2016年10月5日水曜日

楽劇「ニーベルングの指環」第一日〜ワルキューレ〜

2016-10-05 @新国立劇場


指揮:飯守泰次郎

演出:ゲッツ・フリードリヒ
東京フィルハーモニー交響楽団

ジークムント⇒ステファン・グールド
フンディング⇒アルベルト・ペーゼンドルファー
ヴォータン⇒グリア・グリムスレイ
ジークリンデ⇒ジョゼフィーネ・ウェーバー
ブリュンヒルデ⇒イレーネ・テオリン
フリッカ⇒エレナ・ツィトコーワ

ワーグナー:楽劇「ニーベルングの指環」第1日~ワルキューレ~

「ニーベルングの指環」全4部作の<前夜祭>に当たる「ラインの黄金」が同じ新国立劇場、同じスタッフで公演されたのが昨年の10月だったから、ちょうど1年を経て第2部とも言うべき「ワルキューレ」が始まった。正しくは「~指環」の<第1日目>で、いよいよ本格的なドラマが始まる。待っている1年が長かったよ。
歌手は「~黄金」とは異なっているが、今回も主要な役は全員海外からの招聘だ。この世界のことはよく知らないけど、いずれも国際的に活躍している一流歌手だそうだ。それは素人の耳にももう一聴瞭然だ。
広くて天井の高い劇場空間に声が朗々と響き渡るのが、ナマとは思えない音圧を伴っている。
飯守泰次郎御大の率いる東京フィルハーモニー交響楽団の圧倒的なサウンドもピットの中に入っているとも思えない迫力だ。
ワクワクさせる音楽の素晴らしさは言うまでもないが、「~黄金」ではややもの足りなかった舞台装置が今回はとてもいい。
広い舞台と高さを活かした仕掛けがシンプルな中に深遠なドラマを表現していた。また、照明もよく考えられていて見事だった。
終幕のブリュンヒルデを深い眠りに落としその回りを炎が取り囲むとともに天界から降りてくる緑のレーザー光線が彼女の悲劇性を高めている。

「~黄金」は神々や巨人や小人族の間の権力争いで、ここでは愛を犠牲にすることで権力を得ようとする男たちの物語だが、「ワルキューレ」では権力よりも愛に生きようとする男女、それも神々の長ヴォータンが人間女性との不倫によって産ませた兄(ジークムンデ)と妹(ジークリンデ)の近親相姦の愛の物語だ。
ヴォータンは正妻(婚姻の女神フリッカ)以外の女神たちとも不倫をして9人のワルキューレたち(死んだ雄者を運ぶ女性たち)を産ませる。中でも知恵の神エルダとの間に生まれたワルキューレ姉妹たちの長姉ブリュンヒルデをヴォータンは一番信頼し、愛していた(これも近親相姦ぽい)。
ヴォータンはジークムンデを自分の大いなる野望の実現のために利用するつもりだったが、正妻フリッカの糾弾にあってやむを得ず殺さざるをえないことになる。ブリュンヒルデはヴォータンの命を受けてジークムンデを撃つ算段で出かけたが、ジークムンデとジークリンデの純粋な愛に心打たれ、父ヴォータンを裏切ろうとした。このことによって彼女はヴォータンによって神性を奪われ、岩山で眠りにつかされるのだが、ジークリンデはジークムンデの子種を体内に宿していた。やがて、生み落とされた子供こそ「~指環」の第2日「ジークフリート」のタイトルロールとなってブリュンヒルデと結ばれるという壮大な話が続くのだが、その公演は来年6月まで待たなければならない。

この神話のような物語は、愛と権力の対立という構造を持ち、実は、今を生きる我々の心の中に、愛や生きるということの意味を問いかけるものでもある。
開幕から終演まで正味5時間20分(休憩が第1幕の後に40分、第2幕のあとに35分あった。)という長丁場だったが、(休憩を除いて)片時も途切れないワーグナー印濃厚な劇的な音楽に全身・全霊を包み込まれ、圧倒されっぱなしだった。

♪2016-133/♪新国立劇場-2