2014年6月30日月曜日

みなとみらいクラシック・クルーズ Vol.57 MMCJ講師たちによる室内楽

2014-06-30  @みなとみらいホール


ジェニファー・ギルバート(バイオリン)
ハーヴィー・デ・スーザ(バイオリン)
柳瀬省太(ビオラ)
鈴木学(ビオラ)
ニコラ・アルトマン(チェロ)
エリック・キム(チェロ)

司会:大谷直人

チャイコフスキー:弦楽六重奏曲 ニ短調 op.70 ≪フィレンツェの思い出≫

MMCJ(ミュージック・マスターズ・コース・ジャパン)というのは、指揮者の大友直人とアラン・ギルバート(この人も指揮者)が創設した国際音楽セミナーで、世界中から集まった若い演奏家たちが、トップクラスの演奏家を講師に室内楽とオーケストラを学ぶセミナーらしい…

ということを、冒頭、司会代わりに登場した大友直人の解説で知った。

今日は、その講師陣によるお披露目演奏会だ。
あいにく知った名前は1人もいないけど、いずれも世界各地のオーケストラで各パートのソロ~首席クラスらしい。
演奏技術だけではなくアンサンブルの面でも練達の士のようだ。

昨日も同じ場所でチャイコフスキーのピアノ三重奏曲を聴いたが、今日は弦楽六重奏曲だ。

チャイコは、ピアノトリオも弦楽六重奏曲も各1曲ずつしか作曲していない。前者は友人の追悼音楽として、後者は某室内楽協会の名誉会員に選出してもらったことへの返礼として作曲されたというから、そもそもこういうスタイルには乗り気ではなかったのだろう。

偶々フィレンツェに滞在中に作曲したので、「フィレンツェの思い出」と副題が付いた。

イタリア滞在中にしては不似合いな短調で、いきなり挑みかかってくるようなメロディーで始まる。
全4楽章にわたって、ピアノトリオに見られるような悲愴的で甘美な旋律は影を潜めている。
どの楽章も安易に胸襟は開かぬといった姿勢で、曲調もコロコロ変化して構造も複雑な感じだ。
もちろん、ところどころにチャイコ印がチラチラ顔をのぞかせるが。

この六重奏曲はチャイコにとっては晩年(1893年〈50歳〉。53歳で逝去)の作で、室内楽としては最後の作品だそうな。
ピアノトリオのほぼ10年後になる。

精神性が一段と高みに辿り着いたようで、おそらく、何ものにも縛られずに思い切り自由に、感性の赴くままペンを走らせたのではないかと想像してみる。



ベートーベンの弦楽四重奏曲も最晩年の12番以降はコロッと様子が異なり、ピアノソナタも最後の3曲はそれまでのものとは明らかに音楽の質が違うと思う。いずれも孤高を追求して自分のためだけに作曲したかのように思えてしかたがないのだけど、チャイコも六重奏の作曲ではそういう境地だったのではないか、とこれは素人の勝手な憶測。

弦楽六重奏曲は弦楽三重奏が二組という構成だから音の交わりが自然ですごくきれいだ。弦楽三重奏や四重奏では出せない厚みのある豊かな響がとても心地よい。

この曲を聴くときは、(現代の感覚に照らせば若くして)老境に至ったチャイコフスキーの精神性と立ち向かうような気迫が求められるように思う。

♪2014-66/♪ @みなとみらいホール-27