2015年1月14日水曜日

初春歌舞伎公演「通し狂言 南総里見八犬伝(なんそうさとみはっけんでん)」

2015-01-14 @国立劇場大劇場


曲亭馬琴=作
渥美清太郎=脚色
尾上菊五郎=監修
国立劇場文芸研究会=補綴
通し狂言南総里見八犬伝(なんそうさとみはっけんでん)  五幕九場
                                                             
国立劇場美術係=美術


発 端    (安房)富山山中の場
序 幕    (武蔵)大塚村蟇六内の場
        本郷圓塚山の場
二幕目   (下総) 滸我足利成氏館の場
       同   芳流閣の場
三幕目   (下総) 行徳古那屋裏手の場
四幕目   (武蔵) 馬加大記館対牛楼の場
大 詰   (上野) 白井城下の場
      (武蔵) 扇谷定正居城の場


尾上菊五郎⇒犬山道節
中村時蔵⇒犬坂毛野
尾上松緑⇒網乾左母二郎/犬飼現八
尾上菊之助⇒犬飼信乃
坂東亀三郎⇒犬田小文吾
坂東亀寿⇒犬川荘助
中村梅枝⇒蟇録娘浜路
中村萬太郎⇒犬村大角
市村竹松⇒馬加鞍弥吾
尾上右近⇒里見家息女伏姫
尾上左近⇒犬江親兵衛
市村橘太郎⇒横堀在村
河原崎権十郎⇒巨田薪六郎
市村萬次郎⇒蟇六女房亀笹
市川團蔵⇒大塚蟇六/馬加大記
坂東彦三郎⇒足利成氏
市川左團次⇒扇谷定正
ほか

「南総里見八犬伝」は、曲亭馬琴が28年の歳月をかけ106冊で完結した大長編伝奇(怪奇・幻想)物語だ。岩波文庫で10巻という。もちろん原作は読んだことがない。しかし、子供の頃に、映画かTVで観た記憶がうっすらとあり、子供用にダイジェストしたものは読んだので、およその話は知っていた。


今回の鑑賞を前にして、あらすじだけでもさらっておこうとしたが、適当な記事が見当たらず、あらすじと言っても長編すぎたり、逆に誠に簡素な紹介だったりで、ピタッと来るものはない。特に歌舞伎では原作を相当端折っているはずだから、その歌舞伎の筋に合わせたような物語解説や見どころ説明が欲しかったが、ついに見当たらなかった。
そんな訳で、昨日は、これでは楽しめるかしら、という不安を抱えつつ出かけた。

しかし、杞憂だった。
もちろん、劇場到着後プログラムを買って各幕・場の内容はひととおり目を通しておいた。その程度で、十分に楽しめる。
話が難しくないのだ。とても分かりやすい。歌舞伎にありがちな、<某実は某>というような複雑な関係は3人しか登場しないし、それも敵を欺くために仮の姿に扮しているものなので、混乱することはない。

要は、敵と味方さえ見間違えなければ物語の理解に手間取ることはない。

これは、犬と伏姫の間に生まれた時に玉となって飛び散った八犬士が徐々に集結して行き、お家再興を図るという活劇だ。

目で楽しむ歌舞伎としては(物語の妙、と言う点では他に譲るが)、僕がこれまでに見た演目では最高に素晴らしい。


見どころはいくらもある。
序幕:本郷圓塚山の場
雪に覆われた圓塚山は全景が真っ白だ。
初めて犬山道節(菊五郎)の火遁の術が披露されるが、まず、これにびっくりする。国立劇場でもここまでやるか!
真っ白な背景の中で真っ赤な炎の色彩対比がすばらしい。

同じ場の最後に金襴緞子に身を包んだ八犬士が勢揃いする。
筋とは関係がない。幻想的な場面だ。所謂だんまりの類と言っていいのではないか。それぞれが見得を切ってみせる実に贅沢な美しい場面だ。

二幕目:芳流閣の場
舞台装置が見事だ。舞台いっぱいに芳流閣の大屋根が作られている。灰色の瓦に白い漆喰模様がきれいだ。その上で犬塚信乃(菊之助)が大勢の捕手に追い詰められる大立ち回りだが、信乃の衣装も捕手の衣装も赤を主体にしていて、この大屋根のグレイトーンの中で、とても美しく映える。

切っても、投げても、討っても、捕手は次々と現れる。
やがて乱闘のさなか舞台が回り、こんどは緑青の銅葺きの大屋根が現れ、ここでも色彩のバランスが渋い。

やがて、まだ、犬塚信乃とは味方同士とは互いに知らない犬飼現八(松緑)が捕手に代わって信乃を追い詰めるのだが、勝負がつかないまま大屋根からもんどり打って利根川に落ちる(ところは演じられなくて幕が引かれる)。

大詰め:白井城下の場
ここでも、道節の火遁の術が披露されるが、これがいっそうすごい。息を呑むような見事な舞台美術にもう唖然とする。
スーパー歌舞伎もびっくり!というところだ。

今回の演出には監修も担当している菊五郎の意向が反映されて、季節感の明確化、その視覚化に工夫が凝らされている。

プログラムに掲載された<補綴のことば>として「初芝居として『八犬伝』を題材にした極彩色の絵本を楽しむ感覚で、お楽しみいただければ幸いです。」と結んであったが、まさにそのとおりに存分に楽しむことができた。

ギリギリまで演出に工夫が加えられたのだろう。大詰めでは筋書きや登場人物に微修正が施され、その変更がプログラムに1枚紙で挟みこんであった。


なお、「南総里見八犬伝」の上演は国立劇場では24年ぶり4回目で、奇しくも今回は「南総里見八犬伝」刊行開始200年という節目だそうな。


♪2015-5/♪国立劇場-01