2016年10月3日月曜日

国立劇場開場50周年記念 通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら) 第一部 四幕九場

2016-10-03 @国立劇場



平成28年度(第71回)文化庁芸術祭主催
竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)第一部四幕九場
国立劇場美術係=美術

大序   鶴ヶ岡社頭兜改めの場
二段目  桃井館力弥使者の場
      同 松切りの場
三段目   足利館門前の場
            同 松の間刃傷の場
            同 裏門の場
四段目   扇ヶ谷塩冶館花献上の場
            同 判官切腹の場
            同 表門城明渡しの場

(主な配役)
【大序】
塩冶判官⇒中村梅玉
顔世御前⇒片岡秀太郎
足利直義⇒中村松江
桃井若狭之助⇒中村錦之助
高師直⇒市川左團次

【二段目】
桃井若狭之助⇒中村錦之助
本蔵妻戸無瀬⇒市村萬次郎
大星力弥⇒中村隼人
本蔵娘小浪⇒中村米吉
加古川本蔵⇒市川團蔵

【三段目】
塩冶判官⇒中村梅玉
早野勘平⇒中村扇雀
桃井若狭之助⇒中村錦之助
鷺坂伴内⇒市村橘太郎
腰元おかる⇒市川高麗蔵
加古川本蔵⇒市川團蔵
高師直⇒市川左團次

【四段目】
大星由良之助⇒松本幸四郎
石堂右馬之丞⇒市川左團次
薬師寺次郎左衛門⇒坂東彦三郎
大鷲文吾⇒坂東秀調
赤垣源蔵⇒大谷桂三
織部安兵衛⇒澤村宗之助
千崎弥五郎⇒市村竹松
大星力弥⇒中村隼人
佐藤与茂七⇒市川男寅
矢間重太郎⇒嵐橘三郎
斧九太夫⇒松本錦吾
竹森喜多八⇒澤村由次郎
原郷右衛門⇒大谷友右衛門
顔世御前⇒片岡秀太郎
塩冶判官⇒中村梅玉
ほか


今年は国立劇場会場50周年ということで記念の大型企画が各分野で並んだが、中でも、「仮名手本忠臣蔵」の3ヶ月連続公演による全段完全通し上演というのが画期的らしい。

全段通し上演と称した公演は度々行われているようだが、国立劇場が昭和61年に開場20周年記念で今回と同じく10月~12月の3回に分けて上演したものは本物の「完全通し上演」だそうだが、他の「全段通し」は実際にはいくつかの場面が省略されているらしい。

50周年記念の今回も、上演可能な場面はすべて網羅するという「完全通し上演」だと言うから、今回を逃したら次の機会に生きている保障はないかも…と思って、「あぜくら会」会員向けの3公演セット券を迷わず買った。歌舞伎鑑賞はたいてい3階席だが、今回は特別席と1等A席しかセット販売されないので1等Aを選んだ。

人形浄瑠璃からの移行作品の全段完全通しなので、一段目は「大序」と呼ばれるそうだが、この「大序」の前には定式幕の前に文楽人形が出てきて配役を紹介する。これを「口上人形」という。滑稽な表情とセリフがおかしく、かしこまった作品かと思っていたが楽しく出鼻をくじかれた。

口上が終わって幕が開くと鶴岡八幡宮の場面だが、ここでも役者たちは目を伏せうなだれたまま微動だにしない。そしてどこからか役者の名前を告げる声がしてそれに応じて一人ずつ精気を得たように「人形」から「人間」に生まれ変わる。

こういう演出はいずれも、原典の人形浄瑠璃に敬意を表するものだそうだ。

物語は、映画やテレビドラマなどでよく知っている「忠臣蔵」とはかなり異なるので驚きの連続。
しかし、省かれた場面がないので物語の連続性は分かりやすい。
なるほど、これが本物の「仮名手本忠臣蔵」なのか。

人形浄瑠璃として1748年に初演され、同年末には早くも歌舞伎に移行されて以来、270年近い歴史の中で、上演すれば必ずそれなりのヒットが見込まれたそうで、もはや日本人のDNAに刷り込まれているのかもしれない。

塩冶判官を演ずる梅玉はいつもながら渋い。
4段目になってようやく登場する由良之助の幸四郎は、やや、芝居が大仰ではないかと思うけど如何にもの幸四郎節で、やはり舞台の求心力は大きい。
左団次が演ずる加古川本蔵という登場人物のことは知らなかった。これまで映画やTVドラマなどではこの人に相当する人物は出てこなかったように思う。そもそも本蔵が仕える桃井若狭之介(錦之助)という殿様の存在も知らなかったが、どうやら、本蔵の存在が全段の物語の中で大きな役割を占めることになりそうだ。

「大序」も伝統に則った珍しい演出だったが、4段目切腹の場も古来「通さん場」と呼ばれ、お客の出入りを禁じたそうで、国立劇場でも踏襲された。

こんなところにも、格調を感じさせる大芝居だ。
この壮大な物語があと2回も続くというのはとてもワクワクする。


♪2016-132/♪国立劇場-05