2019-01-13 @ミューザ川崎シンフォニーホール
ロレンツォ・ヴィオッティ:指揮
東京交響楽団
東響コーラス
ソプラノ:森谷真理
メゾ・ソプラノ:清水華澄
テノール:福井敬
バス:ジョン ハオ(アン・リの代役)
ヴェルディ:レクイエム
ヴェルディ「レクイエム」。
モーツアルト、フォーレの作品と合わせて3大レクイエムと呼ばれているが、その音楽的<効果>は他の2作はもとより、知る限りのどのレクイエム(ベルリオーズ、ブラームス、シューマン、デュリュフレ、A.L.ウェッバー等)をも抜きん出ている。
聖書にテキストを求め、一応カトリックのレクイエムの形式をなぞってはいるが、オペラの大作曲家であるヴェルディに相応しく荘厳というより壮大、厳粛というより華麗な大作だ。
特に、ヴェルディの「レクイエム」を代表する第Ⅱ曲「怒りの日」は、古典的なレクイエムの形式に則ったもので、モーツアルトの「レクイエム」でも第Ⅲ曲に置かれた「怒りの日」は非常に印象深い。
が、ヴェルディは「怒りの日」の主題を3度も繰り返し、さらに最終曲にも登場させて、怒り狂っている!かのような激烈な音楽の配置によって「レクイエム」を単なる「鎮魂歌」にはしていない。
尤も、その対比として独唱者によって歌われる「ラクリモーサ(涙の日なるかな)」、「アニュス・デイ(神の子羊)」などの清明な美しさが輝き、とりわけソプラノ独唱と合唱による満を持しての最終曲「リベラ・メ(我を解き放ち給え)」の壮大なフーガのクライマックスが聴き手の心を激しく打つ…というヴェルディの巧みな構想。
さて、今日の演奏。
独唱・合唱・オケによる壮大華麗の一方で精緻精妙なる音楽をヴィオッティが明確な交通整理で信じられないほどの透明感を持って再現した。
早くも今年のベストかと思わせる上出来だ。東響としてもこんなに見事な演奏は記憶にない。
オケは最弱音から最強音までどのパートも埋もれることなく筋を通した感がある。
聖句の繰り返しが多いとしても長大な音楽を全曲暗譜で歌った東響コーラスも立派。
最終曲までの独唱はメゾ・ソプラノの清水華澄が目立つが、その鬱憤を晴らすようにリベラ・メでソプラノ森谷真理が大活躍して感動的フィナーレを歌い上げた。
終曲後、ヴィオッティは20秒ほど祈るような姿勢で休止した。
さもあらん。
観客もここは固唾を飲んで共に呼吸を整えた。拍手やブラボーのフライングもなく完全な終曲を待った。これが一層の感動を誘った。
拍手と歓呼の声は凄まじくカーテンコールは長く強力だった。
多くのプレーヤーがヴィオッティの指名を受けて喝采を浴びたのは当然でいつものとおりだが、今日に限っては大太鼓奏者に館内最強の拍手が巻き起こった。宜なるかな。「怒りの日」の大太鼓の最強音による裏拍打ちがあってこその「レクイエム」だもの。
ヴェルディ「レクイエム」は聴く機会が少ないが、今年は当たり年で来月の神奈川フィルも楽しみだ。
今日のように底力のある演奏家たちが気鋭の指揮者がもたらす化学変化でさらに音楽の高みを極める機会を共にできたことを幸運に思う。しかも、ミューザの特等席で味わうゴージャスな喜び。こんな楽しみを続けていて良いのだろうか、とふと反省の気持ちも…。
♪2019-004/♪ミューザ川崎シンフォニーホール-01