2015-02-08 @NHKホール
パーヴォ・ヤルヴィ:指揮
アリサ・ワイラースタイン:チェロ
NHK交響楽団
E.エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調 作品85
マーラー:交響曲 第1番 ニ長調「巨人」
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アンコール
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番から「サラバンド」
パーヴォ・ヤルヴィは過去にもN響に客演しているそうだが放送で聴いたかもしれないけど記憶に無い。
今月の定期3公演といくつかの定期外でN響を指揮するが、これは10年ぶりだそうだ。
懐かしさを覚えるコアなファンでなくとも今年9月からN響の首席指揮者に就任するというからには、観客の期待は大きい。
僕も当然期待する。
と言っても、パーヴォ・ヤルヴィのことはなんにも知らないし、指揮者の解釈の違いが演奏の違いとして聴き取れたところでそれぞれが極めた(あるいは極めつつある)音楽に不満を感ずるような才覚はないし、少し変わっておればそれはそれで音楽を聴く楽しみなので、N響の首席に誰が座ろうと僕の音楽生活に大した影響はないので、期待と言っても、団員と良い関係を築いてほしいというくらいかな。
むしろ、N響の団員こそパーヴォ・ヤルヴィに期待するところ大きいだろうし、パーヴォ・ヤルヴィもN響に大きな期待をかけているに違いない。
今日は、そんな、いろんな期待がホール全体を確実に支配していた。
プログラムのメインはマーラーの所謂「巨人」だ。
マエストロのプレ・デビューにふさわしい大曲で、オーケストラも約100人の大規模編成だ。
マーラーはどうも苦手でなかなか好きになれなかったのだけど、最近、ナマで聴く機会が増えて、この苦手意識がだんだん薄れてきた。
特に第1番「巨人」は全10曲の交響曲の中でも一番耳に馴染んでいるだろう。
一応の完成をみた1888年3月はマーラーがまだ27歳だった。
それにしては堂々としているのは、その後も96年に現行の4楽章交響曲として完成*するまで何度も手を入れているからかもしれない。
その割に、第4楽章が前3楽章と様子が変わって青年らしさが爆発するのは受け入れられるとしても、構成が甘くて結果冗長に過ぎる不満は払拭できない。
それでも、親しみやすいメロディがそこここに噴出し、刺激的なクライマックスで大いにカタルシスが得られる。
今日、しっかり耳を澄ませて聴いたが、改めて、マーラーの旋律がとてもドイツ的**で、民謡なども取り入れているのだろうか。部分的にはベートーベンと聴き違えそうな旋律が混じっている。
帰宅後スコアを見ると、第一楽章の冒頭ひたすら鳴り続けるAの音(7層構造だ。最終的には56小節も続く。)に乗せてAEと4度で下がる鳥の鳴き声のようなフレーズは、ベートーベンの「第九」の第1楽章と非常によく似ている。ベートーベンとの類似性はマーラーを聴く際の一つの手がかりになるのかもしれない。
さて、そのクライマックスがいよいよ最高潮に達して、ティンパニーの長い長い連打と金管の咆哮が聴衆を焦らせながらついに沈黙した時、館内の拍手と歓声はこれまで聞いたことがない大きさで轟いた。
ブロムシュテットのコンサートも熱気がすごかったが、その何倍にも達しようかと思われるほどの興奮と大音響で、僕も、一緒に声をかけたいような衝動に襲われた。
始まる前に館内に漲っていたあれやこれやの期待は、見事に満足を得たのだ。
パーヴォ・ヤルヴィへの熱い歓迎の気持ちがマーラーが与えた高揚感そのままに全聴衆にもオーケストラ団員にも乗り移っていたようだ。
エルガーのチェロ協奏曲は、「威風堂々」や「愛のあいさつ」を書いた同じ人とは思えないほど全篇悲壮感が漂う。病床で作曲したということも影響しているのかもしれない。
全4楽章(第1楽章と第2楽章は連結演奏)はいずれもチェロのソロカデンツアかオーケストラを従えたチェロの演奏で始まり、ほとんど休むこと無く独奏チェロが鳴り響いている。オーケストラは終始控えめで協奏曲というより管弦楽伴奏付きチェロ組曲のようだ。
真っ赤な肩出しドレス?を纏った妖艶な雰囲気のアリサ・ワイラースタインのチェロは良く鳴って不満なし。
ところが、アンコールで弾いたバッハは表情過多のような気もしたが、サラバンドは同組曲で使われている他の舞曲に比べてテンポが非常に遅いのでそのようになりがちではある。好みの問題というか、これも「馴染み」の問題かもしれない。
* この時点で標題「巨人」は使われなくなった。ただの「交響曲第1番ニ長調」になった。
にも関わらずマーラーの意向に反して今でもプログラムなどから「巨人」が排除できないのは商業主義のせいだ、と柴田南雄が「グスタフ・マーラー」(岩波新書)で書いている。
** 曖昧な表現だ。現在のオーストリアは、ハンガリーチェコなどとともに現在のドイツと離合集散を繰り返している。この場合はウィーン的と言っても同じかもしれないが、ベートーベンやブラームスの音楽を彷彿とさせるという意味。
♪2015-13/♪NHKホール-2