2015-09-18 @県立音楽堂
青木淳(建築家)
松隈洋(建築史家・京都工芸繊維大学教授)
水沢勉(神奈川県立近代美術館館長)
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藤原真理:チェロ
倉戸テル:ピアノ*
・G.カサド: 「親愛の言葉」
・J.S.バッハ:「無伴奏チェロ組曲 第1番」から前奏曲 BWV.1007
・J.S.バッハ:「主よ、人の望みの喜びよ」 BWV.147
・ファリャ:「6つのスペイン民謡」より ホタ
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アンコール
・J.S.バッハ:チェンバロ協奏曲第5番ヘ短調BWV.1056から第2楽章「アリオーソ」
・サン・サーンス:白鳥
県立音楽堂は昨年還暦を迎えたが、確か、その前年?から「音楽堂建築見学会」が開催されていたようだが、全然気が付かなかった。
同種の催しには一度参加したが、建築と音楽の関係が論じられたけど、僕の関心である音響的特性については触れられなかった。
今回も同様だったが、改めて設計者前川國男の設計思想の片鱗に触れて、なるほど建築設計というのは奥の深い世界だな、と感心できたのは良かった。
さて、今回の楽しみは、建築学レクチャーの後のミニコンサートだ。過去7回の音楽家ゲストには仲道郁代、吉野直子など錚々たる顔ぶれで、今回は藤原真理さんだ。
僕にとっては、重要人物だ。
初めて買ったバッハの無伴奏チェロ組曲のCDは彼女の演奏で、多分25年前だ(今は新録音のほかにこの古いCDの復刻版?も出ているようだけど)。擦り切れんばかりに繰り返し聴いたので、バッハの無伴奏チェロ組曲と言えば、彼女のフレージングやアーティキュレーションがこびりついている。
その後、御大カザルス、ミーシャ・マイスキー、ジャン・ワン、鈴木秀美を入手したが、いつも基本は(カザルスではなく!)藤原真理だ。
ほかの演奏家がつまらない訳では決してないけど、誰を聴いても、あ、ここがちょっと違う…などと感じてしまう。藤原真理の演奏は僕にとってメートル原器ならぬ、バッハ無伴奏原器になっているのだ。
そんなに長く親しんできたのに、ナマを聴いたことがなかった。ご本尊を拝顔する機会がなかった。
それがこんな建築学講義のオマケのような形で機会を得るとは思わなかったが、むしろ、このような形であって良かった。
指定席だが、予約開始とともにチケットを買ったのでセンター前から5列目という室内楽やソロには絶好(かどうかは人それぞれ。)と思っている席を確保できた。
舞台に登場した藤原真理さん、なんて小さいの。CDジャケットしか見ていないから、まあ、四半世紀分の歴史を背負っておられるのは致し方無いとしても、こんなに小さい人だとは思わなかったからびっくりした。チェロが大きいのだ。
それにほとんど、スッピン?スーパーから買い物をして出てきたおばちゃんの風情だ。笑顔も気取りのない気さくな感じだ。
最初の音でよく響くチェロだと思ったが、彼女のチェロはクレモナで300年以上前に制作されたものだそうだ。製作者については言及がなかった。
2曲め以降は彼女の解説入りで、それも曲目の説明というより、楽器の特性、木の大切さ、そのための環境保護などが中心で、さらに希望する観客(20名位)を舞台に上げてチェロの音がエンドピンを通じて音楽堂の舞台の床にどう伝わるかを体感させたり、客席前方で聴いていたお客に良ければホールの後方に移動して、前でも後ろでも音響に変わりがなく響くはず…だということを体感させた。
僕の列はほとんどが後ろに行ってしまったが、僕は断固自分の席を死守した。動きたくないほど美しい音だったし、最後までそばで聴いていたかったから。
藤原真理さん曰く、「良いホールで良い楽器を良い演奏者が鳴らせば、一番後ろでも良い音で響くはずです」。
まさにそのとおりで、音楽堂の1フロア、全面板張り、コンパクトなホールの音の通りの良さは確かにあまり場所を選ばないことはよく知っている(でも、微妙な違いを感ずる演奏もある!)。
音楽堂は、残響が短いので、下手な演奏、好ましくない楽器ではガサガサと原音が耳障りになる場合がある。
しかし、今日の藤原真理さんの、良い楽器と良い演奏のコンビでは実に妙なる音を音楽堂が響かせるということを改めて体感できた。
彼女の弾くチェロの音は、弦の振動で脂が粉となって飛んでゆく時の、摩擦音が楽音に変化する微妙な両者の共存が聴かせる豊かな音色だ。
チェロの、これほど美しい音を聴いたことは今までになかった。
余談:
前川國男は世界的権威であるル・コルビュジェ(国立西洋美術館の設計者)らに学び、その影響を受けて、戦後の日本の建築界をリードした存在だ。
DOCOMOMO Japanが最初に優れた近代建築20選を定めた際に、前川國男設計の県立音楽堂と音楽堂に隣接する県立図書館が選ばれている。ほかにも、京都会館、東京文化会館(そういえば両者は感じがよく似ているな。)、国立国会図書館、神奈川県青少年センター、紀伊国屋書店新宿店、東京都美術館、東京海上日動ビルディング本館など有名な建築が多い。今では丹下健三のほうが有名だが、彼は前川事務所の出身だ。
♪2015-87/♪県立音楽堂-10