2019年5月31日金曜日

みなとみらいアフタヌーンコンサート2019前期 「ロマ音楽&タンゴ」徳永二男バイオリン・コンサート

2019-05-31 @みなとみらいホール


徳永二男:バイオリン
坂野伊都子:ピアノ(ジプシー)*
京谷弘司:バンドネオン
淡路七穂子:ピアノ(タンゴ)
田辺和弘:ベース

ヘンデル:バイオリン・ソナタ第4番ニ長調 Op1-13、HWV371*
ブラームス:ハンガリー舞曲第5、6、7番*
ラヴェル:ツィガーヌ*
サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン*
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ガルデル:想いの届く日
ガーデ:ジェラシー
滝廉太郎:荒城の月
京谷弘司:シエンプレ・ア・ブエノスアイレス
アストル・ピアソラ:アディオス・ノニーノ、チキリン・デ・バチン、タンガータ
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ラ・クンパルシータ

前半、ヘンデルのバイオリン・ソナタ第4番にロマ音楽という組み合わせは、本人曰く、いきなりロマ音楽はやりにくいのでヘンデルを最初に弾いたというが、納得できる説明ではないね。
まあ、どうでもいいのだけど。

そのロマ音楽集は聴き馴染みのものばかり。

後半はタンゴ・バンド(ピアノ、コントラバス、バンドネオン)と共にピアソラのタンゴなど。

タンゴではマイクで集音し、PA(拡声装置)を使ったので音量大きく撥音明瞭。POPsコンサートみたいになった。
生音でも十分だったと思うが。

全体として気楽なコンサートだし、ほぼ満席の観客には大いに受けていた。

しかし、以前は感じなかったのだけど、この日の徳永のピッチの甘さには驚いた。長く音を伸ばすところでは明らかにツボに届いていない。
コンクールなら失格ではないかと思うが、もはや少々の音程の揺れなど気にならない域に達したのかも。

ところで、前半にはラヴェルの「ツィガーヌ」とサラサーテの「ツィゴイネル(ワイゼン)」が共に<ロマ(の旋律)>を意味するということを初めて知った。


♪2019-072/♪みなとみらいホール-21

2019年5月28日火曜日

東京都交響楽団 第878回 定期演奏会Aシリーズ

2019-05-28 @東京文化会館


アンドリュー・リットン:指揮
東京都交響楽団

アンナ・ヴィニツカヤ:ピアノ*

バーバー:管弦楽のためのエッセイ第2番 op.17
プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番ハ長調  op.26*
チャイコフスキー:交響曲第4番 ヘ短調 op.36
---------------------
チャイコフスキー:「四季」から3月ひばりの歌*

バーバーの「管弦楽の為のエッセイ〜」は初聴きだったが、楽しめた。彼の作品といえば、有名な「弦楽のためのアダージョ」のほかはバイオリン協奏曲やいくつかの管弦楽のための小品を聴いたことがある程度。どれも、現代の作品にしてはほぼ調性を維持して叙情的なところが共通していたように思う。

プロコフィエフのピアノ協奏曲は、1番が1番聴く機会が少なく、2番と3番をほぼ交代で聴いている。どうも、3番が一番耳には馴染んでいるように思う。
アンナ・ヴィニツカヤを聴くのは3度目で、1度はリサイタルだが、もう1回は、今日と同じく都響のA定期で、曲もプロコフィエフの2番だった。前回も大いに感心したが、ピアノが快活でとても良い。
外気が湿っている日は大抵ホールが良く鳴る…という気がするが、エアコンが真面目に仕事をしているからかな?
ヴィニツカヤのコロコロ弾むピアノが美しく響いた。

問題はチャイコフスキー。
交響曲第4番は今年度は当たり年か、先月2度も聴いた。
東フィル定期と日フィル定期だ。
何れも上出来だったが、比べると、今日の都響が最悪。

弦の高域がいつもの事だがシャリシャリと耳障り。
管も冒頭のファンファーレはまずまずだったが終楽章ではピッチのズレでゴロゴロ言っている。
これらが無ければ16型を活かした迫力あるサウンドは管弦楽を生で聴く歓びを与えてくれるのだけど。

♪2019-005/♪東京文化会館-05

2019年5月26日日曜日

読売日本交響楽団第111回みなとみらいホリデー名曲シリーズ

2019-05-26 @みなとみらいホール


セバスティアン・ヴァイグレ:指揮
読売日本交響楽団

ユリア・ハーゲン:チェロ*

ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲
シューマン:チェロ協奏曲イ短調 作品129*
ベートーベン:交響曲第3番変ホ長調 作品55「英雄」
----------------
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番からサラバンド*

シューマン:チェロ協奏曲は音色は見事に美しいが、まるで野性味無し。教則本付属CDを聴いているようで(聴いたことはないが)味気無し。ハーゲン・カルテットとして、また単独でも活躍しているクレメンス・ハーゲンの娘さんだそうだ。クレメンスの方はいずれも音楽堂で2度聴いた。精緻で、かつ、野性味もある。
ユリアはまだまだパパから学ぶべきものが多いようだ。

ベートーベン「英雄」はヴァイグレが弄りすぎた。
テンポ・強弱・表情変化が大袈裟だ。12型のコンパクトな編成は何の為?こんな演奏なら16型倍管でやればいい!

同じ場所での昨日の日フィルが余りに上出来故に比較すると残念な出来という事になるが、オケのせいでは無い。むしろ弦楽アンサンブルは昨日の日フィル以上に厚く美しかった。

ヴァイグレは今季から常任指揮者に就任した。指揮者は余り急激に独自色を求めてはいけないね。時間をかけてオケを自分色に染めてください。受け入れられたら…だけど。

今日のコンマスは日下紗矢子と告知されていたので楽しみにしていたのに小森谷君に急遽変更。我が百済観音も次席に入っていたのに何故?

ヴァイグレのこねくり回したベートーベンなんて弾いてられないわ!というのが理由では…とこれは邪推だけど。

♪2019-070/♪みなとみらいホール-20

2019年5月25日土曜日

日本フィルハーモニー交響楽団 第347回横浜定期演奏会

2019-05-25 @みなとみらいホール


飯守泰次郎:指揮
日本フィルハーモニー交響楽団

上原彩子:ピアノ*

ベートーベン:《レオノーレ》序曲第3番 op.72b
シューマン:ピアノ協奏曲イ短調 op.54*
ベートーベン:交響曲第5番ハ短調 op.67《運命》
-----アンコール-----
シューマン:「ウィーンの謝肉祭」から第4曲「間奏曲」*
シューベルト:「ロザムンデ」間奏曲

直前に英国ロイヤル・オペラ・シネマ「運命の力」(ヒロインはレオノーラ)を観た後に「レオノーレ3番」とは妙な暗合だ。

今日の楽しみは上原彩子のシューマンのピアノ協奏曲。
この曲は、冒頭に"返し"のついた針に食いついた魚が釣り上げられるようなマゾ的快感から始まる。彼女の演奏はいつも熱い。隅々まで気合が入っていて、ピアノとオケが絡み合う協奏曲を聴く悦びが堪能できる。

後半。
おまけのつもりでいた「運命」が只者ではなかった。
今日の日フィルの弦は硬質だが、シャキッと揃って小気味良い。泰次郎師匠の彫琢は隅々までゆきとどき、楽章が進むにつれ音楽が大きくなってゆく。
明瞭な輪郭がヴィヴィッドな音楽を形作って忘れられない名演になった。耳タコの「運命」だが、やはりこれはすごい名曲だなと改めて畏れ入った。

ところで、第1楽章268小節目、オーボエのソロが後半聴きなれないメロディだったように思ったが、気のせいだったのかな。

♪2019-069/♪みなとみらいホール-19

2019年5月24日金曜日

横浜バロック室内合奏団定期演奏会90回 〜ドイツバロックの華

2019-05-24 @みなとみらいホール


Vn小笠原伸子*5、齋藤亜紀*2、有馬希和子*6、大河内涼子*1
Va中島久美、三木冬子
Vc中垣文子、間瀬利雄
Cb大西雄二
Cemb平野智美
Fg山上貴司*3
ナレーション:二宮亮*4

J.S.バッハ:バイオリン協奏曲第1番イ短調BWV1041 独奏Vn*1
J.S.バッハ:バイオリン協奏曲第2番ホ長調BWV1042 独奏Vn*2
テレマン:食卓の音楽〜第2集第2曲四重奏曲ニ短調TWV43d1 Fg*3
テレマン:「忠実な楽長」からガリバー組曲TWV43 : 108*4
 1序曲
 2小人のシャコンヌ
 3巨人のジーグ
 4空飛ぶ島ラピュータの人々とお供のたたき役の夢想曲
 5賢いフィヌム人のルーレと野蛮なヤフーの乱舞
J.S.バッハ:2つのバイオリンのための協奏曲ニ短調BWV1043 独奏Vn*5、6

今季から定期会員に。弦9人+通低1人というこじんまり編成でバッハのバイオリン協奏曲全3曲とテレマンの作品。
バッハはいずれもお馴染みの作品だが、テレマンは食卓の音楽に聴き覚えがあったくらい。いずれにせよ、どれを聴いてもまあ、よく似たものだけど。

クラシック音楽鑑賞は、オーケストラ定期だけではなく、アフタヌーンコンサート、クラシックマチネ(以上みみH)、モーツァルトマチネ、ランチタイムコンサート(以上ミューザ)などで、器楽〜室内楽〜小編成合奏団なども定期的に聴いているが、バロック音楽はどのコンサートでも主力に取り上げることはないのでこの合奏団を聴くのは良い機会だ。定期演奏会といっても年に4回だけだが、これを機にこれからこの分野も広がってゆくだろう。

ロマン派はもちろん古典派と比べてもゆったりのんびりした音楽だ。あまり音がどうの、アンサンブルがどうのと批判的な見方をせずに、おやつを食べるような感覚で楽しむことにしよう。

♪2019-068/♪みなとみらいホール-18

2019年5月19日日曜日

華麗なるコンチェルトシリーズ〜絢爛たるフレンチ・デュオ 児玉麻里&児玉桃

2019-05-19 @みなとみらいホール


熊倉優:指揮
神奈川フィルハーモニー管弦楽団

児玉麻里:ピアノ*
児玉桃:ピアノ*

フォーレ:組曲「ペレアスとメリザンド」から前奏曲、糸を紡ぐ女、シシリエンヌ、メリザンドの死
サン=サーンス:動物の謝肉祭*
フォーレ:ドリー組曲*(連弾)
プーランク:2台のピアノのための協奏曲ニ短調FP61*
---------------
チャイコフスキー:「くるみ割り人形」から「金平糖の踊り」*

児玉桃は以前、みなとみらいホールで聴いたことがあった。やはりフランス音楽だった。
児玉麻里は初めて。
もっとも、今回はピアノデュオと連弾なので、各人の特徴…があるとしても聴き分けられなかったと思う。

最初にオケだけでフォーレの組曲「ペレアスとメリザンド」から前奏曲、糸を紡ぐ女、シシリエンヌ、メリザンドの死が演奏された。「シシリエンヌ」は器楽曲としても色んな形(特にチェロとピアノ)で演奏されるので、よく知っていたが、他の曲は都響、N響などで何度も聴いているのに、全く覚えていなかった。

「動物の謝肉祭」から児玉姉妹の登場だ。
2台のピアノとオーケストラのための作品なのでピアノはお互いが向かい合わせだ。下手が姉の麻里、上手が妹の桃で、この配置はプーランクでも同じ。最後のアンコールでは上・下が入れ替わった。因みに1台のピアノを2人で弾く連弾では高域が麻里、低域が桃の受け持ちだった。

「動物の謝肉祭」では室内オーケストラのような小規模編成の神奈川フィルが実に良い響きだった。
この曲も初めてではなく何度も聴いているが、オケは弦5部のほかは管楽器がフルートとクラリネット各1本に鉄筋・木琴?各1台ずつという編成で、弦の規模も全員で20名くらいだった。元々、そういう編成で書かれているらしいが、僕のあやふやな記憶ではこれまで聴いたオケの編成はもっと大掛かりだったように思うがどうだったのだろう。
ま、ともかく、その小規模オケの弦のアンサンブルが、あまり高域が出てこないということもあって、心地の良いこと。ここにピアノが強打した時に、えも言われぬシンフォニックな響が生まれる。

ドリー組曲はピアノだけの連弾曲。短い6曲で構成されている。名前に馴染みはなかったが、始まってみると、第1曲目の「子守歌」はよく知っている曲だった。これはバイオリンやチェロとピアノの作品としてよく演奏される作品だ。もっとも、第2曲以降は知らなかった。技術的にも多分子供でも弾けるような優しい音楽だ。

プーランクは珍しい。
ほぼ3年前に同じ神奈川フィル(ピアノ:田村響&佐藤卓史)で聴いたことがあったが、全然覚えていない。とはいえ、面白い音楽ではあった。
第1楽章は現代のミニマル音楽の先駆けのようでもあるが、何だか泥臭いところがある。
第2楽章はモーツァルトのピアノ協奏曲第20番第2楽章のパロディみたいだ。
第3楽章もプーランクの過去作を引用しているらしいが、どことなくお遊びのような雰囲気だ。

アンコールだけ、フランスものではなかった。彼女たちは子供の頃からフランスで育って、桃は今もパリに住んでいるらしいが、全体として、フランスの香りがしたのかどうかは当方の鼻が鈍いのでよく分からないが、楽しめるコンサートではあった。

♪2019-067/♪みなとみらいホール-17

2019年5月17日金曜日

新国立劇場オペラ「ドン・ジョヴァンニ」

2019-05-17 @新国立劇場


指揮:カーステン・ヤヌシュケ
演出:グリシャ・アサガロフ
美術・衣裳:ルイジ・ペーレゴ
照明:マーティン・ゲプハルト
再演演出:三浦安浩
舞台監督:斉藤美穂

東京フィルハーモニー交響楽団
新国立劇場合唱団

ドン・ジョヴァンニ⇒ニコラ・ウリヴィエーリ
騎士長⇒妻屋秀和
レポレッロ⇒ジョヴァンニ・フルラネット
ドンナ・アンナ⇒マリゴーナ・ケルケジ
ドン・オッターヴィオ⇒フアン・フランシスコ・ガテル
ドンナ・エルヴィーラ⇒脇園彩
マゼット⇒久保和範
ツェルリーナ⇒九嶋香奈枝

モーツァルト:オペラ「ドン・ジョヴァンニ」
全2幕〈イタリア語上演/字幕付〉

予定上演時間:約3時間20分
第Ⅰ幕95分
 --休憩25分--
第Ⅱ幕80分

モーツァルトの歌劇以外の音楽は知る限り全部楽しめるのに、歌劇は殆ど感情移入できない。分けてもドン・ジョヴァンニは何度もいろんな演出で観ているけど楽しめない。
それは、登場人物の誰に対しても共感できないからだ。魅力のない連中ばかりがあれやこれやと騒がしいだけ。
もう一つは、完全に女性蔑視の物語だが、世の女性たちはどんな気持ちでこの作品を鑑賞するのだろう?

レポレッロとマゼットの男声2人の低域の歌い始めは声が出ていなかった。今日が初日だから調子が出なかったか。
ドン・ジョヴァンニ(N.ウリヴィエーリ)と妻屋は好演。女声陣は脇園、九嶋の日本勢を含めよく声が出ていた。東フィルも良し。

帰宅後気がついたが、N.ウリヴィエーリって、昨年の日生劇場での藤原歌劇団による「ドン・ジョヴァンニ」でもタイトルロールを歌っていたね。どうも顔に見覚えがあったよ。

♪2019-066/♪新国立劇場-05

2019年5月16日木曜日

国立文楽劇場開場35周年記念 人形浄瑠璃文楽05月公演 通し狂言「妹背山婦女庭訓」第2部

2019-05-16 @国立劇場


通し狂言「妹背山婦女庭訓」
(いもせやまおんなていきん)

●第二部(午後3時45分開演〜午後9時終演予定)
 三段目
  妹山背山の段
   背山:千歳太夫・藤太夫<文字久太夫改>/藤蔵・富助
      妹山:呂勢太夫・織太夫/清助・清治*・清公

 四段目
  杉酒屋の段
   津駒太夫/宗助
      道行恋苧環(みちゆきこいのおだまき)
   芳穂太夫・靖太夫・希太夫・咲寿太夫・
   碩太夫/勝平・清丈・寛太郎・錦吾・燕二郎
      鱶七上使の段
   藤太夫/清馗
      姫戻りの段
   小住太夫/友之助
      金殿の段
   呂太夫/團七
     
人形▶簑紫郎・簑助*・玉助・玉男・和生*・一輔・
   清十郎・勘十郎・分司・玉志・ほか

*人間国宝


第2部は「妹山背山の段」から始まる。話は、序盤で出会った若い久我之助と雛鳥の、両家(の親)が争っているが故に恋を成就できない悲劇の物語だ。どこが「大化の改新」と繋がるのか、これは相当無理がある。しかし、ここでは、そんなことはどうでも良い。最終的にはそれなりに繋がるのだから。

さて、第1部の開幕前に客席に入るとすぐ気がついたことは、太夫・三味線が座る「床」が、今回の公演では2カ所にあるということだ。通常は舞台上手側の客席に張り出している。今回は、下手にも全く同様の「床」が誂えてあった。左右対照に向かい合っているのだ。こんな形を見るのは初めてなので、どういう風に使うのだろうと、疑問に思っていたが、第1部では結局使われなかった。

第2部冒頭の「妹山背山の段」ではその両方の床に太夫と三味線が位置した。舞台上は中央に吉野川が舞台奥から客席側に向かって流れている。川を挟んで下手が妹山側で、こちらに雛鳥が住む太宰の館があり、上手は背山側で、大判事の館には久我之助が住んでいる。互いに顔は見合わすことができるが、川を渡ることは禁じられている。
この2人に、それぞれの家の立場の確執が元で悲劇が生ずる。
それを、左右の床で語り分け、掛け合うのが素晴らしい。
この段の三味線も義太夫も人形も、悲劇的な筋書きも相まって鳥肌ものの緊張が続く。この段だけで休憩なしの約2時間という長丁場。いやはや興奮の連続だ。

ここでは、千歳太夫、藤太夫、呂勢太夫、織太夫の義太夫も人間国宝・鶴澤清治ほかの三味線も迫力満点でゾクゾクしてくる。
人形の方も、吉田簑助・吉田和生と人間国宝が登場し、文楽界の3人しかいない人間国宝が全員、この段に投入されているのだ。この贅沢感は目眩がするほどの興奮をもたらしてくれる。

が、この段が終わると、物語はまた木に竹継いだような運びになる。

藤原鎌足の息子・藤原淡海(求馬)を巡る、彼の政敵・蘇我入鹿の妹・橘姫と酒屋の娘・お三輪の三角関係の話が続き、その過程で女性の守るべき教え=「婦女庭訓」のエピソードがほんの少し登場してタイトルの辻褄を合わせる。
橘姫を追って入鹿の屋敷に入った求馬をお三輪も追いかけたが、彼女にはその屋敷の中で思いもよらぬ運命が待っていた。

全体としてはかなり無理のある継ぎ接ぎだらけの話なのだけど、最終的には藤原勢が入鹿を追い詰めるということで、大化の改新の大筋は保っている。また、継ぎ接ぎを構成するそれぞれの話が、各個独立して面白いので、全体の整合性はともかく、大いに楽しめる。いやはやびっくりするほど楽しめる。

♪2019-065/♪国立劇場-07

国立文楽劇場開場35周年記念 人形浄瑠璃文楽05月公演 通し狂言「妹背山婦女庭訓」第1部

2019-05-16 @国立劇場


通し狂言「妹背山婦女庭訓」(いもせやまおんなていきん)

●第一部(午前10時30分開演)
 大   序
  大内の段
   碩太夫・亘太夫・小住太夫・咲寿太夫/
   清允・燕二郎・錦吾・清公
      小松原の段
   芳穂太夫・咲寿太夫・南都太夫・
   文字栄太夫・津国太夫/團吾
      蝦夷子館の段
   口:亘太夫/清公
   奥:三輪太夫/清友

 二段目
  猿沢池の段
   希太夫/友之助
      鹿殺しの段
   碩太夫/錦吾
      掛乞の段
   睦太夫/寛太郎
      万歳の段
   織太夫/清志郎・清允
      芝六忠義の段
   切:咲太夫/燕三

 三段目
  太宰館の段
   靖太夫/錦糸
     
人形▶玉佳・玉勢・紋臣・簑太郎・玉助・簑紫郎
   玉男・文司・清十郎・玉也・勘次郎・
   簑二郎・和馬・勘十郎・ほか

今月は、国立文楽劇場会場35周年の記念であり、令和に改元後最初の公演ということもあってか、日本で初めて元号が定められた「大化の改新」を題材にした超大作が、昼夜2部に及ぶ通し狂言として上演された。
第1部は10時半から。第2部終演は21時という時間割だが、これだけ長いと日を分けて鑑賞するのが普通だと思うが、今月はやたら忙しいので、1日で一挙に観てしまうことにした。もちろん幕間はあるし、1部終演後2部開演までにもお客の入れ替えの時間があるが、入館してしまえば出るまで拘束10時間半だ。
これはかなり体力が必要で、若干、不安もあったが、始まってみると実に面白くて、疲労など全然感じるどころではなかった。

この演目は、初めての鑑賞だ。およその筋書きは頭に入っていたが、まあ、登場人物が多く、最初のうちはなかなか彼らの関係性が飲み込めず、買ったプログラムの「人物相関図」などをチラチラ見ながら、なんとかついてゆくという感じだった。

ややこしいのは人間関係だけではなく、そもそもの筋書きがもう破天荒なのだ。
中大兄皇子(天智天皇)、藤原(中臣)鎌足側と、蘇我蝦夷・入鹿親子側との権力争いが大筋である(こういう狂言を「王代物」というらしい。)が、タイトルからしても違和感があるように、途中では室町か鎌倉の時代物風になったり、さらには江戸時代の世話物の様な話も加わり、元の大筋はだんだんとボケてゆき、まるで違う話が2つ3つ合わさっているようだ。

まあ、面白ければなんでもあり、という文楽・歌舞伎の庶民芸能の面目躍如だ。

第1部では文楽版ロメオとジュリエットとも言える久我之助(こがのすけ)と雛鳥の出会いを描く「小松原の段」、天智帝やその部下が大納言兼秋らが匿われているあばら家に掛け取りに来た商人とのトンチンカンなやりとりを描く「掛乞いの段」、親子の犠牲を描く「芝六忠義の段」が印象的だった。

♪2019-064/♪国立劇場-06

2019年5月14日火曜日

国立劇場開場四十周年記念 国立演芸場05月中席 三遊亭歌之介改メ 四代目三遊亭圓歌襲名披露公演

2019-05-14@国立演芸場


落語   春風亭一花⇒花色木綿
落語   三遊亭歌橘⇒ちりとてちん
曲芸   鏡味仙三郎社中
落語   三遊亭若圓歌⇒西行
落語   林家木久扇⇒明るい選挙
      ―仲入り―
  襲名披露口上
奇術   アサダ二世
落語   三遊亭歌司⇒親子酒
浮世節  立花家橘之助
落語   三遊亭歌之介改メ
     四代目三遊亭圓歌⇒笑いが一番

今月はおそらく改元行事の影響からか、上席は休演で、中席のみの公演となった。その中席は三遊亭歌之介が四代目圓歌を襲名したというので、その披露公演だ。

圓歌(以前は「円歌」と書かれることもあったように思う。)といえば、先代がタレント活動?で結構有名だったが、本業の落語は新作中心でまともな古典落語は聞いたことがなかった。
で、四代目も芸風はやはりそういう系統らしく落語というより、漫談のような話だった。
まあ、次から次へと洒落や小ネタが飛び出すので、客席は笑いが絶えないのだから、これはこれでいいかもしれないが。

木久扇はずっと先輩だが、こちらも漫談、というより笑点裏話で笑わせただけで、こういうのは芸というのか、あまり感心できない。でも、才能がないことは間違い無いので、死ぬまでこんな調子なのだろう。四代目圓歌は木久扇に比べるとずっと頭が良さそうだから、新境地を開いてゆくかもしれない…と思った。


♪2019-063/♪国立演芸場-08

2019年5月12日日曜日

新日本フィルハーモニー交響楽団 特別演奏会 第9回 サファイア<横浜みなとみらいシリーズ>

2019-05-12 @みなとみらいホール


上岡敏之:指揮
新日本フィルハーモニー交響楽団

ワーグナー:歌劇『タンホイザー』から
「序曲とバッカナール」(パリ版)
ワーグナー:楽劇『トリスタンとイゾルデ』から
「前奏曲と愛の死」
ワーグナー:楽劇『神々の黄昏』から
 第1幕「ジークフリートのラインへの旅」
 第3幕「ジークフリートの死と葬送行進曲」
ワーグナー:舞台神聖祝典劇『パルジファル』から
 第1幕 前奏曲と第3幕 フィナーレ」 

ワーグナー・アーベント。
全作楽しみなワーグナーの有名曲ばかり。
が、良い出来とは言えなかった。
前半はまずまずかなと思って聴いていたが、後半にはまとまりのなさが露呈してしまった。
上岡師のこだわりが細部に行き渡っているけどもオケがそれを表現できない。

そうなると、独自の味わいとなるべきところがむしろケレンになったり、嫌味になったり、中途半端になったり、聴こえないほどの最弱音さえも耳障り?

オケの規模が大きいだけに音楽が形良く納まらなかった。
エキストラが多かったが、実力者を揃えた(例:Hrの日高氏など大活躍!)のだろうけどアンサンブルを整える迄に至らなかったか。


♪2019-062/♪みなとみらいホール-16

2019年5月11日土曜日

N響第1912回 定期公演 Aプログラム

2019-05-11 @NHKホール


エド・デ・ワールト:指揮
NHK交響楽団

ロナルド・ブラウティハム:ピアノ*

ベートーベン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」*
ジョン・アダムズ:ハルモニーレーレ
-----------------
エリーゼのために*

ロナルド・ブラウティハム独奏のベートーベン「皇帝」は、ところどころ聴きなれないフレージングもあって、本来フォルテ・ピアノ弾きだとこういう感じなのかと思いながら聴いたが見当違いかも。

ジョン・アダムズ「ハルモニーレーレ」(「和声学」の意)は初聴き。複雑なリズムが組み合わされ、ひたすら繰り返される。

そんな仕掛けで徐々にクライマックスを形成すれば人間の原始脳をいたく刺激する。
でもそれだけの音楽。
オペラや映画音楽としては成立しそうだが、演奏会用としては一度聴けば十分。

N響も十分慣れていなかったみたいだ。複雑なリズムを間違えまいと懸命なパートもあり。
もっと良くなる余地をいっぱい残した!演奏ぶりだった。

♪2019-061/♪NHKホール-03

神奈川フィルハーモニー管弦楽団定期演奏会みなとみらいシリーズ第348回

2019-05-11 @みなとみらいホール


川瀬賢太郎:指揮
神奈川フィルハーモニー管弦楽団
東京混声合唱団♯:女声合唱

石田泰尚♭:Vn
半田美和子♯:Sp
山下牧子♯:Ms

ブロッホ:バイオリン協奏曲♭
メンデルスゾーン:劇付随音楽「夏の夜の夢」Op.61♯

似た名前の「ブルッフ」のバイオリン協奏曲は好きでよく聴くけど「ブロッホ」はチェロの小品(「祈り」)以外はこれまで聴いたことはなかったように思う。
因みに、ブルッフ(1838-1920)はドイツ人。バイオリン協奏曲第1番がダントツに有名でナマでもなんども聴いている。ほかに「スコットランド幻想曲」やこちらもチェロの小品としてよく取り上げられる「コル・ニドライ」が有名か。
ほぼ半世紀後に生まれたブロッホ(1880-1959)はスイス生まれのユダヤ人で「イスラエル交響曲」とかヘブライ狂詩曲「シェロモ」などは聴いた様な気がするが、ナマ演奏は未経験。

そんな訳で、今日の「ブロッホ」のバイオリン協奏曲は初聴きだった。
独奏は神奈川フィル・ソロ・コンマスの石田泰尚。
音楽は、ところどころミクロス・ローザを思わせるヘブライ風で面白い。約40分の大曲だが、西洋からも東洋からもエキゾチックでまるで映画音楽の様に劇的なので面白い。
ただし、神奈川フィルの弦五部が大人しいのが物足りなかった。親分の演奏を引き立てようと抑えていた訳じゃあるまいに。

後半の劇付随音楽「夏の夜の夢」は女声独唱2人、女声合唱、説明付きだが手間かけた割に面白く無かった。
ナレーションの語尾が聞きとりにくく想像が広がらない。
ナレーションのみマイク・拡声装置を使っていたが、むしろ肉声の方が良かったろう。

独唱・合唱陣も出番が少なく物足りない。
意欲的な取組みだがこの形態は演奏会には向かないな。

神奈フィルの演奏はほぼ瑕疵のない良い演奏。
後半70分の長尺。

♪2019-060/♪みなとみらいホール-15

2019年5月9日木曜日

みなとみらいアフタヌーンコンサート2019前期 「音楽の深淵へ~謝肉祭」エリック・ル・サージュ/ピアノ・リサイタル

2019-05-09 @みなとみらいホール



エリック・ル・サージュ:ピアノ

シューマン:子供の情景 op.15<1838年>
   1見知らぬ国 2不思議なお話 3鬼ごっこ 4ねだる子供 5満足
   6重大な出来事 7トロイメライ 8炉端で 9木馬の騎士
 10むきになって 11こわがらせ 12眠っている子供 13詩人のお話

ドビュッシー:子供の領分<1908年>
 グラドゥス・アド・パルナッスム博士 象の子守唄
 人形のセレナード 雪は踊っている 小さな羊飼い
 ゴリウォークのケークウォーク

ドビュッシー:映像第1集<1905年>
 水の反映 ラモーを讃えて 運動

ドビュッシー:喜びの島<1904年>
シューマン:花の曲 変ニ長調 op.19<1839年>
シューマン:謝肉祭 op.9<1835年>
 1前口上 2ピエロ 3道化役者 4高貴なワルツ 5オイゼビウス
 6フロレスタン 7コケット 8返事 9蝶々 10A.S.C.H.-S.C.H.A.
  11キアリーナ 12ショパン 13エストレラ 14再会
  15パンタロンとコロンビーヌ 16ドイツ風ワルツ 17告白
  18プロムナード 19休憩 20ペリシテ人と闘うダヴィッド同盟員
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シューマン:ダヴィッド同盟舞曲集 op.6から第14曲「繊細に、かつ歌って」
ドビュッシー:グラドゥス・アド・パルナッスム博士

ル・サージュの名前にぼんやり記憶があったが、聴いている最中には思い出せない。帰宅後記録を調べたら、ほぼ3年前に都響とモーツァルトの協奏曲をやっていた。その際のアンコールがシューマンの「ダヴィッド同盟舞曲集」から12番だったが、今日は14番。やはりシューマンを得意としているのだろう。

ところで、今日のプログラムはそのシューマンに始まってシューマンに終わるが、間にドビュッシーが入る。
なぜ、こういう組み合わせなのかについては説明がないので分からない。シューマンと組み合わせるなら、ブラームスとかショパンとかが自然で、ドビュッシーとならラヴェルとかがすぐ思い浮かぶが…。

2人の作曲家は年齢で半世紀ほど(ドビュッシーが若い)、演奏作品の作曲年代では70年ほどの違いがある。

演奏された全曲をCDで持っているので、一度ならず聴いている曲ばかりだが、何曲かは初めてのような気がした。

シューマンの後にドビュッシーを経て再度シューマン「謝肉祭」を聴くと、作曲年代は一番古いのだけど、ドビュッシーとの境界線がだんだんボケてきたのは面白い体験だった。もう少しシューマンを聴いていたら、シューマンの新しい扉が開いた様な気がしたが。

演奏の巧拙は分からないが、これだけ多くの作品を(おそらくノーミスタッチで?)確実に弾き分けて、ピアノの面白さを味あわせてくれたのは、もちろん、作品自身の魅力だろうけど、ル・サージュの腕も相当達者なのだろう。

♪2019-059/♪みなとみらいホール-14

2019年5月7日火曜日

團菊祭五月大歌舞伎 昼の部

2019-05-07 @歌舞伎座


一、寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)
工藤祐経⇒松緑
曽我十郎⇒梅枝
曽我五郎⇒萬太郎
大磯の虎⇒尾上右近
化粧坂少将⇒米吉
八幡三郎⇒鷹之資
秦野四郎⇒玉太郎
梶原平次景高⇒菊市郎
梶原平三景時⇒吉之丞
小林朝比奈⇒歌昇
鬼王新左衛門⇒坂東亀蔵
近江小藤太⇒松江
 
二、歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)
武蔵坊弁慶⇒海老蔵
源義経⇒菊之助
亀井六郎⇒右團次
片岡八郎⇒九團次
駿河次郎⇒廣松
太刀持音若⇒玉太郎
常陸坊海尊⇒市蔵
富樫左衛門⇒松緑
後見⇒齊入
   
竹柴其水 作
三、神明恵和合取組(かみのめぐみわごうのとりくみ)め組の喧嘩/品川島崎楼より神明末社裏まで
め組辰五郎⇒菊五郎
女房お仲⇒時蔵
尾花屋女房おくら⇒雀右衛門
柴井町藤松⇒菊之助
おもちゃの文次⇒彦三郎
宇田川町長次郎⇒坂東亀蔵
背高の竹⇒松也
三ツ星半次⇒歌昇
芝浦の銀蔵⇒萬太郎
伊皿子の安三⇒竹松
御成門の鶴吉⇒尾上右近
新銭座の吉蔵⇒廣松  
二本榎の若太郎⇒市村光
亀の子三太⇒男寅
狸穴の重吉⇒玉太郎
山門の仙太⇒左近
辰五郎倅又八⇒亀三郎
田毎川浪蔵⇒吉之丞
左利の芳松⇒橘太郎
大竜山文五郎⇒九團次
三池八右衛門⇒松江
神路山花五郎⇒由次郎
御輿岳芳五郎⇒片岡亀蔵
露月町亀右衛門⇒権十郎
葉山九郎次⇒家橘
島崎楼女将おなみ⇒萬次郎
九竜山浪右衛門⇒又五郎
焚出し喜三郎⇒歌六
江戸座喜太郎⇒楽善
四ツ車大八⇒左團次

●曽我対面⇒梅枝が化粧坂少将の役から今回曽我十郎に昇格したのか、と思ったが萬太郎との実兄弟コンビで十郎・五郎を演ずるのは既に一度経験済みらしい。それにしては萬太郎の五郎はあまり嵌っていなかったが。
化粧坂の少将は米吉が演じて、この人はホンに女性かと見紛うほどに娘役が似合う。
3月の国立歌舞伎で、僕の目には初めて大きな役を見事にこなした歌昇が、今回も朝比奈を初役で務めた。若手の台頭が好ましや。


●勧進帳⇒当代・海老蔵最後の勧進帳。菊之助の義経。松緑の富樫と人気役者を揃えた好配役。海老蔵は姿・形、所作、発声いずれも絵に描いたようで素晴らしい。
こういう伝統の出し物の場合は、決まった形を踏襲しなければならないのだろうが、欲を言えば、弁慶が義経を打擲する場面ではもう少し本気になってほしい。富樫の心根を揺り動かすに足る芝居ができないものか。
海老蔵の弁慶は2度目。高麗屋三代襲名の際の染五郎の勧進帳も(脇役が超豪華で)素晴らしかったが、演出は、いつ・誰の勧進帳を観ても全く一緒だ。そこに意味があるとも言えるけど、も少しリアルに…ならないものだろうか。

●め組の喧嘩⇒初めて観た。鳶衆と相撲取りの喧嘩話。意地の張り合いだけでドラマ性希薄。只管喧嘩の端緒から衝突までを描くがこれが長い。
大詰(全4幕中の最終幕で全四場)の冒頭に大勢の鳶衆が勢揃いして威勢を張るところは見応えがあるが、ここから決着までが3回も場面を変えるので、幕が降りたり、回り舞台が回ったりで、テンションが途切れてしまう。ここを全一幕に仕立ててテンポ良く見たい。あ、これも無理ね。
先月の菊五郎は、これは役どころなのだろうけど、イマイチな活躍ぶりだったが、今回の役(め組の辰五郎)では元気そうでなにより。菊五郎、菊之助が同じ舞台で揃うと海老蔵とは別趣の華がある。


♪2019-058/♪歌舞伎座-03

2019年5月5日日曜日

ラ・フォル・ジュルネ・TOKYO 2019 No.316 〜ジプシー=クレズマー・バンドと若き名手たちが贈る、魅惑の旅物語

2019-05-05 @東京国際フォーラムA


アレクサンドル・スラドコフスキー:指揮
タタルスタン国立交響楽団

ディアナ・ティシチェンコ (バイオリン)
アナスタシア・コベキナ (チェロ)
萩原麻未 (ピアノ)
ラケル・カマリーナ (ソプラノ)
シルバ・オクテット (室内楽)

モルダビア組曲 Jilea din bosanci
サラサーテ:バスク奇想曲 op.24
グラズノフ:ミンストレル(吟遊詩人)の歌
グリーグ:ピアノ協奏曲 イ短調 op.16
サン=サーンス:バッカナール(オペラ「サムソンとデリラ」から)
ベッリーニ:ああ、幾たびか(オペラ「カプレーティ家とモンテッキ家」から)
プッチーニ:私のお父さん(オペラ「ジャンニ・スキッキ」から)
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チャイコフスキー:ティムールの野営

長年皆勤賞を続けてきた「熱狂の日」も今年は忙しくてそれどころではなかったが、ようやく5日になってメドがついたので、最終日5日のプログラムの中から室内楽を中心に面白そうなものを探したが、それらはすべて売り切れ。仕方なくホールAでのコンサートを探したら流石にキャパ5,000人超のホールだ。この日の、ということは3日間を通じても最終プログラムでそこそこの席が空いていた。
前後左右のど真ん中のブロックなので、普通のコンサートホールなら特等席だが、何しろ、ホールAの1階席は縦に47列(中央ブロック)から49列(左右の両翼)もある。中央の中央といっても前から36列目だ。舞台からは遠い。みなとみらいホールやサントリーホールなどのやや大きめのホールと比べても36列目では壁を突き抜けて場外から聴くような距離だ。

そもそもアコースティック・ミュージックを演奏するには広すぎて音響はひどい。しかし、「熱狂の日」は参加することに意義がある、とかなんとか、自分を納得させて出かけた。

〜ジプシー=クレズマー・バンドと若き名手たちが贈る、魅惑の旅物語〜という副題がついていたが、雑多な構成のプログラムで、つまり、ロマやユダヤの音楽を含む、独墺からみるとエキゾチックな民族臭濃い音楽集だ。
興味深いプログラムだけど、あいにく音が悪い。
特にピアノが酷く、高域は耳に届く前にどこかに消えて行くらしい。萩原麻未がどうこういうより、グリーグの協奏曲の冒頭のピアノの強奏もティンパニーに埋もれてしまっていた。その後ももやもやと輝きのないピアノの音が残念だった。ピアノの音がこんなにもくぐもっているということは、オーケストラの音も同じようにぼんやりしている訳だ。

しかし、オケだけになってからの演奏は俄然本領発揮したように思った。もし、もっと前方で聴いていたらのめり込めたと思う。

「タタルスタン」という国名すら知らなかったが、帰宅後調べたらカスピ海沿岸から北に約千キロのロシア連邦内共和国だ。人口380万程度だから横浜市と同じくらい。その国立のオーケストラなのだから、国内随一なのだろうな。かなり高水準の演奏だったと思う。
終盤のサン=サーンスやアンコールのチャイコフスキーでは遠い席からではあったが、十分楽しめた。

館内客席も盛り上がって遠来のオケを労うような拍手喝采。
熱狂の日らしい終幕だが、会場を出たのはなんと22時44分だった。

♪2019-057/♪東京国際フォーラム-01