2023年11月30日木曜日

東京シティ・フィル第365回定期演奏会

2023-11-30 @東京オペラシティコンサートホール



高関健:指揮
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
合唱:東京シティ・フィル・コーア
児童合唱・羊飼い:江東少年少女合唱団

トスカ:木下美穂子
カヴァラドッシ:小原啓楼
スカルピア:上江隼人
アンジェロッティ:妻屋秀和
堂守:晴雅彦
シャルローネ&看守:大塚博章
スポレッタ:高柳圭

プッチーニ:歌劇「トスカ」全3幕(演奏会形式)


定期会員だからいつもの席はあるし、オケを聴くには十分満足しているけど、今日はオペラなので、別途1回券を買って前の方に陣取った。

いつになく、気合が入っていてプレトークなど聞いたことがなかったが、今回は間に合うように出掛けて聞いた。高関氏のカラヤンの下での修行時代の秘話も面白かった。
一般的な演奏会型式とは異なる声楽・楽器配置も氏の工夫らしい。できるだけ音楽を途切れさせたくないという遠慮がちな物言いは、歌手への気配りだったのだろう。拍手が起こるのは仕方がない。しかし、途切れさせたくない。

20年3月に予定されていた公演を同じキャストで3年8月越しで実現できるという喜びと高揚感が言葉の端々に漲って、いよいよ期待が高まる。


冒頭の強烈な管弦のTuttiにまずは驚く。何しろ、5列目真ん中なので、普段聴くオケの音圧ではない。ここでもう、身も心も揺さぶられてしまった。あとは、至福の3時間。
シティ・フィルが先ず以て上出来。主要歌手もホレボレの歌唱。
近くで聴いたせいこれまで何度も聴いている音楽なのに、改めてプッチーニのオーケストレーションの上手さも発見した。

予てから1幕の終わり、「テ・デウム」にはオルガンが欲しいなと思っていたが、今日は、立派なパイプオルガンが荘重な響で盛り上げた。
このオルガンについてはこれまで誤解していたが、プッチーにはオルガンを編成に入れているんだ。今日もプログラムにはバンダ/オルガン2(2はミスプリだと思う。)と表記されていた。つまり、これまで聴いた「トスカ」でも袖でポジティフオルガンを使っていたようだ。それに気が付かなかったのだ。

今日は、オペラシティでの演奏会形式なので、袖でポジティフを鳴らすなんて野暮なスタイルではなく、堂々とパイプオルガンを使ったのが嬉しい。

名アリアが続出だ。「妙なる調和」、「歌に生き、恋に生き」、「星は光ぬ」…。終われば拍手したいところだが、プレトークの高関さんの「できるだけ音楽を途切れさせたくない」が効いたか、誰も拍手をしないのは立派?だった。

その代わり、終演後の拍手喝采は一際大きかった。

大いに楽しみ、大いに勉強になった。

♪2023-205/♪東京オペラシティコンサートホール-08

2023年11月28日火曜日

お城EXPOスピンオフコンサート ≪ 都響メンバーによる ≫ NINJA BRASS

2023-11-28 @みなとみらいホール



都響メンバーによるNINJA BRASSとお忍びの姫
 トランペット:高橋敦
 トランペット:伊藤駿
 ホルン:西條貴人
 トロンボーン:小田桐寛之
 チューバ:佐藤潔
 バイオリン:蔭井清夏*

📺【第1部】~時代劇、大河ドラマのテーマ音楽~
⚫︎勧善懲悪!ちょんまげパラダイス(大江戸捜査網~水戸黄門~桃太郎侍)
⚫︎風と雲と虹と
⚫︎軍師官兵衛*
⚫︎真田丸*
⚫︎どうする家康
⚫︎鎌倉殿の13人

🎞️【第2部】~ブラスで蘇る、懐かし洋画音楽~現代の忍者 SPY BRASS
⚫︎「ミッション・イン・ポッシブル」のテーマ
⚫︎「荒野の七人」~「大脱走マーチ」
⚫︎「ロッキー」のテーマ
⚫︎ムーン・リバー(「ティファニーで朝食を」)*
⚫︎タラのテーマ(「風と共に去りぬ」)*
⚫︎愛は誰の手に(「ゴッドファーザーPartⅡ」)
⚫︎「ニュー・シネマ・パラダイス」*
⚫︎「007」スペシャルセレクション オープニング~ユア・アイズ・オンリー~ロシアより愛をこめて~死ぬのは奴らだ~オール・タイム・ハイ(「オクトパシー」)~ゴールドフィンガー
----------アンコール----------------
映画「ひまわり」のテーマ*
映画「スター・ウォーズ」エンドタイトル





読響ブラスは結構有名だが、都響ブラスは知らない。まして忍者ブラストは何者ぞ?

結成の経緯は2年前の「お城EXPO」で誕生したらしいが、それはともかく、いわゆる金管五重奏だ。
編成は、読響ブラスと異なって、Tpが2本、Hr、Tb、Tub。

前半は、”忍者”という設定なので、全員忍者の出たちで、そこそこ成り切っている。ここにVnを担当する”姫”が曲によって加わるという趣向。

後半は、現代の”スパイ”という設定で、黒づくめだが洋装になる。ここにも、洋装のレディが加わる。

前半は、TVの大河ドラマのテーマ曲が中心。
後半は、スパイ映画を中心に洋画のテーマ曲など。

盛りだくさんで、面白かったが、TVドラマは見ない派なので前半は真田丸くらいしか聞き覚えの曲はなかったが、後半は映画ファンとしては全て観ているし、十分耳馴染みの音楽ばかりでこちらはとても楽しめた。

演奏だけではなく、ステージ上のスクリーンにドラマや音楽にちなんだ画像と解説が投影され、これがなかなか興味深かった。また、Tb氏の説明もなかなか上手だった。

今回初めて「風と共に去りぬ」の”風”の意味するところを知って小びっくり。

Encの「ひまわり」のテーマではウクライナのひまわり畑でSローレン、Mマストロヤンニ、リュドミラ・サベーリエワも画面に登場して、咽び泣くVnに涙腺を刺激されたよ。

最後の最後「スター・ウォーズ」では画面での説明が、例の黒い星空に黄色い文字が遠ざかってゆく演出で、凝ったものだ。

全編、遊び心に溢れて思わずニヤリとする場面もしばしば。
普通のコンサートとは違って、センスのあるプロデューサーがついて企画したのだろう。
こんなにたくさんの曲を聴いてほぼ完全消化できたのは珍しい。大満足。

♪2023-205/♪みなとみらいホール-43

2023年11月26日日曜日

藤沢市民オペラ:ロッシーニ「オテッロ」

2023-11-26 @藤沢市民会館



園田隆一郎:指揮
管弦楽:藤沢市民交響楽団
合 唱:藤沢市合唱連盟

オテッロ⇒宮里直樹Tn
デズデーモナ⇒砂川涼子Sp
エルミーロ⇒妻屋秀和Bs
ロドリーゴ⇒小堀勇介Tn
イアーゴ⇒山本康寛Tn
エミーリア⇒中島郁子Sp(中島本来はMs)
ルーチョ/ゴンドラ漕ぎ⇒石井基幾Tn
総督⇒平尾啓Tn

藤沢市民オペラ50周年記念
G.ロッシーニ『オテッロ』全3幕(オテロとも)
(演奏会形式・原語上演・日本語字幕付)  

予定時間 3時間50分(休憩込み)
1幕
 休憩(20分)
2幕
 休憩(15分)
3幕





ヴェルディの「オテロ」は新国立劇場ほかで数回観ているし、7月の東フィル定期の演奏会型式もまだ記憶に新しい。

しかし、今回は、ロッシーニの「オテッロ」である(タイトルくらい同じにしても良さそうなものだが。)。
これは観たことも聴いたこともない。放映機会も少ないので録画もない。それで予習せもせずぶっつけ本番に臨んだ。

演奏会形式ということもあり、客電が完全消灯ではなかったので、時にプログラム参照も可能だったのは助かったが、色々と面食らうところがあった。

ヴェルディ版に比べ、登場人物(カッシオが登場しない。エルミーロ[デズデーモナの父]が登場する。)や役柄、小道具、場所の設定などの違いもあるが、一番大きいのは、ベルカント・オペラであること、加えてテノールTn偏重というところか。

ヴェルディではイアーゴはBrが歌うが、ロッシーニではTnだ。ということは、主要な3人(オテッロ/イアーゴ/ロドリーゴ)がすべてTnだ。ほかにもTnの役は3人あるので、6人(今回は内2人の役を1人が歌ったので実際は5人)ものTn歌手が登場するのだ。そしてBrはなし(代わりにBs)。

Tnが3人も重要な役で登場するのは、興行的な事情らしいが、Tnの中でも高中底が使い分けられるなどの工夫は施されている。

No.10まで付されたアリアは、やはりベルカントの親玉(といっても初演時24歳!)の作らしく、多くは細かい装飾を纏っている。

全体に歌唱重視だがドラマとしてはヴェルディより軽い感じがしたが、初めてなので、見逃し・聴き逃しもあったと思う。

最後のNo.10アリアは第3幕が全曲10番なのにも驚く。その中心は「柳の歌」(ヴェルディのとは当然違う。)だが、実際は、多くの歌で構成される。それらはアリアという位置付けではないのか。

歌手は健闘。特にデズデーモナの砂川涼子❤️はやはりベルカントが得意なんだなと思わせる。彼女の「柳の歌」を聴けて良かった。オペラ本体同様「柳の歌」もヴェルディ版の方が圧倒的に有名だと思うが、初めてのロッシーニ版で聴いたナマ「柳の歌」はどこか懐かしく、過去、何度も聴いたことがあると思ったけど、錯覚だったろうか?
オッテロの宮里直樹もガンガン響かせて聴き応えあり。

藤沢市民オペラは前回の「ラ・ボエーム」が本舞台形式で格別の出来だったが、今回どうして50周年記念にも関わらず演奏会型式にしたのだろう?ちょいと惜しいことではあった。


♪2023-203/♪藤沢市民会館-1

2023年11月25日土曜日

NHK交響楽団1997回A定期 11月公演

2023-11-25 @NHKホール



平石章人〇/湯川紘惠●:指揮
NHK交響楽団

スヴィリドフ:小三部作〇
プロコフィエフ:歌劇「戦争と平和」-「ワルツ」(第2場)〇
A. ルビンシテイン:歌劇「悪魔」のバレエ音楽-「少女たちの踊り」〇
グリンカ:歌劇「イワン・スサーニン」-「クラコーヴィアク」〇
リムスキー・コルサコフ:歌劇「雪娘」組曲〇
チャイコフスキー(フェドセーエフ編):バレエ組曲「眠りの森の美女」●





フェドセーエフの代役若手2人のN響デビュー。この措置についてはN響は失敗したと思う。若手の育成も大事だが、本人たちに不要な重圧をかけない場所を用意すべきだった。加えて、払い戻しもセットすべきだった。
批判が殺到したらしい。だいぶ遅れて、言い訳がHPに掲載された。

ま、こうなれば、N響としては、本番を頑張るしかない。

失敗は許されないから、多分、普段以上にリハを重ねるだろう。成功は間違いない、と思っていたが…。

今日のN響。
みんな下を向いて、楽譜と睨めっこ。誰からも笑顔は無し。
こんな面白くない音楽を聴いたのは何十年ぶりか。
教科書どおりに演奏しましたという感じだ。
生演奏ならでは、本番ならではの丁々発止のやりとり、想定外に生まれる感興などとは無縁。
学習発表会だったよ。

前半はブラボーも聞こえなかったな。指揮者もオケも能面の如く。

やっと後半の女性の方がむしろ捌けていて、少しずつ音楽になってきた。それでもやはり、なかなかオケ自身が音楽を楽しんでいる風ではない。

重荷を背負わされた若い人が気の毒だった。
そして、やっぱり、キャリアを重ねた老練な指揮者がいかにオケをうまく操っているかを感じさせる演奏会だった。

明日は、肩の荷が降りて、もうちょっと良くなるだろう。

余談①:「眠りの森の美女」の10曲目くらい?が終わった時に上手から多分1人だけの確信的拍手が聞こえたが、あれは何だったんだろう?あまりに堂々としていたので、終曲と間違えた風には思えなかったなあ。

余談②:1階中央寄り前方しか分からないが、いつもより客席が空いていたと思う。僕の前の列もその前もパラパラ穴が空いており、座っている人が定期会員ではない席も僅かに確認できた。僕のお隣も初めて見る顔だった。

♪2023-202/♪NHKホール-08

伊藤恵&徳永二男 DUO RECITAL

2023-11-25 @関内ホール



徳永二男:バイオリン
伊藤恵:ピアノ

ヘンデル:バイオリン・ソナタ第4番ニ長調 HWV.371
ヴィターリ:シャコンヌ ト短調
チャイコフスキー:「懐かしい土地の思い出」から《メディテーション》ニ短調 Op.42-1
サン=サーンス:序奏とロンド・カプリツィオーソ イ短調 Op.28
ベートーべン:バイオリン・ソナタ第9番イ長調 Op.47 「クロイツェル」
---------------------
マスネ:タイスの瞑想曲




伊藤惠さんの魅力だ。
終始恵比寿さんのような笑顔に引き込まれて大いに楽しんだ。

関内ホールは多目的ホールで、アコースティック専門ではないので、音響はエクセレントとは言い難いが、どこぞの洞窟よりはずっと聴きやすい。

そんな訳で、クラシックコンサートの公演数も少なく、ひょっとして落語会の方が多い?そんなことはないね。
で、久しぶりに出かけた。

前回聴いたのが小林美樹のリサイタル。これは実に良かった。

今回は、その時も演奏された難曲ヴィターリとサン=サーンスが重なり、前半のキモで、後半は大曲「クロイツェル」だった。

どちらにより強く感銘を受けたか。
どちらも良かったといっておこう。

2人のお喋りも挟まれたので、伊藤惠さんが磯子の住人であると知った。僕も以前住んでいたことがあるので、ひょっとして駅などで顔を合わせたかも。

徳永氏は、20日が誕生日で喜寿。
という訳で、伊藤惠さんの伴奏で、客席もハッピーバースデーを歌わされたけど、彼女がリードすると良い雰囲気になって僕まで歌ってしまったよ!

とにかく、暖かい雰囲気に包まれて、こういうほのぼのコンサートもいいなとつくづく思った。

♪2023-201/♪関内ホール-01

2023年11月24日金曜日

東京都交響楽団 第985回 定期演奏会Aシリーズ

2023-11-24 @東京文化会館



小泉和裕:指揮
東京都交響楽団
イノン・バルナタン:ピアノ*

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番変ロ短調 op.23*
プロコフィエフ:交響曲第5番変ロ長調 op.100




何が原因するのか知らないけど、同じ席で同じオケを聴いているのに、日によって響が随分異なることは何度も経験している。
比較的変化がなく安定している文化会館だが、今日はえらく音が硬くて重かった。

しかし、今日に限っては、都響の16型がうまく機能してがっしりとした音楽に仕上がった。

プロコフィエフの音楽が、そのドライな響きにうまく合って、これもいいなと思わせた。

バルナタンというピアニストは初めて聴いたが、全然ロマンチックではなく、まるで機械人形のように慌ただしく弾き回るという感じなんだけど、それがこの日のドライな響にもマッチして、こういうチャイコも悪くない。
決して全体が早かった訳ではないけど、気分としては疾走するチャイコだった。

コンマスは客演の水谷晃氏。個人的には9月の神奈川フィルでの客演以来の登場だった。がんばれ水谷!

♪2023-200/♪東京文化会館-12

2023年11月23日木曜日

読売日本交響楽団第130回横浜マチネー名曲シリーズ

2023-11-23 @みなとみらいホール



小林資典:指揮
読売日本交響楽団
HIMARI:バイオリン*

ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲
クライスラー:ジプシーの女*
ワックスマン:カルメン幻想曲*
ベルリオーズ:幻想交響曲 作品14
--------------------------
J.S.バッハ:無伴奏バイオリンソナタ第2番イ短調BWM1003 第3曲 アンダンテ*


「運命の力」の冒頭のブラスが何て美しいこと。続く弦がこれを台無しにしないでくれよ…と祈るような気持ち…が通じたか、透明度の高い響が重なって、とても良い出来。
読響の実力を感ずる。9月に続いて(10月は体調不良でパス)
横綱相撲のような安心感。

メインの耳タコ「幻想交響曲」もきめ細かくて迫力があって、管も弦も美しい。ハイレベルの職人仕事だ。こういう管弦楽をみなとみらいホールで聴く幸せ。

このところN響の不調(僕の耳で。)もあって、読響の方が実力があるんじゃないかとも思わせる。

しかし、間に挟んだ小ぶりの作品2曲はイマイチだった。
いずれも独奏バイオリンが妙技を発揮する協奏曲風なつくりで、ソリストは今年8月に初めて聴いた12歳のHIMARIくん。
短期間になぜか今日で3回目。
いずれの回も同じ感想。
まだ協奏曲(風)を演るには早過ぎる。
筋力や内臓の力も十分ではないのだろう。
名器を以ってしても音が弱い。
でも、あと5-6年もすれば、自身が大器に成長する予感はある。

今回もアンコールにバッハだったが、これは受け入れ難いよ、お嬢ちゃん!
「赤とんぼ」とか「ぞうさん」とかでいいんじゃないの。

『なぜか』は続く。
「運命の力」はなぜか今年4回目。
この4回中、今日の読響が最高の出来だった。

「幻想交響曲」に至ってはなぜか今年5回目。
大植+神奈川フィル、C.デュフレーヌ+東フィルと本日の読響が拮抗する。

これら2曲はいずれも名曲ではあるが、首都圏オケ連盟(があるかどうか知らないけど)で調整して、記念年以外は同じ作品は最高3回までで調整してほしいね。

♪2023-199/♪みなとみらいホール-42

2023年11月22日水曜日

オペラ:ジュゼッペ・ヴェルディ/シモン・ボッカネグラ

2023-11-21 @新国立劇場



【指揮】大野和士
【演出】ピエール・オーディ
【美術】アニッシュ・カプーア
【衣裳】ヴォイチェフ・ジエジッツ
【照明】ジャン・カルマン

【合唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

シモン・ボッカネグラ⇒ロベルト・フロンターリBr❶
マリア・ボッカネグラ(アメーリア)⇒イリーナ・ルングSp❷
ヤコポ・フィエスコ⇒リッカルド・ザネッラートBs❸
ガブリエーレ・アドルノ⇒ルチアーノ・ガンチTn❹
パオロ・アルビアーニ⇒シモーネ・アルベルギーニBsBr❺
ピエトロ⇒須藤慎吾Br
隊長⇒村上敏明Tn
侍女⇒鈴木涼子Ms

--------新国立劇場出演履歴-------
❶98年『セビリアの理髪師』フィガロ、2002年『ルチア』エンリーコ、15年『トスカ』スカルピア、23年5-6月『リゴレット』
❷17年『椿姫』ヴィオレッタ、21年『ルチア』タイトルロール
❸19年『トゥーランドット』ティムール
❹初登場
❺22年『ドン・ジョヴァンニ』タイトルロール

ヴェルディ「シモン・ボッカネグラ」<新制作>
プロローグ付き全3幕
〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉

予定上演時間:約2時間50分
 プロローグ・第Ⅰ幕85分
  休憩25分
 第Ⅱ・Ⅲ幕60分





チラシなどの配色にも見られるが、舞台美術は黒・赤・白で統一されている。セットは簡潔で大胆な抽象的造形だ。衣装もこの3色が中心で、そのデザインは現代のもの。
この美術センスを含め、演出が見事。

史実に基づく物語は、本来は14世紀前半のジェノヴァが舞台なのだが、ここで眼に訴えるものは時空を超越している。
ゆえにこれも一種の「読み替え」なのかもしれないが、ヴェルディが描こうとしたものから、普遍的な内容を抽出した結果がこのような美術になった。だからヴェルディの世界観をちっとも邪魔をしていないのが良い。
ややもすると頭の悪い演出家が自己陶酔でとんでもない設定で出発したはいいものの、2幕目で既に辻褄が合わなくなるという例をいっぱい見てきた。

ピエール・オーディという演出家は優れた人だと思う。
大胆な美術だけど、これが人間ドラマの邪魔をしていない。今回は、巷で変に流行っている紗幕を全く使っていない。
全編、暗い舞台なのだけど、適切な照明が歌手をきれいに浮かび上がらせ、表情もはっきり見え、そのせいか、歌声もストレートに響いてくるのも良い。
簡潔さが、むしろ、観客の期待を舞台に集中させる力がある。

ついでに言えば、大野和士:東フィルの演奏が、ほとんど存在を感じさせないのも、終わってみたら、見事だった。オペラはオケの演奏を聴きにきているのじゃないもの。もちろん、音楽的に舞台上と一体となってよく練られたドラマを盛り上げているのだけど、はいはい、オケも頑張っていますよ!という感じがしなかったのは実によろしい。

主要な5人の歌手たち(いずれも海外勢)のうち、唯一のテノールであるガブリエーレを歌ったルチアーノ・ガンチのみが新国初登場で、他の4人は1~4回は登場しているので、いずれも経験済みだった。巧拙は判断しかねるが、満足できた。

このオペラは、声楽的にはバリトンのオペラだ。高域はマリアSpとガブリエーレTnだけ。そのアリアが巧みに配されて一本調子にならない。これはヴェルディの巧さ。

終幕の悲劇に向かって、ますます、舞台も客席も熱を帯びてくる。となりのご婦人は肩を震わせて嗚咽をこらえていたよ。

欲を言えば、物足りない部分もあったのだけど、新制作だし、この演出を継続して再演を期待する。その過程で手直しもされてゆくだろう。

久しぶりに一本取られたという上出来オペラだった。

2023-198/♪新国立劇場-17

2023年11月18日土曜日

神奈川フィルハーモニー管弦楽団 第390回定期演奏会

2023-11-18 @みなとみらいホール



シーヨン・ソン:指揮
神奈川フィルハーモニー管弦楽団
辻彩奈:バイオリン*

F.プライス:アメリカにおけるエチオピアの影<日本初演>
コルンゴルト:バイオリン協奏曲ニ長調 Op.35*
ドボルザーク:交響曲第9番ホ短調 Op.95「新世界から」
---------------------
スコット・ウィラー:アイソレーション・ラグ〜ギル・シャハムのために*



指揮のシーヨン・ソン(韓国人女性)は初めて。
神奈川フィルは先月に続いて初めて神奈川フィルを振る外国人指揮者の登壇だ。

結果的には、先月同様、とても充実したコンサートになった。

1曲目。F.プライス(1887-1953)も初めてだし、演奏した作品も今日が日本初演だという。
この作曲家は、ちょうどドボルザークの一世代後の人だ。黒人女性ということで、二重の差別で才能を発揮するのは容易なことではなかったろう。

作品名が「アメリカにおけるエチオピアの影」という以上、黒人奴隷の生き様を描いている訳だ。こんな作品があったとは全く考えもしなかった。調性もあり、分かりやすい旋律で、また聴いてみたいと思った。この日本初演は意義あることだった。

この1曲目で、シーヨン・ソンに好感を持ったし、オケも実に丁寧に彼女の意図を汲んで伝えてくれる。

次にコルンゴルトのVn協を辻彩奈が弾くというのも期待が大きかったが、いやはや見事に美しく力強い。彼女のVnはいつもだが、オケに埋もれたりしない。これはオケのコントロールも良かったからだろう。適切に響かせるホールの力もあるだろう。

この前半だけで十分聴きものだったが、後半は「新世界から」。
若い頃はそっぽを向いていた時期もあったが、齢を重ねてくると毎回楽しみになってきたよ。

精密な工作物なのに情緒たっぷりで、それでいて崩れない。
そういう「新世界から」の魅力をシーヨン・ソンが丁寧に作り上げ、オケが見事に応えてホンに上出来だった。大江くん、いいぞ!

先日のWペッカによるN響B定期に比べたら話にならないくらい良いコンサートだった。

余談①
SNSでP席で聴いていた人が感動した旨をツィートしたいたが、さもありなん。が、ブラボーがなかったと書いていたが、そりゃ遠くて聞こえなかったのだろう。1F後方やたぶん2-3F席からは聞こえていたよ。まあ、大音量ではなかったけど。

余談②
ポツポツ女性指揮者が増えてきたが、女性の燕尾服は全く似合わない。誰か、女性らしさも演出する指揮者用の服をデザインしないものか。スカートでもいいと思うのだけどな。もちろん黒でなくともいいし。

♪2023-197/♪みなとみらいホール-41

2023年11月17日金曜日

横浜弦楽四重奏団2023年度シリーズ Vol.3

2023-11-17 @みなとみらいホール



横浜弦楽四重奏団
 Vn:小笠原伸子、有馬希和子
 Va:百武由紀
 Vc:間瀬利雄
 Pf:岡原慎也

ベートーべン:弦楽四重奏曲第3番ニ長調 作品18-3
シューマン:ピアノ五重奏曲変ホ長調 作品44
チャイコフスキー:弦楽四重奏曲第1番ニ長調 作品11
------------------
ボロディン:弦楽四重奏曲第2番ニ長調 から第3楽章ノクターン


「横浜弦楽四重奏団」として聴くのは初めてだったが、メンバーは横浜バロック室内合奏団と同じ。で、バッロック定期の一つが行けなくなったので、こちらに振り替えてもらって、何と同じ席を用意してもらった。僕の好みを尊重してくれたようだ。というのも、バッロク定期に比べるとだいぶお客が少ないから、たまたま同じ席が用意できたということだろうけど。

1曲目ベートーベン3番は4年前ぶり。
そもそも弦楽四重奏を聴く機会が少ないからだ。
残念ながらあまり感ずるところはなかった。
でも、本日の期待はシューマンのピアノ五重奏にあるので、まあ、前座の腕鳴らしと了解。

ピアノが加わることで音楽のスケールがいっぺんに広がる。
それに、いつ聴いても気持ちを鷲掴みにされる力強さに繊細な抒情。シューマンのオーケストレーションはあまり好評ではないが、この作品は編成がピアノ・ソナタの延長にあるような規模だから、彼は完全掌握して自在に・効果的に五重奏に仕上げたのではないか。
ま、演奏に関しては、欲を言えば、ピアノが頑張りすぎで弦とのユニゾンでは弦が埋もれがち。


後半はチャイコの弦楽四重奏曲第1番。
これもやはり聴く機会が少なくて、有名な第2楽章Andante Cantabileだけを聴く機会は何度かあったが、ナマで全曲は初聴きかも。

1楽章の旋律の絡み合い、2楽章は耳馴染みのせいもあって実に美しい。3楽章の土の匂いのする民謡風なスケルツォも魅力的。終楽章も民謡風な旋律を撒き散らしながら疾走して爽快。

それにしても、トルストイが涙を流したという第2楽章はやはり美しい。

ところが、アンコールではボロディンの2番から超有名なノクターンを演奏してくれて、これがもう、しみじみと心を打った。
トルストイが絶対音楽(Andante Cantabile)で泣くとは精神状態がバランスを欠いていたと思うが、ボロディンのノクターンは聴かなかったのか?もしこちらも聴いたら、泣くどころか、崩れ落ちたかもしれないな…などと思いながら、僕は平常心を保ちながら聴いたが、なんて美しいのだ😢。

♪2023-196/♪みなとみらいホール-40

2023年11月15日水曜日

第1996回 NHK交響楽団 定期公演 B-1

2023-11-15 @サントリーホール



ユッカ・ペッカ・サラステ:指揮
NHK交響楽団
ペッカ・クーシスト:バイオリン*

シベリウス:交響詩「タピオラ」作品112
ストラヴィンスキー:バイオリン協奏曲ニ調*
シベリウス:交響曲第1番ホ短調 作品39
-------------------
フィンランド民謡:コプシン・ヨーナス*




経験上1年に一度くらいはサントリーホールがいい響になるが、今年は10月-11月の東フィルが2回続けてこの幸運を消費してしまったので、今日は通常モードに復帰してしまった。

指揮者も独奏者もフィンランド人でペッカさん。
いずれも聴くのは今回が3回目で、6回すべてがシベリウス+αというプログラム。得意なお国物をやれということなんだな。ちょいと気の毒に思うよ。尤もクーシストの方は全2回がシベリウスVn協だったが、今回はストラヴィンスキーと、個人的には極端にレア物になった。
でも、オケは編成を小さくしていたにも関わらず、ざわざわとして透明感に欠ける。独奏Vnも響いてこない。

そもそも、タピオラからしてイマイチ。
弦もすっきりしなかったが、ClとFlの二重奏では音が濁っていたよ。およそN響とは思えない。
最後の交響曲1番でようやく、そこそこ本領を発揮した感あり。

クーシストのEncに聞き覚えがあった。
『チューニングか試し弾きか…と思っていたらいつの間にか蚊の鳴くような音で土着臭ぷんぷんの彼の地の民謡…』。
1月の都響との共演の際のEncと同じだった…のでその時のTweetの一部をコピーして済ませた🤪!

♪2023-195/♪サントリーホール-24

2023年11月12日日曜日

かなっくクラシック音楽部 未来のヴィルトゥオーゾを紹介します/笹沼樹

2023-11-12 @かなっくホール


笹沼樹:チェロ
上田晴子:ピアノ

ラフマニノフ:2つのサロン風小品 Op.6
 1 ロマンス
 2 ハンガリー舞曲
ブルッフ:コル・ニドライ Op.47
バルトーク:ラプソディ 第1番

フランク:バイオリン・ソナタ イ長調
 第1楽章 Allegretto ben moderato
 第2楽章 Allegro
 第3楽章 Recitativo-Fantasia
 第4楽章 Allegretto poco mosso
------------------------
ラフマニノフ:ヴォカリーズ


笹沼樹(たつき)は、以前にカルテット・アマービレの一員として、また、今年度からは東響の客演首席として達者な腕前を聴いているので僕にとって初のリサイタルは楽しみだった。

一昨日、東フィルで佐藤晴真がサントリーホールであるにもかかわらず、柔らかい美音を響かせていたが、今日は、小ホールの中でも音の良いかなっくホールだ。どんな音が出てくるかが一番の興味だったが、やりました。

冒頭のロマンスはピアノのアルペジオ風の伴奏に乗り、ビ〜ンと出てきた音が、小ホールならではの、しかもかぶりつきならではの、生々しさと艶(なまめ)かしさを響かせて、もうこれで最後までOKという感じ。

この最初の1曲だけが初聴きで、なぜか組物なのに2番手のハンガリー舞曲以下は、全てよく知っている作品なので心地よく楽しめたが、今回のプログラム、ちょっとした遊び心で構成されている。

アンコールを含む全曲がチェロとピアノで演奏されたのは当然だが、作品の方は、すべて元来がチェロとピアノの為に作曲されたものではない。
バイオリンとピアノ、チェロと管弦楽、声楽とピアノといった調子だ。このうちバルトークだけは作曲者自身が後年チェロとピアノに編曲したので、これはオリジナルと言っていいだろうが、その他は、笹沼とピアノの上田晴子が今日の編成の為に手を加えた…彼ら自身の遊び心に溢れているのだ。

特に、本篇最後の大物、フランクの、その名も「バイオリン・ソナタ」は興味深かったが、単にバイオリンの楽譜をチェロで弾いているのではなく(それじゃ、チェロの良さを活かせないし、高域が続いて聴き苦しかったのではないかと思う)、適宜、上げたり下げたりしているのだけど、何の違和感も感じさせなかったのは面白い。この曲をビオラでも聴いた覚えがあるが、ビオラではひょっとして原曲の楽譜をそのまま使ったのではなかったかな。

いずれにせよ、ブンブンと豊かに鳴るチェロとピアノの音も美しく、とても濃密な100分だった。
笹沼樹。看板どおり、未来のヴィルトゥオーゾかも。

♪2023-194/♪かなっくホール-16

2023年11月11日土曜日

2023-11-11 @日生劇場



指揮:沼尻竜典
演出:粟國淳(日生劇場芸術参与)
美術/衣裳:アレッサンドロ・チャンマルーギ
照明:大島祐夫(A.S.G)
振付/ステージング:広崎うらん

マクベス⇒今井俊輔(大沼徹)
マクベス夫人⇒田崎尚美(岡田昌子)
バンクォー⇒伊藤貴之(妻屋秀和)
マクダフ⇒宮里直樹(大槻孝志)
マルコム⇒村上公太(髙畠伸吾)
侍女⇒森季子(藤井麻美)
マクベスの従者/医師/刺客/伝令(4役)⇒後藤春馬/金子慧一(両日)*
*1日2役ずつ、交互に出演
( )12日

オペラ『マクベス』
全4幕(原語[イタリア語]上演・日本語字幕付) 新制作

作曲:ジュゼッペ・ヴェルディ
台本:フランチェスコ・ピアーヴェ
原作:ウィリアム・シェイクスピア

予定上演時間:2時間50分
第Ⅰ-Ⅱ幕 85分
 休憩 25分
第Ⅲ-Ⅳ幕 60分




NISSAY OPERA 2023は今年60周年記念。その第2弾。

「マクベス」は事実にインスパイアされた物語だそうだが、「歴史物語」には「今」に通ずる普遍性が読み取れるからこそ、面白いのだろう。今日は特にそれを感じた。

魔女や亡霊の『予言』は本来戯言のようなもので、マクベスが信じなければ…夫人に唆されて行動を起こさなければ悲劇は起こらなかった。しかし、権力への誘惑に抗しきれない弱さが、次々と『予言』を成就させることとなり、ついには自滅する。

マクベスは善意の人・国王を殺したことで周囲の実力者たちを敵に回すこととなり、スコットランドは戦乱に塗れる。
その最終幕冒頭は、戦乱から逃れようとする民衆の嘆きが表現される。
ここで、ハタと思った。
『予言』ならぬ『預言』によって与えられるという「約束の地」を巡る争いが、今、パレスチナでまたもや現実化し、多くの民衆が戦禍に苦しんでいるのは、無理にでも『預言』を実現させようとする権力の争いだ。なるほど、「歴史物語」が「今」に重なった。

この物語は『予言』がキーワードとなって、筋が分かりやすい。原作戯曲も読み易いし、黒澤版マクベス「蜘蛛の巣城」も面白いし、オペラ版も、実は!本当は!ちゃんとやれば!面白い。


いやいや、本題はオペラ版なのだが、この感想を読んで、明日行くのをやめようという人はいないと思うので、いつものように率直に書くと、僕の好みでは到底満足できなかった。

沼さん率いる読響は、今日は狭いピットでやむを得ないのだけど、響が薄い。
歌手陣も一部に(高音担当!)低域で音がふらつく場面があった。まあ、明日はキャストが変わるけど。

簡素でセンス溢れた舞台美術はいい。でも暗すぎ。
何より、犯罪的によろしくないのは、全4幕を通じて全編、全面紗幕を使ったことだ。


演出家(粟國淳)は何を考えている?

舞台全面・全幕・紗幕というのは《演出の完全放棄》だ。

紗幕は、時に効果を発する(プロジェクションマッピングの投影や序幕的効果等)が、最初から最後まで紗幕で舞台を遮るのは演出放棄だ。お客はずーっと鬱陶しい舞台を見なくてはいけない。声楽が僅かとはいえ損なわれる。

主要キャストが2-3度紗幕の外(客席側)で歌う場面がある。その時は、すっきりクッキリで声もよく通り輝いて聴こえる(客席に僅かながら近いというせいもあるだろうが)。

全編紗幕で見せたいのなら、観客にサングラスを配れよ!
そんなものかけて観るお客は1人もいないだろう。
そういうバカな演出だ。

ゼッフィレッリの「アイーダ」@新国立劇場も、全編・紗幕という暴挙で腹立たしいが、近年、演出に工夫をせず、安易に紗幕で楽しようとする演出家が増えてきたのが残念だ。いや、金返せっつうの!

2023-193/♪日生劇場-02