2014年11月16日日曜日

N響第1793回 定期公演 Aプログラム

2014-11-16 @NHKホール



サー・ネヴィル・マリナー:指揮
セルゲイ・ハチャトゥリアン:バイオリン
NHK交響楽団

ベートーベン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61
ブラームス:交響曲 第1番 ハ短調 作品68
-----------------
アンコール
コミタス:「アプリコットの木」(バイオリンソロ)



この日は、本来レナード・スラットキンという人の指揮で、ベートーベンとラヴェルが演奏されるはずだったが、スラットキンの健康上の理由で来日できず急遽ネヴィル・マリナーに交代して、ラヴェルはブラームスに変更された(もちろん、事前に連絡が届いていた。)。

もし、この変更がなければ、僕は今月中に、4回も、しかも連続して「ダフニスとクロエ」第2組曲を聴くという、これまでにもなく、そしてこの先もないであろう稀有な経験をするところだった。
というのも、22日も日フィルの定期で「ダフニスとクロエ」第2組曲が取り上げられるからだ。
それで4つのオーケストラを聴き比べたい気もあったが、ブラームスも魅力的なので複雑な思いだった。

それにしても、この珍事はどうして起こったのだろう…という話は、日フィルのコンサートの感想に書くことにしよう。



サー・ネヴィル・マリナーだ。
最近その名を聞かなかったので、もうこの世の人ではないのだろうとぼんやり思っていたけど、大変失礼した。
御年90歳で矍鑠たるものだ。

もう、半世紀ほども昔になるが、その頃、ヴィヴァルディの「四季」といえばイ・ムジチが定番だった。
そこに、ネヴィル・マリナーがアカデミー室内管弦楽団を創設して新解釈の「四季」で颯爽と登場したことを好感をもって迎えたことを覚えている。それがアカデミー室内楽団のレコードデビューだったかどうかは知らないけど、当時、音楽界ではちょっとした事件だったように記憶している。
イ・ムジチのLPも持っていたけど、アカデミー版の「四季」も早速に購入して、そのアップテンポで歯切れのよい現代風な四季を大いに楽しんだものだ。

映画「アマデウス」の音楽もマリナー&アカデミーのコンビによることはかなり有名かも。


ベートーベンのバイオリン協奏曲は、このジャンルの作品中では好感度ベスト1かな。
ピアノ協奏曲で言えば第5番「皇帝」のような堂々たる風格がある。それでいて、終楽章の中間部に垣間みせる哀愁がたまらない。

バイオリンのハチャトゥリアンは、ちょうど10年前に急遽の代役としてN響デビューした際もベートーベンだったそうで、因縁の作品だ。
その時の演奏は『N響アワー』の2004年度ベスト・ソリスト2位となったという。
このレベルの技量は判断できないけど、オーケストラに埋没することなく堂々と音を響かせてとても満足できた。

そしてブラームス。
ブラームスの溢れ出んとするパッションが古典形式の枠の中で抑制されるパッションとストイズムのせめぎあいがゾクゾクさせる。
特にこの特徴が第1番によく表れていると思う。
40歳を過ぎるまで手を付けなかった交響曲の第1番は、素人目(耳)にもよくぞ綿密に構成されているなと思う。
ハ短調に始まった重苦しさは最後の最後にハ長調のファンファーレで幕を閉じる。

この曲でのティンパニーの使い方は画期的ではないかと思っている。詳しく調べた訳ではないけど、単にリズムを刻むとか音量補強とかクレッシェンド効果とは別に、ひとつのソロ楽器としての独特の使い方をしているような気がするのだけど。それで、ティンパニーを聴くのもこの曲の楽しみの一つだ。

サーの称号を持つネヴィル・マリナー。
90歳とは到底思えない元気な指揮ぶりだったが、燕尾服ではなく、グレイのジャケットに黒いズボンといったカジュアルな出で立ちで、ふらっと立ち寄った感じで指揮台に上った。
終演時、観客は老マエストロに敬愛の念を以って爆発的な拍手喝采で感動を伝え、マエストロも満足そうに何度も観客に笑顔で応えてくれた。
演奏家と観客が気持ちをひとつにできた時、音楽の力をしみじみ感ずる。

♪2014-103/♪NHKホール-06