2016年3月5日土曜日

神奈川フィルハーモニー管弦楽団定期演奏会みなとみらいシリーズ第317回

2016-03-05@みなとみらいホール


尾高忠明:指揮
宮田大:チェロ*
神奈川フィルハーモニー管弦楽団

E.エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調 作品85*
W.ウォルトン:交響曲第1番 変ロ短調
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アンコール
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番から「ブーレ」*
E.エルガー:エニグマ変奏曲作品36から第9曲「ニムロッド」

指揮の尾高忠明は英国音楽に造詣が深いそうだ。それでエルガーとウィリアム・ウォルトンの作品が取り上げられたのだろう。結果的にはアンコール(管弦楽)もエルガーだったので、宮田大のアンコールがJ.S.バッハではなく、ブリテンの無伴奏組曲をやってくれたら完璧だったのに惜しい。

エルガーのチェロ協奏曲は、出だしがチェロの独奏で、まるでバッハの無伴奏曲のように始まるが、そのチェロの音がただものではない。楽器はストラディヴァリウスだそうだが、そうと知っているから余計にきれいに聴こえたのかもしれないけど実に惚れ惚れする魅力的な音だ。また、聴いてみたい。

独奏チェロだけではなく、この日の神奈川フィルは弦の音がきれいなのに驚いた。


さて、ウォルトンという作曲家の名前は初めてだった。
その音楽については、放送や映画で彼の音楽を聴いているのかもしれないのだけど、意識して聴いたのは今回初めてだ。

1983年まで生きていた人だから現代作曲家だが、今回の交響曲第1番を聴く限りでは、調性のある音楽で、ところどころ刺激的な不協和音が使われるけど、全体として馴染みやすい。というより、まるで映画音楽のようだった。

1935年に完成したそうだから、第2次世界大戦前夜だ。
そういう時代の雰囲気を表わそうとしたのか、全体に非常に劇的で重苦しい。とくに第1楽章では、僕は「ベン・ハー」の海戦シーンを思い出した。

第2楽章と第3楽章は古典の形式に照らせば入れ替わっている。

第2楽章はテンポの速いスケルツォだが「邪気を以って」という発想記号が付いているそうだ。確かに不気味な曲調だ。
第3楽章がアンダンテだがこれにも「憂鬱なアンダンテ」と記されているという。テンポはゆっくりだけど、曲調はやはり暗く、時に激しい。

終楽章は前全3楽章の重苦しさを吹き飛ばしそうな予感を与えて始まる。
ティンパニーは2セット並んでいるが、2つ目の出番はようやく終楽章の中盤以降だ。銅羅も同じくここに来てようやく使われる。
緊張感は益々高まりいよいよクライマックスか…と思わせて、なかなかたどり着かない。終曲をうんと引き延ばした感じのジリジリさせる打撃音が何回か続いて、遂にダウンする。

やはり、全曲、劇的緊張感が漲っていて気の休まる部分はなく、翻弄され続けて、終曲してようやく気分が解放されるという意味ではカタルシスだが同時にドッと疲れが襲ってくる。

しかし、館内の大きな拍手歓声は、かつて神奈川フィルの演奏会で聞いたことがないものだった。
確かに、この日の神奈川フィルは弦の音が澄んで弱音もきれいだった。ホルンがいつになく見事なハーモニーを聴かせてくれた。
一曲入魂というか、高い集中力を維持してこの激しい大曲を演奏しきった。

演奏する音楽によっても演奏の出来は異なって聴こえるが、指揮者の力量もあったのかもしれない。

演奏後、尾高氏が客席に向かって話しかけ、神奈川フィルを初めて指揮したのは10年前だが、今日、こんなにも成長した、といった趣旨だったと思う。

これほどの重厚長大曲を演奏した後にまさかアンコールを演奏するとは思わなかったので尾高氏が再び指揮台に立ったのには驚いた。
その曲がエルガーのエニグマ変奏曲からその第9変奏「ニムロッド」で、これがなんとも美しく、会場はしばし幸福感に包まれた。


神奈川フィルにとっては歴史に残る演奏会となったろう。
僕にとってもこれは記憶に刻み込まれたと思う。


♪2016-025/♪みなとみらいホール-08