2014年6月20日金曜日

平成26年6月社会人のための歌舞伎鑑賞教室「ぢいさんばあさん」

2014/06/20 @国立劇場大劇場


中村扇雀
坂東亀三郎 
中村国生
中村虎之介
中村児太郎  
中村橋之助
      ほか

解説 歌舞伎のみかた   中村虎之介
                                 
森鷗外=作
宇野信夫=作・演出
ぢいさんばあさん  三幕
                   高根宏浩=美術
             川瀬白秋=箏曲    
       
  第一幕  江戸番町美濃部伊織の屋敷
  第二幕  京都鴨川口に近い料亭
  第三幕  江戸番町美濃部伊織の屋敷



1月近い興行の間に2日間だけ社会人を対象とした歌舞伎鑑賞教室が開かれる。と言っても、働いている人のために19時という遅い時刻から始まるという以外は、フツーの歌舞伎鑑賞教室(主として中高生などの団体観賞を意図している。)と変わるところはないし、社会人だからといって、学生用の鑑賞教室に入場できないという訳ではない。
でも、学生ばかりだと、大向うからの掛け声もないだろうし、それでは歌舞伎の雰囲気も出ないし役者もやりにくかろう。
そういうこともあり、今回は社会人のための鑑賞教室を選んだ。

最初に30分位だろうか、歌舞伎解説がある。
歌舞伎一般に関する基礎知識入門編だ。

緞帳が降りたまま客席が真っ暗になり、やがて、客席内から若々しい声が響きそこにスポットライトが当たった。
今日の説明役中村虎之介(扇雀の長男)だ。
よく通る声で、実に明るく愛想よく楽しそうに、歌舞伎の主要な表現方法や下座音楽を実演入りで見せながら解説し、普段は絶対に見られない黒御簾の中や、花道のすっぽん、直径20mもある廻り舞台の全景を見せてくれる。

歌舞伎鑑賞教室は過去の一時期は常連だったので、これらの裏方事情も初見ではないけど、歌舞伎の一舞台が大変な労力をかけて創りだされるということがよく分かって、疎かには観られぬと気持ちが高まる。
歌舞伎を初めて観る人にとっても、親しみを感ずるためにとても良い機会だと思う。

社会人のための鑑賞教室が今回の演目で2日間・2回しか上演されないことや、観劇料が破格に安いので、席はほぼ満席状態であった。

歌舞伎鑑賞教室は、観劇料が安価であるにもかかわらず、薄っぺらいけどプログラムも無料(一般公演の場合は800円。歌舞伎座は1200円!)で、希望者には台本まで無料で配られる。
しかも、橋之助・扇雀といった一流の役者の出演で、手抜きなしの本格的な芝居が観られるのは実にありがたいことだ。



「ぢいさんばあさん」は、おしどり夫婦(伊織=橋之助、妻るん=扇雀)の生き別れと再会の物語だ。
るいの弟久右衛門(虎之介)の不始末に代わって義兄の伊織が京都の勤務になったが、そこで、性悪の同僚を殺めてしまったことから、越前の某家に預かりの身になり、家禄も没収されたのだろう、るんは筑前某家に奥奉公をすることとなって、夫婦は生き別れ状態となる。

そうして37年が過ぎだ。
夫婦の一粒種はとっくに病気で死に、るんの弟も既に亡く、かつて伊織・るん夫婦が平安な日々を過ごした屋敷は久右衛門の息子夫婦が守りをしていた。

ようやく預りの身分が解かれた伊織は江戸へ戻ることになった。間接に連絡を受けたるんも暇を願い出て認められ、その日、七ツをメドに懐かしい屋敷に戻り、再会を果たす。


こういう物語をもし、テレビドラマにすれば30分で終わってしまうだろうが、歌舞伎は3幕、90分?をかけてじっくり見せる。

1幕と3幕は同じ夫婦の屋敷。
しかし、その間に37年が経過しているので、庭の桜も大きく成長している一方で、夫婦はすっかり老人となっている。

留守を守っていた若い甥夫婦の登場も、37年の時の経過を感じさせる(原作にはない)舞台劇ならではのうまい脚色だ。

滑稽味もあるが、夫婦の互いを気遣う心情や再会の喜びが観る者の共感を誘う。
るんが2人の再出発に当たって、2人の息子の墓参りと伊織が切った同僚の墓もお参りしましょう、と言うところがしんみり泣かせる。
たまたま先日観た邦画「ここのみに光り輝く」でも似たようなシーンが感動的だったので、両者がダブって余計に胸を打った。

歌舞伎はすべての所作が踊りのように滑らかで丁寧で、どの瞬間を切り取っても芸が息づいていると思うが、橋之助と扇雀の穏やかな、そしてピッタリと呼吸を合わせた掛け合いに、至福の時を感じた。

帰りの東京駅までのバスの中では、あゝ、そのうちどちらかが要介護認定を受けるんだなあなどと厳しい現実を思い起こしてしまったが。

♪2014-62/♪国立劇場-03