2023年11月22日水曜日

オペラ:ジュゼッペ・ヴェルディ/シモン・ボッカネグラ

2023-11-21 @新国立劇場



【指揮】大野和士
【演出】ピエール・オーディ
【美術】アニッシュ・カプーア
【衣裳】ヴォイチェフ・ジエジッツ
【照明】ジャン・カルマン

【合唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

シモン・ボッカネグラ⇒ロベルト・フロンターリBr❶
マリア・ボッカネグラ(アメーリア)⇒イリーナ・ルングSp❷
ヤコポ・フィエスコ⇒リッカルド・ザネッラートBs❸
ガブリエーレ・アドルノ⇒ルチアーノ・ガンチTn❹
パオロ・アルビアーニ⇒シモーネ・アルベルギーニBsBr❺
ピエトロ⇒須藤慎吾Br
隊長⇒村上敏明Tn
侍女⇒鈴木涼子Ms

--------新国立劇場出演履歴-------
❶98年『セビリアの理髪師』フィガロ、2002年『ルチア』エンリーコ、15年『トスカ』スカルピア、23年5-6月『リゴレット』
❷17年『椿姫』ヴィオレッタ、21年『ルチア』タイトルロール
❸19年『トゥーランドット』ティムール
❹初登場
❺22年『ドン・ジョヴァンニ』タイトルロール

ヴェルディ「シモン・ボッカネグラ」<新制作>
プロローグ付き全3幕
〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉

予定上演時間:約2時間50分
 プロローグ・第Ⅰ幕85分
  休憩25分
 第Ⅱ・Ⅲ幕60分





チラシなどの配色にも見られるが、舞台美術は黒・赤・白で統一されている。セットは簡潔で大胆な抽象的造形だ。衣装もこの3色が中心で、そのデザインは現代のもの。
この美術センスを含め、演出が見事。

史実に基づく物語は、本来は14世紀前半のジェノヴァが舞台なのだが、ここで眼に訴えるものは時空を超越している。
ゆえにこれも一種の「読み替え」なのかもしれないが、ヴェルディが描こうとしたものから、普遍的な内容を抽出した結果がこのような美術になった。だからヴェルディの世界観をちっとも邪魔をしていないのが良い。
ややもすると頭の悪い演出家が自己陶酔でとんでもない設定で出発したはいいものの、2幕目で既に辻褄が合わなくなるという例をいっぱい見てきた。

ピエール・オーディという演出家は優れた人だと思う。
大胆な美術だけど、これが人間ドラマの邪魔をしていない。今回は、巷で変に流行っている紗幕を全く使っていない。
全編、暗い舞台なのだけど、適切な照明が歌手をきれいに浮かび上がらせ、表情もはっきり見え、そのせいか、歌声もストレートに響いてくるのも良い。
簡潔さが、むしろ、観客の期待を舞台に集中させる力がある。

ついでに言えば、大野和士:東フィルの演奏が、ほとんど存在を感じさせないのも、終わってみたら、見事だった。オペラはオケの演奏を聴きにきているのじゃないもの。もちろん、音楽的に舞台上と一体となってよく練られたドラマを盛り上げているのだけど、はいはい、オケも頑張っていますよ!という感じがしなかったのは実によろしい。

主要な5人の歌手たち(いずれも海外勢)のうち、唯一のテノールであるガブリエーレを歌ったルチアーノ・ガンチのみが新国初登場で、他の4人は1~4回は登場しているので、いずれも経験済みだった。巧拙は判断しかねるが、満足できた。

このオペラは、声楽的にはバリトンのオペラだ。高域はマリアSpとガブリエーレTnだけ。そのアリアが巧みに配されて一本調子にならない。これはヴェルディの巧さ。

終幕の悲劇に向かって、ますます、舞台も客席も熱を帯びてくる。となりのご婦人は肩を震わせて嗚咽をこらえていたよ。

欲を言えば、物足りない部分もあったのだけど、新制作だし、この演出を継続して再演を期待する。その過程で手直しもされてゆくだろう。

久しぶりに一本取られたという上出来オペラだった。

2023-198/♪新国立劇場-17