2015年10月8日木曜日

NHK音楽祭2015 極上のオーケストラサウンド -真価を発揮する指揮者たち- NHK交響楽団演奏会

2015-10-08 @NHKホール


パーヴォ・ヤルヴィ:指揮
ジャン・イヴ・ティボーデ:ピアノ
NHK交響楽団

ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調
ベルリオーズ:幻想交響曲 作品14


今年のNHK音楽祭は、N響のほかに、ロンドン交響楽団、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、hr交響楽団(旧フランクフルト放送交響楽団)が招聘された。

海外の一流オケは料金がべらぼうに高いので、N響とhr交響楽団の演奏会を聴くことにした。

まずは、N響。
プログラムはオールフランスもの。
パーヴォ+N響なら勝負曲はドイツものではないかと思うが、意外にもフランスの作品だ。パーヴォ・ヤルヴィはパリ管弦楽団の音楽監督もしていたので、十分に自信があるのだろう。

いつもの定期演奏会と違って、舞台には造花だろうが、花飾りがしてあって、音楽祭の雰囲気作り。

さて、N響のコンサートはいつもたいてい満足できるが、実力を出しきれない時もあるように思う。
今回はロンドン交響楽団などと顔を並べた音楽祭で、FM生放送(TVは録画で後日放映)でもあり、定期演奏会と違って一回きりだから、ここで実力を見せないでどこで見せるのか、という大舞台だ。

その期待どおり、フランス近代管弦楽の精密で華麗な音楽を堪能できた。

牧神の午後~冒頭のフルートソロから既に官能的で、ドビュッシーの作品の中では多分一番最初に好きになったもので、結局今でもこビュッシーの作品の中から何か1曲、と言われたらこれを選ぶだろうな。

ドビュッシーの音楽から西洋クラシック音楽は大きな転換をしたと言われている。五音音階などによる調性の喪失(傾向)とか機能和声からの脱出?が、それまでにない不思議な心理描写を産んだ。その後に12歳若いラヴェルが続き、環境が整ったところで、20世紀最大の作曲家とも目されるストラヴィンスキーが登場する。

近代~現代の西洋音楽に関してはフランスでまず革命が起こり、次いでロシアでダメ押しの大きな革命が起こったことが社会思想改革の歴史と似ているのは偶然なのだろうか。

ともかく、ラヴェルの音楽はドビュッシーの影響を受けたかどうか知らないけど、ドビュッシーに比べると調性拡大が進んでいるため、作品によっては馴染みにくいものもある(これは僕が進んで聴いていないせいもあるけど。)。リズムに関しても短期間ながらアメリカ滞在のせいかジャズの影響を受けていると言われる。
そして、管弦楽作品については、「管弦楽の魔術師」と言われる多彩で華麗な管弦楽技法を駆使したものが多い。

その代表が、ピアノ協奏曲だ。
技術的には相当困難らしいが、ちょっととっつきにくいけど何度か聴いているうちに面白みが分かってきた。
叙情的な第2楽章が終わり、間をおかず雪崩れ込む第3楽章が元気いっぱいで賑やか。ここにこそジャズっぽいシンコペーションがふんだんに用いられ、後のストラヴィンスキー風でもある。後年伊福部がゴジラの音楽で借用した(偶々似たものになったのかもしれないけど。)フレーズが混じっているのも楽しい。

ジャン・イヴ・ティボーデは師匠がラヴェルの友人だったということで、とりわけこの曲を好んで弾いているそうだ。巧さについては名人芸というほか分からないけど、実に楽しんで弾いているふうではあった。

最後は大一番のベルリオーズ。
「幻想交響曲」は、ラヴェル(ピアノ協奏曲=1931年)からは100年も前、ドビュッシー(牧神~)からも60年ほど前の作品だ。
ベルリオーズは革新的なフランス管弦楽の源流を創りだしたと言われる。
ベルリオーズはベートーベンより一世代(33歳)若いが、ベートーベンがミサ・ソレムニス、最後の交響曲「第九」、第12番以降の最後の弦楽四重奏曲群、最後の3曲のピアノ・ソナタを書いたのが1822年~26年(27年没)だということを考えると、ベルリオーズは時期的にはベートーベンからバトンタッチするようにして作品を発表し始めたことになる。
両者に交流があったかどうかは知らないけど、ベートーベンの交響曲第3番「英雄」のパリ初演がベルリオーズの「幻想交響曲」作曲のきっかけになったそうだ。


2人には一世代の年齢差、ウィーンとパリという活動地域の違いがあるにしても随分音楽が異なるのはどういう理由によるのか理解していないけど(「幻想」は「第九」から6年しか経過していない。)、ベルリオーズの音楽は完全にロマン派とはこれだ、と言わんばかりに絶対音楽とは訣別している。

この曲は特にストーリーに沿って作られているので、音楽が情景や心理を描写し、とても劇的な展開だ。
それを多彩な管・打楽器を繰り出した大規模管弦楽で華麗に、また力強く聴かせてくれるので、オーケストラを聴くという醍醐味を堪能させてくれる。

普段のN響より一層力が入っている様子で(いつも入れて欲しいが)、「怒りの日」を主題にした強烈な全楽器のけたたましい合奏がクライマックスを迎えて終曲した時に大きなカタルシスがあった。


♪2015-99/♪NHKホール-10