2014年9月3日水曜日

秀山祭九月大歌舞伎(昼の部)

2014-09-03 @歌舞伎座


一 鬼一法眼三略巻(きいちほうげんさんりゃくのまき)
・菊畑
   
吉岡鬼一法眼 歌 六
虎蔵実は源牛若丸 染五郎
皆鶴姫 米 吉
腰元白菊 歌女之丞
笠原湛海 歌 昇
智恵内実は吉岡鬼三太 松 緑

二 隅田川続俤(すみだがわごにちのおもかげ)
・法界坊
   
聖天町法界坊 吉右衛門
おくみ 芝 雀
手代要助 錦之助
野分姫 種之助(1日~13日)
      児太郎(14日~25日)
五百平 隼 人
丁稚長太 玉太郎
大阪屋源右衛門 橘三郎
代官牛島大蔵 由次郎
おらく 秀太郎
道具屋甚三 仁左衛門

・浄瑠璃 双面水照月(ふたおもてみずにてるつき)
   
法界坊の霊/野分姫の霊 吉右衛門
渡し守おしづ 又五郎
手代要助実は松若丸 錦之助
おくみ  芝 雀


「鬼一法眼三略巻」は平成24年の暮に国立劇場で観た(4幕構成-除幕・菊畑・檜垣・奥殿)。
吉右衛門が鬼一と一條大蔵卿だったが、話の中身は非常に複雑で、よく覚えていなかった。

今回は、「菊畑」一幕だけだが、やはり話はややこしい。
歌舞伎にありがちな、A君…実は源氏の御曹司、B君…実は主人の実の弟、という韓流ドラマもびっくりな関係がフツーに出てくるので、頭の中で、え~っと彼は、実は某…と置換え、確認しながら観ていないと取り残されてしまう。

この芝居の中心人物は、鬼一法眼の屋敷で奴(やっこ)奉公している鬼三太(きさんだ⇒松緑)と虎蔵(染五郎)で、両者は互いに「実は…」の関係を承知している。主従の間柄なのだ。

両者に絡む鬼三太の実兄鬼一と虎蔵に思いを寄せる皆鶴姫(米吉)は、「実は」の関係を知らない。
皆鶴姫に思いを寄せる湛海(歌昇)はじめその他衆も知らない。

この狂言全体の筋書きに関しては大して面白いものでもない(ように思う)が、主要な登場人物たちの間に、「実は」を知られないようにするがゆえの苦労があり、知らないがゆえの不幸があり、知ってしまったがゆえの悲劇が起こるさまが人間ドラマとして面白い。


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隅田川続俤(すみだがわごにちのおもかげ)=「法界坊」は、以前にTVで(勘三郎?)が楽しそうに演じているのをぼんやりと観ていたのだけど、全編の物語をきちんと観るのは今回が初めて。

御家再興の話が背景になって、ここでも「実は…」が含まれるけど、この作品では筋書きは大きな要素ではないと思う。
法界坊(吉右衛門)の存在があまりに大きいからだろう。
欲の塊、悪の権化のようでもあるけど間が抜けたところもあって、おかしい。

この悪党にさっそうと対抗するのは道具屋甚三(仁左衛門。この人も実は…)だ。
御家再興を願う要助(実は松若丸=錦之助)の窮地に登場し大岡裁きの如く法界坊らの悪党を懲らしめて痛快。
この後も法界坊との対決の場があって、なかなかの見応えだ。

この場面で、法界坊、というより吉右衛門がアドリブを連発して場内を大いに沸かすのだけど、仁左衛門がこれに応えられない(のは当然なのだけど)ところに吉右衛門の工夫が欠ける。つまりは、やり過ぎではないか。
まあ、満員の観客はやんやの喝采だったからここは素直に楽しむのが鑑賞の王道かもしれないけど。

ところで、この場だったかどうか記憶が定かではないけど、法界坊が少しよろけたように見えた。近くにいた後見がすぐ気がついて小走りで近づいたが、大事には至らなかった。本人も「体力的に最後かな」と言ったいたという記事が出ていたが、まだ70歳。大事にして長く続けて欲しい。





話が一段落して、幕が下り、次いで、大喜利として「浄瑠璃 双面水照月(ふたおもてみずにてるつき)」が演じられた。
この一幕は、単独でも上演されるそうだ。


セリフがないわけではないけど、全体が舞踊劇。
伴奏は、上手に竹本の太夫と三味線2人ずつ。下手に常磐津の太夫が8人と三味線7人。


この一幕の趣向には驚いた。

要助と彼を慕うおくみ、隅田川渡し守りのおしづの3人が、野分姫(要助の許嫁。法界坊に騙された挙句殺された。)の菩提を弔っているところに、もうひとりおくみが登場する。実は、法界坊と野分姫の霊が合体した怨霊なのだ。
さあ、要助とおしづにはどちらが本当のおくみか分からない…。

どうしてこの物語(本篇)に野分姫が登場するのか、イマイチ意味が合点できないでいたけど、ここに及んで、なるほどこのためか!

ともに恨みを持つ者同士が一体となり、ある時は野分姫に、ある時は法界坊の姿を見せる(吉右衛門が女形を演じている。)のも恐ろしや。

その際、野分姫のセリフは吉右衛門ではなく、後ろに付いた黒衣(くろご)だった。こういう場合は後見というのだろうか?裃後見は知っているけど、頭巾かぶりの後見もいるのか?
その黒衣が透けた顔を隠す布(なんていうのかな?)越しに口紅を指しているのが見えた。
女性が黒衣を務めるのだろうか?それとも女形の黒衣なのだろうか?

浄瑠璃は常磐津と竹本の掛け合い。
多分、野分姫と法界坊で語り分け、弾き分けていたように思ったが、怨霊の動きに気持ちを奪われて確かめるゆとりはなかった。

この一幕、舞踊劇として実に興味深い。


♪2014-82/♪歌舞伎座-05