2016年9月5日月曜日

秀山祭九月大歌舞伎 昼の部

2016-09-05 @歌舞伎座


右田寅彦 作
松岡 亮 補綴
一 碁盤忠信(ごばんただのぶ)
佐藤忠信⇒染五郎
塩梅よしのお勘実は呉羽の内侍⇒菊之助
右平太⇒歌昇
左源次⇒萬太郎
万寿姫⇒新悟
三郎吾⇒隼人
小車の霊⇒児太郎
浮橋⇒宗之助
壬生の小猿⇒桂三
摺針太郎⇒由次郎
宇都宮弾正⇒亀鶴
江間義時⇒松江
番場の忠太⇒亀蔵
横川覚範⇒松緑
小柴入道浄雲⇒歌六

岡村柿紅 作
二 太刀盗人(たちぬすびと)
すっぱの九郎兵衛⇒又五郎
田舎者万兵衛⇒錦之助
従者藤内⇒種之助
目代丁字左衛門⇒彌十郎
 
三 一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)
檜垣/奥殿/三代目中村吉之丞襲名披露
一條大蔵長成⇒吉右衛門
吉岡鬼次郎⇒菊之助
お京⇒梅枝
八剣勘解由⇒吉之助改め吉之丞
鳴瀬⇒京妙
茶亭与一⇒橘三郎
常盤御前⇒魁春


3作の内前2作は初めてだったが、いずれもよくできていて、それぞれに異なる歌舞伎の味わいを楽しめた。

「碁盤忠信」は「碁盤」が付くからといって忠臣蔵のスピンオフ「碁盤太平記」とは全然関係がない。しかしここに登場する「忠信」は「義経千本桜」の忠信と同一人物らしいが、「義経~」では狐として登場するので、両者の関係は分からない。まあ、別々に歴史上の人物をヒントに面白おかしく作り上げた物語だろうから、首尾一貫していなくとも問題では無いのだろう。

ま、ともかく、やたら碁盤を持って暴れるのだが、その様(荒事)が見どころで、実に歌舞伎の一つの典型を見る思いだ。

染五郎、菊之助、松緑という人気役者が揃うのだけど、あいにく、松緑の出番があまりに少ないのが残念だった。

「太刀盗人」は狂言を移し替えたもので、ほぼ、狂言そのものと言ってよい。
大勢の人で賑わう都に出てきた田舎者の万兵衛(錦之助)が持っていた刀をスリの九郎兵衛(又五郎)が市中の雑踏(…と言っても舞台には2人しか登場しないのも狂言の形を踏襲している。)の中で奪おうとする。盗られまいと刀を離さない万兵衛との間で、口論が始まり、変事を聞いてお役人(彌十郎)が駆けつけ、一体どちらに所有権があるのかの詮議始める。やがて泥棒の方は役人の追及に耐えかねてとうとう逃げ出す。「やるまいぞ、やるまいぞ」と追う役人と万兵衛。まさしく狂言仕立てのおかしさ。

「一條大蔵譚」は4年近く前に国立劇場で同じ吉右衛門の一条大蔵卿(と鬼一法眼の2役)主演で「鬼一法眼三略巻」清盛館・菊畑・檜垣・奥殿の構成で見たことがあり、2年前の秀山祭では菊畑を観ている(この時の鬼一法眼は歌六)が、どうも、話として各段の連携は密でなく(だからこそ、それぞれ独立して上演されるのだろうが)、なかなか頭に入ってこない。
ま、源氏再興のために阿呆のふりをしている一条大蔵卿が、ここぞという場面で正気を表し悪党を成敗するというまあ格好いい話だ。吉右衛門にとっては家の芸だそうで、身のこなし、セリフ回しの使い分けが面白い。
ふりをしている、のは大蔵卿だけではなくその妻常盤御前(魁春)も源氏への思いも忘れ揚げ弓に興じてばかりで、様子を見に来たかつての家来筋に当たる鬼次郎夫婦(菊之助・梅枝)は呆れ果てて弓を取り上げ打擲する始末。実は、これも世を忍ぶ仮の姿という訳でその後に常盤御前の長台詞で真実が明らかにされる。
話の流れは、このことがあってから、大蔵卿の阿呆ぶりも仮の姿であることが明らかになるので(観客は既にこの話の筋書きを知っているから驚きもしないが)、鬼次郎夫婦は大いにびっくりしただろうと、ちょいとおかしくなってしまう。
面白ければなんでもありだ。

♪2016-118/♪歌舞伎座-06