2015年7月30日木曜日

フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2015 読売日本交響楽団 世界音楽紀行①ドイツからイタリアへ

2015-07-30 @ミューザ川崎シンフォニーホール


ジェレミー・ローレル:指揮
ヴェロニカ・エーベルレ:バイオリン*
読売日本交響楽団

<オール・メンデルスゾーン・プログラム>
付随音楽「真夏の夜の夢」序曲
バイオリン協奏曲 ホ短調*
交響曲第4番「イタリア」
-------------
アンコール*
J.S.バッハ:無伴奏バイオリンソナタ第1番アダージョ

「バイオリン協奏曲」、「交響曲イタリア」は若い自分から好きだった(特に「イタリア」の第2楽章は泣ける!)。
しかし、これらを含め、メンデルスゾーンって明朗にして程よく情緒的だけど<軽い>感じがして他の作品を積極的に聴こうともしなかったが、今にして思えば残念だし、我ながら不遜な態度だったなあ。

ピアノ曲集「無言歌」の中の幾つかに感応したのがきっかけだったかもしれない。
メンデルスゾーンて面白いかも、と思い直し、あれやこれやCDを集めだし、聴き始めるうちに、安価な40枚組のマスター・ワークスを発見・購入して、若気の過ちへの深い反省と謝罪!とともに傾聴することになった。

と言っても早熟の天才の作品は、シューマンやブラームスに比べてずっと多岐にわたり大量に及んでいて、まだ、到底全部を聴き終えていない。そこそこ名の売れた作品はほとんどiTunesに取り込み済みだし、コンサートで取り上げられる中に未聴のものがあればそれを機に取り込んで当面せっせと聴くのだけど、やはり、メンデルスゾーンの場合もコンサートで取り上げられる曲は大いに偏向している。


とはいえ、今日の3本。
「真夏の夜の夢」は序曲だけだが、「バイオリン協奏曲」も「交響曲イタリア」も大好きな作品だから、とりあえずは大いに楽しみだった。

毎年夏にミューザで開催される「フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2015」は、既に7月25日に開幕しているが、今年はミューザに集合する在京プロオケ10団体のうち今日の読響を含めて5つのコンサートを選んだ(N響はミューザでのコンサートの翌日にNHKホールで同一プログラム+αのコンサートがあるので今年はそちらを選んだ。)。

僕にとっては、今日が「フェスタサマーミューザ~」の第1日目だ。

2階センター寄り右翼の最前列というこの上もないベストポジション。

さて、先日のN響がトラウマになっていて、オケの響が以前より気になって仕方がない。近頃のコンサートでは音楽を聴くというより、音を聴いているようなところがあって、第1声を耳を澄ませて待つ。

「真夏の夜の夢」序曲は弱音のフルートで始まる。
そのフルートが実に難しそうだった。奏者も決して満足していないだろう。音響の問題では無いけど、残念な出だしだった。

しかし、弦も管も一斉になりだすと、豊かなサウンドが広がった。
これでようやく音楽鑑賞態勢が整った。

「バイオリン協奏曲」はソロバイオリンのダイナミックレンジが広いのだけど、それは弱音に向かって広いので、びっくりするような大きな音が出ていた訳ではない。むしろ、びっくりするような最弱音に耳を集中しなければならない。でも、後半のカデンツァは表情豊かな演奏だった。メンデルスゾーンもこういう演奏を思い描いていたのかもしれない。
この繊細さは1770年作ストラディヴァリウス「ドラゴネッティ」の音なのかもしれない。
http://www.nmf.or.jp/instruments/


「イタリア」はどの楽章をとってもワクワクさせるが、まずは第1楽章の冒頭でバイオリンのメロディーを木管とホルンが16部音符の疾走するリズムで支えるところ。タンギングが難しいだろうけど、ぴたっと合って和音を刻む、この響が実に心地よい。

第1、第4楽章の激情に挟まれた第2楽章の哀愁は少し歌謡曲ぽいのだけど沁みてくる。
メンデルスゾーン23歳の若作りだが、初演は大成功であったにもかかわらずその後は訂正を繰り返し、出版されたのは彼の死後(享年38歳)だそうだ。

オーケストラの音響については思うところがあったが、この8月にミューザで4回、NHKホールで1回、サントリーホールで1回聴くことになっているので、ホールの違いや座席の違いでどう異なるのか、さらに耳を澄ませて聴き分けてみようと思っている。


♪2015-72/♪ミューザ川崎シンフォニーホール-12

2015年7月27日月曜日

平成27年7月第88回歌舞伎鑑賞教室「義経千本桜」 (平成27年度神奈川県歌舞伎鑑賞教室)

2015-07-27 @県立青少年センター



渡海屋銀平・新中納言知盛⇒ 尾上菊之助
銀平女房お柳・典侍の局⇒ 中村梅枝
九郎判官義経⇒ 中村萬太郎
入江丹蔵⇒ 尾上右近
亀井六郎(尾上菊市郎)⇒ 尾上菊史郎
片岡八郎(尾上菊史郎)⇒
伊勢三郎(市川荒五郎)⇒ 尾上音之助
駿河次郎(尾上音之助)⇒ 市川荒五郎
相模五郎⇒ 坂東亀三郎
武蔵坊弁慶(市川團蔵)⇒ 尾上菊市郎

( )は当初予定された配役。團蔵丈故障のため配役変更

解説 歌舞伎のみかた     
 中村萬太郎                                                    
竹田出雲・三好松洛・並木千柳=作
中村吉右衛門=監修
国立劇場美術係=美術

義経千本桜 (よしつねせんぼんざくら)一幕二場 
  渡海屋の場
  大物浦の場



菊之助が鑑賞教室に出演するのが初めてかどうか知らないけどとにかく人気がある。その菊之助が知盛役を初めて演ずるということも今回の鑑賞教室の人気を煽ったようで前人気が高い。おそらく普段は「鑑賞教室」なんて見向きもしなかったコアな歌舞伎ファンも引き寄せたのだろう。
競争率が高い上に予約開始日を間違えて出遅れ、国立劇場でのチケットは入手できなかった。

しかし、7月の鑑賞教室は毎年2日間の神奈川公演があることを今回初めて知って、すぐNET予約にアクセスしてそこそこ良い席を確保できた。

それにしても灯台下暗し。
地元でも歌舞伎鑑賞教室をやっているなんて知らなかったよ(40年ほど前からと聞いてなおびっくり!)。
青少年センターなんて40年前だってもう用はなかったものなあ。

僕が出かけたのは27日の午後の部。つまりこれにて打ち上げという最後の舞台だ。
国立劇場で3日から24日まで、休みなしの1日2公演で44公演。中1日を休んで青少年センターで4公演。計48公演の48番目の芝居を観た訳だ。いまさらでもないけど、演ずる方は大変な重労働だなあ。

しかし、慣れない舞台で演技の間隔も感覚も異なるだろうに、疲れを見せずに熱演してくれたのはまことにありがたい。


さて、知盛を演じた菊之助のセリフ、衣装、立ち居振る舞いが見ものだ。
前半は仮の姿、渡海屋銀平として。後半は幽霊に化けた白装束の~やがて血染めに変わるその変化がまことに歌舞伎らしく、とりわけ、碇を持ち上げ(作り物でもあれほど大きいと重いだろう。)、客席を向いたまま、反っくり返るように海中に没する場面こそクライマックスだが、まことに見事な絵になる。

これまで観てきた菊之助とは別人のような印象を持ったが、良かったのか悪かったのか。
知盛の妻を梅枝が演じてこれもずいぶん評判が高かったが、まあ、そうなのかもしれない。実は、あまり興味を持ってみていなかったので…。

義経は、衣装のせいもあって桃太郎に見えてしようがなかった。
弁慶については後述するように團蔵欠場で拍子抜けの感あり。

ま、歌舞伎の華々しさが見どころの舞台だっただけに、やはり国立劇場の大舞台で観たかった。

弁慶役の團蔵さんが怪我で欠場、これに伴う役者変更は国立劇場での公演が始まる前にアナウンスされていたように思う。
解説本などは刷り上がっているから訂正できず、青少年センターでも会場にその事情が掲示されていた。
手元の解説本に誰がどの役に変わったかというのを書き込んだが、どうも腑に落ちないのは義経の四天王の一人、片岡八郎の役を演ずる役者が埋まらない。

翌日、国立劇場に問い合わせたら、今回は片岡八郎の役をなくして、それに伴い関係する役者のセリフも書き直したのだそうだ。
こんなことってあるのか、とびっくり!
ある意味、貴重な鑑賞経験をさせてもらった。

義経千本桜第二段、三段、四段相関図


♪2015-71/♪県立青少年センター-1

2015年7月26日日曜日

横浜交響楽団第664回定期演奏会

2015-07-26 @県立音楽堂


飛永悠佑輝:指揮
足立歌音:ソプラノ*
2014年第87回全日本学生音楽コンクール 声楽高校生の部全国1位、横浜市民賞受賞者
横浜交響楽団

1 チャイコフスキー:バレエ組曲「くるみ割り人形」
2 オペラアリアの名曲<プッチーニ特集>*
 「ラ・ボエーム」から”私の名前はミミ”
 「ジャンニ・スキッキ」から”私のお父さん”
 「蝶々夫人」から”ある晴れた日に”
3 J.ウィリアムズ:「スター・ウォーズ」組曲
-----------------------
アンコール
平井康三郎「平城山」(ソプラノ+ピアノ)
映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」のテーマ(管弦楽)


「くるみ割り人形」全8曲は、まずまず楽しめた。
バレエ音楽が元でそこから組曲が編曲されたものだと今日までなんとなく思い込んでいたけど、バレエ音楽の作曲途中でこの組曲版が先に完成して初演されたそうだ。

なるほど、そんな訳で、組曲の構成はチャイコフスキーが作曲したとおりに今も維持されているのか。

因みにチャイコフスキーの三大バレエ「くるみ割り人形」、「白鳥の湖」、「眠れる森の美女」の音楽に関して組曲版があるのはこの「くるみ割り人形」だけだ。
他の2作もその音楽がバレエとは独立して演奏されるけど、それはその時々に演奏家によって選択されるバレエ音楽の集合体で、それゆえに確定した構成はないらしい。
たいていは<バレエ音楽>と称されており、稀に<組曲>という表記もあるが、それぞれに選曲は微妙に異なっている。

「スターウォーズ」組曲はもちろんあの映画の音楽から作曲者ジョン・ウィリアムス自身によって編曲構成された<組曲>で、全5曲で構成されている。
詳しいことは知らないけど、最後の第5曲が「王座の間とエンドタイトル」なので<組曲>全体は、最初に公開されたエピソードⅣで使った音楽を素材にしているのだろう。

なかなか勇ましい良い演奏だったけど、この数日前にベルリン・フィルのワルトビューネコンサート2015の放映で「スター・ウォーズ」メインテーマを聴いてしまっているので、つい比べてしまうが、もちろん、横響はナマならではの迫力に満ちた演奏を聴かせてくれた。


で、本日の白眉は藝大1年生の足立歌音さんのソプラノだ。
昨年の全日本音楽コンクール声楽・高校の部で横浜市民賞を受賞(同時に全国1位)したことが、今回の横響との共演につながった。
世界的な演奏家を輩出しているコンクールで1位というのは大変な実力、可能性を秘めているということだろう。素人目(耳)には既に完成されているようにも感じたが、よく通る声がオーケストラの伴奏にも負けず場内を響き渡った。

とりわけ、アンコールではピアノ伴奏で、コンクールの際に歌ったという「平城山」を聴かせてくれたが、これが、元々日本人のDNAを刺激して泣かせるような名曲だが、それを澄んだソプラノで朗々と歌い上げてくれたのには、胸が熱くなってしまった。


このコンクールで1位になった高校生は、いつからか知らないけど、春の選抜高校野球の開会式で君が代を歌うことになっているそうで、帰宅後Youtubeで検索したらちゃんとあった。当然、君が代もうまい。
この古臭い歌は国歌として如何なものかと思っているけど、上手な人にかかればえらく名曲に思えてくる。


♪2015-70/♪県立音楽堂-08

2015年7月25日土曜日

読売日本交響楽団第81回みなとみらいホリデー名曲シリーズ

2015-07-25 @みなとみらいホール



デニス・ラッセル・デイヴィス:指揮
ダニエル・ゲーデ (Vn)
グスタフ・リヴィニウス (Vc) 
東京少年少女合唱隊 (Cho)
読売日本交響楽団

ブラームス:VnとVcのための二重協奏曲
ホルスト:組曲「惑星」



ブラームスのダブルコンチェルトは、1週間ほど前にN響、樫本大進、クラウディオ・ボルケスで聴いたが、彼らの演奏は多分素晴らしいものだったと思うけど、NHKホールの(誤って購入した)最前列という過酷な環境ではまったく音楽が聴こえてこず、大いに不満だった。

そこで、今日こそは完璧なブラームスを聴きたいと楽しみに出かけた。

ソリストの2人については初耳の初聴きだった。
いや、厳密には、バイオリンのダニエル・ゲーデ という人は読響のコンサートマスターなので、何度か聴いているはずだが(読響のコンマスは5人)、ソリストとして聴くのは初めてだと思う。

チェリストはチャイコフスキーコンクールで1位になった人だそうで、まあ、このレベルのうまい下手は分からない。いや、確実にみんなうまい。

室内楽を別にすれば、ブラームスで納得・満足できたのは昨年11月のN響で聴いた交響曲第1番まで遡らなければならない。
本格的なブラームスに渇望していた気がする。

そして今日のダブルコンチェルトは正に干天の慈雨だった。
ブラームスの抑制されたロマンティックな情感の発露を堪能できた。読響の腕もあり、定期ならではの常席で聴く安心感もあった。

聴き馴染んだ曲だけど、改めて第2楽章の冒頭のメロディがソロバイオリンとソロチェロのユニゾンであり、弦楽器もほぼユニゾンで歌っているということに気がついた。このメロディが素朴な良い味わいだ。第1楽章も第3楽章も結構激情が渦巻いている中でしばしの憩いのようだ。


ホルストの「惑星」。
ブラームスを演奏した規模は70名前後だったろうか。これでも十分大編成だが「惑星」ではオルガン入りの4管編成という100名規模の大オーケストラになった。
しかも最終曲「海王星:神秘の神」では合唱まで加わるという華やかさ。オーケストラの醍醐味を味わえる作品だ。
いつ聴いても、どこの演奏でも、十分満足が得られる

しかし、今回の一つ難点を上げれば、コーラスだ。
ホルストは女声合唱によるヴォカリーズを書いたのだが、この日の演奏では、児童合唱だった。それはまあ大した問題ではなかったかもしれない。問題は、合唱団を舞台片袖に配したことだ。

これでは客席に十分声が届かない。その程度の音量でいいという判断だったのだろうけど、これはちょいと残念だった。袖に置くならせめて両袖に配置してほしかった。

以前同じみなとみらいホールで神奈川フィルの「惑星」を聴いたが、この時は舞台袖の上に当たる3階の左右両方のバルコニーに女声合唱を配置していた。
彼女たちのヴォカリーズはまるで天上から降り注ぐように舞台空間を満たして本当に「神秘」だった。


♪2015-69/♪みなとみらいホール-22

2015年7月22日水曜日

みなとみらいクラシック・クルーズ Vol.69 NHK交響楽団メンバーwith佐份利恭子

2015-07-22 @みなとみらいホール


NHK交響楽団メンバー with 佐份利恭子

佐份利恭子(バイオリン)
松田拓之(バイオリン)
坂口弦太郎(ビオラ)
桑田歩(チェロ)

~ロシアへの誘い~
チャイコフスキー:弦楽四重奏曲 第1番 ニ長調 op.11より「アンダンテ・カンタービレ」
ラフマニノフ:弦楽四重奏曲 第1番 ト短調から「ロマンス」
ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏のための2つの小品から "エレジーとポルカ"
チャイコフスキー:バレエ音楽「くるみ割り人形」から “花のワルツ”
-----------------
アンコール
チャイコフスキー:バレエ音楽「くるみ割り人形」から “トレパック”


佐份利恭子さん以外の3人はN響の次席クラスのメンバーなのでN響定期などでは見ているのだろうけど記憶にはなかった。
本日のヒロイン佐份利恭子さんという人についても全く知らなかったが、略歴を読むと相当優秀な人らしい。目下、主に水戸室内管弦楽団で活躍しているそうだ。

みなとみらいクラシック・クルーズは、みなとみらいホールの主催公演で、主に室内楽のコンサートを格安で提供してくれているのがありがたい。
できたら小ホールで聴きたいものが多いのだけど、ホールの都合で今日のように大ホールで聴くことも少なくない。

半年間のクルーズは会員券を買っているので席はシーズンを通じて固定されていて、今季の席も来季の席もベストポジションを得て大満足。
しかし、今日のような弦楽四重奏にはやや遠かったなあ。

というか、場所の問題というより、演奏に迫力がなかったような気がしたよ。

音楽自体がどちらかと言えばおとなしい作りのものが多かったからかもしれないけど。


チャイコフスキーのアンダンテ・カンタービレって、本来は弦楽四重奏曲の一部(第1番の第2楽章)だけど、あまりにメロディが美しいので、この楽章だけ、そのテンポ・表情記号のままで有名になって今日のように単独で演奏されることが多いようだ。といっても全曲がつまらない訳じゃないので、できたら全4楽章を聴いてみたいものだ。
だいたいチャイコフスキーの室内楽といえばピアノ三重奏が圧倒的に有名で弦楽四重奏曲は取り上げられる機会が少ない。
演奏する面白さに欠けるのだろうか。

ショスタコーヴィチは歴史に翻弄された現代ロシア作曲家の代表格だけど、そのせいかどうかしらないが「弦楽四重奏のための2つの小品」は1931年に作曲された後楽譜が行方不明になり、その後ボロディン弦楽四重奏団によって発見、再演されたのはなんと半世紀を経た84年のことだったそうだ。散逸したまま埋もれた作品は未だあるのかもしれない。



♪2015-68/♪みなとみらいホール-21

2015年7月18日土曜日

東京交響楽団 川崎定期演奏会 第51回

2015-07-18 @ミューザ川崎シンフォニーホール


ジョナサン・ノット:指揮
デジュー・ラーンキ:ピアノ*
東京交響楽団

ストラヴィンスキー:管楽器のための交響曲
バルトーク:ピアノ協奏曲 第1番Sz.83*
ベートーベン:交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」


プログラムは変わった取り合わせで、なぜ、この3曲が選ばれたのか、不思議に思ってプログラムの解説を探したら、指揮のジョナサン・ノットが今回は<リズム>がテーマだという。でも全然説得力がないな。
まあ、でもそれはいいか。

ストラヴィンスキーもバルトークも初聴きだった。
前者の「管楽器のための交響曲」は「交響曲」というけど、単一楽章で演奏時間12分程度。文字どおりに管楽器だけ23名で、打楽器も登場しない。弦楽器が入らないのに「交響」は変な感じだ。

「火の鳥」とか「春の祭典」のような音楽かと思っていたが、同じ作曲家とは思えないような地味な作品だ。
管楽器が大好きなストラヴィンスキーとしては管楽器のいろんなテクニックを盛り込んでいるのだろうが、やはり、打楽器が入らないので<リズム>の面ではあまり際立つところがない。

何度も聴きたいような作品ではなかったが、東響の管楽器奏者はいつもながら安定してうまい。

バルトークのピアノ協奏曲の方は、これこそストラヴィンスキー風で非常に賑やかな作品だった。とはいえ、リズミカルな面白さに比べると調性があるのかないのかはっきりしないし、メロディーが歌えないのだから親しみは持てない。

そしていよいよベートーベンの「運命」だ。
ほぼ1年前に鈴木秀美指揮神奈川フィルで聴いた「運命」にかなりの衝撃を受けた。テンポが速めで、聴かせどころだからといって手加減せずに疾走してゆく爽快さ。ひょっとしてこれが本来のベートーベン解釈なのかもしれないと思っていたが、1月にジャナンドレア・ノセダ指揮N響で聴いた「運命」はあまりの快速ぶりに身体中激震が走った。
彼らの演奏の特徴はテンポだけではないのだけど、まずは「運命の動機」のテンポに象徴的に現れている。

それで、今回のジョナサン・ノットがどんな「運命」を聴かせてくれるのか、大いに興味深かった。
しかし、ごくフツーだった。まあ、少しテンポが速いかな、という感じはしたけど、昔から、多くの指揮者で聴いてきたオーソドックスな「運命」だった。もちろん、それに不満はない。
時にアクロバティックな「運命」も楽しいけど、時にフツーの「運命」も聴きたい。


さて、昨日、N響のとんでもサウンド(N響の技量の問題ではなく、最前列という過酷な環境が産んだもの)を聴いたばかりだったので、ミューザの2階バルコニーから聴く東響の響の何ときれいなことか。やはり、死角がないということも良いホールの大切な条件だと思う。

♪2015-67/♪ミューザ川崎シンフォニーホール-11

2015年7月17日金曜日

N響「夏」2015 東京公演

2015-07-17 @NHKホール


マイケル・フランシス:指揮

樫本大進:バイオリン*
クラウディオ・ボルケス:チェロ*
NHK交響楽団

ブラームス:バイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調 作品102*
ブラームス:交響曲 第1番 ハ短調 作品68
-----------------------
アンコール
ブラームス:ハンガリー舞曲第4番(管弦楽版)



実は、NHKホールの最前列で聴いた。
ネットでチケットを買うときに表示されていた座席表では5列目だった。これでも前すぎるけど、ほかにセンター寄りの席で適当なのがなかったので、まあ、5列目くらいならソリストの音もよく聴こえるし受忍限度内かと思ったのだけど、購入後定期演奏会の座席表で確認すると、なんと前の4列が存在しない。

かつては椅子が並べてあったのだろうが、今は舞台がせり出して4列分を侵食しているのだ。それで5列目の席が最前席という訳だ(にもかかわらず4列が表示されていた。)。
そこでN響プレイガイドに問い合わせたら、不正確な座席表を表示したことについて謝罪し、席の変更に応ずるというが、既に状況はもっと厳しくなっていたので最前列で我慢することにした。


迫力はある。ソリストの音も明瞭に聴こえる。弦はガリガリとやにを飛ばすような乾いた原音で迫る。

しかし、バランスの悪さはどうしようもない。
管・打楽器が弦楽器の圧倒的なボリュームにかき消されて、遠くで鳴っているのだ。そのために、管弦楽全体としては2階席や3階席で聴くときよりむしろ迫力に欠けるのが不思議だ。ティンパニーのfffでさえひ弱に聴こえる。



これがN響の音か?
まるで、音楽になっていないではないか。

それに最前列は楽器の配置も見渡せないので、視覚で音楽を聴くという部分がまったくもって損なわれてしまう。

どこのホールでも最前列で聴いた経験はないものの、3~5列目なら聴いたことはあるが、こんなにひどいことはなかった。

おそらく、NHKホールというビッグサイズが問題なのではないか。
舞台寄りのスペースではエアポケットができていて、ここには本来天井や壁、座席に当って跳ね返ってくる残響が全く届かないのではないだろうか。

この現象は最前列だけではないだろう。
NHKホールの場合は、1階は前から何列目までかは知らないけどオーケストラの配置が見通せない場所はたぶん音も悪いと思う。

そんな次第で、大好きなブラームス。
初めて生を聴く樫本大進のバイオリン。
とても楽しみにしていたのに音楽どころではなかった。



♪2015-66/♪NHKホール-06

2015年7月11日土曜日

前橋汀子のバッハ無伴奏バイオリンソナタ&パルティータ全曲演奏会

2015-07-11 @県立音楽堂


前橋汀子:バイオリン

無伴奏バイオリン・ソナタ
第1番 ト短調 BWV1001
第2番 イ短調 BWV1003
第3番 ハ長調 BWV1005

無伴奏バイオリン・パルティータ
第1番 ロ短調 BWV1002
第2番 ニ短調 BWV1004
第3番 ホ長調 BWV1006



1989年度のレコード・アカデミー賞と文化庁芸術作品賞を受けた前橋汀子のJ.S.バッハ無伴奏バイオリンソナタとパルティータ(以下「無伴奏」と略記)全曲盤のCDこそ、僕をバッハ同曲に開眼させてくれたもので、以後四半世紀を経過したが、聴くのはいつも前橋汀子版だ。

これまでに無伴奏全曲をナマで聴いたことが1回だけあったけど、よほど昔で誰の演奏だったか思い出せない。その時は2日間で全曲が演奏された。

今回は、長年CDで聴き馴染んだ前橋汀子本人による1回で全曲演奏だ。しかも音楽堂という中規模(1106席)で、かつ、残響の少ないホールでは生々しく弦が響くはずで、相当楽しみにして出かけた。
このコンサートは早々とチケット完売で、当然満席だった。どちらを見渡しても人で埋まっていることが一層テンションを上げる。



第1番ソナタの次は第1番パルティータという昇順で始まったが、長大なシャコンヌを含むパルティータ2番はさすがにクライマックスを飾るものとして最後に置かれた。

すべてが聴き慣れた演奏で自然に音楽に浸れたが、やはり御年70歳を超えたせいか、やや大人しいと思える部分もあったが、これは円熟の技というべきか。

相変わらず巧いし、音楽堂のピュアな響もバイオリン1丁による演奏にはとてもマッチしている感じだ。至福の時、と言っても大体正しい。

大体、というのは、ただし、疲れたから。

全6曲中4曲が終わった時点で休憩をはさみ、終演まで3時間くらいだったろうか(CDの演奏時間は2時間24分)。
この長時間、演奏家にとって立ちっぱなしで集中力を維持するのは容易なことではないだろう。
一方、椅子に座って聴いているだけの聴衆にとってもけっこう精神的に負担がかかる…のは僕だけか。

バッハの無伴奏全曲演奏会はとても魅力的な企画だけど、やはり2日に分けた方が音楽鑑賞の態度としては正解だと思うが、営業的に成り立たないのかもしれない。




♪2015-65/♪県立音楽堂-07

2015年7月10日金曜日

神奈川フィルハーモニー管弦楽団定期演奏会みなとみらいシリーズ第311回 アメリカが生んだ音楽遺産-「新世界」とアイヴズ

2015-07-10 @みなとみらいホール


川瀬賢太郎:指揮
神奈川フィルハーモニー管弦楽団

ドボルザーク:交響曲第9番ホ短調作品95「新世界から」
アイヴズ:交響曲第2番



「新世界から」(以下「新世界」と略記)は今年3回目。
ほぼ1年前には川瀬賢太郎指揮読響でも聴いている。それ以降では5回目だ。

「新世界」は耳タコほどに馴染んでいるし、何度聴いてもメランコリックでドラマチックで大いに楽しめるけど、9曲も作曲しているドボルザークのその他の交響曲が演奏会で取り上げられる機会があまりに少ないのが残念だ。

去年から鑑賞記録をきちんと付けているので検索してみると、これまでに3番、7番、8番が各1回であるのに対して9番は上述のように5回だ。

まあ、ベートーベンの交響曲でさえ、2番や4番などナマで聴いたことがないのだからやむをえないかもしれないが、アイヴズの作品を取り上げるくらいならドボルザークの他の交響曲、それも普段は聴けないような作品とカップリングしてほしいものだ…と、これはアイヴズを聴いてから思ったのだけど。

さて、この日は、そのアイヴズの交響曲がトリだった。

作曲家アイヴズの存在は知っていたけど、これまで意識して聴いたこともなかったので、一体、どんな作品なのかという興味はあった。
「新世界」を前座に回すほどの大曲なのだろうか。

アイヴズという人は実業家として成功した人で作曲はアマチュアとして楽しんでいただけだそうだ。だからといって才能がないということではないはず。

「最初後期ロマン派の影響を受けていたが、後、前衛的になり、シェーンベルクやストラヴィンスキーやバルトークやハーバ、ミヨーに先んじて、無調、ポリリズム、多調、微分音を実験的に導入している。したがって、米国初の前衛音楽の作曲家と呼んで差し支えない」(Wikipedia)そうだ。

でも、この交響曲第2番に関して言えば、調性は維持されて聴き取りやすい。えらく軽いノリで、ベートーベン、ブラームスなどの古典の名曲やフォスターの歌曲などがほとんどそれと分かる形でコピペされている。音楽のコラージュと解説には書いてある。もちろん、それは一つの表現手法だし面白い。
でも、ちょっとモダンに編曲されたヒットメドレーを聴いているようで、深みや重みを感じない。
最後に不協和音の一撃で終わるのも、この曲ではそれまで古典的な手法を守ってきた自分が照れくさくなってここでやっぱりアイヴズ印を刻印しておこうとしたような感じがしたが、考え過ぎかな。

そんな訳で、「新世界」で十分燃焼しカタルシスを得ていたのに、アイヴズではそれを上回る音楽的感興がなかったので、拍子抜けがした。

アイヴズが前座であれば、それなりにこの軽さを楽しんだ上で「新世界」の堂々のクライマックスに満足出来たと思う。



♪2015-64/♪みなとみらいホール-20

2015年7月5日日曜日

ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団名曲全集 第109回

2015-07-05 @ミューザ川崎シンフォニーホール



飯守泰次郎:指揮

アレクサンダー・クリッヒェル:ピアノ
東京交響楽団

ボロディン:歌劇「イーゴリ公」より “ダッタン人の踊り”
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18
シベリウス:交響曲 第2番 ニ長調 作品43
---------------------
アンコール(ピアノソロ)
クリッヒェル:ララバイ(自作曲)


この日は、体調が思わしくない上に睡眠不足で、こりゃ寝てしまうかもと危惧をしていたが、最初の「ダッタン人」で覚醒した。

東響ってホンにうまいなあ。弦もいいが管が特にうまいと思う。
東響の演奏は定期だけでも年に15回(名曲全集と川崎定期)聴いているけど一度もがっかりしたことがない。
主にミューザ川崎シンフォニーホール(不都合なときはサントリーホール)という聴きやすいホールで聴いていることも多少は関係あるのかもしれないけど、何と言っても「実力」がなければホールの音響効果ではごまかしきれないはずだ。

ラフマニノフのピアノ協奏曲は全部で4曲あるけど、コンサートで取り上げられるのは今日の第2番が圧倒的に多い。
次いで3番かな。
僕は第1番も第4番もCDでは聴くけどナマで聴いた覚えがない。

第2番は映画でもよく使われているし、多くの人の耳に馴染んだ人気曲だからコンサートでも取り上げられるのだろうけど、ピアニストにとっても弾き甲斐のある曲なんだろうな。とにかく、難曲だ。
そのアクロバティックな妙技を見る・聴くのもコンサートの楽しみだ。

ピアノのアレクサンダー・クリッヒェルという人は、1989年生まれというから25、6歳か。
ピアノの才能は言うまでもないが、数学、生物学、語学などの分野でも数学オリンピックをはじめ各種コンクールにも入賞し、今もそれらの分野の研鑽も積んでいるというからえらくマルチなタレントだ。こういう人が他の人の才能まで喰ってしまっているのかもなあ。
いや、礼儀正しい好青年ではあった。


シベリウスは今年が生誕150年なので、コンサートでも取り上げられることが多い。先月のN響定期でも聴いた。
シベリウスの交響曲についても全7曲(+クレルヴォ交響曲)あるのにコンサートで取り上げられるのは圧倒的に第2番。ほかには5番を一度聴いた記憶があるだけだ。
手持ちのCDもやはり2番と5番だけなので他の交響曲の世界を知らない。生誕150年の今年こそ、いろんな作品を取り上げてほしいものだ。

とはいえ、やはり、馴染んだ第2番はゾクゾクするほど素晴らしい。
第1楽章冒頭から、独墺、フランス、イタリア、英国、ロシアとは確実に一線を画す、いかにも氷河と森のフィンランドぽいムードがたちこめてその世界に惹きこまれる。
第2楽章は低弦のピチカートにチョッとリズムが外れたようなファゴットのメロディーが不安定で霧の中を彷徨うようだ。
シベリウス独特(フィンランド民謡が取り込まれているのだろうか)ではあるが、美しいメロディーが繰り出される。
第3楽章のモゾモゾした不気味さは徐々に盛り上がっていき、やがて切れ目なく(アタッカで)第4楽章になだれこむとその後は緊張が押しては引くやりとりを繰り返しながら徐々に悠々たるクライマックスに高揚する。このカタルシスは何度聴いてもぐったりするほど感情移入してしまう。

それを指揮する飯森泰次郎御大のクールさがおかしいくらいだ。
髪振り乱し汗だくでタクトを振る人もいるけど、御大はほとんど表情は変えず穏やかに微笑さえしているようで、それでいて大クライマックスを引き出すのだからやはり只者ではないのだろうな。

東響の素晴らしいサウンドと揺るぎない安定感。
久しぶりの至福の時を過ごした。

♪2015-63/♪ミューザ川崎シンフォニーホール-10

2015年7月4日土曜日

日本フィルハーモニー交響楽団 第309回横浜定期演奏会

2015-07-04 @みなとみらいホール


西本智実:指揮(ミュージック・パートナー)
音無美紀子:語り*


日本フィルハーモニー交響楽団

プロコフィエフ:組曲《キージェ中尉》作品60 (語り付き)*
チャイコフスキー:交響曲第4番ヘ短調作品36
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チャイコフスキー:バレエ音楽「白鳥の湖」から「マズルカ」


今日の指揮者は西本智実女史。
ロシアでの経験が豊富でロシアものは得意分野なのだろう。あるいは、日フィルの営業戦略なのかもしれないが、この人の回になるとたいていロシアもの中心にプログラムが組まれる。

「キージェ中尉」はCDは持っていないので、最近は聴いたことがなかったけど、昔はFM放送にかじりついて、オープンリールに録音したものを聴くことが音楽鑑賞の主体だった。その頃に何度も聴いたので懐かしく、今回のナマ演奏が楽しみだった。

元々は映画音楽で、それを5曲から成る交響組曲に仕立て直したものだそうだ。

物語は帝政ロシアの宮廷を風刺したコメディだそうで、そのおかしさが、音無美紀子の講談調ナレーションで説明される。

このアイデアは西本女史によるもので、台本も彼女自身が書いたそうだけど、どうも講談調はしっくり来なかったな。
また、「キージェ中尉」というのは、皇帝の問いにうろたえて答えた廷臣の言葉を「キージェ中尉」と皇帝が聞き違えたのが発端となって実在しない「キージェ中尉」をめぐる騒動が生起するのだけど、この聞き間違いも原語なら自然なのかもしれないけど、日本語ではさすがに無理で、音無女史も苦労していたようだ。

ま、音楽自身は軽妙で、物語にそって聴いたので面白く聴けた。

チャイコの第4番。
5番、6番と並んでいずれも大傑作だ。もちろん1~3番も悪くないけど、馴染みが少ないので、どうしても後半の3曲に目移り、耳移りしてしまう。
4番はファゴットとホルンで始まるファンファーレがトロンボーンやテューバがかぶさって厚みを増してゆく冒頭でもう鷲掴みにされる感じだ。
どの楽章もチャイコフスキーならではの哀愁に満ちたロマンティックな旋律が怒涛のように押し寄せてむせ返らんばかりだ。

第3楽章の終わりは特にアタッカ(休まず次の楽章へ)が記されていないが、今日の演奏はほとんどアタッカと言っていいのではないだろうか。第3楽章が消えゆくように終わるや否や第4楽章のallegro con fuoco(速く、情熱的に)に突入するのが爽快だ。

日フィルは(「も」というべきかもしれないけど)集中できない時もあるけど、今日のチャイコの4番は金管がよく鳴ること。
ブラスの咆哮に弦も負けじとガンガン弾きまくって、ふだんより10列ほど前で聴いているようなのめり込みができた。

♪2015-62/♪みなとみらいホール-19