2025-05-14 @東京文化会館
小林沙羅:ソプラノ
福間洸太朗:ピアノ
北村有起哉:朗読
●R.シューマン:
「女の愛と生涯」Op.42から⇒1彼と出会ってから
「ミルテの花」Op.25から⇒24君はまるで花のよう / 7睡蓮の花
●C.シューマン:「愛の春」Op.37から⇒2彼は嵐と雨の中をやって来た
●R.シューマン:「ミルテの花」Op.25から⇒9ズライカの歌
「詩人の恋」Op.48から⇒8もしも花たちが知ったら
●C.シューマン:「愛の春」Op.37から⇒11なぜ他人に尋ねようとするの? / 4美しさゆえに愛するのなら
●R.シューマン:「子どものための歌のアルバム」Op.79から⇒29ミニヨン /「女の愛と生涯」Op.42から⇒4私の指にある指輪よ
●R.シューマン:「リーダークライス」Op.39から⇒12春の夜 /「女の愛と生涯」Op.42から⇒8今あなたは私に初めての悲しみを与えた
●C.シューマン:「六つの歌」Op.13から⇒1僕は暗い夢の中で / 2二人は愛し合っていた / 3愛の魔法
●R.シューマン:「ミルテの花」Op.25から⇒1献呈
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<独唱版世界初演>
●三枝成彰:「愛の手紙~恋文」から⇒
第3曲 伊藤野枝と大杉栄の往復書簡
第9曲 マリー・アントワネットとフェルセン伯爵の往復書簡
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山田耕筰(三枝成彰編):「からたちの花」
R.シューマン:「彼だ!」
前半はロベルト&クララ・シューマンの歌曲を朗読入りで聴かせた。
凝ったプログラムで、2人が結ばれるまでの困難を極めた物語を、簡単な道のりと共に愛の往復書簡で紹介し、節目毎にその情感を表す歌が入る。
1曲終わっても誰も拍手はしない。
とてもそんな雰囲気ではない。ドラマは一瞬の緩みもなく続いているから。
小林紗羅は、時にロベルト、時にクララになり切って愛の喜び、悲しみ、苦しさ、迷いを全身を使って表現するので、ドイツ語の歌詞(プログラムには日本語訳)の意味は正確には分からないが、十分彼らの想いが伝わってくる。
クララの父の結婚大反対を訴訟まで起こして勝利し、遂に結婚に至った(ロベルト30歳。クララ21歳)その前後にシューマンは多くの名曲を作曲しているそうだ。
今日のステージは2人の苦難に満ちた、しかし勝利を勝ち得た良き時代までの作品が歌われた。
締めくくりがロベルトの「献呈」だ。
リッケルトの詩だが、まるでロベルトがクララにありったけの愛を注ぎ込んだような作品で、僕は大好きで、小林紗羅もステージでよく取り上げている。
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ロベルトはほぼ4年後(34歳)に精神病を発症し、46歳で亡くなった。
幸福な時期はわずかに4年に過ぎなかった。
その短くも激しく燃えた幸せを「献呈」は歌っている。
僕は、パブロフの犬みたいにこれを聴くたびにウルウルする。
歌と朗読で、シューマン夫妻の愛の悲喜交々(こもごも)も味わいながら、僕も心の動悸を感じていた。
いい歳をして、愛も恋も無かろう…とニヒルに思い直したりもしたが、すぐ、いや、この歳になっても、人を想う心に感動できる自分を幸福だと思い直した。
そうだ、この為なんだ。
これまでいろんなこと・ひと・ものに夢中になってエネルギーを使ってきたのは、こういう気持ちをいつまでも維持したいからなんだ。ふとそう思ったよ。
第二部も灼熱の愛の往復書簡を歌曲に仕立てた三枝成彰の作品が披露された。
第一部がちょうど1時間で、内容的にも極めて充実した時間だったので、もうこれで終わってもいいのに、と思いながらも聴いてみれば、初聴きばかりだったが、これはこれで面白く聴けた。
客席の三枝氏も盛大な拍手を受けて、和やかに終演した。
今年60回目の鑑賞だが、25年前半のピカイチだったな。
終演後のホワイエでは井上道義氏が難しい顔して話し込んでいた。
♪2025-06/♪東京文化会館-06