2015-06-07 @NHKホール
ステファヌ・ドゥネーヴ:指揮
ルノー・カプソン:バイオリン*
NHK交響楽団
ラヴェル:道化師の朝の歌
ラロ:スペイン交響曲 ニ短調 作品21*
ルーセル:交響曲 第3番 ト短調 作品42
ラヴェル:ボレロ
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アンコール(バイオリンソロ)
グルック(クライスラー/ルノー・カプソン編):歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」から「メロディー」
前日、オール・ロシアプログラムを聴いた翌日はオール・フランスプログラムだった。
指揮のドゥネーヴも、バイオリンのカプソンもフランス人で、完璧なフランス尽くし。因みに次のコンサート(神奈川フィルみなとみらい定期)もオール・フランスときている。まあ、こういうことってあるんだ。
さて、ラヴェルの「道化師の歌」は昔、FMのクラシック放送にかじりついていた頃に確かに聴いた覚えはあったがその後長らく聴いたことがなく、CDも持っていないのですっかり忘れていた。
原曲はピアノのための5曲から成る組曲「鏡」の中の第4曲で、そのタイトルは「Alborada del gracioso」。スペイン語だ。意味は日本語訳のとおり。
曲調はフラメンコの音楽のようで調子が良い点は「道化師」を表しているのだろうけど、あまり「朝」という雰囲気ではない。でも、全篇スパニッシュなのだ。
次が、本来ならメインイベントでもいいような最長大曲のラロの「スペイン交響曲」。
交響曲と言いながら実際は5楽章構成のバイオリン協奏曲だ。
ラロの唯一のポピュラーな作品だと思う。純粋な交響曲も書いているようだが、こちらは聴く機会があるだろうか。
ここで、ルノー・カプソンが大活躍をする。
多分、技術的には相当難しいのだろう。ラロはこの曲を「ツィゴイネルワイゼン」の作曲者として有名でバイオリンの名人でもあるサラ・サーテに献呈し、彼によって初演されている。
「スペイン交響曲」というタイトルはラロ自身がつけたらしい。彼自身スペイン系であったという事情もあるのだろう(ほかにも「ロシア協奏曲」、「ノルウェイ幻想曲」などというタイトルの実質バイオリン協奏曲も書いているが。)。
音楽は、その名のとおりもう出だしから、スペイン色に溢れている。まあ、それだけ親しみ深い。バイオリンの名人芸とド派手な管弦楽を堪能できる。
休憩を挟んでルーセルの交響曲第3番。
作曲家の存在は知っていたけど、彼の音楽を自覚的に聴くのは初めてだった。
なんとなく、現代の作曲家というイメージを持っていたが、ラヴェル(1875年生まれ)より6年早く生まれている。
しかし、音楽は、かろうじて調性(ト短調)を残しているものの、歌えるような旋律はなく、ストラヴィンスキーを思わせるような(いやいや、ストラヴィンスキーの方がまだ歌があるな。)、強烈なリズムの継続と変化に終始する。
それがつまらないかといえば、面白くもあるのだ。新古典主義だそうだが、モダンの手前ぎりぎりのところで踏みとどまっているのだろう。
いよいよ最後はお馴染み「ボレロ」である。
過去何度もナマで聴いているが、何度聴いてもラヴェルが用意周到に準備した巧妙な仕掛け…同じ旋律を何度も繰り返し、その度にメロディー楽器が変わり、編成が増え、音量が増加してゆくが、ボレロのリズムは微動だにしない。そしていやが上にも高まったところで、急転直下様相を変えて終結する。
その間緊張が途切れることなく音楽とともに気分も高揚し、ラストのクライマックスに突如吹っ切れる極度の爽快感がある。それが大いなるカタルシスなのだ。
15分程度の、いわば小品だけど、これこそ一夜のコンサートを締めくくるにふさわしい。
館内は久しぶりに割れんばかりの大歓声と拍手だった。
ドゥネーヴがN響と初顔合わせということもあり、音楽の出来もさることながらようこそN響へ、という観客の気持ちの現われだったろう。指揮者に花束が贈呈されるという、N響のステージではめったにないこともあった。
さらに思いがけない出来事は、首席トランペットの関山幸弘氏にも
花束が贈呈された。最初はボレロの演奏のソリストとして祝福を受けたのかと思ったが、それならもっと他にもたくさんのソロプレイヤーが花束をもらっても良さそうなものだ。
そのうち、指揮者が花束を抱いた関山氏をステージの中央指揮台のそばまで引っ張りだして、拍手を受けさせたので、言葉での説明はなかったけど、ああ、彼がこれで定年退職するんだということが分かった。
N響6月定期はこの後BプログラムとCプログラムが開催されるので、それらに彼が出演するのかどうか知らないけど、Aプログラムのコンサートとしては最後の出演だったわけだ。
テレビのN響コンサートでもほぼ毎回のように顔を見せ、素晴らしい演奏を聴かせてくれたので、これからはN響のステージでは(客演があるかもしれないが)ほぼ聴くことができなくなるのだろう。惜しいことだ。
ま、後を継ぐ人達も優れた人ばかりだと思うけど。
あ、ボレロまで聴いて気づいたのだけど、ボレロはスペイン風バレエ音楽として委嘱を受け作曲されたものだ。
すると。この日のフランス音楽集は、ルーセルを除けば、3曲ともフランス音楽と言いながら、実はスパニッシュの香り高い音楽ばかりだったのだ。そういう目論見だったのか、偶然だったのか、分からないが、まあ、フランスとスペインは国境を接しているし、同じラテン系だから、音楽の成り立ちも同根の部分が多いのだろうとは思うけど。
♪2015-54/♪NHKホール-05