2019年10月6日日曜日

東京二期会オペラ「蝶々夫人」

2019-10-06 @東京文化会館


指揮:アンドレア・バッティストーニ
演出:宮本亜門
装置:ボリス・クドルチカ
衣裳:髙田賢三
照明:マルク・ハインツ
映像:バルテック・マシス 
合唱指揮:河原哲也
演出助手:澤田康子/島田彌六
舞台監督:村田健輔
公演監督:大島幾雄

管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:二期会合唱団

蝶々夫人⇒大村博美
スズキ⇒花房英里子
ケート⇒田崎美香
ピンカートン⇒小原啓楼
シャープレス⇒久保和範
ゴロー⇒高田正人
ヤマドリ⇒大川博
ボンゾ⇒三戸大久
神官⇒白岩洵

プッチーニ:歌劇「蝶々夫人」
全3幕〈イタリア語上演/字幕付〉

予定上演時間:約2時間45分
第Ⅰ幕 55分
 --休憩25分--
第Ⅱ幕、第Ⅲ幕 85分

宮本亜門新演出の二期会公演。
大村博美への期待と新演出の不安は外れなかった。

今年4回目の「蝶々夫人」でいずれも其々に楽しんだが、大村・蝶々こそ今年の「蝶々」のシメにふさわしかった。

一方で、宮本亜門の新演出*は観客の気を散らせた。
終始、物語の傍観者であるが、物語に絡みようのない無言の青年の存在はドラマ没入の邪魔でしかなかった。

また、えらく簡素な舞台で、作り物はスカスカの小屋ひとつ。
場面切り替えはカーテンに映像投射のみ。
その結果、声の反射板になるべき装置がないので、歌唱は迫力に欠けた。これでは客席後方や上層階には十分届かなかったのではないか。
僕は1階前方中央という好位置だったが、それでも物足りなかった。そんな悪条件の下でもひとり大村博美の群を抜く声量がハンデを跳ね返していたのは凄い。

また、彼女の演技力にも唸った。2幕の最後、オケがゆったりと伴奏する中、夫ピンカートンの帰国3年後に、蝶々さんの想いが叶ってピンカートン一行(気の毒なことにアメリカの本妻を随行して。)が家を訪ねてくる前夜。
セリフも歌もなく、万感の思いを胸に、ひたすら夜明けを待つ場面。大村の目は真っ赤に充血し、大粒の涙が頬を伝う。もう、なり切っている!確かに18歳の蝶々さんがそこに居た。それを見て心揺さぶられない者はいないだろう。

人種差別、女性蔑視などの問題を含んだ「蝶々夫人」だが、初演後115年を経た今なお観客の胸を打つのは美しい音楽のせいだけではなく、蝶々さんの純粋な生き方(ある意味、サムライの凛々しさがある。)は古今東西を問わず普遍的な美しさがあるからだろう。


*蝶々さんとピンカートンの間にできた子供は蝶々さんの死後ピンカートンに引き取られ、アメリカで育つ…までは原作どおり。新演出は、アメリカに帰国後30年の現在、ピンカートンは死を迎え、今32歳となった青年(蝶々さんの遺児)が残された父の手紙によって初めて両親のラブストーリーを知る、という内容に膨らませてあり、冒頭にこの事情を示す寸劇が演じられ、本編から終幕までずっと青年は舞台のどこかから両親の出会いから蝶々さんの自決までの3年間の出来事を覗き見ているという仕掛け。

♪2019-151/♪東京文化会館-07