2017年1月29日日曜日

N響第1855回 定期公演 Aプログラム

2017-01-29 @NHKホール


下野竜也:指揮
クリストフ・バラーティ:バイオリン*
NHK交響楽団

マルティヌー:リディツェへの追悼(1943)
フサ:プラハ1968年のための音楽(管弦楽版╱1969)
ブラームス:バイオリン協奏曲 ニ長調 作品77*
------------
アンコール
イザイ:無伴奏バイオリン・ソナタ第2番第4楽章*

2017-01-29 @NHKホール

マルティヌー(1890-1959)なんて作曲家は記憶から抜けていたが、つい先月、都響で交響曲第5番を聴いたばかりだったよ。もう、忘れるのが速い。
フサ(1921-2016)こそ初聴き。
2人は生まれが半世紀ほど異なるけどいずれも現代の作曲家と言っていいのだろう。フサは昨年亡くなっているのだ。

現代の音楽は、ほとんどつまらない。
それにメインがブラームスの(交響曲ではなくて)協奏曲とは妙な組合せだな、と思った。

しかし、この2人はいずれもチェコの人で、マルティヌーの音楽はナチスによって焼き尽くされ、住人は強制収容された「リディツェ」という村の鎮魂の音楽であり、フサの作品もいわゆる「プラハの春」を崩壊させたソ連によるチェコ侵攻に怒りを覚えて作られた作品で、両者とも厳粛な気分が漲る音楽だった。
とくに後者は12音技法や微分音をも用いているそうだが、その全曲を覆う暗い情感が、実験趣味的な現代音楽とは一線を画しているように思えた。

それにしてもブラームスとのつながりはよく分からない。

その点は、ま、あまり重要だとも思えないけど。


ブラームスは良かった。
クリストフ・バラーティは2015年5月に同じN響の定期でバルトーク:バイオリン協奏曲第2番を聴いている。その時も相当高度なテクニシャンだと思ったが、ブラームスでも本領発揮。実に堂々として安定している。音圧も高く、館内に独奏バイオリンが響き渡った。

つい3週間ほど前に、飯森範親+日フィル+神尾真由子で聴いたが、そのときにも感じた第3楽章のテンポの遅さを今回も感じた。帰宅後手持ちのCDを3種類第3楽章の冒頭だけ聴き比べたが、ニコラス・アーノンクールとオイゲン・ヨッフムのテンポは結構速いが、チョン・ミョンフンのものは今日のN響、先日の日フィルと大差なかった。まあ、拘らなくともいいのだけど、やはり、このハンガリー舞曲風な音楽はちょっと疾走する感じがほしいな。

2017-014/♪NHKホール-01

2017年1月28日土曜日

寺神戸亮 バロック・バイオリンと名曲の魅力

2017-01-28 @フィリアホール


寺神戸亮:バイオリン

バルツァー:プレリュード ト長調
バルツァー:「ジョン、来て、キスして」によるディヴィジョン ト長調
ヴェストホフ:無伴奏バイオリンのための組曲第1番 イ短調
ビーバー:パッサカリア ト短調(ロザリオのソナタより)
テレマン:無伴奏バイオリンのためのファンタジア 第1番 変ロ長調、第7番 変ホ長調
J.S.バッハ:シャコンヌ(無伴奏バイオリンのための組曲 第2番ニ短調 BWV.1004 第5曲)
-------------
アンコール
J.S.バッハ:無伴奏バイオリン・ソナタ第3番ハ長 BWV.1005から第3楽章「ラルゴ」

寺神戸亮(てらかど・りょう)はナマで聴いたことがなかったので、待望のコンサートだった。

いっとき、中世・ルネサンスやバロックの音楽ばかり(CDなどで)聴いていた時期があり、その中には寺神戸亮の「シャコンヌへの道」というタイトルのCDと「コレッリのバイオリンと通奏低音のためのソナタ選集」が含まれていて両方共よく聴いた。

演奏も、音楽も好ましいが、ガット弦を使用したピリオド楽器(古楽器)による音自体が魅力的だ。それをナマで聴けるのは嬉しい。

しかも、今回のリサイタルは「シャコンヌへの道」と銘打ってある訳ではないが、選曲はCD「シャコンヌへの道」と全く同じ、と言ってもいい(厳密にはCDの方が曲数が多い。)。
このアイデアは、J.S.バッハの無伴奏バイオリン・ソナタと組曲の中の白眉と言われている「シャコンヌ」が生まれるに至った歴史的背景を先人たちの作品の中から辿って聴かせようという意図だ。
ま、音楽史を紐解く訳で、かなりの専門家でなければなかなか理解し難いところもあるが、そこは、寺神戸亮が曲の合間にマイクを握って簡単に説明をしてくれるので、まあ、その時点、時点では得心もできたが。
ただ、その意図が十分理解できなくともかまわない。何しろ、この時期の音楽はとってもヒーリング効果があるのだ。

バルツァーだのヴェストホフだの聴いたこともない作曲家たちが、バッハに先んじてバイオリンの無伴奏曲を作っているのだ。そしてそれぞれに面白い。


フィリアホールは初めてだった。田園都市線・青葉台駅のすぐそばだが、駅にも道にも案内が見当たらなくて往生した。まったく、不親切なホールだ。東急系が運営しているらしいが、今時、お役所仕事よりもサービスが悪い。
が、コンサートホールとしては500席とソロや室内楽を聴くには好都合の規模で、音響も嫌味のない適度な残響が良い感じだった。

♪2017-013/♪フィリアホール-01

2017年1月27日金曜日

みなとみらいアフタヌーンコンサート ≪田部、矢部&古川の「大公」≫

2017-01-27 @みなとみらいホール


田部京子:ピアノp
矢部達哉:バイオリンv
古川展生:チェロc

J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番から「前奏曲」c
J.S.バッハ:無伴奏バイオリン・ソナタ第3番から「ラルゴ」v
マスネ:タイスの瞑想曲vp
フォーレ:夢のあとにvp
メンデルスゾーン:無言歌集から「ベニスのゴンドラの歌」第2番p
グリーグ:抒情小曲集から「小人の行進」p
カッチーニ(吉松隆編):アヴェ・マリアp
ドビュッシー:月の光p
ベートーベン:ピアノ三重奏曲第7番「大公」pvc
-------------
アンコール
ドビュッシー:ピアノ三重奏曲から第3楽章pvc


田部京子は前に日フィルとグリーグの協奏曲を聴いた。
矢部達哉と古川展生はいずれも都響のソロ・コンマスと首席なので、定期演奏会ではほぼ毎回聴いていると思うが、独奏者としては初めてだ。

楽しみだったのは第一に「大公」トリオ、そしてフォーレの「夢のあとに」。「夢のあとに」はできたらチェロで聴きたかったが今回はバイオリンだった。

それにしては満足度がイマイチだったのはなぜだろう。
前半の小品集が、入れ替わり立ち替わりで、なかなか集中できなかったからかもしれない。

「大公」は当然のように上手だし、良かったが、できれば前半にもピアノトリオを1曲演奏してくれたら<音楽鑑賞態度>が決まって良かったかもしれない。

♪2017-012/♪みなとみらいホール-04

2017年1月25日水曜日

オペラ「カルメン」

2017-01-25 @新国立劇場


指揮:イヴ・アベル
演出:鵜山仁

合唱指揮:三澤洋史
合唱:新国立劇場合唱団
児童合唱:TOKYO FM 少年合唱団
ダンサー:新国立劇場バレエ団
管弦楽:東京交響楽団

カルメン:エレーナ・マクシモワ
ドン・ホセ:マッシモ・ジョルダーノ
エスカミーリョ:ガボール・ブレッツ
ミカエラ:砂川涼子
スニガ:妻屋秀和
モラレス:星野淳
ダンカイロ:北川辰彦
レメンダード:村上公太
フラスキータ:日比野幸
メルセデス:金子美香

ジョルジュ・ビゼー:オペラ「カルメン」 全3幕
〈フランス語上演/字幕付〉


カルメンは演奏会形式では何度か聴いた。特に年末のシャルル・デュトワ+N響による全曲演奏は、細部まで神経の行き届いた演奏自体が素晴らしく、ビゼーの傑作が、なにゆえに傑作であるのかをしっかりと理解させてくれたように思った。

その上で、新国立劇場の本格的な舞台版「カルメン」だ。
期待値は相当高い。

しかし、東響が演奏する前奏曲が始まった途端、これはすごいものが観られそうだという予感が。
前奏が終わって高い天井から吊り下げられた幕が左右に開くと大勢の群衆たちだ。
「カルメン」はこういうモブ・シーンが多い。それが舞台のエネルギーとなっているようだ。

日本人歌手の数人はかつて舞台に接したことがあったが、主要な役を演ずる外国人歌手についてはどれほどの名手なのかまったく知らない。まあ、みんな巧い。声が大きくてよく通る。この点に関しては日本人歌手も負けてはいなかった。
特に、ミカエラを歌った砂川涼子が、と言うか、そもそもミカエラのアリアが哀切極まりなくて胸を打つのだけど、これを上手に歌った彼女が強く印象に残った(6月に日生劇場で「ラ・ボエーム」を観ることにしているが、その主役ミミを彼女が歌うので、これは楽しみだ。)。

N響の「カルメン」でもどちらかと言えばミカエラが好印象だったが、やはり、清純・誠実で控えめな役柄はカルメンとは好対照だし、カルメン役がほとんどメゾ・ソプラノであるのに対して、ミカエラはソプラノであることも歌唱効果の面で有利なのかもしれない。

この2人の女性の人生ドラマを味わいながら、僕は「風と共に去りぬ」のスカーレットとメラニーを思い浮かべていた。スカーレットは魅力的だが並の人間にはコントロールすることができない。
カルメンもまた然り…。

管弦楽演奏、歌唱、ドラマ、舞台、照明、美術がいずれも素晴らしく(演出も優れているのだろう。)、実にラグジュアリーな至福の3時間半。

♪2017-011/♪新国立劇場-1

2017年1月23日月曜日

東京都交響楽団 第822回 定期演奏会Aシリーズ

2017-01-23 @東京文化会館


小泉和裕:指揮
ヨシフ・イワノフ:バイオリン*
東京都交響楽団

ウェーバー:歌劇「オイリアンテ」序曲 作品81
チャイコフスキー:バイオリン協奏曲 ニ長調 作品35*
グラズノフ:交響曲第5番 変ロ長調 作品55
----------
アンコール*
ヴィエニャフスキ:カプリースNo.4

チャイコのバイオリン協奏曲。
ヨシフ・イワノフは初聴きだ。プログラムの解説にもあまり詳しいことが書いてない。NETで調べても国籍も年齢も分からない。
でも、16歳でモントリオール国際コンクール第1位、2年後にはエリザベート王妃国際コンクールでも第2位と観客賞を受賞したというから才能のある人なのだろう。

一昨年の秋に、五嶋龍+hr交響楽団で聴いたチャイコにしびれたが、その後何人もの演奏を聴いたがあれに匹敵するモノはない。
良い音楽に巡り合うのは幸福なことでもあるが、その後には不幸が続く。
今回も、五嶋龍+hr響を超えるものではなかった。
とはいってもフツーに楽しめるのだけど。

楽しめると言えば、グラズノフだろう。
交響曲第5番は昨秋、日フィルで聴いたが、西洋ロマン派+ロシア民族派の集大成と言った感じで、ドイツロマン派を含み、もちろんチャイコフスキーら先輩たちの匂いがそこここに立ち込めているようだ。
特に終楽章の強力なシンコペーションを刻むリズミカルでド派手な音楽は大いにカタルシスを与えてくれる。

♪2017-010/♪東京文化会館-01

国立劇場開場50周年記念 通し狂言 しらぬい譚(しらぬいものがたり)五幕九場 尾上菊之助筋交いの宙乗り相勤め申し候

2017-01-23 @国立劇場


国立劇場開場50周年記念
柳下亭種員ほか=作『白縫譚』より
尾上菊五郎=監修
国立劇場文芸研究会=脚本
通し狂言 しらぬい譚(しらぬいものがたり)五幕九場
尾上菊之助筋交いの宙乗り相勤め申し候
 詳細は1月3日参照

尾上菊五郎⇒鳥山豊後之助
中村時蔵⇒烏山家の乳母秋篠/将軍足利義輝
尾上松緑⇒鳥山秋作
尾上菊之助⇒大友若菜姫
 詳細は1月3日参照

2度め。今度は2等B席(3階最前列)だが、話が良く分かっているし、不満はなかった。強いて言えば菊之助の宙乗りの2回めのぶら下がったままの芝居が2階席に比べると少し遠かったが、それでも普段は見られない至近距離だ。

2度の筋交い宙乗りだけでなく屋台崩しや景色の一変など舞台装置の仕掛けも驚かせ、楽しませてくれるのだが、一番驚いたのは、ピコ太郎だ。

初日にも登場したが、それは謎の参詣人として片岡亀蔵が化けていたのだけど、今日は亀蔵版ピコ太郎に続いて本物のピコ太郎が登場したのにはもうびっくり。あとで聞くとこの日だけの特別な演出だったそうだ。
まあ、正月興行の華やかなお遊びということでこれもいいのではないか。

でも、よくよく考えると、話の筋書きにはかなり無理のある話だ。
元の話を換骨奪胎しているそうだから、いっそもっと刈り込んで、話を整理しても良かったのではないか。

♪2017-009/♪国立劇場-002

2017年1月21日土曜日

神奈川フィルハーモニー管弦楽団定期演奏会みなとみらいシリーズ第326回

2017-01-21 @みなとみらいホール


川瀬賢太郎:指揮(常任指揮者)
上野星矢:フルート*
神奈川フィルハーモニー管弦楽団

J.S.バッハ(エルガー編曲):幻想曲とフーガハ短調Op.86
ハチャトゥリアン(ランパル編曲):バイオリン(フルート)協奏曲ニ短調
ラフマニノフ:交響曲第3番イ短調Op.44
------------
アンコール
上野星矢編曲:ロンドンデリーの歌*

ハチャトゥリアンのバイオリン協奏曲というのが初めて。それをフルート用に編曲したのも当然初めて。
フルートの名手ランパルがハチャトゥリアンにフルート協奏曲を依頼したら、ハチャトゥリアンは自分が作曲したバイオリン協奏曲をフルート用に編曲してはどうかと答えたそうで、ランパルは管弦楽部分はほぼそのままに、バイオリン部分をフルートにふさわしい楽想に変えたりカデンツァを加えたりの書き直しをしたそうだ。

ランパルは現代を生きた人なので、2人の間に接点があったということが不思議な感じがしたが、誕生日をみると、ハチャトゥリアンは1903年生まれ(1978年歿)、ランパルは1922年生まれ(2000年歿)なので、僅か19歳違うだけだ。

そのランパルがN響とこの曲を演奏している動画をYoutubeで発見した。
https://youtu.be/4hTV6UsH9R4

1977年10月、NHKホールでの演奏だ。ランパルは55歳、ハチャトゥリアンは74歳でかろうじて存命だったのだ。

さて、彼の音楽はほかには組曲「仮面舞踏会」とバレエ音楽(⇒演奏会用組曲)「ガイーヌ」くらいしか知らないのだけど、まあ、感じは「剣の舞」の如しだ。

上野星矢は華々しい経歴(全日本学生音楽コンクール1位、ランパル国際フルートコンクール優勝など)を納得させる腕前で、第1楽章からして独奏フルートは相当に難しいと思うが、大暴れするような第3楽章は超絶技巧の連続だ。
よくぞ、あんなに早くタンギングができたり、あんなに長く息を保てるのか、不思議なくらいだ。

ラフマニノフの交響曲。これまで2番は何度か聴いているし、アマオケ時代に自分でも演奏しているので馴染みはあったが、第3番は少なくともナマ演奏は初聴きだ。
それでも十分楽しめたのは内容がドラマティックでロマンティックだからだ。まるで壮大な映画音楽のようでもある。

それに、ハチャトゥリアンの音楽も同様だったが、指揮の川瀬賢太郎のコントロールが各パートに行き渡っている感じが演奏にも現れていて、聴く側も集中力を傾注できたのが良かった。
常任指揮者になってまもなく(3月で)3年になるが、神奈川フィルを掌中に収めつつあるような気がする。

♪2017-008/♪みなとみらいホール-02

2017年1月20日金曜日

みなとみらいクラシック・マチネ~名手と楽しむヨコハマの午後~福川伸陽 ホルン X 鈴木優人 オルガン この2人だからこそ可能な遊びと本気の90分

2017-01-20 @みなとみらいホール


福川伸陽(のぶあき):ホルン
鈴木優人(まさと):オルガン

J.S.バッハ(鈴木優人 編曲):
 コラール「今ぞ喜べ、愛するキリストのともがらよ」BWV734
 コラール「主よ、人の望みの喜びよ」(BWV147から)
 コラール「目覚めよ、と呼ぶ声あり」BWV645
ナジ・ハキム:組曲 「ラプソディ」~ホルンとオルガンのための~
鈴木優人:Romantissimo〜ブルックナー交響曲第4番による〜
-----------
アンコール
ナジ・ハキム:組曲 「ラプソディ」から終楽章

今日のコンサートは面白かった。
パイプオルガンとホルンという変わった組合せ。
特にブルックナーの交響曲第4番は70分ほどの大曲だが、これを15分位にオルガンとホルンに編曲したのは面白かった。

ホルンの福川伸陽(のぶあき)はN響の首席奏者。
オルガン・編曲の鈴木優人(まさと)はバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)を中心に活躍する鍵盤奏者(父親がBCJの音楽監督の鈴木雅明でその弟がチェロ・指揮の鈴木秀美だ。)。
2人は同い年だそうだ。両者とも35歳か。

この若さと才能だからこそ「可能な遊びと本気の90分」という訳で、大いに納得。

ホルンとパイプオルガンの競演であるからには、時にホルンがオルガンに埋もれてしまうのはやむを得ないだろう。
ホルンも朗々と歌ったが、何と言ってもみなとみらいホールのパイプオルガン「ルーシー」が時に爆音を響かせて床まで震わせるのにはテンションが上った。

♪2017-007/♪みなとみらいホール-02

2017年1月19日木曜日

チョ・ソンジン ピアノ・リサイタル

2017-01-19 @ミューザ川崎シンフォニーホール


チョ・ソンジン:ピアノ

ベルク:ピアノ・ソナタ 作品1
シューベルト:ピアノ・ソナタ第19番 ハ短調 D.958
ショパン:24の前奏曲 作品28
-------------------
アンコール
ショパン:マズルカ 作品30-4
ブラームス:ハンガリー舞曲第1番

シューベルトも、信じられないことに、このピアノソナタが苦手だ。シューベルトには若い頃から共感を抱いていた。
彼の音楽はなぜか、自分の感性にピタッとハマるような気がして、他人とも思えないというと大げさだが、つまり、親しみを感じていた。新しい作品を初めて聴いても、まず違和感を覚えない。
…と長く思っていたが、ピアノ・ソナタ19番はどうも勝手が違った。この曲に出会ったのは5年ほど前にソナタ全曲CDを買うまでは(放送などでは別として)きちんと19番を聴く機会がなかったのだ。
で、きちんと対峙してみると19番で語るシューベルトの言語が理解できない。なので気持ちが乗れない。本当にシューベルトの作品なのだろうか、そういう疑念が生まれるほどに馴染んでゆかない。何度繰り返し聴いても、近づけない。

19番は、僕のシューベルト体験におけるエア・ポケットみたいなものだ。

チョ・ソンジンが弾くというから、事前に何度も聴いたが症状は変わらない。

そんな風に迎えた本番。
ベルクは最初から諦めていた。あまり面白い音楽を書く人じゃないから。
でも、シューベルトは、ショパンコンクール1位という俊才の生演奏を間近で聴くことでようやく覚醒できるかもと思って臨んだが、どっこい、距離はあまり縮まらなかった。
作曲家の円熟に従って凡人の感性からは遠のくとも想像できる。
確かに、ベートーベンの場合、最後の30番台のソナタが若い頃は敷居が高かった(今ではむしろこの辺の作品が好きだ。)。

シューベルのピアノ・ソナタでもそういうことが言えるのかもしれないが、因みに、シューベルトの最後のピアノ・ソナタ第21番など、とてもしっくり来るのだ。如何にもシューベルトらしく、メロディーが美しい。なぜ、第19番が近寄りがたいのか、これは一つの課題としておこう。

24の前奏曲(全曲)は、最近では去年夏に(チョン・ソンジンが優勝した同じ2015年のショパンコンクールでファイナリストに残った…留まった?)小林愛実でも聴いたし、アンナ・ヴィニツカヤでも聴いて、いずれも楽しめた。
もっとも、厳密に言うと、全曲が楽しめる訳ではない。
第2曲など特にとっつきにくい。
ベルイマン監督のバーグマン最後の作品「秋のソナタ」でこの音楽が母と娘の断絶の象徴のように使われるが、初めて聴いたときはこれがショパンの作品とはとても思えなかったものだ。
それでも何度も聴いているうちに、まあ、この曲だけを取り出して聴きたいとは思わないけど、前奏曲集として楽しめるようになった。

チョ・ソンジンの音楽性は分からないが、佇まいにただならぬものは感じた。とくに最終曲の最終盤の迫力は鬼気迫るものがあった。

♪2017-006/♪ミューザ川崎シンフォニーホール-01

2017年1月11日水曜日

国立劇場開場50周年記念 平成28年度1月中席

2017-01-11 @国立演芸場


落語 林家喜之輔⇒英会話
落語 橘ノ双葉⇒猿後家
曲芸 ボンボンブラザース
落語 古今亭今輔⇒だまされたフリ作戦
奇術 瞳ナナ
落語 柳家蝠丸⇒高尾
ー仲入りー
クラウン びり&ブッチィ―
落語 三遊亭圓馬⇒ふぐ鍋
コント チャーリーカンパニー
落語 古今亭寿輔⇒しりとり都々逸

今月の演芸場の寄席は上席がなかったので、中席初日の今日が今年の初笑い。

曲芸の「ボンボンブラザーズ」は初めてだったが、さほど<曲芸>というほどではないのだけど、おもしろくて相当笑ったよ。わざと下手にやっているのか、本当に難しくてうまくできないのか、その辺の微妙さがおかしい。

奇術は、時折タネが見えるときもあるけど、不思議さが楽しめる。

圓馬は今日も楽しめた。安定した芸だ。
「ふぐ鍋」はその名のとおり、ふぐ鍋を初めて食べる2人が、食べたいけどコワイ。やってきたおこもさん(乞食)にいくらか分けてやって様子を見るが平気な様子。安心して食べるがなるほど旨い。そこへ先程のおこもさんが2人の様子を見に来て大丈夫そうなのでもらったふぐを安心していただく、という話。ホンにおかしい。

寿輔の「しりとり都々逸」も面白いけど、もうすこしゆっくり都々逸の秀作を聞きたかったな。

恋に焦がれて 鳴く蝉よりも 鳴かぬ蛍が 身を焦がす
あとがつくほど つねっておくれ あとでのろけの 種にする
あとがつくほど つねってみたが 色が黒くて わかりゃせぬ
惚れた数からふられた数を 引けば女房が残るだけ

2017-005/♪国立演芸場-01

2017年1月10日火曜日

東京都交響楽団 第823回 定期演奏会Bシリーズ

2017-01-10 @サントリーホール


小泉和裕:指揮
東京都交響楽団

ブルックナー:交響曲第5番 変ロ長調 WAB105(ノヴァーク版)

ブルックナーの0番から9番までの交響曲の中で、今日の5番は8番についで演奏時間が長く80分だ。
同じフレーズが何度も繰り返されるので余計に<長さ>を感じてしまう。CDではおとなしく聴いておれない音楽だが、ナマの演奏では若い頃ほどの抵抗感はなくなって、音楽風呂に浸かっているような感じでゆったりと楽しめるようにはなってきた。

ずいぶん工夫された構成になっているようで、その一端が感じられるようになってきたのは、少し鑑賞力が高まってきたのか、単に馴染んだだけなのか。

編成の大きさや演奏時間の長さでマーラーの交響曲と似ているけど、マーラーは俗っぽさがたっぷりあるように思うが、ブルックナーはひたすら生真面目で遊び心を感じさせない。教会音楽家だったんだなと得心する。

演奏はとても良かった。
指揮の良し悪しは分からないけど、おそらく気心知れた間柄(小泉和裕は都響の「終身名誉指揮者」)だ。オケもしっかりと指揮者の意図に応えていたのだろう。いつもの分厚い都響のアンサンブルがこういう作品では一段と輝きを増すようだ。

♪2017-004/♪サントリーホール-01

2017年1月9日月曜日

音楽堂ニューイヤー・コンサート クレメンス・ハーゲン(チェロ)&河村尚子(ピアノ) デュオ・リサイタル

2017-01-09 @県立音楽堂


クレメンス・ハーゲン:チェロ
河村尚子:ピアノ

ューマン:5つの民族風の小品集 作品102
ベートーベン:ピアノとチェロのためソナタ第2番ト短調 作品5-2
ラフマニノフ:ピアノとチェロのためのソナタ ト短調 作品19
--------------
フランク:バイオリンソナタ(チェロ版)イ長調から第1楽章
ショスタコーヴィチ:チェロ・ソナタニ短調から第2楽章


クレメンス・ハーゲンをナマで聴くのは初めてだが、ハーゲン四重奏団のチェリストとしても個人としてもたくさんのCDを出しているようで、我が家にも10枚近くある。

河村尚子は初めてかなと思っていたが、先程調べたら1年半前に読響の定期でラベルの「左手のための協奏曲」を聴いていた。

今回は、河村尚子ではなくクレメンス・ハーゲンのチェロをナマで、それこそ生々しく聴きたかったので、前から5列目のピアノ本体の前(センターから少し上手寄り)に席を取った。
ピアノとプラス1の編成の場合、プラス1は普通はピアノの前方下手に位置するのが通例だし、チェロの場合はピアニストとアイコンタクトを取るために客席正面に向かって座ることはなく少し舞台中央に楽器を向けるはずだ、という僕の読みも見事に的中して、ちょうど僕の席の正面にピアノとチェロがV字形に位置するというこの編成を聴くには申し分のない好位置となった。

ふたりが登場し、軽く客席に会釈して位置につくと両者はアイ・コンタクトもなしにいきなりハーゲンが弾き出したが、そのときちゃんとピアノも始まっていて、この息の合った、意表を突く出だしには驚いた。

その第1曲はシューマンの「5つの民族風の小品集」だ。
多くの作曲家のたくさんのチェロの小品の中でもとても好きな作品だ。タイトルどおり、とても「民族風」だ。と言っても、いちいちどこの<民族>風なのかは分からないが、ロマ、スラヴなどが混じっているのは間違いなさそうだ。
それほど有名曲とも思えないけど、僕はCDを3種類持っている。そんなこともあって耳によく馴染んでいるので、ナマで聴けたのは嬉しかった。

5列目という席は、オーケストラだと絶対に座りたくない場所だけど、小人数(弦楽器どうしの共鳴効果を期待しない編成)の場合は楽器本来の音がそのまま響いてくるのが心地よい。とくに音楽堂は残響が少ないので、原音が(きれいな場合は)豊かに響く。
ハーゲンのチェロのガリガリいうような音色はあまり美しいとはいえない。同じ音楽堂で、やはりかぶりつきで聴いた藤原真理の音色の方が格段に耳には心地が良いが、野性的な力強いハーゲンの音色もなかなか訴求力がある。

このシューマンだけでも十分満足だったが、ベートーベンのチェロソナタ2番もドイツ音楽の肝を感じさせてくれた。

ラフマニノフのチェロソナタは初聴きだった。
これはなかなかの大曲で全4楽章。演奏時間は40分前後あったのではないだろうか。その長尺をピアノがほとんど超絶技巧を駆使している感じで、その上でチェロに朗々と歌わせるという趣向のようだ。音楽自体には馴染んでいなかったので楽しみは彼らの名人芸にあったといえる。

ラフマニノフはバイオリンソナタを書いていない。(ピアノと)チェロのためのソナタがあるからそれで十分だと考えていたと書いてあるのを読んだことがあるが本当かどうか。
でも、チェロという楽器が好きだったことは間違いなさそうだ。
そしてもちろんピアノの大家でもあったからチェロ・ソナタ(彼自身はこういう呼び方を嫌ったようだが)においてチェロを思い切り歌わせ、一方ピアノには全曲に渡ってオタマジャクシて埋め尽くすような作品を書いたのかもしれない。

河村尚子

さて、本日の収穫その2は音楽に非ず。
冒頭書いたように河村尚子は初めてではなかったが、前回協奏曲を聴いたのは席が舞台から遠くてよく彼女の表情がはっきりとは見えなかった。今回はかなり近い場所だったので、彼女のピアノを弾く際の豊かな表情の変化をつぶさに見ることができた。それがなんとも魅力的だ。彼女の気持ちがそのまま表情に、姿勢に表れていて分かりやすい。そして、拍手に応える笑顔のなんと可愛らしいこと。とてもキュートだ。
ポスターやチラシの表情は固くて実物とはだいぶ印象が異なる。

♪2017-003/♪県立音楽堂-01

2017年1月7日土曜日

日本フィルハーモニー交響楽団 第324回横浜定期演奏会

2017-01-07 @みなとみらいホール


飯森範親:指揮
日本フィルハーモニー交響楽団
神尾真由子:バイオリン*

ブラームス:バイオリン協奏曲 ニ長調 作品77*
ドボルザーク:交響曲第9番 ホ短調 作品95《新世界から》
-------------
アンコール
パガニーニ:「24のカプリース」から第24曲*
アンダーソン:「ジャズ・ピチカート」(弦楽版)


2007年のチャイコフスキーコンクールで優勝したというTVのニュースで神尾真由子(当時21歳)を初めてみた時に、えらく自信に満ちていたのが印象的で、その後放映でなんどか見る・聴く機会があって、その力強さに一目置いていた。

生を聴いたのは東響との共演でビバルディの「四季」の半分という中途半端な経験で、本格的な演奏は今回が初めてだった。しかも、ブラームスの協奏曲は大好きな作品だ。

で、大いに期待して出かけたのだけど、全体にテンポがゆったりめで、ちょっと違うんじゃないか、と隔靴掻痒の感で聴いた。
特に第3楽章は部分的に変拍子が用いられていて、ここはやはりある程度のスピード感とともに味わいたいところなのだけど、ブラームスのちょっとして工夫の魅力があまり伝わらなかった…と思う。
こういうテンポの設定は指揮者の好みなのか、ソリストの好みがリードするのか分からないけど、他の指揮者でも聴いてみたい。

バイオリン協奏曲の中ではチャイコフスキーと並んで超絶度が高いらしいが、バリバリ弾きまくるという印象はなかった。

むしろ、アンコールの「24のカプリース」の第24曲こそ、僕がイメージしていた神尾真由子だった。

「新世界から」もテンポはゆったりめだったが、これは不満がなかった。オケも弾き慣れているのだろうし細部まで巧い。
耳タコだけど、最近は聴く度によくできた作品だなあと思う。
奇を衒わない堂々とした音楽づくりがこの曲では活きていたやに思った。

♪2017-002/♪みなとみらいホール-01

2017年1月3日火曜日

国立劇場開場50周年記念 通し狂言 しらぬい譚(しらぬいものがたり)五幕九場 尾上菊之助筋交いの宙乗り相勤め申し候

2017-01-03 @国立劇場


国立劇場開場50周年記念
柳下亭種員ほか=作『白縫譚』より
尾上菊五郎=監修
国立劇場文芸研究会=脚本
通し狂言 しらぬい譚(しらぬいものがたり)五幕九場
尾上菊之助筋交いの宙乗り相勤め申し候

発端 若菜姫術譲りの場
除幕 博多柳町独鈷屋の場
二幕目
 第一場 博多菊地館の場
 第二場 同 奥庭の場
三幕目 博多鳥山邸奥座敷の場
四幕目
 第一場 錦天満宮鳥居前の場
 第二場 室町御所の場
大詰め 島原の塞の場

尾上菊五郎⇒鳥山豊後之助
中村時蔵⇒烏山家の乳母秋篠/将軍足利義輝
尾上松緑⇒鳥山秋作
尾上菊之助⇒大友若菜姫
坂東亀三郎⇒菊地貞行
坂東亀寿⇒鳥山家家臣瀧川小文治
中村梅枝⇒秋作の許嫁照葉
中村萬太郎⇒雪岡家家臣鷲津六郎
市村竹松⇒足利家家臣三原要人
尾上右近⇒傾城綾機/足利狛姫/多田岳の山猫の精
尾上左近⇒菊地貞親
市村橘太郎⇒大蛇川鱗蔵
片岡亀蔵⇒大友刑部/謎の参詣人
河原崎権十郎⇒独鈷屋九郎兵衛/海賊玄海灘右衛門
坂東秀調⇒医者藪井竹庵
市村萬次郎⇒足利家老女南木
市川團蔵⇒雪岡多太夫
坂東彦三郎⇒錦が岳の土蜘蛛の精
 ほか

お家騒動、仇討ち、忠義の自己犠牲の話に、妖術、怪猫、霊力の宝物などが登場し、筋交い宙乗り(というのは珍しいのだろうな。舞台に直行するのは何度か見たが斜め横断は初めて見た。)や屋台崩しなどの大道具の仕掛けのほか、思いがけない小道具を含め全編がどっちから見ても外連味一杯の正月らしい派手な舞台だ。

「発端」で描かれる経緯が分かりにくかったが、その後の進行は見たとおりに理解できる。
まあ、乳母の献身ぶりには、それはないでしょう、と思ってしまうが、これも歌舞伎らしい。

ピコ太郎も登場するし、何でもありだ。

菊之助の宙乗りは舞台下手から3階席上手までという客席上を斜め横断だ。そのために、1階席よりむしろ2階席、3階席の方が楽しめる。
僕は2階席前から3列目中央だったので、ちょうど菊之助が止まって芝居をするのがほとんど目の前で、こんなに近くから役者を見るのは初めてだった。やはり、菊之助はなかなか妖しい魅力を振りまいていた。
松緑も「仮名手本忠臣蔵」では役不足を感じたが、今回は活躍場面が多くて楽しめた。

♪2017-001/♪国立劇場-001