2015年11月16日月曜日

NHK音楽祭2015 極上のオーケストラサウンド -真価を発揮する指揮者たち- hr交響楽団演奏会

2015-11-16 @NHKホール



アンドレス・オロスコ・エストラーダ:指揮

五嶋龍:バイオリン*
hr交響楽団(旧称フランクフルト放送交響楽団)

ウェーバー:歌劇「オイリアンテ」序曲
チャイコフスキー:バイオリン協奏曲 ニ長調 作品35*
マーラー:交響曲 第1番 ニ長調「巨人」
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アンコール
イザイ:無伴奏バイオリンソナタ第2番から第1楽章*
ブラームス:ハンガリー舞曲第6番 ニ長調(管弦楽版)


チケット購入に逡巡したために、ちょっと不安な席(1階Rブロック前から5列目内側)しか買えなかったので、音は期待できないな、と覚悟して出かけたが、もう第一声から頼もしい響が聴こえてきて安心した。

「オイリアンテ」ではまだ腕鳴らしみたいなものか、音の響きも最初はモヤッとしていたけど、は徐々に輪郭線が決まり輝きを増していった。これでもう気持ちは掴まれて前向きの姿勢で音楽を楽しむことができるようになる。

hr交響楽団という名前に覚えはなかったが旧称フランクフルト放送交響楽団といえば、若い頃はFM放送でよく聴いたオーケストラだ。2005年にhessischen・rundfunk(ヘッセン州・ラジオ)のイニシャルに改称したという。

旧称時代から、世界のトップレベルとまではいかないとしてもドイツの名門オケであったことは間違いないだろう。
指揮者インバルが残したCDマーラー交響曲全集は名盤の誉れが高い。
脱線するが、Amazon MusicではPrime会員用には無料で多くの音楽をストリーミング再生できる仕組みを作っているが、このインバル+フランクフルト交響楽団のマーラー交響曲全集も無料で聴くことができる。


チャイコフスキーで登場した五嶋龍は最近「題名のない音楽会」の司会に就任したが、まだ若いのだから余計なことをせずに演奏に専念すればいいのにと思うが、才能が有り余っているのかもしれない。
巧いとか上手とかの判断は付けかねるが、もちろん、大変な技量を持っているように見える(プロはたいていそう見えるし、聴こえる)し、<演奏>を<見せる>芸も達者だ。ここぞという場面での歌舞伎役者が見得を切るようなオーバーアクションも、彼くらいのカリスマ性があれば嫌味も通り越えてゆく。

<以下の写真は後日クラシック音楽館で放映されたもの>

五嶋龍の渾身の熱演も良かったが、やはり、オケが素晴らしい。ナマでも何度となく聴いている曲が、今回は、僕の中で新しく甦った気がした。ソロとオケとの終盤の激しいやり取りなどを聴きながら、チャイコフスキーが実に精緻なオーケストレーションを構築しているの感じた。

チャイコフスキーが終わった時点で、もう大満足で、この先にまだマーラーの「巨人」が待っているなんて、なんという幸福なことかと思った。


そして、大きな期待に存分に応えた演奏だった。
弦の響の透明さと粒立ちの良さは、やはり、普段聴いているオケとは残念ながら次元が違うような気がした。
そして管楽器もなんてうまいのだ。
ホルンなど7本も繰り出して作る和音のきっちりと噛み合った鮮やかさも、これはめったに聴けるものではないと思った。


どの楽章も心地よい。
どのパートも心憎い巧さだが、例えば、第3楽章のコントラバスのソロもこんなにピタッと音程が正確で全く崩れないのはすごいな。

ラストの1分強。
盛り上がった中で、ホルンは全員が立ち上がって(マーラーの指示らしいが)、ファンファーレ?を強奏する。
僕の席からも立っているのが分かったが、この視覚効果も手伝ってか、気分はいやが上にも高揚し、絶頂を迎え、狂奔のうちに終曲した。もっと続いて欲しいようでもあり、これ以上続くと身が持たんかなという風でもあった。


磨き抜かれた管弦楽の響と技を以って、マーラーをこうも格調高く、情熱的に演奏されては、長年保ってきたマーラーへの距離感が一挙に埋められてしまった思いだ。

やはり、オーケストラ曲としての面白味を満載したマーラーの交響曲は、素直に楽しむに限るか。
でも、今後もいろんなオケで巨人のみならずいろんな作品を聴くだろうけど、今回を超えるものが当分期待できないのがさびしくもある。

hr交響楽団首席指揮者のエストラーダの前任が今季からN響の首席指揮者に就任したパーヴォ・ヤルヴィで、エストラーダが首席指揮者を務めていたウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団の後任が「題名のない音楽会」で司会をしていた佐渡裕であり、同番組の佐渡裕の後を継いだのが五嶋龍という関係が今日のNHKホールに凝縮していたのが偶然とはいえ面白かった。

♪2015-114/♪NHKホール-12