2016-07-15 @NHKホール
クリスティアン・アルミンク:指揮
NHK交響楽団
ポール・メイエ:クラリネット*
モーツァルト:歌劇「魔笛」序曲
モーツァルト:クラリネット協奏曲 イ長調 K.622*
ドボルザーク:交響曲 第9番 ホ短調 作品95「新世界から」
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アンコール
ドボルザーク:スラブ舞曲 作品72 第2番ホ短調「マズルカ」
冒頭の弦の音がえらく硬い響きだった。こんなに硬い響のN響は初めてだ。なんか、違うなあ、と思いながら1曲めが終わった。
次はクラリネット協奏曲だ。
奏者のポール・メイエは、現代クラリネット奏者の中ではトップクラスだと聞く。僕が日頃聴いているモーツァルトほかのクラリネット協奏曲もメイエが吹いているものだ。
その彼がオケの準備は整っているのに舞台袖からなかなか出てこない。袖にいるのはクラリネットの調子を確かめている音が聴こえてくるので分かるのだ。
ようやく出てきて協奏曲が始まった。
序奏が2分ほど続く。その間、手に持ったクラリネットのマウスピースを時々咥えては最後の調整をしていたようだが、いよいよ独奏部分が始まると、アレレ。音が硬い。滑らかさがない。クラリネット独特の甘くて柔らかで官能的な音色とは無縁だ。
素人にも分かる変調だ。これはおかしいな、と思っていたら案の定。メイエは演奏を止めてしまったので、オーケストラも止まった。
こんな経験は初めてのことだ。
マウスピースを外し、楽器は指揮者に預けて袖に引っ込んでしまった。受け取った指揮者も吹けないし、肩をすぼめてマイッタの様子。クラシックコンサートには珍しくここで館内に笑いが起こった。
別のクラリネットを手にして再登場したメイエ氏は、今度は最後まで吹き終えた。
確かに細かい芸など巧いなあと思うけど、やはりそれでもクラリネットの音は硬質だった。オケも同様なので、これは楽器のせいでも彼の特質でもないはず。
後半は「新世界から」だった。
この今日は何度も何度も聴いているけど、何度聴いてもやはり面白い。ドボルザークの最高傑作だとは思わないけど好きな方だ。
でも、今日のは乗れなかった。演奏が悪いとも思えない。
結局、終始弦が硬いのが僕の気分を憂鬱に支配してしまった。
でも、どうしてだろう。
今日は定期演奏会ではないので、普段の聴き慣れた場所とは異なるけど、定席より前に4列動いただけでほぼ同じような場所だ。この程度の場所の違いが音に影響するとも思えない。
自分なりに推測するなら、演奏会が始まった時点では既に晴れていたけど、その少し前までは首都圏は豪雨に見舞われた。
それで、館内の湿度が高まり、それを抑えるための空調がむしろ館内を乾かせすぎたのではないか…。などと思ってみるが、それも自分で得心はゆかない。
僕の体調のせいもあったのかもしれないけど、決して集中力に欠けた訳ではないので、耳の具合が一時的に変調をきたしたのかもしれない。
メインディッシュも終わって、何度かのカーテンコールの後に定期演奏会じゃまずやらないアンコール演奏があった。アルミンクが指揮台に上りオケの方に向いたので「演るな」と分かったが、その瞬間、僕の頭の中にはドボルザークのスラブ舞曲72-2(番号を憶えているのはこの曲だけ!)に違いないと思ったら果たしてそのとおりだったので少し驚いたけど、ドボルザークの大作を演奏した直後のオマケとしてはよくあるパターンだし、何より、僕が「新世界から」に満足できないという精神的飢餓状態でせめて干天の慈雨の如くこの曲を欲していたのだと思う。
それでも音の硬さは変わらなかったのだけど、まあ哀愁に満ちた名曲で締めてくれて良かったのかな。
2016-098/♪NHKホール-06