた話だ。第1部では由良之助(幸四郎)は4段目のみの登場だったが、第2部も最後の段だけ。しかしこの場だけで1時間50分とかなりの長丁場。
お茶屋遊びに呆けている由良之助(吉右衛門)の真意は何処に在りやと敵も味方も疑いが晴れない。
吉右衛門は国立劇場開場の年(昭和41年)に襲名したそうで、今年は吉右衛門にとっても襲名50年という節目の年だ。
芸については感想を言えるほど通じていないけど、やはりこの人が出てくると大きな舞台に中心ができ緊張感が生まれるのはなるほどなあと思う。

複雑な人間関係と絡み合った人情がやがてほぐれて束になり怒涛の第3部に突入する訳だが、今回の第2部も楽日近い日程で再見する予定なので細部までよく頭に入れて第3部に突入したい。

♪2016-149/♪国立劇場-07

2015年11月6日金曜日

11月歌舞伎公演「通し狂言 神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)」

2015-11-06 @国立劇場


平成27年度(第70回)文化庁芸術祭協賛
福内鬼外=作
通し狂言 神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)
  四幕       
  国立劇場美術係=美術
        
 序  幕  東海道焼餅坂の場
 二幕目  由良兵庫之助新邸の場
 三幕目  生麦村道念庵室の場
 大  詰  頓兵衛住家の場

 中村吉右衛門⇒由良兵庫之助信忠
 中村歌六⇒江田判官景連/渡守頓兵衛
 中村又五郎⇒南瀬六郎宗澄
 中村歌昇
 中村種之助
 中村米吉
 嵐橘三郎
 大谷桂三
 中村錦之助⇒竹澤監物秀時/新田義興の霊
 中村芝雀⇒新田の御台所筑波御前/頓兵衛娘お舟
 中村東蔵⇒兵庫之助妻湊
         ほか


こういう演目が歌舞伎にあるとは全く知らなかったが、作者は福内鬼外(ふくうちきがい)というふざけたようなペンネームを名乗った本邦のダ・ヴィンチとも言えるか?平賀源内だそうだ。

まことに才能溢れているというか、器用というか、驚くほど多方面に業績を残しているとは聞いていたが、人形浄瑠璃の作家でもあったとは驚き。

他にも8作が伝わっているというが、実際に今も上演されるのは「神霊矢口渡」だけらしい。

本作も最初は人形浄瑠璃で、そのほぼ四半世紀後に歌舞伎に移された。今回の国立劇場の通し狂言版では(解説に両者の異同については触れてなかったが)、多分、人形浄瑠璃の構成をほとんどそのままに再構成したのではないか。

歌舞伎での初演時は今回の幕でいえば二幕目(由良兵庫之助新邸の場)が中心で、大詰め(頓兵衛住家の場)は上演されなかったが、今日ではもっぱら頓兵衛住家の場が上演されるのみで、今回の二幕目の上演はなんと100年ぶりだというし、序幕は109年ぶり、三幕目は119年ぶりだという。

さすがに国立劇場ではある。
内容はともかく、温故知新も大切な仕事だ。


当然に初めて鑑賞する演目だ。
主役である?由良兵庫之助(吉右衛門)が登場するのは二幕目だけで、その後は名前すら出てこない。この幕で完全に自己完結している。

三幕目は閑話休題といったところで、大詰めの「頓兵衛住家の場」で一挙にドラマチックな展開と終幕になる。
ここでは主役は極悪非道の頓兵衛(歌六)とその娘お舟(芝雀)だ。由良之助の影も形もない。

この二幕目と四幕目を同時に演じ、観るというのは役者にもお客にもかなりエネルギーが必要だ。それでどちらかを中心に据え片方は除け者にされた。どちらがいいか、は演じた役者の持ち味にもよるだろうし、時代によって物語の好みが変わっていったとも言えるのではないか。

とはいえ、新田家の再興という筋を底辺に、一応、全幕話は繋がっているので、観ていて混乱もないし、それぞれの場がそれぞれに面白い。


初代吉右衛門以来100年ぶりに当代吉右衛門が演じた由良之助は悲愴な計画を胸に秘め、忠臣を殺し、我が子の首を刎ね、妻(東蔵)に詰られながらの高笑いがやがて慟哭に変わる芝居の迫力は胸に迫るものがあった。

もう一組の主役、歌六と芝雀の親子の悲劇も実に興味深い物語だ。両人とも入魂の芝居だったと思うが、特に芝雀が、恋してしまった父の敵方でもある若武者を無事に逃そうとして瀕死の身体で太鼓を打とうとして(打てば追手仲間に対する<若武者を捕まえた>という合図になり、深追いを食い止められるから。)、なかなか打てない緊迫感には手に汗握ってしまった。

悲劇だけではなく、喜劇的要素も随所に織り込まれ、笑いもあり、どの幕も楽しめる盛り沢山な芝居だった。

200年余の伝統に注文付けてもしかたがないけど、由良之助が大詰めにも顔を出すような脚色をすればまとまりが良かったのにと思うが、歌舞伎の筋立てって、筋が通らないのが多いものな。


♪2015-109/♪国立劇場-05