2022-06-14 @すみだトリフォニーホール
シャルル・デュトワ:指揮
新日本フィルハーモニー交響楽団
上野通明:チェロ*
バーバー:弦楽のためのアダージョ op. 11
ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲第1番 変ホ長調 op. 107*
チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 op. 64
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カザルス編:鳥の歌*
どんな名匠が振ろうとオケはオケ。急に巧くなる筈も無いが、指揮者によって出来具合の振幅変化はある。
で、今日の新日フィル。
驚いたよ。
出来具合測定メーターの針が<上出来>に振り切れてしまった。
バーバーの第一声が美しすぎて、そこで先ずやられた。
デュトワがオケを掴んだのか、オケが掴まれたのか、両者一体となって精妙な音楽がスキなくジワッと広がっていった。この心地良い緊張感は久しぶりに味わう。
新日フィルの弦がこんなにも透明感のある音を出すのか!
これはもうデュトワ・マジックとでも言わざるを得ない。
暫し陶然。
今回最大の楽しみはショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番。この曲にはショスタコの魅力が缶詰になっていると思っている。
中でも第2楽章の哀愁。
長音階を巧みに避けて外しながら調性はぎりぎり残している芸当。
大昔、チェロを習っていた時の発表会で、先生の用意した曲を嫌ってこの楽章の主要部分をチェロ二重奏に編曲して弾いたが、先生もよく伴奏してくれたものだ。そんな思い出のある曲だが、なかなか生では聴く機会が少ない。
上野君は過去何度も聴いているが全て室内楽ばかりで、今回初めて協奏曲を聴いた。
できれば避けたい客席の一桁列の効果は利・不利あるが、今回は利が上回った。フラジオの蚊の鳴くような最弱音からヤニの飛び散るような最強音まで縦横無尽のダイナミック・レンジがこの曲の魅力を最大限に発揮した。
ホルンとの二重協奏曲風なこの曲ではホルン首席の日高氏もここぞと美音を轟かせた。
メインのチャイコフスキー交響曲第5番も実に迫力があった。
これはオケに近い席だったから、音圧が高かったから、ということもあるが、音のせいだけではない。
普段は表情まで読み取れない団員の集中力が客席にも伝わり、音楽にかける意気込みの神々しい雰囲気さえ味わった。
確実に、今日の演奏会は、特別な経験となった。
良い演奏を聴くのは幸福なことでもあるが、この後に膨大な残念会が控えているとも言える。
♪2022-087/♪すみだトリフォニーホール-05