2017年2月26日日曜日

イザベル・ファウスト、ジャン=ギアン・ケラス&アレクサンドル・メルニコフ ピアノ・トリオ演奏会

2017-02-26 @県立音楽堂


イザベル・ファウスト:バイオリン
ジャン=ギアン・ケラス:チェロ
アレクサンドル・メルニコフ:ピアノ

シューマン:ピアノ三重奏曲 第3番 ト短調 作品110
エリオット・カーター:エピグラム(2012)
シューベルト:ピアノ三重奏曲 第1番 変ロ長調 作品99 D898
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アンコール
シューマン:ピアノ三重奏曲 第2番 第3楽章

このピアノ・トリオにはチームの名前がない。ピアノ・トリオでトリオ名があってそれが世の中に認知されているグループはむしろ少ないのではないか。僕が思い出せるのはボザール・トリオくらいで、手持ちのCDでほかのトリオをみてもたいてい3人の名前が並列してある。あるいは録音のために俄仕立ての名前が付いているのもあるけど、その名前での活動をしている風には思えない。

今回のトリオも同様で、3人の名前が並べてあるだけだ。
このうちナマを聴いたことがあるのはバイオリンのイザベル・ファウストだけで、ほかの2人も一流の演奏家なのだろうが、名前さえ知らなかった。

イザベル・ファウストを前回聴いたのは文化会館で都響とメンコンを演奏した時だ。その時は、彼女のストラディバリウスはよく響いたとはいえ、間近ではなかったし(オーケストラはそんな間近で聴きたくないけど。)、音圧を感ずるというほどではなかったので、今回は、音楽堂の3列目でかぶりついて聴くのが楽しみだった。

ピアノ・トリオはピアノが音色でも音量でも異質だから3者のバランスが難しそうだ。現に、ピアノの音に弦が埋もれてしまう演奏を聴いたこともある。しかし、今回はとてもいいバランスだった。バイオリンもチェロも、これはすぐそばで聴いているという事情もあったかもしれないが、音圧に不足はなく、ピアノとも溶け合うというのか、その異なる音の性格がピタッと呼吸を合わせて交わる時に生まれる響の妙が快感だ。

シューマンのトリオは亡くなる数年前の作品らしく、冒頭から不安神経症的だ。でも当然ながら全篇がシューマン印で、慣れるとこれが音楽的に面白い。

真ん中に挟まれたエリオット・カーター(1908〜2012。103歳で逝去!)の作品はまさに103歳で作曲したものだそうだ。超現代音楽で、ハナから聴く耳持たなかったから今ではさっぱり思い出せない。

こういう訳の分からない音楽の後にシューベルトのピアノ・トリオを聴くと清々しくも躍動感に溢れなんと美しいことか。
この曲はピアノ五重奏曲「ます」や弦楽四重奏曲「死と乙女」と並んでシューベルトの室内楽(言うまでもなく器楽ソナタは除く。)の3大傑作だな。

イザベル・ファウストほかのトリオの出来栄えは素晴らしかった。3人が一つの呼吸をしているように思った。また、一人ひとりの楽器の音色も素晴らしい。微細な弱音から最強音までが、特にすぐそばで聴いていると原音とどこからか響いてくる残響とが混じり合って妙なる響となる。楽器自体、それを操る才能、ホールのコンディションがすべてうまく混ざり合い、引き立てあって、なかなか得られない音楽体験をさせてもらった。

♪2017-030/♪神奈川県立音楽堂-02