2018年6月16日土曜日

神奈川フィルハーモニー管弦楽団定期演奏会みなとみらいシリーズ第340回

2018-06-16 @みなとみらいホール


高関健:指揮
神奈川フィルハーモニー管弦楽団

アルセーニ・タラセヴィチ=ニコラーエフ:ピアノ*

シチェドリン:ベートーベンのハイリゲンシュタットの遺書−管弦楽のための交響的断章−(日本初演)
ベートーベン:ピアノ協奏曲第3番ハ短調 Op.37
ベートーベン:交響曲第3番変ホ長調 Op.55「英雄」
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アンコール
ラフマニノフ:楽興の時 作品16 第6番ハ長調

ベートーベン・プログラムと言っていいかな。
作品だけでなくその作曲家の名前さえ初聞きのロディオン・シチェドリンの「ベートーベンのハイリゲンシュタットの遺書−管弦楽のための交響的断章−」から始まって、ベートーベン本人!作のピアノ協奏曲第3番と交響曲第3番のカップリングだった。

まずは最初の作品には色んな面で驚いた。
シチェドリンは1932年生まれのロシア人。現役の作曲家だ。まあ、知らなくても当然か。本作の作曲年は分からないが、世界初演が2008年。因みに今日が日本初演だ。
現代の作品なので、とんでもない無調音楽かと思ったが、調性が拡大されている程度で、聴きやすかった。なかなか面白い作品だったが、Youtubeで探しても出てこない。

ベートーベンが1802年に書いたハイリゲンシュタットの遺書(決意表明?)を経て生き返ったように交響曲第3番以後傑作を生み出すのが1804年からの10年間で、ロマン・ロランはこの時期を「傑作の森」と名付けたそうだ。
シチェドリンの音楽は当然この経緯を踏まえて作曲されており、難聴という苦悩に訣別して傑作の森への過程が音楽になっている訳だ。ゆえに交響曲第3番の冒頭のテーマを示して終曲を迎える。

演奏もなかなかまとまりが良かった。

次のピアノ協奏曲第3番(完成は1803年)はまだ25歳というロシアのイケメンニコラーエフの独奏だった。この人も初めて。
この第3番までは、冒頭はまだ古典派風にオケの前奏で始まる。そのオケの音の良さにびっくりした。第1曲めは初めて聴く現代音楽なので、弦楽アンサンブルを味わうゆとりがなかったが、聴き慣れたベートーベンでは、はっきりと<管弦楽>の響の良さが分かった。これについては「英雄」のところで書こう。
取り敢えず、オケは別としてニコラーエフのピアノにもびっくりした。いつも同じホールの同じ席で同じスタインウェイを聴いているのだけど、今日の音はいつもと違った。実に美しい。まさか、タッチの差でかくも音が変化するとは思えない。

聴手の体調、外気温湿度とホール内の空調、お客の入り、ピアノの調律・整音などが微妙に絡み合って、時に素晴らしい音を聴くことができるのだろう。
強打音がカーンと抜けるような心地良さを久しぶりに聴いた。

最後の「英雄」がオケの素晴らしさを一番良く物語っていた。
管弦のアンサンブルの良さは、ピアノの音質に影響する色んな要素が同じように働いたのかもしれないが、それだけではなかろう。よく弾き込んだ音楽であるという理由も加えて良いかもしれないが、やはり、指揮者高関健が入念なリハをやって磨き上げたのだろう。

特に第2楽章など嫌味にならない限度で微妙に揺れるテンポも指揮者とオケが同じ呼吸をしていたからこそピタリと決まっていたのだと思う。

どこのオケでもそうだが、時々すごい実力を見せてくれることがある。この日の神奈川フィルはもうN響もびっくりの分厚くて透明感のあるアンサンブルだった。

♪2018-071/♪みなとみらいホール-18