2015年12月31日木曜日

番外<コンサート 2015年をふり返る>

2015年はコンサートに117回出かけた。
その中から、記念となるコンサートやもう一度聴きたいものを選出してみた。

①NHK音楽祭2015 hr交響楽団演奏会 
11/16 NHKホール
アンドレス・オロスコ・エストラーダ指揮
五嶋龍:バイオリン*
hr交響楽団


ウェーバー:歌劇「オイリアンテ」序曲
チャイコフスキー:バイオリン協奏曲 ニ長調 作品35*
マーラー:交響曲 第1番 ニ長調「巨人」
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アンコール
イザイ:無伴奏バイオリンソナタ第2番から第1楽章*
ブラームス:ハンガリー舞曲第6番 ニ長調(管弦楽版)


弦の響きがたまらなく美しい。管も巧い。ダイナミックレンジの広いメリハリの効いた音楽。これまでに聴いた「巨人」で最高。
五嶋龍のバイオリンも大向こうを唸らせる見せる・聴かせるテクニック。
エストラーダの指揮はチャイコの音楽の構造まで鮮やかに立体視させた。

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②NHK交響楽団「第九」演奏会 
12/23 NHKホール
パーヴォ・ヤルヴィ指揮
NHK交響楽団
森麻季:ソプラノ/加納悦子:メゾソプラノ/福井敬:テノール/妻屋秀和:バリトン

ベートーベン:交響曲第9番ニ短調 作品125 「合唱付き」


N響がこんなに素晴らしい演奏ができるとは知らなかったよ!と言いたいくらいの名演。やはりヤルヴィの曲作りが単にテンポが良いだけでなく、隅々まで指示を行き届かせた結果埋もれがちだった美しいパーツに磨きをかけて、それらで壮大な構造物を築いてみせたからだ。ここ数年で最高の「第九」。

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③楽劇「ニーベルングの指輪」序夜〜ラインの黄金〜 
10/14 新国立劇場
飯守泰次郎指揮
ゲッツ・フリードリヒ演出
東京フィルハーモニー交響楽団
【ヴォータン】 ユッカ・ラジライネン/【ドンナー】 黒田博/【フロー】 片寄純也/【ローゲ】 ステファン・グールド/【ファーゾルト】 妻屋秀和/【ファフナー】 クリスティアン・ヒュープナー/【アルベリヒ】 トーマス・ガゼリ/【ミーメ】 アンドレアス・コンラッド/【フリッカ】 シモーネ・シュレーダー/【フライア】 安藤赴美子/【エルダ】 クリスタ・マイヤー/【ヴォークリンデ】 増田のり子/【ヴェルグンデ】 池田香織/【フロスヒルデ】 清水華澄

ワーグナー:楽劇「ニーベルングの指輪」序夜〜ラインの黄金〜


世間の評はいまいち高くないようだけど、これはもう至福の時間だった。
飯守泰次郎御大の音楽への情熱や東京フィルの巧さに感服した。

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④N響第1802回 定期公演 Aプログラム 
02/08 NHKホール
パーヴォ・ヤルヴィ指揮
アリサ・ワイラースタイン:チェロ
NHK交響楽団

E.エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調 作品85
マーラー:交響曲 第1番 ニ長調「巨人」
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アンコール
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番から「サラバンド」


パーヴォ・ヤルヴィが9月からの正式な首席指揮者就任を前にして、10年ぶりにN響を振った実質デビューというべき記念すべき演奏会が「巨人」を取り上げたのはまことにふさわしかった。N響も張り切っていたようだ。カーテンコールの凄まじさは近年稀なもので、聴衆のヤルヴィへの期待の大きさを物語った。

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⑤東京交響楽団 川崎定期演奏会 第52回 
09/13 ミューザ川崎シンフォニーホール
ジョナサン・ノット指揮
藤村実穂子:メゾ・ソプラノ
東響コーラス:女声合唱
東京少年少女合唱隊:児童合唱

マーラー:交響曲 第3番 ニ短調


初めてナマで聴いたギネスものの長大なマーラーの第3番。
よくぞ取り上げてくれた。CDでは長大すぎて聴く気になれなかったが、ナマで聴くとこれはなかなか面白い音楽だ。コンバス9本が並んだ壮大な管弦楽というのも初めてだった。

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⑥フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2015 
08/05 ミューザ川崎シンフォニーホール
大野和士指揮
東京都交響楽団

プロコフィエフ:バレエ音楽「シンデレラ」組曲第1番 作品107
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番ニ短調作品47「革命」 


久しぶりに都響を聴いたがなんて巧いのだ!
アンサンブルが美しい。
ショスタコの5番はどんなオケが演奏しても一定程度のポイントを稼げる曲だけど、この日の都響の演奏は音楽の細部が見渡せる(聴き分けられる)透明感を保ちながら強力な音圧で迫るダイナミックレンジの大きさも聴かせてくれた。
これを聴いたから、後期シーズンから都響の定期会員になり、次季は2コースに増やした。

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⑦N響第1799回 定期公演 Aプログラム 
01/11 NHKホール
ジャナンドレア・ノセダ指揮
アレクサンダー・ガヴリリュク:ピアノ
NHK交響楽団

フォーレ:組曲「ペレアスとメリザンド」作品80
プロコフィエフ:ピアノ協奏曲 第3番 ハ長調 作品26
ベートーベン:交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」
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アンコール(Pf)
ショパン:夜想曲変ニ長調 作品27-2

疾走するベートーベンは2014年の鈴木秀美指揮神奈川フィルの「運命」で洗礼を受けて実に興味深く聴いたが、ジャナンドレア・ノセダの「運命」は更に徹底していた。
その後10月のN響でロジャー・ノリントンのオール・ベートーベン・プログラムでも疾走するベートーベンを楽しめたが、ノセダの「疾走ぶり」は半端ではなかった。楽譜に忠実ということらしいが、だとしたら、我々はこれまで何を聴いていたのだろう。
まだ、主流ではないようだけど、あらためてこのスタイルでせめて交響曲だけでも全曲聴けばベートーベン観がかなり変わるのではないかと思う。
僕は、とても好意的に受け取った。
この後になるが、ヤルヴィの「第九」もノセダほど極端ではないけど似たようなアプローチだった。
ベートーベンがますます面白くなってきた。

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⑧N響第1817回 定期公演 Aプログラム-パーヴォ・ヤルヴィ首席指揮者就任記念 
10/04 NHKホール
パーヴォ・ヤルヴィ指揮
NHK交響楽団
エリン・ウォール:ソプラノ
リリ・パーシキヴィ:アルト
合唱:東京音楽大学

交響曲 第2番 ハ短調「復活」


パーヴォ・ヤルヴィとN響という組み合わせは、実質的にはすでに2月に「復活」していたが、首席指揮者としては今回が就任記念演奏会だった。そのせいか、ヤルヴィもN響も気合が入った緊張感のある演奏で、音楽の壮大さもあって、館内は大きな興奮に包まれた。今後いつまでヤルヴィ時代が続くのか分からないけどその船出の目撃者として感慨深いものがあった。

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⑨東京都交響楽団第796回 定期演奏会Bシリーズ 
10/16 サントリーホール
ペーター・ダイクストラ指揮(スウェーデン放送合唱団首席指揮者)
ソプラノ:クリスティーナ・ハンソン
アルト:クリスティーナ・ハマーストレム
テノール:コニー・ティマンダー
バス:ヨアン・シンクラー
合唱:スウェーデン放送合唱団
東京都交響楽団

リゲティ:ルクス・エテルナ (1966)(無伴奏混声合唱)
シェーンベルク:地には平和を op.13 (混声合唱と管弦楽)
モーツァルト:レクイエム ニ短調 K.626 (ジュスマイヤー版)
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アンコール
モーツァルト:アヴェ・ヴェルム・コルプス ニ長調 K.618(無伴奏混声合唱)


スウェーデン放送合唱団の巧さにびっくりした。
世界トップクラスの合唱団だというが、なるほどと思った。
リゲティやシェーンベルクの実験音楽のような、無調とか微分音が含まれた難しい音楽も、透きとおった人間の声が薄いベールを重ねてゆくときに不協和音さえもしばし聴いていたいような不思議な調和をもたらした。
その後のレクエイムのなんと美しいことか。
アヴェ・ヴェルム・コルプスの声楽版も初めて聴いたがこれまた天上の音楽だ。

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⑩横浜交響楽団第666回定期演奏会 
10/25 神奈川県立音楽堂
飛永悠佑輝:指揮
独唱
カルメン:池端歩
ミカエラ:田川聡美
ホセ:浅原孝夫
エスカミーリオ:武田直之
田添菜穂子:語り
合唱:横響合唱団/金沢少年少女合唱団

【 オペラの魅力 】
ビゼー:歌劇「カルメン」 全4幕から抜粋《演奏会形式》


地元のアマチュアということで、応援したい気持ちもあって年8回の定期演奏会を聴き続けているが、これまでは残念な思いをすることもしばしばだった。
しかし、この日の演奏は一皮も二皮も向けたように上質にできあがっていた。
この次の定期演奏会が「第九」だったが、これも良い演奏だった。
この調子で腕を上げてほしいという期待を込めてベストテンに入れておこう。

番外<歌舞伎 2015年をふり返る>

2015年は14回鑑賞した。
ベスト3を選ぶと、1月の「南総里見八犬伝」、11月の「神霊矢口渡」、12月の「東海道四谷怪談」だ。
いずれも国立劇場ならではの、そして通し狂言ならではの物語の面白さを味わった。

ほかにも南座で観た「色彩間苅豆〜かさね」、国立の「壺坂霊験記」、歌舞伎座「壇浦兜軍記〜阿古屋」と「梅雨小袖昔八丈〜髪結新三」が面白かった。

旅先の南座でたまたま歌舞伎鑑賞教室を当日券で観ることができたのは実に幸運なことで、良い思い出になった。
菊之助の「義経千本桜」は国立でチケットが取れずに落胆していたところを神奈川県立青少年センターでの公演を観ることができたのも幸いだった。


①〜⑭の番号の右(劇場名と観賞月)をクリックすれば該当鑑賞ノートが別ウィンドウで開きます。

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国立劇場大劇場 01月


通し狂言「南総里見八犬伝」
菊五郎/時蔵/松緑/菊之助/亀三郎/亀寿/梅枝

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吉例寿曽我〜鶴ヶ岡石段の場〜大磯曲輪外の場
又五郎/錦之助/梅枝/歌昇/萬太郎/巳之助/橘三郎/芝雀/歌六

彦山権現誓助剱
菊五郎/時蔵/團蔵/東蔵/左團次

積恋雪関扉
幸四郎/菊之助/錦之助

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梅雨小袖昔八丈〜髪結新三
橋之助/錦之助/松江/萬次郎/團蔵

三人形
錦之助/児太郎/国生

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玩辞楼十二曲の内 碁盤太平記〜山科閑居の場
扇雀/染五郎/壱太郎/亀鶴/孝太郎/東蔵

六歌仙容彩
左團次/魁春/仁左衛門/梅玉/菊五郎/芝雀/團蔵/萬次郎/松江/歌昇/廣太郎/吉右衛門/魁春

玩辞楼十二曲の内 廓文章〜吉田屋
鴈治郎/幸四郎/又五郎/歌六/秀太郎/藤十郎

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解説 南座と歌舞伎
桂九雀

色彩間苅豆〜かさね   
吉弥/松江

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摂州合邦辻〜合邦庵室の場
菊之助/梅枝/右近/巳之助/歌六/東蔵

通し狂言「天一坊大岡政談」
菊五郎/松緑/海老蔵/萬次郎/秀調/米吉/團蔵/菊之助/時蔵

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解説 歌舞伎のみかた
亀寿

壺坂霊験記
孝太郎/亀三郎

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解説 歌舞伎のみかた
萬太郎

義経千本桜〜渡海屋の場〜大物浦の場
菊之助/梅枝/萬太郎/右近/亀三郎/菊市郎

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ひらかな盛衰記〜逆櫓
橋之助/勘九郎/児太郎/彌十郎/扇雀
京人形
勘九郎/新悟/鶴松/隼人/七之助

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双蝶々曲輪日記-新清水浮無瀬の場
梅玉/芝雀/松江/宗之助/隼人/歌女之丞/錦吾/錦之助/魁春

新歌舞伎十八番の内〜紅葉狩
染五郎/高麗蔵/米吉/廣太郎/亀寿/松緑

競伊勢物語
吉右衛門/染五郎/菊之助/米吉/児太郎/歌女之丞/橘三郎/東蔵

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通し狂言「伊勢音頭恋寝刃」
梅玉/東蔵/鴈治郎/松江/亀鶴/壱太郎/錦吾/高麗蔵/友右衛門/魁春

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壇浦兜軍記〜阿古屋
玉三郎/亀三郎/功一/菊之助

梅雨小袖昔八丈〜髪結新三
松緑/時蔵/亀寿/梅枝/秀調/團蔵/秀太郎/左團次/仁左衛門/菊五郎

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通し狂言「神霊矢口渡」
吉右衛門/歌六/又五郎/歌昇/種之助/米吉/橘三郎/桂三/錦之助/芝雀/東蔵

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国立劇場大劇場 12月


通し狂言「東海道四谷怪談」
幸四郎/錦之助/染五郎/高麗蔵/松江/新悟/廣太郎/米吉/隼人/宗之助/錦吾/桂三/亀蔵/萬次郎/彌十郎/友右衛門

2015年12月26日土曜日

ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団名曲全集 第113回

2015-12-26 @ミューザ川崎シンフォニーホール


大友直人:指揮

1stバイオリン:大谷康子(ソロ・コンサートマスター)*
2ndバイオリン:田尻順(アシスタント・コンサートマスター)*
チェロ:西谷牧人(首席奏者)*
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ソプラノ:小川里美
メゾ・ソプラノ:谷口睦美
テノール:西村悟
バス:森雅史

合唱:東響コーラス

コレッリ:合奏協奏曲 ト短調 作品6-8 「クリスマス協奏曲」*
ベートーべン:交響曲 第9番 ニ短調 作品125「合唱付き」
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アンコール

蛍の光

コレッリの作品をオーケストラで聴く機会は殆ど無い。ここ数年の記録にあるのは、2年前の夏にやはり合奏協奏曲の8番を聴いている。つまり、「クリスマス協奏曲」だ。
どうやら、12曲ある合奏協奏曲の中でも第8番がダントツに有名らしい。

以前聴いたことがあったことさえ忘れていたので、冒頭からえらく重々しい曲調で、どこがクリスマスなのか、と思ったが、終(第6)楽章の「パストラーレ」から「クリスマス」が導かれるらしい。

協奏曲なので、独奏対管弦楽の協奏の形だが、この時代(1680年頃)の独奏部分はバイオリンが2本とチェロ1本だ(トリオ・ソナタの形らしい。)。
一方の管弦楽は、弦5部にハープシコードで、管楽器も打楽器もなし。編成も小さく全員で16人。
独奏3人を入れても19人という小規模の合奏だ。

音楽自体は、親しみやすく分かりやすくきれいだし、ト短調という調性がちょっと憂いを帯びて共感しやすい。

しかし、がっかりした面もある。
出だしがピシっとは決まらなかったように思う。

東響の看板娘…でもないけど、幾つになってもお姫様の大谷康子が1stバイオリンを担当したが、抜きん出ていたなあ。そういう意味ではバランスも良くなかった。
しかし、彼女だけが赤と黒と緑色に金ラメというデザインの派手なドレスはやはりクリスマス協奏曲に合わせたのだろう。彼女の存在感からして納得の観客サービスかな。

「第九」も若干残念なところがあった。
やはり冒頭部分でリズムが揃わないままスタートした気がした。
冒頭はホルンは2部音符がタイでつながっているのでリズムはない。リズムを刻むのは第2バイオリンとチェロだが、これが1小節に6連符2つが10小節以上続く。ここの出だしが揃っていないように思った。2小節目の最後に32部音符で第1バイオリンが5度、4度の下降型のメロディとも言えないような不思議な音型を奏でるが、ここで、黒っぽいドレスに着替えたコンマス(正確にはコンサートミストレスだが、東響ではコンサートマスターと表記している。)大谷康子が敢然と音楽をリードし始めた。このままでは危ないと思ったのではないか。

以後、リズムが崩れることはなかったけど彼女の音が大きい。突出しているので、第1バイオリンだけで十数名いただろうけど、彼女の音が明らかに聴こえてくるのだ。
終盤に行くに連れ周りと溶け込んできたが、こんなことはかつて記憶に無い。まあ、僕は弦の音を非常に気にしながら聴いていたので、一層強く聴きとってしまったのかもしれない。

コレッリでも同じことがあったのは、指揮者大友直人のQの出し方が分かり難いからではなかったか。この人は指揮棒を持っていなかったが、それにしては手の振りが小さいのでオケが呼吸を合わせるのが難しかったのではないかと思うが、とんでもない勘違いかもしれない。

小さな失敗は更に続く。
第3楽章のホルン独奏が、わずかに、音が詰まってしまった。
楽譜だと音階練習みたいなところだけど、やはり、ホルンには難所みたいだ。

更に続く。
これは僕の耳の聞き違えかもしれないが、終楽章の合唱が一旦休止して管弦楽だけになったところで、男声1人が飛び出したような気がしたが、どうだったろう?瞬間のことで小さな声なので気づかなかった人もいたかもしれないが、僕にはフロイデ~と聴こえたなあ。

まあ、聞き違えの数々をしたのかもしれないが、何か、ピシっと全体が緊張していなかった。
リハーサル不足は否めないぞ。
まあ、それでも大谷康子のコンマスとしての力量や仕事ぶりがよく分かったコンサートではあった。
他の人もしっかり練習してね。

今日の演奏で、僕の中では東響はランク一つ下げた。

最後は、恒例の7色LEDペンライトを手に持った合唱団が管弦楽の伴奏で蛍の光を歌い、舞台照明が段々と暗くなり、最後は真っ暗な中にハミングの蛍の光とペンライトが輝いて、クリスマスぽい演出で終演した。


♪2015-133/♪ミューザ川崎シンフォニーホール-26

2015年12月24日木曜日

東海大学吹奏楽研究会第54回定期演奏会

2015-12-24 @みなとみらいホール


常任指揮者:福本信太郎
音楽アドバイザー:加養浩幸
学生指揮者:善入魁斗
ドラムメジャー:山岸将大

《Ⅰ部》
朴守賢:遥か天鵞絨
デヴィッド・R・ホルジンガー:Abram's Pursuit
福島弘和:シンフォニエッタ第2番「祈りの鐘」
J.マッキー:フローズン・カテドラル

《Ⅱ部》
マーチングステージ

《Ⅲ部》
ヤン・ヴァンデルロースト:プロヴァンス組曲
ラヴェル:バレエ音楽 「ダフニスとクロエ」から第2組曲第1楽章夜明け、第3楽章全員の踊り
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アンコール
福田洋介(編曲):ジングル・ベル in swing
J.ヴィンソン(編曲):CHEERIO MARCH


東海大吹奏研の演奏は、今回で3回めなので、初めて(第52回定期演奏会を)聴いた時の驚きはもうないが、相変わらずの高水準の演奏技術だ。

昨年の段階で、全国吹奏楽コンクールに4年連続出場を果たし、金賞3年連続受賞ということであったが、今年も全国大会に5年連続で出場したが、成績は銅賞だったそうだ。
もっとも、これほどのハイレベルの団体となると、金賞も銅賞も時の運のようなもので格別実力が落ちたということではなかろう。

吹奏楽、と言ってもブラス・バンドではない。
ウィンド・バンド、あるいはウィンド・アンサンブルというべきかな。
金管、木管、打楽器(ティンパニー、銅羅なども含む)は当然として、これにハープ、コントラバス、シロフォン(木琴)、グロッケンシュピール(鉄琴)、鐘なども加わっているので、管弦楽団との違いは弦の3部がクラリネットやフルートの一部に置き換わったようなものだ。

東海大吹奏研の編成は大規模で、音量的には大規模管弦楽団と同等以上だ。Ⅰ部の各曲の編成(曲毎に変わる)も大きかったが、Ⅲ部の最終曲「ダフニスとクロエ」の音楽ではステージに100人以上並んだのではないか。
テューバが10本、トロンボーンが18本、木管は大勢で数えられなかったが、とにかく金ピカ、銀ピカの管楽器群の威勢の良いこと。


知っている曲は「ダフニスとクロエ」だけで、残りは吹奏楽の世界では有名なものが集められているのだろうけど、知らない曲ばかり。そのせいで、Ⅰ部の各曲など、どれを聴いても同じようで、たいてい調子の良いリズムに最後はブラスの咆哮で終わる。
こういう点は吹奏楽の泣き所かもしれない。いくら頑張っても表現の幅が弦にはかなわないからだ。

その点、Ⅱ部のドリル演奏は、吹奏楽の、というよりここはブラス・バンドの良さが発揮されて楽しかった。
楽器を演奏しながら舞台上でいろんな隊形を表現し、パート毎に聴かせどころ、見せ所も作って楽しませてくれる。
また、全員(30名程度だったろうか)が、シャキッと隊列を維持する姿も気持ちがいい。

学校の吹奏楽部って、文化部の一つだけど体育会系のDNAもしっかり受け継いでいるバンカラさが好きだよ。


♪2015-132/♪みなとみらいホール-38

2015年12月23日水曜日

NHK交響楽団 ベートーヴェン「第九」演奏会

2015-12-23 @NHKホール


パーヴォ・ヤルヴィ:指揮
森麻季:ソプラノ
加納悦子:メゾソプラノ
福井敬:テノール
妻屋秀和:バリトン

ベートーベン:交響曲第9番ニ短調 作品125 「合唱付き」

2日連続して「第九」を聴いた。
1日目は横浜交響楽団で600名の大合唱団が付いた。アマチュアながらかつてないほどの上出来だった。
翌日、神奈川フィルを聴いた。こちらはプロだから当然といえば当然だが、こちらも普段の定期ではなかなか聴けない名演だった。そして、やはりアマチュアとプロではこうも違うか、と感心したものである。

「第九」は真夏にも東京シティ・フィルで聴いているので、年初からはN響が4回目になる。
日フィル、読響も本来なら定期は「第九」だったが、今年は他のコンサートとダブったこともあり、他をやりくりしてまで両者を聴けば今年は7回も「第九」を聴くことになるので、日フィル、読響いずれも他日の別公演に差し替えてもらった。
あと1回東響の「第九」が残っているが、まあ、経験上N響の「第九」が一番だろうと期待して出かけた。

神奈川フィルの時と同様、最初から合唱団もソリストも壇上に揃った。これは音楽の流れを阻害しない良いスタイルだ。


いよいよ始まると、冒頭の第2バイオリンとチェロの6連符の響がもう違った。
弦に透明感がある。
音楽は「終わりよければすべてよし」なんていい加減な世界ではない。
しかし、「はじめよければすべてよし」といういい加減さはある。
最初に聴き手の気持ちがギュッと掴まれてしまえばあとは気持ちよく音楽に乗って行けるのだから。

N響でベートーベンを振るのは初めてというパーヴォ・ヤルヴィは、N響とは初めてであっても、すでにドイツ・カンマ-フィルとのベートーベン交響曲全曲録音もしており、当然のこととして「第九」も自家薬籠中のものの一つだろう。
とはいえ、今回の「第九」演奏会に当っては、多分、脳内で綿密に音楽構成を確認し、実際にオケとも相当リハーサルをしたのではないか。

元々腕の良いN響の団員がヤルヴィのタクトで(時に眠れる)実力が目一杯引き出されたのだろう。
演奏技術の巧みさだけではなく、ヤルヴィの音楽造形にも驚嘆した。


テンポがいい。かなり早めだ。
そして、音楽の輪郭がはっきりして引き締まっている。
疾走感と緊張感で緩んだところがまるでない。
だからといって第3楽章がおろそかになってはいない。しっかり歌って天上の調べだ。

第4楽章の低弦のレシタティーヴォの息遣いもツボに嵌ってゾクゾクさせる。
最後、大合唱の興奮が頂点に達したと同時に、管弦楽だけで突入するプレスティッシモの21小節。時間にして十数秒だが、このクライマックスが見事なこと。
終わらないで欲しい!と思いながらも遂に終曲を迎えて、オーケストラも観客ももう完全燃焼した体だった。

こんなに見事な演奏をするN響は初めてだ。
「第九」はおそらくレパートリーの中で最高に演奏会数の多い作品だろう。手慣れた曲ということもあったろうが、パーヴォ・ヤルヴィの気迫も手伝って、かつて聴いたことがない素晴らしい演奏を聴かせてくれた。やはり、日本のオケでは最高水準だ。


♪2015-131/♪NHKホール-14

2015年12月21日月曜日

みなとみらいクラシック・クルーズ Vol.73 神奈川フィル名手による室内楽⑥

2015-12-21 @みなとみらいホール


山田恵美子:首席フルート奏者
古山真里江:首席オーボエ奏者
石井淳:首席ファゴット奏者
米長幸一:首席コントラバス奏者
吉見伊代:チェンバロ

J.S.バッハ:フルート・ソナタBWV1035
J.S.バッハ:ターフェル・ムジーク第2集から
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アンコール
J.S.バッハ:クリスマス・オラトリオ~シンフォニーから抜粋


先月末から、コンサートはマーラー、ブルックナーの交響曲、シューベルトも第8番「ザ・グレート」、メサイア全曲に「第九」が2日続けてと大規模曲ばかり続いていささかお疲れ気味だったが、今日は木管五重奏で、しかも鍵盤通奏低音がピアノではなくチャンバロという編成で、実に耳に優しい。
そしてJ.S.バッハとテレマンだ。

知らない曲ではないし、CDも持っているけど(ターヘル・ムジークは第3集が欠けているが…。)、日常的にはほとんど聴くこともなかったので、久しぶりのフルートソナタもターヘル・ムジークもとても良かった。

バロックの木管五重奏て肩こりをほぐしてくれるような安堵感があるなあ。

チェンバロを除く全員が神奈川フィルの首席なので、いわば顔なじみ。こうして室内楽という形で聴くと一人ひとりがソリスト級の腕前なんだね。首席だから当然だろうし、そうでなくちゃ困るけど。


♪2015-130/♪みなとみらいホール-37

2015年12月20日日曜日

神奈川フィルハーモニー管弦楽団定期演奏会 県民ホールシリーズ 第6回

2015-12-20 @県民ホール


川瀬賢太郎(常任指揮者)
馬原裕子:ソプラノ
山下牧子:メゾ・ソプラノ
大槻孝志:テノール
小森輝彦:バリトン
神奈川フィル合唱団

神奈川フィルハーモニー管弦楽団

ベートーベン:交響曲第9番ニ短調 作品125 「合唱付き」

昨日の横浜交響楽団に続いて同じ県民ホールで「第九」。
今日はプロの神奈川フィルだ。
横響がなかなかの高水準の演奏だったので、アマチュアとプロの違いがどう出るのか、興味津々だった。

で、しょっぱなの弦の6連符の細かい刻みの音で、やはり違うなあと一瞬でその差を感じた。
アタックが揃っている。ピッチも高水準で揃っている。
音楽にメリハリがある。
あゝ、やはりだいぶ違う。
でも昨日の横響はアマチュアとしてはとても良いできだったなあ…などと思いながら、プロの腕の違いを得心してこれは満足。


第3楽章にはホルンの聴かせどころが(僕の耳には)3ヵ所ある。
そのうち最初の部分(96小節目)は音階練習のようなフレーズだけど、ほかの楽器が完全に沈黙するのでとても目立つのだ。ここが決まればホルン奏者だけでなく聴衆も気持ちがいい。

でも、ここは難しいのだろうか。
昨年の神奈川フィルのホルンの出来は悪かった。
昨日の横響はこの難所をきれいに決めてくれたが、今年の神奈川フィルはプロとして汚名返上・名誉挽回してくれなくちゃいけない。固唾を呑んで聴いた。
うまく行った。
音色やフレーズの作り方は昨日の横響の方がきれいだと思ったが、神奈川フィルも今年はまずまずの出来だった。残る2ヵ所も問題なし。

ホルンさえうまく行けば、今日の神奈川フィルの熱の入り方からして後は問題ないはず。

今年も合唱団は冒頭から着座した。
声楽ソリストは昨年は第2楽章と第3楽章の間に登壇した。
これでも良かったと思うが、今年はソリストも冒頭から舞台に上がった。
このため、音楽の流れが良かった。引き締まった感がある。
特に、第3楽章が終わっても川瀬賢太郎のタクトは胸の前で数秒止まっただけで、降ろすことなく、怒涛の終楽章になだれ込んだ。
こうでなくてはいけない。

ホルンを始め演奏技術の面でも間違いのない仕事、確かな腕を見せてくれたが、指揮者のエネルギッシュな指揮ぶりのせいで、全体に音楽の輪郭が明確で、テンポよく引き締まった「第九」になった。
終楽章の低弦のレシタティーヴォこそ指揮者の呼吸がそのまま音楽に反映されるが、ここも気持ちの良い流れだった(指揮者によっては時に、浪花節のようなレシタティーヴォを聴かされることもあるが、スッキリくっきりやってほしいものだ。)。

合唱団もわずか100名程度の規模だったが、なかなか迫力ある。
声楽ソリストも健闘したが、好みで言えば、昨日の横響の舞台に立った4人組に華があった。特にバスは昨日の方が声量もあり、節回しも良かった。


♪2015-129/♪県民ホール-05

2015年12月19日土曜日

横浜交響楽団第667回定期演奏会

2015-12-19 @県民ホール


飛永悠佑輝:指揮

独唱: 
ソプラノ⇒村元彩夏
アルト⇒秋本悠希
テナー⇒土崎譲
バリトン⇒小林大祐
合唱:
横響合唱団
横響と「第九」を歌う会合唱団

横浜交響楽団

ヴェルディ:歌劇「ナブッコ」序曲
ベートーベン:交響曲第9番ニ短調 作品125 「合唱付き」


横響恒例の「第九」だ。
この日は、単なる定期演奏会とは様子が違って、演奏する側も聴衆の側もテンションが高まっている。

横響自体、歴史のあるオーケストラで、1932年の創立(第1回演奏会は翌年)だが、「第九」演奏会は1950年が最初だそうな。
今日は第667回の定期演奏会だが「第九」演奏会としては66回目になる訳だ。こんな長い歴史を持ったアマチュアオケが他にあるだろうか。

アマオケが年8回も定期演奏会を開いているのもすごいことだが、おり、通常、会場は県立音楽堂だが「第九」だけはキャパ2,500人の県民センターに移す。
この大きなホールが、ざっと見回して満席になる。
県民ホールで開かれるプロ・アマの「第九」演奏会の中で最大集客演奏会らしい。

合唱団もアマチュアで総数600人と聞いた。
ふだんクラシックコンサートに縁の遠い人でも、これだけの合唱団が参加するとなると、その家族や友達が数人ずつ客席に付けばそれだけで満席になるのかもしれない。

そのせいもあって、会場は一種のお祭りのような雰囲気がある。
このテンションの高さがいい。

客席の熱い期待に応えて、横響と声楽ソリスト、合唱団も大いに気合が入っていた。

横響について言えば、前回の定期演奏会で急に腕を上げたという印象を受けたが、今回も見事だった。
ミスの目立ちやすい管楽器もほとんど問題なし。
プロでも時々は変な音を出すホルンは特に第3楽章に聴かせどころがあるが、これがもう完璧。下手なプロよりうまい。

弦もピッチが合うようになってきたみたいだ。今日はほとんど干渉波を感じなかった。
難点は、音の出だしが揃わない。メンバーの中には気持ちが遅れている人がいる。これは僕もアマオケ経験者としてよく分かる。自分だけ飛び出したくないし、つい周りの音を聴きながら弾き始めるので、ナノセコンドの単位かもしれないが、ピシっとは決まらない。

バイオリンパートの相対的音量不足も感じた。

第4楽章の低弦のレシタティーヴォは、ここも呼吸合わせが難しいところだけど、まずは破綻なかった。もう少し力強く、息を合わせて、ガリッと脂を飛ばしてほしいところだが。

まあ、全体としては非常に良い出来。近年にない優れた演奏だったように思う。


終曲後は、これも横響恒例のオケとソリストと大合唱団が「蛍の光」を演奏してくれるのだが、それを聴きながら観客は大いなる満足感で胸をホクホクして帰路につくのだ。

この冬(夏にも聴いたが)、「第九」はあと4回聴くことになっている。
今日はその第1回目。
とても良い出だしだった。
明日も同じ県民ホールで神奈川フィルの「第九」だ。
プロの技を聴かせてほしいものだ。


♪2015-128/♪県民ホール-04

2015年12月17日木曜日

劇団民藝:根岸庵律女

2015-12-17 @三越劇場


作⇒小幡欣治
演出⇒丹野郁弓
劇団民藝

正岡律(子規の妹・のちに裁縫教師)⇒中地美佐子
正岡八重(律の母)⇒奈良岡朋子
正岡子規(律の兄・俳人)⇒齊藤尊史
衣川登代(子規の弟子)⇒桜井明美
中堀貞五郎(律の前夫)⇒横島亘
お源(魚屋の内儀)⇒大越弥生
里枝(裁縫塾の生徒)⇒大黒谷まい
ほか

「根岸庵律女」


正岡子規が母・八重と妹・律を伴って上京し、根岸に居を構えて4年(だったかな?)。俳人としての名前も広まり、多くの門人を抱えて根岸派ともてはやされ始めた頃、子規は病を得る。
物語はその時期から始まる。

律は、兄・子規からは強情だの向こう気甚だ強しだのと悪しざまに言われ、母・八重からは裁縫の腕も頼りなく言われていたが、すでに2度の結婚に失敗しており、前夫からの再婚の申し出も断って、もっぱら、子規の世話に献身した。
子規の死後は、得意ではなかった針仕事も、生活のために、裁縫の学校に通い、若い女性たちに教授するまでになった。
八重ともども子規の功績を守り、伝承することに傾注し、正岡の家計が途絶えるのを嫌って親戚から養子を迎えた。
しかし、この養母・律は養子には俳句を禁ずるなどしたためか、必ずしも折り合いは良くなく、養子は大学進学先を東京ではなく、京都に求めて旅立つ。
残された律の悄然とした姿。
八重は庭のヘチマに群れるホタルを恰も子規の霊のように見ながら「ノボさん、あんたが悪いのよ」とつぶやく。

暗転して、子規の辞世の句など5句を大書した垂れ幕がどんと降りてきて、律の声かな?朗読されて幕が降りる。

…とまあ、こんな筋書きだ。


タイトルからも、物語の主人公が子規でも、八重でもなく、律であることは分かる。
すると、俳句の神様と呼ばれた兄の世話をしてその才能を活かそうと努力し、兄の死後はその功績を正しく守るということに人生を捧げた女性の生き様を描くことがこの芝居の眼目だということも分かる。

しかし、それが成功していたかどうか、心もとない。
僕の観方も浅いと思うが、登場人物が結構な数なので、肝心の律の葛藤が浮かび上がらない。
律と子規との掛け合いも、どこにでもいそうな兄妹ぐらいにしか見えない。
天才だが精神も肉体も病んでいる兄とそれを支える妹の関係は病人と看護婦のようなものではなくて、もっと激しく強い愛憎が横たわっているのではないかと思うのだけど、どうもその点の表現が通俗的だ。


養母と養子の葛藤も省略されているので、養子が仙台の高等学校を卒業したら一緒に東京で暮らせると思っていた律や八重の落胆が十分に伝わらず、その結果、これは家庭崩壊の話としても説得力不足だ。

加えて、八重の存在が大きすぎるのではないか。
冒頭、緞帳が上がると舞台中央には縫い物を手にした八重が座っている。しかも、それが奈良岡朋子であれば、観客の関心はギュッと彼女に集中してしまう。
子規のように前半で没してしまう役ではなく、全篇通じて登場するのだから、いくら軽く演じてもその存在感は重い。

初演は1998年(17年前)で、八重は北林谷栄、律は奈良岡朋子…のあて書きだったそうだ。すると、すでに枯れていた北林に貫禄充分な奈良岡ならば、八重と律のバランスはちょうど良かったのかもしれないが。

演技のこともよく分からないが、少なくとも主要登場人物4人(律⇒中地美佐子、八重⇒奈良岡朋子、登代⇒桜井明美、子規⇒齊藤尊史)はとても好演していると思う。特に齊藤尊史は熱演。
そして御大奈良岡朋子はとても控えめに、軽ろやかに演じていると思った。芝居の演技だけど芝居がかっていない。
にも関わらず、律のシンパシーを感じられなかったのは、僕の観方の問題もあるだろうけど、演出の問題でもなく、原作があて書きだったというところにも一因しているような気がしてならない。


余談:
彼の詠んだ俳句で知っていたのは2つだけ。
「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」
「鷄頭の十四五本もありぬべし」

そこで今頃気がついた。
舞台の子規の病床の庭に鉢植えにされていた花は鶏頭だったのだ。
また庭には糸瓜の棚が作ってあったが、糸瓜から出る水は痰を和らげる漢方薬になるからだ。
もっとも、このことは事前に知らなかったし、芝居の中でも説明がなかったように思う(聞き逃したかも?)。

それで、ピンとこなかったのだが、絶筆となった辞世の3句。

「痰一斗絲瓜の水も間にあはず」
 * …痰が多すぎてヘチマ水がいくらあっても間に合わない。
「絲瓜咲て痰のつまりし佛かな」
 * …ヘチマが咲いたが痰が喉仏に絡んで死にそ!
「をととひのへちまの水も取らざりき」
 * …一昨日のヘチマ水が薬効があったと聞くが取りそこねたよ。

まさに鳴いて血を吐く「ホトトギス」(の漢字表記⇒子規。)の最後が壮烈だ。

* 句の意味は、俄勉強した結果だいたいこんなところだろうという無責任訳。


♪2015-127/♪三越劇場-01

2015年12月15日火曜日

東京都交響楽団第799回 定期演奏会Bシリーズ

2015-12-15 @サントリーホール


マルク・ミンコフスキ:指揮
東京都交響楽団

ルーセル:バレエ音楽《バッカスとアリアーヌ》 op.43 - 第1組曲&第2組曲
ブルックナー:交響曲第0番 ニ短調 WAB100


アルベール・ルーセル(1869~1937)。
フランスの現代作曲家、という程度の知識しかなかった。
ドビュッシー、ラヴェルなどとほぼ同時代を生きている。
バレエ音楽《バッカスとアリアーヌ》はもちろん初めての曲だ。

2幕もののバレエ用音楽を2つの組曲に作り変えたらしいが、音楽には一切手を入れず単に組曲という形で演奏会用に称しているだけではないのかと思うが、詳しいことは分からない。

初めて聴く音楽にはいつも不安が伴う。楽しめるだろうか?
どっこい、これは存外気楽な音楽だった。
全篇、深刻さはまるでなく、陽気でリズミカルでまるで映画音楽を聴いているような感じだった。

ルーセルというほとんど未知の作曲家の音楽を是非聴きたいと思っていた訳ではないし、今回の作品を聴いて、今後も機会があれば是非聴きたいと思った訳でもないけど、定期演奏会というのはすべてお仕着せなのが面白いとも言える。でなきゃ、よく耳に馴染んだものばかり聴いて鑑賞の幅が広がらないもの。


ブルックナーの0番という不思議な番号。
作曲順だと第2番に当たるのだそうだ。
なぜ0番なのか。
ブルックナーはこの作品に全く自信が持てなかったが、さりとて破棄するには愛着がある。それで、晩年に自作を整理した際、この作品を第0番として残し、遺言で博物館に寄贈することとしたらしい。この場合の0(zero)は1の前の0ではなく、null(無効・無価値・空)の意味だそうだ。そんなに自信がないなら破棄すれば良かったのにと思うが、しかし、捨てられない気持ちも分からくはない。

そもそもブルックナーのどの交響曲も長すぎる。CDで聴くのは結構苦行だ。この0番も例外ではないし、作曲家自身が自信が持てなかったという話を知ってから聴くと余計に、野暮な作りの部分が耳に付き鼻に付く。
とはいえ、派手で情緒を刺激する音楽は大規模な管弦楽と相まって、ナマで聴くと有無を言わさないところがあって、まあ、これもよしか、と納得してしまう。

今日も都響のアンサンブルは重厚だった。
あと一息、ピアニシモの弦が1本の糸のように聴こえると素晴らしいのだけど。



♪2015-126/♪サントリーホール-08