2017-08-10 @ミューザ川崎シンフォニーホール
園田隆一郎:指揮
郡司菜月:バイオリン*
昭和音楽大学管弦楽団
シャブリエ:狂詩曲「スペイン」
ラロ:スペイン交響曲
ラヴェル:スペイン狂詩曲
ラヴェル:ボレロ
昭和大学のオケはなかなか上手だ。それにプログラムが僕の好みを直撃しており、フェスタサマーミューザ2017の全11回のコンサートの中でどのプロオケよりも楽しめそうという点で期待度が1番だった。
「灼熱のスペイン」という副題どおり、オール・スペイン音楽だが、いずれもスペイン人作曲家によるものに非ず、すべてフランス人作曲家によるものばかり。
スペイン人が作曲するより他国民が作曲した方が、あこがれも含んでスペインらしさが濃厚になるような気がする。
このプログラム構成に記憶があるなあと、これは帰宅後確認したら、昨年の同じフェスタサマーミューザで上岡敏之+新日本フィルで聴いたのとほぼそっくり。この時は「スペイン交響曲」の代わりにビゼーの「アルルの女」第1組曲とリムスキー=コルサコフ「スペイン奇想曲」が演奏されたが、他の3曲は同じで演奏順も同じ。リムスキー=コルサコフは言うまでもなくロシア人なので、この時も全曲が非スペイン人によるスペイン音楽だった。
そんな訳で、本日は2番煎じではあるものの4曲とも耳に馴染んだ名曲揃い。
中でも前回は聴けなかった大曲「スペイン交響曲」こそ、その本日の白眉となるはず…だったが。
バイオリン独奏の郡司菜月嬢。昭和音大の2年生という。全国学生音楽コンクールの入賞歴も、オケとの共演歴もあり上手だ。
でも、同じ場所で前日に小林美樹+日フィルを聴いていただけに、プロとアマの差は歴然とした。
演奏技術という点では、やや音圧が不足することを除けば不満はないのだけど、何より「官能とメランコリー」が不足する。真っ赤なドレスもそれを補うことはできなかった。
終楽章に至って、ようやく「スペイン」らしさを味わったが、えらく端正で教科書を開いているような音楽だったのが残念だ。まだ20歳ではやむを得ないのかもしれない。
そこで前半が終わり、休憩を挟んでラヴェルが2曲。
「スペイン狂詩曲」が始まると、もう、前2者とは管弦楽技法に明らかな相違を感じた。ラヴェルはシャブリエやラロとはほぼ30歳から50歳若い。その時代の差もあるのだろうが、やはり、感性の違いなのか。
第1バイオリンのパートを2分割したり3分割したりして、弦だけでも微妙な味わいを引き出している。他のパートでもやっていたかどうかは分からなかったが、一事が万事で「管弦楽」の表現世界を格段に煌びやかにしている。
昨年、新日本フィルで同じプログラムを聴いた際にそんな感慨は持たなかったのは直前が派手な「スペイン奇想曲」だったせいで気づかなかったのかもしれないが、僕の聴く耳も進歩しているのかも知れない。
最後は「ボレロ」。
この作品は聴く機会が多いが、昨夏の上岡敏之+新日本フィルがマイ・ベストだ。その後も今回までに既に他のオケで3回聴いてすべてそれなりに楽しんだが上岡ボレロを超えるものはなかった。
しかし、4回目に当たる園田+昭和音大ボレロはかなり肉薄したのに驚いた。
演奏時間16~7分だが、最弱音から始まって最強音で終わるまで、同じリズム、同じメロディがクレッシェンドしながら続くので、冒頭のスネアドラムの刻むリズムが絶対に大きすぎてはいけない。客席が息を潜め耳を澄まさなければ聴こえないくらいの最弱音が期待される。最初のメロディを奏でるフルートも思い切り小さな音でなければ終盤に向かっての長大なクレッシェンドの緊張感を維持することができない。
上岡ボレロはそこを徹底したところが素晴らしかったが、昭和音大の始まりのスネアの音も見事に小さい。あんなに弱音で正確なリズムを刻むことは難しいはずだが、上手に刻んだ。続くフルートはどうか。これもうんと小さな音で始まった。次のクラリネットも。かくして、弱小にスタートした音楽は2小節毎繰り返されるリズムに乗って、原始脳を刺激する官能的な音楽を繰り返しながら成長を続け遂に終盤の大クライマックスを迎えた。
誰が演ってもハズレなしの名曲とはいえ、アマオケとは思えない技量を聴かせ、大満足をしたものである。
♪2017-138/♪ミューザ川崎シンフォニーホール-23
シャブリエ(1841-1894)
ラロ(1823-1892)
ラヴェル(1875-1937)