2017-10-11 @新国立劇場
ワーグナー:楽劇「ニーベルングの指環」第3日〜神々の黄昏〜
指揮:飯守泰次郎
演出:ゲッツ・フリードリヒ
美術・衣裳:ゴットフリート・ピルツ
照明:キンモ・ルスケラ
読売日本交響楽団
新国立劇場合唱団
二期会合唱団
ジークフリート⇒ステファン・グールド
ブリュンヒルデ⇒ペトラ・ラング
アルベリヒ⇒島村武男
グンター⇒アントン・ケレミチェフ
ハーゲン⇒アルベルト・ペーゼンドルファー
グートルーネ⇒安藤赴美子
ヴァルトラウテ⇒ヴァルトラウト・マイヤー
ヴォークリンデ⇒増田のり子
ヴェルグンデ⇒加納悦子
フロスヒルデ⇒田村由貴絵
第一のノルン⇒竹本節子
第二のノルン⇒池田香織
第三のノルン⇒橋爪ゆか
1989年の11月にサヴァリッシュがバイエルン国立歌劇場で「指環」全曲を演奏した際に、NHKが世界で初めてハイビジョン収録した。それを当時のBS2で放映したのが翌年だったと思う。その時に、当時としては最先端技術の録画規格Hi8+PCM録音で録画した。そのSONYのビデオデッキは市販品としては最高額で、清水の舞台から飛び降りる決意で購入したのも、ハイビジョン収録の「指環」を全曲録画したかったからだ。
その後、何年か経過してその高価なデッキが壊れ、PCM録音を再生できるデッキが無くなってしまったが、こういうこともあろうかと壊れる前にVHSにダビングしておいたのが残った。その後、ビデオテープ再生環境も無くなってしまったが、その前に今度はDVD-Rにダビングしておいたので、これは今も残っている。ダビングを繰り返したので映像も音声も放送時の状態とは比べ物にならないくらい酷いが、今では貴重な宝物だ。
今では、METやラノスカラ座、バイロイト祝祭劇場その他での公演のビデオをブルーレイやDVDで何組も持っているけど、同一の演出、指揮、歌手、オケで全4部作を通したものはこの1989年サヴァリッシュ版だけだ。
このサヴァリッシュ版による「指環」体験が、その後ワーグナーのオペラへの関心を惹起させ、さらにオペラ全体への興味を高めさせた。
いろんな演出・指揮等による数種類の「指環」を楽しんできたが、2015年10月までは一度もナマの舞台を観たことがなかった。4部作を順を追ってナマ舞台で公演するという機会は極めて少なかったように思う。
2015年10月から、新国立劇場で始まったシリーズでようやく初めて「指環」と対峙できるようになった。新国立では過去2回公演しているが、いずれも4部作を聴き通せる環境になかったので、リタイアを機に長年の希望が叶った次第だ。
「ラインの黄金」は2015年10月。
「ワルキューレ」は2016年10月。
「ジークフリート」は2017年6月。
そして、2017年10月の「神々の黄昏」で3年がかりの「指環」が完結する
*。
指揮者は全作ともワグナーならこの人!飯守泰次郎だ。
オケは東フィルが2回、東響、そして読響と変わった。
4部作を観終えて、圧倒されたのはやはりワーグナーの精緻で巨大な音楽だ。物語は不完全な脚本のせいか、壮大な哲学の深淵に当方が届かないせいか、何とおりもの解釈が成り立つ。だからこそ、演出によって全体の雰囲気が微妙に異なってくる。
いつも疑問に思うのは最後にブリュンヒルデが火の中に身を投じた後、その火はヴォータンのヴァルハラ城をも燃やし尽くす…はずだが、どちらにせよこうして既に「黄昏れていた神々」の世界がなくなった後に、他の世界(人間界、ヴェルズング族、ニーベルング族、ラインの乙女たち)には平和が訪れるのだろうか?ブリュンヒルデの自己犠牲はイエス・キリストのように他の世界の人々の愛による救済になったのだろうか?
これまでいろんな演出の「指環」を観てきたが、どれもはっきりしない。初体験であったサヴァリッシュ版(ニコラウス・レーンホフ演出)では何もかも終わってしまうような演出だったが、これではブリュンヒルデの死が虚しい。
今回の演出でも、すべては火と水に飲み込まれてしまうようでもある。ただ、身を投げてうずくまったブリュンヒルデは舞台と一体化するように大きな布を全身で被っていたが、それが彼女の死を意味すると思っていたところ、最後には彼女がその布を両手で持ち上げ、上半身を起こすのだ。これは、命は失ったが、代わりに世界は救済されたという暗示ではないだろうか。ともかく、無駄死にではないということが示された終幕であった。それを観て、長い時間の緊張状態が解けて、ほっと安堵したものだ。
それにしても、「指環」は奥が深い、とあらためて思い知らされる。音楽は、決して歌えるような音楽ではないのに素晴らしい。
ベートーベンの「第九」と同じく、ワーグナーが「指環」を書き遺してくれたことに感謝だ。
*今年は、「指環」の当たり年で、4月にはマレク・ヤノフスキ+N響の演奏会形式での「神々の黄昏」を、5月にはピエタリ・インキネン+日フィルの演奏会形式での「ラインの黄金」を、同月に新国立で「ジークフリート」のハイライト版を、6月には新国立での今回の「指環」シリーズの第3作目である「ジークフリート」を鑑賞した。いずれも素晴らしく、我が内なる「指環」熱をいやが上にも高揚させてくれた。
♪2017-162/♪新国立劇場-07