2023年5月31日水曜日

新国立劇場オペラ:ヴェルディ「リゴレット」

2023-05-31 @新国立劇場



指揮】マウリツィオ・ベニーニ
【演出】エミリオ・サージ
【美術】リカルド・サンチェス・クエルダ

【合唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

【リゴレット】ロベルト・フロンターリ
【ジルダ】ハスミック・トロシャン*
【マントヴァ公爵】イヴァン・アヨン・リヴァス
【スパラフチーレ】妻屋秀和
【マッダレーナ】清水華澄
【モンテローネ伯爵】須藤慎吾
【ジョヴァンナ】森山京子
【マルッロ】友清崇
【ボルサ】升島唯博
【チェプラーノ伯爵】吉川健一
【チェプラーノ伯爵夫人】佐藤路子
【小姓】前川依子
【牢番】高橋正尚
 *2019「ドン・パスクワーレ」ノリーナ

ジュゼッペ・ヴェルディ「リゴレット」<新制作>
全3幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉

予定上演時間:約2時間40分
第1幕 60分
 休憩 30分
第2-3幕 70分



「リゴレット」はヴェルディの中でも人気作なのか?
我が家のオペラ・ディスク・コレクションにヴェルディは60枚あって、一番多いのが「椿姫」11枚。次が「アイーダ」8枚。そして堂々3位が「リゴレット」の7枚。全部TV録画だからそれだけ放映される機会が多いという事だ。そして、観賞機会が多い。

ま、オペラとしては、聴きどころがとても多い。独唱・二重唱・三重唱・四重唱・合唱と手を変え品を変えて繰り出されるので膨満感すら感ずるところがある。胃薬が必要か。

でも、そんなに面白いかというと難しい。これは僕の理解力が不足しているのかもしれないが。

物語は、呪いに始まり呪い(の成就)で終わる。
呪いをかけたモンテローネの恨みが激しくは描かれないので呪いに説得力が不足。また、呪いの1番の矛先はマンドヴァ公爵に向けられているはず(リゴレットへの呪いは”ついで”)なのに、リゴレットの生きがいそのものである唯一の善人・純粋無垢のジルダが死んでリゴレットは身を切られるより辛い。一方で、公爵はなんのお咎めもなしで、呑気に「女心の歌」を歌って幕だ。

「呪い」の話にしては線が弱く、勧善懲悪でもない。
つべこべ言わずに歌を、音楽を楽しめば良いのか。



ジルダ役のハスミック・トロシャンは2019「ドン・パスクワーレ」ノリーナに引き続き今回も素晴らしい。
いや、歌手陣はみんな素晴らしかった。

「サロメ」と掛け持ちの東フィルは、音楽がだいぶ違うので、昨日と比較はできないけど、今日も十分に楽しめた。

指揮はMETをよく振っているマウリツィオ・ベニーニだ。
本格的な音楽を聴かせてもらったというくらいしか分からないのだけど、東フィルにとっては大きな財産になるのだろうな。

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新制作ということだが、新国立劇場では、初めて制作すれば「新演出」というらしい(世界的にそういう扱いが普通なのかもしれないが)。でも、この舞台美術と演出はスペインのバルビオ・オペラで上演済みで、今回は、上演の権利とともに大道具・小道具などを買取ったのだそうだ。てことはこの先何年もこのバージョンを観ることになる。
なら、今後は少し手を加えてもう少し舞台を明るくしてほしいね。
また、女心の歌は袖から歌うのではなく舞台で歌ってほしいよ(僕の知る限り、世界の全ての演出で、袖で歌わせているが。)。リゴレットと目を合わせなきゃ、何も袖で歌わせることないと思うよ。

♪2023-097/♪新国立劇場-10

2023年5月30日火曜日

新国立劇場オペラ:R.シュトラウス「サロメ」

2023-05-30 @新国立劇場



【指揮】コンスタンティン・トリンクス
【演出】アウグスト・エファーディング
【美術・衣裳】ヨルク・ツィンマーマン
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

【サロメ】アレックス・ペンダ(アレクサンドリーナ・ペンダチャンスカ)
【ヘロデ】イアン・ストーレイ
【ヘロディアス】ジェニファー・ラーモア
【ヨハナーン】トマス・トマソン
【ナラボート】鈴木准
【ヘロディアスの小姓】加納悦子
【5人のユダヤ人1】与儀巧
【5人のユダヤ人2】青地英幸
【5人のユダヤ人3】加茂下稔
【5人のユダヤ人4】糸賀修平
【5人のユダヤ人5】畠山茂
【2人のナザレ人1】北川辰彦
【2人のナザレ人2】秋谷直之
【2人の兵士1】金子慧一
【2人の兵士2】大塚博章
【カッパドキア人】大久保光哉
【奴隷】花房英里子

R.シュトラウス「サロメ」
全1幕〈ドイツ語上演/日本語及び英語字幕付〉

予定上演時間:
約1時間40分(休憩なし)






「サロメ」は2015年、デュトワ+N響の演奏会型式以来だ。凄い音楽だったと言う記憶があるが、今回、舞台を観て、やはり、何よりもRシュトラウスの音楽の凄まじさに圧倒される思いだった。帰宅後MET版ビデオを観直してみたが、ナマの迫力とは次元が違う。
この音楽を聴きながら、音楽は完全に物語に奉仕していると強く思ったことだ。

全1幕100分というコンパクトな作りだが、過不足なくまとまっていると言う印象。これ以上長いと歌う方も聴く方もしんどい。

完全な漆黒の闇から始まった。普通は指揮者の登場と拍手という手順を踏むが、いきなり暗闇から音楽だ。

主要な歌手の演唱は見事。といっても、ほとんどサロメの独り舞台だが。

そして、オケの見事なこと。
ピットの東フィルは、いつも安定感があるが、今回は最初から最後までオケが主役と思わせるような熱演だった。

欲を言えば、サロメ役(アレックス・ペンダ)はいくらなんでもおばさんだろ!実年齢52歳。サロメは12歳だったと言う説もあるのだもの。

それでも七つのベールの踊りはヒヤヒヤしながら見ていたが、文字どおりベールを1枚ずつ剥いでゆく演出はスリリング。

♪2023-096/♪新国立劇場-09

2023年5月29日月曜日

東京都交響楽団 第976回 定期演奏会Bシリーズ

2023-05-29 @サントリーホール



尾高忠明:指揮
東京都交響楽団
アンナ・ヴィニツカヤ:ピアノ*

ラフマニノフ(レスピーギ編曲):絵画的練習曲集から《海とかもめ》op.39-2
ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 op.43*
エルガー:交響曲第2番変ホ長調 op.63



既視感たっぷりのプログラム。パガニーニの主題による狂詩曲(パガ狂)は今年5回目。

パガ狂とエルガー交響曲第2番という今日とそっくりのプログラムも1月に大友直人+東響で聴いている。

今年のパガ狂5回のピアノを独奏したのは、上原彩子、辻井伸行2回、マリー・アンジュ・グッチと今日のアンナ・ヴィニツカヤという次第。

で、1月の(そっくりプログラム)東響+上原彩子の出来が余りに良くて、今日を含めて、超えるものが現れないのは幸せなことか不幸せなのか。

ヴィニツカヤも都響2回とリサイタルも聴いているので、好感は持っているし、今日も悪くはなかった。
おまけに、いつも悪口を言うサントリーのピアノの音が、今日は喜ばしくもフツーだった(格別良くはないけど)。
雨の日はホールが良く鳴る、の法則かな。

ま、それでも、上原彩子のパガ狂をもう一度(聴いたら3度目になるが)聴きたいね。

エルガー2番は、まだ僕には距離がある。
勘所を掴めない。

ところで、今日も、前半に補聴器のハウリングがしたとの注意呼び掛けがあった。これまで都響では池袋、上野、サントリーで、N響もサントリーで発生したらしい。
しかし、僕は全然聴いたことがないのだ。いったい何処で鳴っているんだろう?僕の耳がいよいよおかしくなってきたのか、ちょっと心配だよ。

ハウリングなのだろうか?
音漏れじゃないのか?
終演後、その音を聞いた人が、どの座席で聞いたか、座席表に印をして帰ったら、ホールや主催者に発生源の見当がつくんじゃないだろうか?

♪2023-095/♪サントリーホール-12

2023年5月28日日曜日

日生劇場開場60周年記念公演 NISSAY OPERA 2023 オペラ『メデア』

2023-05-28 @日生劇場



指揮:園田隆一郎
新日本フィルハーモニー交響楽団
演出:栗山民也
美術:二村周作
照明:勝柴次朗
衣裳:前田文子
合唱指揮:キハラ良尚

メデア⇒中村真紀Sp
ジャゾーネ⇒城宏憲Tn
グラウチェ⇒横前奈緒Sp
ネリス⇒山下牧子Ms
クレオンテ⇒デニス・ビシュニャBs
第一の侍女⇒相原里美
第二の侍女⇒金澤桃子
衛兵隊長⇒山田大智

オペラ『メデア』
全3幕(イタリア語上演・日本語字幕付) 日本初演・新制作

作曲:ルイージ・ケルビーニ
台本:フランソワ = ブノワ・オフマン
イタリア語訳詞:カルロ・ザンガリーニ
原作:エウリピデス ピエール・コルネイユ

予定上演時間:2時間35分
第Ⅰ幕 60分
 休憩 20分
第Ⅱ-Ⅲ幕 75分





NISSAY OPERA 2023は今年60周年記念というので、日本初演やら53年ぶりやらと力が入っている。
「メディア」はその第1弾で、なんと日本初演だという。

歌手のうち多くは何らかの形で聴いているがタイトルロールの中村真紀だけは聴いたことがないとは。

果たして…。

幕が開いて、城内らしき広場に大勢の女官たちが屯しているシーンですーっと惹き込まれた。いつもながら、日生劇場の舞台は、簡素ではあるがよく考えて作られている。そして色彩感覚がいい。グレイやベージュといった淡い寒色で統一され、上手に障子窓を大きくしたような明かり取りがアクセントになっている。

2幕終わりの結婚の場。といっても、舞台上手奥に新婚夫妻と王が立っているだけだが、全体が暗い調子の舞台に、ここだけ金色の背景に3人が浮かび上がる。まるでクリムトの絵を見ているようで心憎い。

最終場面では、同じ場所に子供を殺した血だらけのメディアが立つ。今度の背景は真っ赤だ。それが徐々に開いて背景の全体を覆う。これはメディアが城に火をつけたことを表している。
これらの舞台美術や衣装がよく考えられていて見事だ。


音楽は、ずっと昔から聴いていたような馴染みやすい音楽。
もちろん、歌も良い。
1幕を飾るグラウチェ(横前奈緒)の輝くSp、2-3幕を歌いっぱなしのメディア(中村真紀Sp)の歌唱力に驚嘆。
彼女を支えるネリス(山下牧子Ms)もとても良かった。
ま、物足りないのはジャゾーネ(城宏憲Tn)。もう少し張りがあると良かったが。

オケも良し。欲を言えばあと少し弦が欲しかったが、狭いピットでやむを得なかったのだろう。

ところでこの悲劇、メディアがもたらす悲劇なのか、メディアを襲う悲劇なのか。いろんな受取り方ができる筋立てになっているが、愛情が深すぎて堕ちてゆくメディアの悲劇と見たがどうかな。

2023-094/♪日生劇場-01

2023年5月27日土曜日

土曜ソワレシリーズ《女神との出逢い》第300回記念 〜ガラ&フィナーレ

2023-05-27 @フィリアホール



バイオリン◎
 川久保賜紀⇒3 / 1
 松田理奈⇒1 / 3
 南紫音⇒4 / 2
 毛利文香⇒2 / 4
ビオラ◎
 中恵菜⇒2 / 1
 田原綾子⇒1 / 2
チェロ◎
 遠藤真理⇒2 / 1
 新倉瞳⇒1 / 2

数字は、
エクスクでの担当 / メンデルスゾーンでの担当を表す(川久保はエネスクでは第3Vnを、メンデルスゾーンでは第1Vnを担当したという意味)。

ジョルジェ・エネスク:弦楽八重奏曲ハ長調 Op.7
メンデルスゾーン:弦楽八重奏曲変ホ長調 Op.20
-------------------アンコール-----------------------
ピアソラ(山中惇史編):Tanti anni prima(昔々)



フィリアの「女神との出逢い」シリーズ300回記念にしてフィナーレ。ということで、今回は8人もの旬の美形実力派が揃って、もう、心穏やかならず。
全員が色とりどりのドレスだが、いつもとは気合の入り方が違って、所謂<勝負服>で全員が臨んだのではないか。

かぶりつきで観ているといやはや、眼福!眼福!

休憩後の後半には、ひょっとして…と思ったが、期待どおりで、全員がお色直しの花畑。

ユリアンナ・アヴデーエワが見たら何というだろう。
これでは音楽が身に入らない…かと言えばそこは修行を積んでいるので、大丈夫😅。

編成は弦楽四重奏を2倍にしたもの。
しかし、2曲ともあくまでも八重奏曲で、8本の弦楽器が一斉に動くこともあるが、それぞれ独自に音が割り当てられている。

エネスク(1881-1955)という作曲家は名前を聞くのも初めて。とんでもない現代音楽かと思いきや、ふと思い出したのは溝口肇の音楽だった。要は、現代風ではあるけど、自己中ではなく、お客さんを置いてきぼりにはしない心地良い音楽だった。40分前後あったかな?聴き応えも十分。


前半の楽器配置は弦楽四重奏を横に倍にした一つの典型だったが、後半のメンデルスゾーンでは2つの弦楽四重奏が鏡を挟んで対峙する形。かつVcが真ん中に位置したので、ビオラはVcを挟んで左右に分かれた。後刻Youtube調べたら、こういう形は格別珍しくはなかった。なるほど、八重奏は四重奏の倍ということではないのでこれもありなんだろう。

弦楽八重奏曲といえばメンデルスゾーンくらいしかない?ので結構馴染んでいるし、抒情的な2楽章以外は元気いっぱいで楽しい。
しかし、興味深かったのは、音楽そのものよりスリリングなアンサンブルだ。フレーズのキャッチボールの度に耳移りならぬ目移りしてあれこれと心惹かれたことだ。

エネスク⇒ https://youtu.be/Ugv_o2XsJoE

♪2023-093/♪フィリアホール-02

ヴェルディの声研究室第95回公演 オペラ「イル・トロヴァトーレ」

2023-05-27 @みどりアートパーク



指揮:柴田慎平
製作・演出:堀内士功
舞台監督:朝霧碧流
ピアノ⇒河崎恵
合唱⇒トロヴァトーレ合唱団

ルーナ伯爵⇒堀内士功
レオノーラ⇒堀口加奈子
マンリーコ⇒大森明
アズチェーナ⇒齋実希子
フェランド⇒平岩英市
イネス⇒岩本久美
ルイツ⇒加藤航
ほか

ヴェルディ「イル・トロヴァトーレ」
全4幕イタリア語上演日本語字幕付き

上演時間 2時間40分
第1幕
休憩 (10分)
第2幕
休憩 (10分)
第3幕
休憩 (10分)
第4幕


3週間前にかなっくホールで「マクベス」を観た”ヴェルディの声研究室”の次の公演は「イル・トロヴァトーレ」。
いやあ、精力的な団体だ。来月は「ルチア」だという。

こういうオペラの上演形態を何というのだろう。
伴奏はピアノだけ。簡素ではあるが衣装も大道具・小道具も最少限の準備があり、照明もそれなりに。字幕も完備。
全幕通しで手抜きなしだ。
歌手が何役も兼ねるということもなく、合唱も、今日の場合は25人出て、かなり迫力のある歌を聴かせた。

演奏会形式ではない。
セミステージ?

ま、何と呼ぶか知らないけど、3,000円で、全編を味わうことができるのはとても嬉しい。

歌もそこそこ。と言っちゃあ失礼だが、物凄く巧い…はずもなかろう。経歴や活動ぶりからみんなプロなんだろうけど、ベテランでないことは僕にも分かる。

でも、問題ないです。
どんどんやってほしい。
好きだからこそ、続けられるんだね。
観にゆくことで、最低限の応援をしよう。

♪2023-092/♪みどりアートパーク-01

2023年5月26日金曜日

横浜バロック室内合奏団定期演奏会105回 〜ドイツバロックの華

2023-05-26 @みなとみらいホール



横浜バロック室内合奏団

Vn:小笠原伸子、藤村陽子
Va:百武由紀、大本綾子
Vc:間瀬利雄、中垣文子、野村杏奈
Cb:大西雄二
Cemb:山口範子
Fl:高野成之、竹森ゆきえ

J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲第6番変ロ長調 BWV1051
テレマン:2つのフルートのための協奏曲イ短調 TWV52:a2
J.S.バッハ:ゴールトベルク変奏曲全曲(合奏版) 
----------------------------------
J.S.バッハ:アリオーソ



毎年度、初回は「ドイツバロックの華」ということで、バッハ2本、テレマン1本だった。

まずは、ブランデンブルク6番。
これを生で聴く機会は誠にレアだ。それで?今回初めて気がついたのだけど、6番にバイオリンは使われていないんだ。CDを聴いていてもなかなかそこまで気が付かない。
編成はVa2-Vc3-Cb-Cemb 7人。

テレマンの2本のフルートのための協奏曲は初聴き。
編成は独奏Fl2-Vn2-Va-Vc-Cb-Cemb 8人。Flの1人は東響が本業?の高野氏。

本日の最大の聴きものがゴールドベルク協奏曲(室内合奏版)。
演るとは聞いてたけど、抜粋だろうと思っていたが、なんと全曲だった。実測51分強。グレングールドの81年録音とほぼ同じ長さだ。
編成はFl2-Vn2-Va2-Vc2-Cb-Cemb 10人。

この曲はいろんな楽器、いろんな編成で録音されていて、ピアノの他にチェンバロ、ギター、オルガン、弦楽トリオ、木管アンサンブルによるCDを持っているが今日のような編成による演奏は初めてだ。
一番よく聴くのはピアノ版、それもグレングールドの3種類をその時の気分で選んで聴くことが多いので、いずれにせよ鋭いタッチの音楽に慣れてしまっていたが、室内合奏版もこれはこれで味がある。

今日は、頭から尾っぽまで餡の詰まった演奏会だった。

♪2023-091/♪みなとみらいホール-20

2023年5月25日木曜日

ランチタイムコンサート〜音楽史の旅 2023年① リストの超絶技巧曲

2023-05-25 @かなっくホール



倉田莉奈:ピアノ(ホール/レジデンスアーティスト)
司会・解説:飯田有抄(音楽ファシリテーター)

リスト:3つの演奏会用練習曲から「ため息」
リスト:パガニーニ大練習曲集から「ラ・カンパネラ」
リスト:バラード第2番
-----------------------------
リスト編:シューマン「献呈」



今年度はリストにFocus。リストといえば超絶技巧ピアノ。
ということで、レジデンスアーティスト倉田莉菜の演奏・飯田有抄の解説で超絶なのを3曲+1を楽しんだ。

かなっく「音楽史」は大抵いつも楽しめるが、今回は特に僕の好奇心を刺激し、琴線に触れて素晴らしいレクチャー付き演奏会だった。

まずは、飯田女史の解説がとてもいい。草稿が練られているのか、頭が特別にいいのか、論理的で分かり易く、しかも、聴きながら生ずる、それならあれはどう?という疑問を既に織り込んで組み立てられていて、次はその点に話を運ぶ、といった調子で、わくわくさせた。実はもっと”解説”を聴いていたかった。

が、倉田嬢の方も、素晴らしい演奏に加え、ピアニストの立場から、実演を交えてリストのピアニズムを解説してくれたのが、これまた面白い。目から鱗で大いに納得できた。

最後のアンコール演奏にも感激。
リストが編曲したシューマンの「献呈」だ。
アンコールピースの定番みたいだが、リストのピアノ音楽をちょっと深掘りできた後にこれを聴くと一層心に沁みた。

シューマンの幸福に満ちた時期の小品だが、その後の人生を思いやれば、胸が締め付けられるようでもう、ウルウル。

♪2023-090/♪かなっくホール-08

2023年5月24日水曜日

第1982回 NHK交響楽団 定期公演 B-1

2023-05-24 @サントリーホール



ファビオ・ルイージ:指揮
NHK交響楽団
福川伸陽:ホルン*

ハイドン:交響曲第82番ハ長調 Hob. I-82「熊」
モーツァルト:ホルン協奏曲第3番変ホ長調 K.447*
ベートーべン:交響曲第6番へ長調 作品68「田園」
-------------------
ロッシーニ:狩のファンファーレ*




1公演に3曲も4曲もプログラムされると、そのコンセプトは何か気になるが、今日は明快「ウィーン古典派」。
明快であるだけでなく、僕としては好感度大。

ハイドンの交響曲第82番のナマは過去にF.ルイージX読響でも聴いたとはいえレアな曲だ。ユーモアに満ち、発明心の感じられる楽しい音楽だ。管楽器は9人。これにティンパニが加わるが小編成なので、弦は12型かと思ったが14型だった(以下、モーツァルトが12型。ベートーべンは14型)。弦が多過ぎないかと思ったが、さにあらず、軽快そのもの。

今日は3曲とも管に比べ弦が多い目だったが、さすがはN響弦楽合奏団に隙はない。

ベートーベン交響曲第6番「田園」も軽やかで爽快な演奏。3楽章以後、テンポが早かったが心地良し。

福川氏を迎えたモーツァルト:ホルン協奏曲第3番はどうだったか。

今日のサントリーは、いつになく、よく響いた。弦楽合奏にはちょうど良かったが、舞台前に出て立奏するせいか、音が篭りがちで、名人にしては滑舌悪いところもあった。あまり良い出来ではなかったように思った。

満を持したかアンコールのロッシーニ:狩のファンファーレはお見事!

今日は、N響同窓会のようでもあった。
ホルン独奏の福川氏、ビオラ客演首席は川本嘉子氏、コンマスにマロ氏(今日は郷古廉とWコンマス。田園だけマロ氏が正規のCM席に就いた。)。

♪2023-089/♪サントリーホール-11

2023年5月23日火曜日

MUZAランチタイムコンサート05月 高橋博子 & 加羽沢美濃 ~イタリア音楽の戯れ~

2023-05-23 @ミューザ川崎シンフォニーホール



パイプオルガン:高橋博子
ピアノ:加羽沢美濃

加羽沢美濃:プレリュード第3番ホ長調《草原のブランコ》(24のプレリュードから)
O.レスピーギ:バッハのコラールによる前奏曲イ短調
P.A.ヨン:序奏とアレグロ(グレゴリオ聖歌風協奏曲から)♡
P.A.ヨン:古風な、エヌエットとミュゼット
V.A.ペトラーリ:グローリアのための詩句
加羽沢美濃:祈り♡
P.A.ヨン:スケルツォ(グレゴリオ聖歌風協奏曲から)♡
♡ with 加羽沢美濃


高橋博子Org+加羽沢美濃Pfで「イタリア音楽の戯れ」という副題がついているけど、内容はイタリア音楽を紹介するには程遠く「戯れ」だけで良かったかも。

進行が悪く、曲の区切りが曖昧で、拍手のタイミングがなかなか掴めなかった。僕は、1曲として知っているものがなかったが、おそらく客席のほとんどが似たようなものだろう。
で、「今どこ?」状態で、なかなか感情移入が難しかった。

楽器の組合せが珍しい為、選曲に苦労したようで、結果的にP.A.ヨン(ピエトロ・アレッサンドロ・ヨン1886-1943。オルガニスト)の作品が番組の中心に据えられた。作曲家の名前も初めて。音楽も初めてだったが、中世と近代のミックスが耳に馴染んで面白かった。

♪2023-088/♪ミューザ川崎シンフォニーホール-10

2023年5月21日日曜日

読売日本交響楽団第126回横浜マチネー名曲シリーズ

2023-05-21 @みなとみらいホール



鈴木優人:指揮
読売日本交響楽団
ミシェル・カミロ:Pf*

モーツァルト: 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲
カミロ:ピアノ協奏曲第2番「テネリフェ」*日本初演
モーツァルト:交響曲第28番ハ長調 K220
ラヴェル : ボレロ
----ENC----------------
チック・コリア:スペイン*
ガーシュイン:アイ・ガット・リズム*


4本立て。うち2本はモツ作品だが、残りは現代作(日本初演)とラヴェルの「ボレロ」…ってどういうコンセプトなのか?

全部、楽しめる演奏だったが、4本は多かったな。
モーツァルトは1曲にして2曲目にラヴェル、休憩後Pf協奏曲でEnc付き、というのが、満足度を高める構成だったのではないか?

4曲の弦の編成はいずれもVn1-Vn2対抗配置で10型⇒12型⇒10型⇒12型とステマネが大忙し。ならばいっそ4曲目のラヴェルは14か16型に拡大すれば良かったのに。

…という疑問はあったが、演奏は素晴らしい!

先ずは「ドン・ジョヴァ」の冒頭のtuttiの重厚な管弦の響に惹き込まれて、さすが読響と大いに感心した。前日、同じホールの似たような席で日フィルを聴いて、その響がまだ少し頭に残っているような状態だったが、この両日の両オケの響に限れば、明らかに読響が強くて美しい。コレコレ!こういう音を聴きたいのだよ!

ミシェル・カミロという作曲家・ピアニストについて何にも知らなかった。現代最高峰のジャズピアニストとプログラムに書いてある。
彼の自作自演によるPf協奏曲第2番がもう圧倒的だった。
現代音楽には違いないけど、ほぼ、ジャズと言っていいのか?
独奏Pfのみならず管弦打の全パートがリズムセクション化したような激しい調子でワクワクさせる。変拍子だらけ?で演奏は極めて難しそうだったが、オケは乱れない。特に管楽器の切れ味の良さが見事。
オーケストレーションの巧さも感じた。

演奏時間は30分近い大作だったが、なんとその後のEncが半端ではない。チック・コリアとガーシュインの作品だったが、原曲とは相当離れていたのではないか?
超絶技巧でPfをガンガン叩きつけるので、Pfが壊れはしないかと思ったよ。
1曲目だけで相当長かったし、もうたらふく状態だったが、2曲目も長尺で、もうこれ以上は結構でございます。
すごいピアニストがいるものだ。

以上が前半で、その濃厚な事。


後半は、モツ交響曲28番が珍しく、生では初聴き。激しい音楽の後に一服の清涼剤の如し。

最後の「ボレロ」。
14型以上の編成で聴くことが多いが、今日は12型。
これがスッキリクッキリで良い。冒頭のスネアは聴こえないくらいの弱音でスタート。次に最初の旋律がFlだが、その音が大きすぎることがしばしばだ。スネアに匹敵するような弱音は難しいのだと思うが、今日の読響のお姉さんは消え入りそうな弱音で入った。その後もあのリズムのタンギング?も巧いものだなと感心しつつ聴いた。

今日は、久しぶりにナマ管弦楽を聴く喜びを満喫した。

♪2023-087/♪みなとみらいホール-19

2023年5月20日土曜日

日本フィルハーモニー交響楽団 第387回横浜定期演奏会 【ベートーベン・ツィクルスVol.6】

2023-05-20 @みなとみらいホール



ピエタリ・インキネン:指揮
日本フィルハーモニー交響楽団
合唱:東京音楽大学*

ソプラノ:森谷真理*
アルト:池田香織*
テノール:宮里直樹*
バリトン:大西宇宙*

シベリウス:交響詩「タピオラ」 Op112
ベートーべン:交響曲第9番ニ短調「合唱付き」作品125*



インキネンが首席として振る最後の定期にして、彼のベートーべン・チクルスの総仕上げ、「第九」だ。

前座がシベリウスの「タピオラ」で、この日の90分前まで音楽堂で大学オケによるシベリウス特集を聴いていたので、気分はうまく軟着陸。

なぜ、シベリウスとセットなのか?

日フィル創始者の渡邉暁雄とインキネン両者所縁の作曲家ということで、インキネン・日フィル演奏会の掉尾を飾るに相応しいプログラム、という事らしい。

で、その「タピオラ」は分厚い弦が豊かに鳴って上出来。


肝心の「第九」。オケは弦16型で重厚。インキネンの指揮は、クセのない、さらりと流れる淡白な演奏で、これも暫くは一興…だったが、3楽章のテンポがやや速い。4楽章も速い。速いだけでなく、低弦のレシタティーヴォが流水の如く、速くてえらくあっさりして、溜めもなく、見得もない。
歓喜の主題が最初に現れるところは、Vcの音が小さく、次にVaに移ったらもっと小さく、普段は聴こえないような木管の旋律を耳にした。

インキネン、そんなに急いで*どこへゆく?

テンポも疑問だが、全体に彫りが浅い。スイスイ流れるのは良いとしても、処々、クサイところも欲しい。

とまあ、インキネンが日フィルに登場以来過去15回は全て好感を以て聴いたのに、最後の16回目が残念賞だった。

声楽は良かった。4人の独唱者が舞台の一番前で歌った。コロナの前についに戻った。当然、よく声が通る。オケにも合唱にも埋没しない。東京音大合唱団は約80人。見た目は寂しいが声はよく出て満足。

*因みに、演奏時間は、予定65分に対し実測64分。
3楽章前の独唱者入場に結構時間を取ったにもかかわらず短い。楽章間休止を除くと正味62分5秒。

昨年、「第九」は12回聴いた。その時の各オケの演奏時間と比べると最速だ。昨年の最速も日フィルだったが、インキネンはこれをも更新した。トスカニーニと並んだよ!

♪2023-086/♪みなとみらいホール-18

横浜市立大学管弦楽団 SpringConcert 2023

2023-05-20 @県立音楽堂



前澤均:指揮
横浜市立大学管弦楽団

J.シベリウス:交響詩「フィンランディア」
E.グリーグ:組曲「ペールギュント」第1番
J.シベリウス:交響曲第2番
------アンコール------------------------------
J.シュトラウスⅠ:ラデツキー行進曲


音大オケはよく聴くけど、一般の大学オケはずいぶん久しぶり。先月、同じ音楽堂で聴いたOrchestra Canvas Tokyoという混成大学オケがとても良かったので、純粋地元の大学オケも聴いてみた。

うむ。
久しぶりのアマオケらしい演奏だったなあ。

弦が変則編成。
最大で高域から9-8-6-7-4。
VaよりVcが多く歪な感じ。
年2回?の定期演奏会だというのにエキストラは頼まなかったのか?それともこれが指揮者の考える理想像なのか?

不思議なのは、メインのシベ2になって、4人しかいなかったCbがさらに少なくなって3人になった事。

弦が劣勢だ。それで、迫力に欠ける。
旋律線が弱いところあり。そういう箇所ではこれまで聴いたことがないような木管の旋律を発見したり…。


次回に期待!

♪2023-085/♪県立音楽堂-06

2023年5月18日木曜日

エンジェルス・イン・アメリカ 第Ⅱ部「ペレストロイカ」

2023-05-18 @新国立劇場



【作】トニー・クシュナー
【翻訳】小田島創志
【演出】上村聡史
【美術】乘峯雅寛
【照明】阪口美和
【音楽】国広和毅
【音響】加藤温
【衣裳】前田文子


浅野雅博
岩永達也
長村航希
坂本慶介
鈴木杏
那須佐代子
水夏希
山西惇

エンジェルス・イン・アメリカ
第Ⅱ部「ペレストロイカ」全3幕

予定上演時間:4時間00分
第1幕90分
 --休憩15分--
第2幕65分
 --休憩15分--
第3幕55分



この芝居に関して、新国立劇場のHPに掲載された情報以外予備知識はゼロ。
観ようと思ったのは、過去の上演の評判は良く、多くの権威ある賞を受賞しているから観劇は「大いに意義がある」らしい…と考えたこともあるが、2部作で全編通せば約8時間という観劇体験をしてみたいという、怖いもの見たさも動機の一つだ。

小劇場の、それもかぶりつきで、長広舌の飛び交う生々しい舞台を観ていると、退屈するようなことは全くなかったし、もちろん寝てしまうこともなかった(コンサートなら時々ある)けど…なかなかドラマの中に入ってゆけず、いや、正直なところ、最後まで置いてきぼりを食った。

1980年代のNYが舞台。
第1部の副題は「ミレニアム迫る」、第2部は「ペレストロイカ」。他にもたくさんのキーワード。政治・同性愛・エイズ・宗教・人種問題・レーガン等々。

このドラマは、群像劇だが、人間ドラマというより、正にその”時代”を描くドラマだ。
多くのオペラは演出で時代設定を変えることが多い(大抵失敗していると思うが…)。「ドン・ジョヴァンニ」を現代の話に作り替えても成立する。
しかし、特定の時代性を濃厚にまとった芝居は時代設定を変えることができない。変えては話が成立しない。
なのに、その時代は40年も昔だ。
現代史を専門にしている人には抵抗もないかもしれないけど、40年前の、それも主にアメリカの状況を、現代の、自分の物語として”把握”し直すのは、僕には困難だった。

さはさりながら、20人以上の登場人物を8人で演じてしまう演劇的面白さ。多くの場合、同時に2つのドラマが一つしかない舞台の上で並行してゆくのも面白い。

1部と2部が同日上演されるのは休日の前日など限られた日だけだが、今日はその通し上演の日。ともあれ拘束9時間半を、無事に体験できたのは良かった。

余談:全くもってどうでもいい話だけど、僕の席の少し後ろに有名人夫婦にそっくりな男女。いや、99%本物だと思うよ。最近亭主の不祥事でTV出演がなくなったという政治評論家だ。この日は1部だけでお帰りになった模様。

♪2023-084/♪新国立劇場-08

エンジェルス・イン・アメリカ 第Ⅰ部「ミレニアム迫る」

2023-05-18 @新国立劇場



【作】トニー・クシュナー
【翻訳】小田島創志
【演出】上村聡史
【美術】乘峯雅寛
【照明】阪口美和
【音楽】国広和毅
【音響】加藤温
【衣裳】前田文子


浅野雅博
岩永達也
長村航希
坂本慶介
鈴木杏
那須佐代子
水夏希
山西惇

エンジェルス・イン・アメリカ
第Ⅰ部「ミレニアム迫る」全3幕

予定上演時間:3時間30分
第1幕60分
 --休憩15分--
第2幕60分
 --休憩15分--
第3幕60分


この芝居に関して、新国立劇場のHPに掲載された情報以外予備知識はゼロ。
観ようと思ったのは、過去の上演の評判は良く、多くの権威ある賞を受賞しているから観劇は「大いに意義がある」らしい…と考えたこともあるが、2部作で全編通せば約8時間という観劇体験をしてみたいという、怖いもの見たさも動機の一つだ。

小劇場の、それもかぶりつきで、長広舌の飛び交う生々しい舞台を観ていると、退屈するようなことは全くなかったし、もちろん寝てしまうこともなかった(コンサートなら時々ある)けど…なかなかドラマの中に入ってゆけず、いや、正直なところ、最後まで置いてきぼりを食った。

1980年代のNYが舞台。
第1部の副題は「ミレニアム迫る」、第2部は「ペレストロイカ」。他にもたくさんのキーワード。政治・同性愛・エイズ・宗教・人種問題・レーガン等々。

このドラマは、群像劇だが、人間ドラマというより、正にその”時代”を描くドラマだ。
多くのオペラは演出で時代設定を変えることが多い(大抵失敗していると思うが…)。「ドン・ジョヴァンニ」を現代の話に作り替えても成立する。
しかし、特定の時代性を濃厚にまとった芝居は時代設定を変えることができない。変えては話が成立しない。
なのに、その時代は40年も昔だ。
現代史を専門にしている人には抵抗もないかもしれないけど、40年前の、それも主にアメリカの状況を、現代の、自分の物語として”把握”し直すのは、僕には困難だった。

さはさりながら、20人以上の登場人物を8人で演じてしまう演劇的面白さ。多くの場合、同時に2つのドラマが一つしかない舞台の上で並行してゆくのも面白い。

1部と2部が同日上演されるのは休日の前日など限られた日だけだが、今日はその通し上演の日。ともあれ拘束9時間半を、無事に体験できたのは良かった。


余談:全くもってどうでもいい話だけど、僕の席の少し後ろに有名人夫婦にそっくりな男女。いや、99%本物だと思うよ。最近亭主の不祥事でTV出演がなくなったという政治評論家だ。この日は1部だけでお帰りになった模様。

♪2023-083/♪新国立劇場-07