石田泰尚:バイオリン
門脇大樹:チェロ
津田裕也:ピアノ
ベートーベン「ピアノ三重奏曲」全曲
Part 1
第1番変ホ長調 Op.1, No.1
第2番ト長調 Op.1, No.2
第3番ハ短調 Op.1, No.3
第4番変ロ長調「街の歌」Op.11
Part 2
第5番ニ長調「幽霊」Op.70, No.1
第6番変ホ長調 Op.70, No.2
第7番変ロ長調「大公」Op.97
ベートーベンイヤーの開幕にふさわしいベートーベン:ピアノ3重奏曲全7曲の<全曲演奏会>だ。
拘束6時間30分。
夕食中断を除いた正味が4時間15分と、ワーグナー「神々の黄昏」も吃驚の長尺演奏会。
そしてかくも長いにもかかわらず、一瞬もダレルことがない。これほど高密度の演奏会は極めて稀だ。
まだ1月13日にして、既に2020年のベストかも!
いや、この演奏会を超えるものが一度も聴けないなんてそんなことがあっては情けない。せめて同率ベスト5くらいに収まって欲しいが、そんな気持ちにさせる得難い音楽体験をさせてもらった。
このトリオ、特段トリオ名がないようだ。今回、この演奏会のために編成したトリオである。とは言え、石田・門脇は同じ神フィルの仲間。津田は石田との共演が多い。門脇と津田はトリオ・アコードの面子で白井圭が石田に変わったのが今日のトリオだ。
いずれも気心知れた仲間で完璧なまでの合奏力。
徹頭徹尾丁寧で美しい音色で全曲通す石田のバイオリン。
門脇のチェロもピアノ低域と溶け合うユニゾンなどゾクゾクさせる。
この演奏を素晴らしい響のみなとみらい小ホールで聴けたことも幸運だった。
石田と白井圭とは趣が違うがこのトリオも是非再度聴いてみたい。
それでいて、順番どおり聴いてゆくと一つの大伽藍が完成するような気になる。
そして最後の大物「大公」はなんと豊かな楽想だろう。ピアノ・トリオの最高傑作と言われているが、今日の演奏を聴くとまさしくそのとおりで、チャイコフスキーやメンデルスゾーンなど他にも好きなピアノ・トリオはあるが、やはり音楽性、格式など、到底「大公」に太刀打ちできるものではなく、次元の異なる楽しみとして聴くべきだと強く思った。
第7番「大公」は全7曲中でも一番有名で聴く機会も一番多かったが、今日は引き込まれて集中したから発見も多かった。
第2楽章の冒頭のVcの旋律が変ロ長調の主音から始まる上行音階そのままを絶妙に刻んだものだとは!ベートーベン交響曲1番の終楽章も似た趣向だが、あれは属音から少しずつ小出しに上行する仕掛けなので聴いていてもすぐ分かるが、まさか音階そのままだとは!
第3楽章から終楽章へはアタッカでD長調からBb長調へ転調する。そのままでは繋がりが悪いので最後の1小節はその前小節と同じ音形を使いながら和音が変わる。第3楽章の主和音DからD減7で不安を煽って終楽章B♭の主和音の7th(?)が引き継ぐが真の解決は持ち越し。この和音1つが齎す変化が絶妙で燃えた。
いやはやベートーベンこそ西洋音楽の核心だという平凡な事実をベートーベン漬けの半日で思い知らされた気がする。
♪2020-005/♪みなとみらいホール-01